逆巻く渦に抗して10 戦時保護人もしくは人質
兵舎の食堂に入ってしばらくすると五人の名が呼ばれた。その五人は別の部屋に連れて行かれた。また、数分すると五人の名が呼ばれた。
二三分間を置いて最初の五人が帰ってきた。話によると、人質になった家族の確認だった。家族の確認が終わると小さな木札をくれたそうで、祐司はその木札を見せて貰った。 リファニア文字と番号が書いてあり家族との再会の時に必要になるという話だった。また、家族の安全を保障してもらうために保証金を要求されたという。
やがて、祐司の名が呼ばれた。
祐司と他の四人が連れて行かれたのは兵舎の二階にある部屋だった。日本の学校の教室ほどの部屋で五つの机が並べてあり、それぞれに一人の男がいた。
男達は、服装で判断すると役人ではなく急遽動員された店員のようだった。部屋の隅に一人だけ役人風の小柄な老人がいた。
まだ、前の組の手続きが終わっておらず、祐司達はしばらく待たされた。ある机から声がかかり役人風の老人が呼ばれた。
どうやら、実際に手続きをしている男達が不慣れなために、本職が一人ついて指導している様子だった。
やがて、前の組の手続きが終わって祐司が呼ばれた。
「ジャギール・ユウジか?」
「そうです。捕まっているのは従者のパーヴォット、ローウマニ・パーヴォット・ハレ・キンガ・ヘフトル・ディ・クルト=ノヴェと言います。わけあって男装しておりますが女です。是非、その辺りをご配慮いただきたい」
「捕まっているのではない。保護されているのだ」
「しっかり、保護をお願いいたします」
祐司の言ったことを上の空に聞いていた男は書類を見て困った顔をした。男は手招きして老人を招いた。
「どうしました」
老人はにこやかな顔で近づいてきた。
「書類に、この男の保護人の収容場所が書いてありません」
祐司を担当している男は困り顔で老人に聞いた。
「収容者した者の名は書いてありますか」
「あります」
「書類としては不備ですね。では、仮番号を発行して下さい。市庁舎に帰ったら収容した人間に問い合わせて、収容場所を記入してから正式な番号をこの人に届けて下さい」
老人は迷わずに、丁寧だが力強く言った。
「はい、この木札を持っていてください」
老人はそう言うと、机の上にあった木札を祐司に渡した。机の上には白地の木札と、少しばかりだが赤く塗った木札があった。祐司が渡されのは赤い木札だった。
「先程の話ですと、正式な番号札は貰えるんですね」
祐司は心配げに聞いた。
「それでも、正式な物と同じ効力がある。ちゃんとシスネロス市庁舎の焼き印が押してあるだろう」
担当の男は仏頂面で言った。
「まあ、御身内を心配なさるのはわかります。その、書類と木札に割り印を押しておきましょう。それで、ここでのやり取りが証明されます」
老人は祐司から赤い木札を受け取ると書類を合わせて二ヶ所に割り印を押してくれた。
「さて、戦時保護人に対する保証金は幾ら出す」
老人が元も席にもどると、担当の男は妙なことを聞いた。
「保証金?」
「保証金としてこちらに金を預けて貰う。まあ、金を預けてもらった以上は、病気になったり、怪我をしないように世話をするということだ」
祐司が何も言わないので男は説明を始めた。
「万が一、あんたの戦時保護人が、病気や怪我で死んだ場合、或いはその他の事情で再会できなかった時に、保証金の額に応じてそれ相応の対価を出す。ただし、戦時保護人が健康であること。二歳以上、六十歳以下であることが条件だ。戦時保護人が逃げ出したらちゃらだ。
銀貨十枚までなら三倍、銀貨十枚以上で五倍、金貨一枚だと七倍ってところだ。ただし、手数料として返還時には七パーセントの手数料を引く」
