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蒼月の覇者  作者: 鎖賦
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序章:蒼き月夜の城


夜の海は美しい。

水面に映る月は蒼く、その海の周りを幻想的に照らし出していた。



城があった。

高い崖の上に、海を見下ろすかのように建っていた。

かつては真っ白な綺麗な城だったろうに、長い間潮風に晒されて外装はボロボロだ。


「今宵の月は良いな…」

窓から城内に差し込む月光を見て、青年は言った。

ハンサムだが、どこか陰のある顔付きの青年は、黒いマントに身を包み、ワイングラスを空にした。赤い絨毯が敷かれた薄暗い部屋を照らすのは、外からの月光と青年の側のテーブルの上に置かれたろうそくのわずかな光のみ。

青年は口元にわずかな笑みを浮かべた。

「マスター」

今、1人の中年の男がドアを開けて部屋に入ってきた。

黒いスーツのその男、口髭は立派に整い、髪はオールバックにしていた。

「ダレノイか」

青年が言った【ダレノイ】とは男の名前である。

「どうやら、来たらしいな」

「はっ」

ダレノイは深く頭を下げて、ドアの向こうを指差した。

「大広間に集まっております」

「わかった。では、行くとしようか」

青年は椅子を立ち、ワイングラスをテーブルに置いて、部屋を去った。

ワイングラスは蒼い月光を受けて、妖しく輝いていた。



緑のフサフサの髪を掻きながら、【剣士】リッドは古城の廊下を進んだ。

若い精悍な顔に青い瞳が光り、銀の鎧は廊下の窓からの月光で蒼くきらめく。

しばらく彼が歩いたところで、大きな扉が見えてきた。

リッドは片方の扉の取っ手に手を掛け、開いた。


先客がいた。

大広間には大理石の丸テーブルが4つ、赤い絨毯の上に1列に並べられていて、各テーブルに木の椅子が2つずつ置かれていた。

リッドから見て1番右端のテーブルに、【彼女】はいた。

彼女はリッドに気付くと、微笑んで軽く頭を下げた。

リッドもつられて頭を下げた。

とりあえず彼は、彼女のテーブルに座ることにした。


「こんにち……こんばんは」

彼女は照れくさそうに挨拶をした。

「私はヤイナといいます。【魔女】です……」

ヤイナは少し幼さの残る綺麗な顔で、淡い水色の髪を背中まで伸ばしており、首の辺りで1度縛っていた。また、彼女は長袖のオレンジ色の服と茶色いロングスカートを着ていた。

