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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二十章 マツユキソウの溢れる小径
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マルタンの春24 霊峰巡り 十八 -ウクララ洞窟-

 祐司一行は融雪で出来た池の周囲を回って”マルタン十霊山巡礼”の最後の霊峰セナ山の登山口に向かった。

 池を過ぎると森林地帯になった。今まで視界が良く明るい場所を歩いてきたので、多少薄暗さを祐司は感じた。


「まだ時間が早いので、”ウクララの洞窟”に寄っていきましょうか」


 先頭を歩く先達のヴァルナドが立ち止まって祐司とパーヴォットに声をかけた。


「”ウクララの洞窟”は近いのですか」


「次の分かれ道を右にいけばすぐに着きます。そこから真っ直ぐに進めばまた登山道に合流します」


 祐司の問いかけにヴァルナドはすぐ先の分岐点を指差した。


 祐司とパーヴォットはヴァルナドに誘われては断る理由がないので、二人同時に「お願いします」と声を出した。


「お二人は本当に仲がいい」


 ヴァルナドはそう言って笑った。


 祐司とパーヴォットは互いに見合って肩をすくめたが、その姿にまたヴァルナドは笑った。


 二人が並んで楽に歩けるほどの幅がある本道に比べて脇道は半分以下の幅で一人がようやく歩けるほどだった。

 祐司一行はヴァルナドを先頭にパーヴォット、祐司の順番になって一列でその脇道を進んだ。


 数分ほど歩くと森の中とはいえやや木々が疎らになっている場所に行き当たった。


「ここが昔のウクララ集落の跡です」


 ヴァルナドが石積みの壁が崩れたような場所を指差して言った。


 祐司とパーヴォットが周囲を見渡すと同じような家の跡と思える場所が五箇所確認できた。



挿絵(By みてみん)




「百数十年前までここには二十戸以上の家があったウクララ集落がありました。今は全戸がセナ山の北にあるウクララ・ノヴェ集落に移転しています。帰路にはウクララ・ノヴェ集落を通ります」


 ヴァルナドが説明している間にまた森は深くなった。そして今度も数分ほど歩くと大きな岩でできた露頭に出た。


 その露頭の下部に人が一人入れるほどの洞窟があり、その洞窟のすぐ右側には小さな家ほどもある大岩が露頭に寄りかかるようにあった。


 洞窟の入り口には四本の石柱が立てられてそれを乗り越えなけらば洞窟には入ることが出来ないようになっており、一本の石柱には”洞窟に入るべからず”と書いた板がぶらさげてあった。


 見るからに黒ずんだ石柱は設置されたのはかなり前の事であることがわかるが、ぶら下がっている板は新しく、また洞窟の周辺も落ち葉などがほとんどないことから人の手が入っていることが見て取れた。


 石柱の向こうの洞窟の入り口には岩に差し入れられるように六本の鉄棒がまるで牢屋の格子のようにはめ込まれていた。

 祐司にはその格子が石柱のように外部からの侵入者を牽制するためではなく、内部から出てくるモノを阻止しているように見えた。


 そしてその格子の間から洞窟の奥の地面にマンホールのような円形に近い平たい石が置かれているのが見えた。



挿絵(By みてみん)




「悪霊退治のヴァゲーニアさんから貰った悪霊よけの護符と同じような書体で文字が彫り込まれています。さすがに暗いのではっきりとは読めませんけど悪霊退散と書いてあるのは確かです」


 祐司と同じように洞窟を覗き込んでいたパーヴォットが言った。



「お目はいいとは聞いていましたが、石盤の文字を読み取ったのはパーヴォットさんが初めてです」

 

 ヴァルナドが心底感心したように言った。


 また洞窟を向かい合うように人の背の半分ほどの祠があった。その祠は”黄泉の国”の神であるハレガセル神の化身とも眷属ともされるノボルト神の神像が安置されていた。


 ノボルト神は現世で迷っている霊を亜苦慮をも含めて”黄泉の国”へ導いてくれる。


「これが”ウクララの洞窟”です。一見したところではなんの変哲もない洞窟ですが因縁話があります」


「寡聞にして”ウクララの洞窟”のことは知りません。教えていただけますか」


 パーヴォットの言葉にヴァルナドは次のような話をしてくれた。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ウクララ集落は主に狩猟と炭焼きで生活していた。そのウクララ集落にノベトンという素行不良の若者がいた。

 仕事をろくにすることなく、家から金を持ち出しては二三日マルタンで酒を飲んできたり、付近の集落に夜這いをかけるというようなことを繰り返したいた。


 現在のリファニアでも夜這いの風習は完全になくなっておらず残存している地域もあるがどちらかといえば過去の風習になりつつあり、当時のウクララ集落でも他の集落との軋轢を生む不行状な行いと見なされていた。


 その為に夜這いをされた集落から苦情が来ることがしばしばあり、またノベトンが夜這いをかけた集落で男達に発見されて袋叩きにあったこともあった。


 ただノベトンの母親は前の集落長の寡婦ということもあり、それなりに集落では発言力があって金品を包んではことをおさめていた。

またノベトンには働き者の弟がおり、いつも兄を庇っていたので、集落の者も迷惑な行いをするノベトンを苦々しく思ってはいたが母親と弟の顔を立てて口頭で注意する以上のことはしていなかった。