祐司は人の弱みにつけ込んだ小賢しい商売だと感じた。
この保証金を考えたのは、ランブル市参事に義勇軍招集に関して会計上の仕事を任された若旦那と呼ばれる男だった。
若旦那は少しばかり読み書き以外に計算ができたので、万が一、戦時保護人のうち三十人に一人くらいが病気で死んでも損をしないような計算をたてた。実際は、それほど多くの人間が死ぬようなことはないだろう考えていた。
若旦那は手数料で義勇軍の事務代を捻出しようとしたのだ。もちろん、手続きを手伝ってくれる臨時市庁舎職員の酒手も計算していた。
「手持ちはそんなにありません。リヴォン亭という宿屋に預けています。手紙を書きますので、そこで受け取ってもらえますか」
「旅の者か」
担当の男は、あからさまに面倒だという顔をした。また、老人が呼ばれた。
「金額を聞いて仮証書をわたしが書きますから発行してください。実際にその金額が届いたら正式な保証書を私が届けましょう」
老人は担当の男から話を聞くと祐司に優しい口調で言った。
「手付けがいりますが、手元に金はありますか」
「はい、金貨が二枚に銀貨が二十枚ほどあります」
「それで十分なのでは。金貨二枚で八倍の保証になりますよ」
祐司の言葉に老人は少し驚いたように言った。
「手持ちの金額を全部保証金にします」
祐司は迷わず言った。祐司は、できるだけ保証金を高額にしてる方が、パーヴォットの待遇がよくなったり、安全度が増すのではないかと思った。
「幾らでだ」
担当の男が面倒くさそうに言った。
「金貨三十枚。何倍になりますか」
祐司の言ったことで、担当の男は、半分口を開けていた。
金貨三十枚とは、日本と比べて物価が高く、地価や部屋代、人件費の安いリファニアでの比較は難しいが、物価水準では八百から九百万円ほどの価値がある。
「金貨十枚以上は一律十倍です」
老人は、驚いた風もなく説明した。
「あなたを信用しないとは言いませんが、金の受け渡しにはシスネロスの知り合いを頼んでいいでしょうか」
祐司は、担当の男を無視して老人に言った。
「ごもっともです。ですが外部の者との接触は禁止されています」
「あなたを信用するしかありませんね。あなたにお願いできますか」
「役人が金品の受け取りを代行する場合の手数料は市内で銅貨六枚ですが、金貨一枚以上の使いは銅貨十枚です。あと金貨五枚について銅貨三枚が加算されます。金貨三十枚ですと銅貨二十五枚になりますが、よろしいか」
老人の言うことは一見、賄賂の要求のようだがシスネロスは商人の街だけあって,全てのサービスに料金がある。
役人の手数料も法で定められている。それ以外の金品の授受は賄賂と見なされて重罪である。
「よろしくお願いします」
祐司は老人を信用することにした。少なくとも祐司の聞いた話では,シスネロスの役人は手数料を払った分の仕事は必ず行うとのことだった。
「手付けは金貨二枚でいいですか」
祐司は金貨二枚を懐から取り出した。シスネロスでは契約を結ぶ時に、手付けを出すのが基本である。
「手付けは一割が相場ですが、高額だから金貨一枚ではどうでしょう。金貨は二枚お持ちとのことですが、あなたも多少の手持ちが必要だろうと思います」
老人はそう言うと金貨を一枚だけ受け取った。そして、老人は仮契約書と金貨の受取書を書いて祐司に渡した。
後で考えれば、祐司は市庁舎からきた老人に、自分が一願巡礼であり、即刻、釈放して欲しいと伝えれば釈放された可能性は高かった。
しかし、祐司はこの時点では、パーヴォットのことで、他のことに気が回っていなかった。
そして、この後で、アハヌ神殿の神官に、自分の釈放を訴えた。それで、釈放されるだろうと判断した。