全体的に察するに、おとなしい性格なのだろう。

「あの…何か」

ヤイナはリッドがずっと見ているので、少し頬を染めて声を掛けた。

「あ、失礼っ」

リッドは慌てて視線を反らした。

「君も呼ばれたんだね」

「はい。家で昼寝してたら、いきなり変な人が来て……」

「…そいつは、スーツを着た男だな?」

「はい。じゃあ貴方も同じ人に呼ばれたんですね」

「そうだな……」


2人が仲良く話していると、大広間の扉が開いて、3人の大柄な男達が入ってきた。

3人の見た目はほぼ全て同じで、どうやら兄弟らしい。

スキンヘッドで顔は四角く、口髭と顎髭が繋がっていた。

3人とも30代だろう。

「おや、1番乗りのつもりが、少し遅かったかな」

額に【1】の刺青を持つ男が言った。

「兄者。だから馬車で来ようと……」

言ったのは【2】の刺青を額に持つ男だった。

「別にケチる必要はなかったぞ」

今度は【3】。

どうやら長男は【1】、次男は【2】、三男は【3】の数字を刺青にするらしい…いや、絶対そうだろう。

ところでこの兄弟、それぞれ着ている服の色も違った。

長男は赤、次男は青、三男は緑。

いずれも袖無しで、下は黒い長ズボンである事に変わりは無いが。



3兄弟とリッド、ヤイナは目を合わせた。

ヤイナはゴツイ3兄弟の迫力に圧されていたが、リッドは平然としていた。

職業柄、こういう男達には慣れているのだ。

「初めまして、俺はリッド。あんた達は?」

リッドは3兄弟に話し掛けた。

「ふふ、よくぞ訊いてくれた。おい、あれ、やるぞ」

長男は次男、三男に合図した。

「えっ!今やるのか!?」

明らかに嫌そうな感じで次男が言う。

「そうだ!これが俺達の自己紹介スタイルだろうがっ!」

長男は目を輝かして弟達を見た。

「『俺達の』って、兄者が勝手に決めたんじゃないか!」

三男が必死で抗議した。

「聞こえんな!」

長男は腕を組んだ。

『断固として、文句は受け付けん!』と言わんばかりだ。

「えぇ〜っ!?」

弟2人は不満をあらわにした。

「やるぞったらやるんだっ!」

長男は1人で熱くなっている。

リッドとヤイナは、そのやりとりをただ眺めているのであった。

「ほら!あの2人、明らかに暇そうじゃないか!」

長男はリッド、ヤイナを指差して言った。

「2人を楽しませる意味でもやらなくては!」

「…仕方ないな」

次男が遂に折れた。

「えっ…まぁ、小兄者が言うなら……」

三男もあっさり従った。

「よし、やるぞ!」

長男ははりきって叫んだ。

「俺は長男【ウィズド】!」

「次男【シャルテオ】!」

「三男【テノース】!」

3人はそれぞれ文章では表現不能なポーズをとり、最後に長男ウィズドが、

「我ら、【マルバンナ3兄弟】……見・参!!!」

と言って締めた。

リッドとヤイナはとりあえず拍手しておいた。

「やった!ウケたぞ!」

ウィズドがガッツポーズした。

シャルテオ、テノースもどうやら嬉しかったようで、手を繋いで踊っていた。

リッドとヤイナは思った…。

『この3人、痛い』と。



シャルテオとテノースはリッド、ヤイナの隣、ウィズドはさらに隣のテーブルに座った。

「どうして俺はこんなに遠いんだろう…。長男なのに」

ウィズドはぼやいた。

「いや、長男とか関係無いと思うぞ兄者」

シャルテオが言った。

「ジャンケンで負けのだから仕方ないだろう」

「そうそう、潔く譲らねばな」

テノースは笑った。

しかしウィズドは悔しそうだった。

「うぬぅ…」


しばらくして、扉が開いた。

「今度はどんな奴が来るかな」

リッドは扉の方を見ていた。

だが、入ってきた姿を見て声も出なかった。

新たにやってきたのは、まだ10歳くらいの少年だった。

背中には大きな剣を背負っているので、リッドと同じ【剣士】のようだ。

少年は茶色い瞳でその場の5人を見回し、首までの長さの黒髪を揺らしてウィズドの隣のテーブルに歩いて、椅子に座った。

「…おい坊主。俺との相席は嫌か?」

笑いながらウィズドは尋ねた。

「嫌」

少年はきっぱりと答えた。

「うっ…」

ウィズドの笑顔が引きつった。

「正直な奴だ」

と言いながらリッドは少年の、自分にも匹敵するかもしれない肝の強さを感じていた。

そして尋ねた。

「お前、名は?」

少年は答えた。

「【ワノン】…」


さらに、今度は80を過ぎていそうな老人が風のように大広間に現れた。

「おやおや皆さんお揃いで……」

と言いながら老人はウィズドのテーブルに着いた。

「あんた、賢者か?」

ウィズドは尋ねた。

「いかにも。わしは砂を司る賢者【ケルプ】じゃ」

