4章:雪山の魔獣(完)
「おい、起きろ!」
「えっ……」
ヤイナは太い声に反応して目を覚ました。
次の瞬間には寒気を感じ、少し震えた。
声をかけてくれたのはシャルテオで、その後方にテノースと妖精3人が雪の上に座り込み、彼女を見ていた。
「ああ、生きてたんですね、私……」
彼女はむくっと起き上がった。
だが、急に血相を変えた。
「り、リッドさんは!?」
「あいつに心配は無用さ」
テノースが笑う。
「こんな雪崩でくたばる男じゃないさ」
「……そうですよね」
ヤイナはホッと胸を撫で下ろした。
「うふふ」
何やら意地悪な笑みを浮かべるのは青い妖精リリア。
「リッドの事になると必死なんだね〜……」
「なっ…、違います!」
否定したが、ヤイナの頬は赤くなっている。
「私はただ、仲間であるリッドさんを心配して…」
「はいはい」
リリアはおちょくるように彼女の周りを飛び回った。
「ま、すぐに会えるよ」
「あのぅ…」
会話が一段落した所で、イオが口を開いた。
「私達が飛んでリッドさんを捜せば良いんじゃ…」
「…確かに」
ピシェラは頷いて腕を組んだ。
「俺達なら、すぐに捜し出せるんだよな…」
「じゃあ」
と、リリア。
「行きますか」
妖精3人は3方向に空高く飛んでいった。
*
(俺は死ぬのか……)
確実に全身の力が失われていくのを感じてリッドは思った。
もはや、傷口の痛みも麻痺しているし、意識ももうろうとしていた。
最期の時が迫っていた。
(シャルテオ、テノース、ピシェラ、イオ、リリア………ヤイナ)
彼は心の中で仲間の名前を読み上げた。
(悪い。俺は死ぬけど、『花』は頼んだぜ……)
―――その時。
微かに雪を踏む足音が近付いてくるのが後ろから聞こえた。
(スノーダイか?いや、違う……)
彼は様子をうかがうことにした。
下手に動くのはまずい。
足音はすぐ後ろで止まった。
自分の姿を見下ろされている感じがした。
「これは派手にやられたのう……」
しわがれた、老人の声がした。
「だが、死なせはせぬぞ……」
*
30分くらいして、妖精達は帰ってきた。
「駄目だ、どこにもいないよ」
ピシェラが残念そうに言った。
「もう、どこかに移動したのかも」
他の2人からも同じような報告だった。
「仕方ない。しばらく寂しいが、頑張るか」
と、シャルテオ。
「な、ヤイナ」
「ええ」
彼女は微笑んで返したが、どこか寂しげだった。
【4章:雪山の魔獣】
―――《Fin》