なにより、二重に頼み事をして、アハヌ神殿の神官を信用していないと思われることを嫌って、市庁舎の老人に釈放の要望をすることしなかった。
「金がいるんだってな」
戻ってきた連中から、保証金の話を聞いたのかガオレは、不安げに祐司に聞いた。
「ガオレさんの家族は誰が捕まっているんですか?」
「娘だ。今年で十七になったばかりだ」
ガオレの言葉には真実味があった。
「さあ、これを使ってください。手数料は返さなくていいですよ」
そう言うと祐司は、ガレオの手に金貨を一枚握らせた。
「ええ、こんな大金いいのか」
あまりの大金にガオレは戸惑っていた。
「いるんでしょう?」
「すまない。手数料もつけて、必ず返すからな」
祐司はガレオの言葉を信じるほどにはお人好しではない。タダでくれてやるつもりほどには人が良い。
そして、ガレオの巫術の力を利用しようと考えられるほどには腹黒である。
最後に呼ばれた男達が帰って来て、半刻ほどすると食堂のドアが開いた。
立派なマントと市民軍の記章をつけた恰幅のよい鎧姿の軍人が二十名ばかりの武装した兵士を引き連れ入て食堂に入ってきた。最後に、保証金を徴収していた男達が食堂に入ってきた。
鎧姿の軍人の左右にいる四人の兵士もマントを着用して明らかに一般の兵士用とは異なった意匠を凝らした鎧を着ている。
二人の兵士が運んできたミカン箱二つほどの大きさのしっかりした木の台の上にその鎧姿の軍人がたった。
「起立!」
兵士の一人が大声を上げる。食堂にいた人間はあわてて立ち上がった。
「諸君、わたしは市民軍副司令のヴァーガネ・マジャーンである」
箱の上にたった軍人は大音量で言った。
「諸君らはシスネロス市民ではないが、長年シスネロスの庇護により生業を行い幸せに暮らしてきたと思う。そして、諸君、現在シスネロスは危急存亡の危難にある。
このような時は栄誉ある独立不羈の気質を誇るシスネロス市民が合力して危難に立ち向かうが、諸君らにもその栄誉の一端をになう機会が与えられた」
軍人は訓話でもするかのように話を続けた。
「たった今から諸君らは義勇軍所属の後衛部隊として前衛部隊の者達を支援してもらう。万が一前衛部隊が崩れた時には諸君らがそれを支えて敵をしのぎ、押し返すのだ」
軍人の言うことを、男達は黙って聞いていた。
「諸君らには守るべき家族、愛する人がいよう。これらの者はシスネロス市が責任を持って保護している。シスネロスでは異邦人に対しても戦時は、公費をもって安全な場所で快適に戦時保護人として保護される。
市民の中には異邦人に対してこころよく思っていない者もいる。そのための処置であることを理解してもらいたい。よろしいか」
市防衛隊副司令は不安げに自分を見つけている男達の目を一人一人のぞき込むように黙ったままゆっくりと左右を見回した。
「もし諸君らの中に心得違いの者がおり、勝手に隊を離れたり戦場で無様なことをすれば、その代償はその者の戦時保護人が責を負う。
諸君らの愛してやまない戦時保護人が受ける最高の責務は死刑だ。そして、次等の責務も死刑だ。最低の責務も死刑だ。老人は死刑、女は死刑、子供も死刑だ」
市民軍副司令の言葉に二百人近い男達はお互いを不安そうに見た。
「わたしは諸君が責務を果たして愛してやまない戦時保護人のもとに帰れることを願っている。もう一度言う。諸君、自分の責務を果たせ。その責務の諸君の愛する者に負わすな」
軍人の言い方は、ひどく感情を傷つけた。
「オレらは、捕まっている家族の安全を保証する保証金を払ったぞ。なんで、家族が死刑になるんだ」
不安そうな男達の中から、怒鳴るような声がした。それを合図に堰を切ったように男達が騒ぎ出した。祐司も大声で抗議をした。
「詐欺だ」「金を返せ」「いや、家族の命を保証しろ」