黒いローブのフードを取ると、見事に禿げ上がった頭が現れた。

口髭、顎髭は立派に生えていたが。


「これであと1人か」

そうリッドが言った時だった。

扉が開いて、

「あら、もう全員?あたくしはビリね」

とカールした長い金髪の女性が入ってきた。

20代半ばの『お姉さん』といった感じだ。

体のラインを強調したピッタリした黒い半袖の黒シャツと黒長ズボンがセクシーだ。

「あたくしの席はもう決まっているのね。よろしくボウヤ」

女性はワノンのテーブルに着いた。

「気安くボウヤとか言わないでほしいな」

ワノンは不機嫌そうに言った。

「あら失礼、あなた名前は?」

「まず自分が名乗りなよ」

「もう、つれないのねぇ……あたくしは【ミリテラ】。……盗賊よ」

「盗賊ゥ!?」

ワノンだけでなく、他の6人も驚いた。

「あら、そんなに驚いたかしら?」

「当たり前だ!」

ウィズドが言った。

「まさか犯罪者まで呼ばれていたとはな…」

「犯罪者?」

ミリテラは『オホホ』と笑った。

「貴方の方がよっぽど犯罪者に見えてよ」

「うぐっ……!」

ウィズドは痛い所を突かれて黙りこんだ。


しばらくして、8人が入ってきた方ではない扉から、2人の男が出てきた。

その片方は、8人全員が知っている、スーツ姿の中年男・ダレノイだが、もう1人のハンサムな青年は誰も知らなかった。

「おほん」

ダレノイは咳払いをして話し始めた。

「えー、今夜、ご多忙の中、この城に来て下さった事を、心から感謝いたします」

「一体、何の用で俺達を呼んだんだ?」

ウィズドがダレノイに尋ねた。

「まぁまぁ、そう焦らない。詳しいお話は、マスターから…」

そう言ってダレノイはマスターに合図した。

マスターは見事な銀髪を少し掻き分け、話し始めた。

「私は【マスター】。本名は名乗る必要あるまい。実はお前達に頼みたい事があるんだ」


マスターの話を要約すると、こういう感じだった。

この世界のどこかに生えているという【白銀の花】を手に入れ、彼のもとに届けるのが8人への依頼である。

白銀の花を探すには【導きの種】というものが必要で、この種の所在は白銀の花の伝説についてよく知る者に尋ねれば大抵わかる。

そして、白銀の花を彼のもとに見事届けた者は、彼の全財産を得る事ができるのだ。


「その全財産てのは、おいくらだい?」

ウィズドがまた尋ねた。

どうやらこの男、質問好きらしい。

「まぁ、【この城にあるもの】だけでも100億メルは下らないだろう」

「100億………!?」

全員が息を呑んだ。

おそらく生まれて初めて聞く値段だからだろう。

「いいのかよ、そんな大金くれちまって……?生活大丈夫か?」

尋ねたのは、言うまでもなくウィズドである。

「何の心配も無いさ。あの花さえ手に入ればね……」

しばらくのざわめきが止んで、再びマスターは口を開いた。

「さて、そこで勝手ながらチーム分けをさせてもらう。同じテーブルに座っている者同士、2人1組だ」

「あ……」

ヤイナはリッドをちらっと見た。

「よろしく……」

「シャルテオ、テノース!元気でやれよ!」

なぜか涙ながらにウィズドが弟2人に手を振った。

「兄者〜っ!」

弟2人も涙ながらに同じ事をする。

面倒な兄弟だと、他の5人は思っているに違いない。


「さて、では早速出かけてもらいたい」

マスターは言った。

「くれぐれも、死なないように……」

不吉な言葉を残し、マスターとダレノイは大広間を退出した。「……よし!」

シャルテオとテノースが同時に立ち上がった。

「やってやる!1番乗りは我らだ!」

2人は走って大広間を出ていった。

「ああ、行ってしまった……。じいさん、俺達はいつ行く?」

ウィズドはケルプに尋ねた。

「早ければ良い…というわけでもあるまい。少し待とう…」

老人はにっこり笑って言った。

「姉ちゃん、行くよ」

ワノンは立ち上がった。

「あら、せっかちね…。じゃあ、行きましょうか」

ミリテラとワノンの異色コンビが2番目に出た。

「お主らは行かぬのか?」

ケルプはリッド達に尋ねた。

「え?…じゃあ、行こうかヤイナ」

リッドはヤイナを見た。

「あぇ?…はいっ!」

いきなり呼ばれて驚いたようだが、彼女はリッドに続いて大広間を出ていった。

「…さて、わしらも行こうか」

リッド、ヤイナが出てから数分して、老人は立ち上がった。

「おしっ、よろしくな、じいさん」

ウィズドは立ち上がって背伸びをした。


かくして、8人と彼らの【依頼人】の物語は今、始まったのだ。



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