騒然とした様子に、副司令官は事情がわからず左右を見回すばかりだった。副司令官の横にいた男が慌てて事情を説明した。
「静まれ!」
苛立った兵士のリーダーが、剣を抜いて怒鳴った。四人の兵士も剣を抜いた。次第に男達の怒号はおさまった。
「諸君らの家族の安全は保証する。ただし、諸君がこの隊から脱走した場合はその安全が保証できない。わかったな」
副隊長の言葉に、ようやく男達は不承不承納得した顔をした。
「諸君らの長であるバアブバ・ネースレン義勇軍担当官だ。以下は彼からよく話を聞きたまえ」
副司令官が台を降りると、兵士達の後ろにでも隠れていたのか小柄な初老の男が台の上に立った。胸当てをつけているが身体に馴染んでおらず着用したのも初めてという風情だった。
強面の市民軍副司令とやらが四人の武装兵を従えて部屋から出て行き、バアブバ・ネースレンというさえない番頭のような男が演題に残ると雰囲気は一変した。
「わたしは、この隊の長であるバアブバ・ネースレンである。これからわたしのことを隊長と呼ぶように。ここにいる兵士は督戦隊である。明日はもっと補充されるぞ」
バアブバ・ネースレンという男の言葉は震えており緊張と恐れが見て取れた。
「では、これから布告文を読み上げる」
バアブバ・ネースレンが巻いた羊皮紙を取りだしてそれを読もうとした。ところが、義勇軍に徴発された男達が口々にバアブバ・ネースレンに対して要求を口に出し始めた。バアブバ・ネースレンは羊皮紙をもったまま台上で途方にくれてしまった。
「おっかあや餓鬼にはいつ会えるんだ」「ウチのヤツは具合が悪いんだ帰してくれ」「どうしてこんな目に会うの説明しろ」
食堂は次第に騒然とした雰囲気になった。「静かに」と何度かネースレンが何度か怒鳴るが迫力がない。立ち並んだ兵士達はお互いに顔を見合わせていた。
「黙って話を聞け。それから全員、座るんだ」
とうとう一人の兵士が堪りかねたように剣を抜いて怒鳴った。それに、続いて他の兵士も剣を抜いた。
ようやく、食堂に静寂がもどった。食堂の中の男達は不承不承座り込んだ。
「今から布告文を読む」
ネースレンがもったいぶって咳払いをしてから布告文を読み上げ始めた。
「緊急時においてシスネロス市市民総会は居住ないし滞在する非シシネロス人を義勇軍として受け入れる。義勇軍に参加している間の食糧は市民軍と同等として、日給として銅貨八枚を支給する。
なお、義勇軍兵士が戦死した場合は金貨五枚を家族に支給する」
「オレは一日銀貨一枚の稼ぎがあったぞ」「死んで金貨五枚か」「残された家族に路頭に迷えっていうのか」
再び食堂が喧噪に包まれた。
「おい、こいつらにやる日給はおれ達より高いじゃないか」「金貨五枚はもともとはオレたちの金だぞ」
兵士も反対の立場から不平を言う。かまわずネースレンが布告文を読み続けた。
「義勇軍兵士に対しては次の者を討ち取るか捕虜にした場合に恩賞を与える。敵兵一名当たり金貨二枚、郷士なら金貨十枚、巫術師では金貨百枚である。上級巫術師の場合は金貨二百枚」
金の話で兵士を含めて静かになった。何しろ巫術師を仕留めれば庶民の年収で十年分以上の賞金である。慎ましく暮らせば、無収入でも十数年は家族で暮らせる。
「それはオレたちもいっしょか」
兵士の一人が大声で聞いた。
「これは義勇軍に対する布告だ」
「敵将の場合は?」
「金貨千枚」
食堂におおきなどよめきが起こった。
「オレは義勇軍に志願する」「よしオレもだ」「義勇軍になれば家族の世話は見てくれるんだろう」
五人ばかりの兵士が向きを変える。
「血迷うんじゃない。雑兵はともかく、モンデラーネ公の部下は一兵にいたるまで郷士格で郷士並の技量を持っている。それでも敵兵扱いだ。巫術師にどれほどの護衛がついていると思ってる。巫術師など討ち取れるか。冷静になれ」
リーダー格の兵士の言葉に四人の兵士がおずおずと再び向きを変えた。
「ツハルツ。お前も目をさませ」
若い小柄な兵士だけがいつまでも向きを変えなかった。
「オレには病気のおっかあと五人の兄弟がいるんだ。オレの食い扶持が減って一日に銅貨八枚あれば住んでいるところから追い出されない。
第一、弟や妹らを食わしてくれんだろ。オレが死ねば金貨五枚なんて上等だよ。オレには市民権なんぞあっても食えないんだ。こいつらの方が上等な暮らししてるんだ」
ツハルツという若い兵士が銅貨八枚で暮らしていけるとは、余程、貧窮しているに違いないと祐司は思った。何しろ祐司が毎日のように行く風呂屋が銅貨五枚の入浴料である。市民権だの自由自治と言っても少なくとも日々の暮らしに余裕がなければ画餅だろう。
「お前が義勇軍に入れるか。義勇軍は非シスネロス人専用の部隊だ」
兵士のリーダーが笑いながら言った。
「いえ、義勇軍には誰でも応募できます。義勇軍は志願なので市民軍に入隊していても入れます」
兵士の陰に隠れるようしていたネースレンより更に小柄な市庁舎職員の服を着た老人が得意げに言った。
祐司がよく見ると、二階の部屋でパーヴォットのことで世話を焼いてくれた老人だった。
「余計なことを言うな。第一、オレたちは予備動員で集められた市民軍だ。今更、それを抜けて義勇軍に参加できるのか」
怖い目で兵士のリーダーは市庁舎職員の老人を睨んだ。
「問い合わせて見ます」
市庁舎職員の老人はそう言うと食堂から小走りで出って行った。
「それがわかるまでここで待ちます」
「勝手にしろ」
ツハルツという兵士は、体の向きを百八十度変えて座り込んでしまった。リーダー格の兵士は忌々しげに言った。
「契約書は出るのか」
食堂の中央からひときわ大きく威厳のある低い声がした。祐司が見ると祐司より背の高い中年の引き締まった体つきの男が立ち上がっていた。
男性で160cmを少し越えたくらい、女性で155cm前後の平均身長ほどのリファニアでは、180cmに近い祐司に匹敵する男性は滅多に見かけない。
「契約書とな」
ネースレンが驚いたような声を出した。
「わたしはナネボーン・ガーク・ハレ・マンデ・ガネッサ・ディ・ドノバ、一代郷士である。仕官の道を求めて北クルトへの途上、縁あってシスネロスで逗留し、隊商護衛の仕事を請け負っておった。
わしの経験ではどのような取り引きや請負仕事でも当地では契約書を交わす。今回の我々への処置は法に基づいた処置であるというなら、契約を交わさないということはおかしいではないか」
恰幅のよい男は名乗りを上げてから、疑義を唱えた。
一代郷士というのは世襲ではない郷士身分で子爵以上の庶子や男爵や準男爵といった下級貴族の次男以下が叙任される。
または、特に武勲に優れた平民が貴族の推戴を受けて、リファニア王から賜る最高の栄誉である。一代郷士の子は郷士格になれるが孫は武功や功績をたてなけば庶民になる。
平民出身の一代郷士は、地理的な理由とリファニア王の直接の権威が及ぶ、リファニア王の住む王都タチがある南西地域に集中している。
祐司には、わからなかったが、恰幅のよい男の名前にドノバ州出身というディ・ドノバがあるが、言葉に南西地域特有のアクセントがあることから南西地域で長らく暮らしていた武勇に優れた平民出身の一代郷士であると食堂にいる者の過半が判断していた。
「返事をしろ」
一代郷士だと言う恰幅のいい、威圧感のある男がネースレンに迫った。
「確かめてきます」
ネースレンは猫に魅入られたネズミのような感じになって、市庁舎職員の老人に続いて食堂から出て行った。