 ある時マルタンに遊びに行くと行って家を出たノベトンがいつまでも帰って来なくなった。


 母親と弟が必死に探したがノベトンの行方はようとして知られなかった。


 数年してマルタン奉行所の同心が数名の捕り方を連れてやって来た。そしてノベトンの家に乗り込むと母親と弟にノベトンの居場所を問いただした。

 母親と弟は正直にノベトンは数年前に行方不明になって探したが消息がわからないことを告げた。

 

 同心は集落の者にこの話が本当であることを確かめると、「ノベトンは不貞の輩と徒党を組みアヴァンナタ州やサバベール・ノセ州のアヴァンナタ街道で野盗となって、巡礼や行商人を複数回襲撃して人を殺め、金品を強奪した。この度アヴァンナタ公爵家がその野盗を捕縛したが一部が逃げた。その逃げた野盗にノベトンなる男がいたことが仲間の供述であきらかになっている。アヴァンナタ公爵家の要請でマルタン奉行所もノベトンの行方を探索している。もしノベトンを見かけたらすぐに捕縛するかマルタン奉行所に届けよ。逃亡させたりするとこの集落の者といえども罪に問う」と同心は告げて帰った。



挿絵(By みてみん)




 現在サバベール・ノセ州から北上してくるアヴァンナタ街道はモンデラーネ公勢力圏からのルートになり、モンデラーネ公勢力圏を通過することを避けるために巡礼の数は激減しているが、当時は中央盆地からマルタンに巡礼するには最短距離であったので交通量が多かったが人口希薄な地域であるので時に野盗が出没していた。


 このような事があってから数ヶ月ほどして、集落に住む老婆がおかしなことに気が付いた。


 ノベトンの母親が暗くなると密かに家を抜けだして、しばらくしてから帰ってくるのだが出かかる時には何かが入った袋を持っているのに帰りには袋は空っぽのようだった。


 これは老婆の家がノベトンの家の隣にあった上に老婆の寝室からはノベトンの家が見下ろせる位置にあったためにわかったことだ。

 最初はそう気にも留めていなかった老婆も毎日のことなので、不審感とともに好奇心にかられてある夜にノベトンの母親をつけてみた。


  集落から四半リーグほど離れた小さな洞窟まで母親が行くと、母親は洞窟に何やら声をかけた。


 すると洞窟の中から男が一人出てきた。その日は月夜だったので、遠目だが老婆はその男がノベトンであることを見て取った。


 母親はノベトンに持って来た袋の中からライ麦パンなどの食糧を渡しているようだった。


 老婆はこれは大変な事になるかもしれないとして、その足で集落長の家に駆け込んで今見てきたことを報告した。

 集落長はしばらく考え込んでから、老婆にこのことを口止めするとノベトンの家に出向いた。


 そしてすでに家に帰っていた母親と在宅していたノベトンの弟に、ノベトンを匿っているだろうと問い詰めた。


 最初は何とか誤魔化そうとしていたノベトンの母親と弟は「罪科はお前達だけでなく集落の者も問われるだろう。どう責任をとるのだ」と言われると、弟が観念して「どうか、三日待って下さい。兄を説得して出て行って貰います」というので、集落長は母親と弟に全戸の戸主を呼んでこいと言った。


 戸主達が集まると集落長は、ノベトンが集落の近くの洞窟に潜んでいることを話した。戸主達は捕まえて突き出せだの、追い出してしまえだのと口々に言い出した。


 集落長は一通り戸主達の意見を聞くと「三日後の夜に追い出す。ただそれまでノベトンにうろうろされて集落外の者に見つかっては拙い。そこで三日後まで洞窟から出られないように入り口を塞ぐ」と言って戸主達と洞窟に向かった。


 この集落長の考えには根拠があった。


 ノベトンは凶状持ちではあるが罪はアヴァンナタ公爵領という他領で犯したモノである。


 アヴァンナタ公爵家が警察権を行使できるのはアヴァンナタ公爵家領域内だけであり、領外の人間は現在でいえば外国人のような存在である。


 そうした理由でアヴァンナタ公爵家領内で犯罪を犯した他領域の人間が領内から逃亡すれば別の領主に捕縛を依頼することになる。

 捕縛を依頼された領主からすれば捕縛すれば自分が庇護する領民を別の領主に引き渡すことになる。


 これは領民からすれば自分の領主が領民を庇護せずに他領主のいいなりに引き渡すという行為に見える。

 そのため捕縛を依頼された領主としては他領主との友誼は維持したいが、心情的には自らの手で領民を捕縛したくないというのが本音である。


 実際にノベトンを捜索に来た同心は集落長に「ノベトンという男がいっそ遠くに逃げてくれればなぁ」などとあからさまに愚痴をこぼしていた。


 こうした背景から集落長は一度捕縛しかけたノベトンが逃亡しましたと報告すれば事はそれでおさまるという確信があったのだ。



 そして洞窟の真上にあった牛ほどの大きさのある大石をテコを使って落下させた。


 大石は勢いよく落下して回りを震動させるほどの勢いで洞窟の入り口を塞いだが、大石の上部にあったそれこそ小屋ほどの大きさの大岩が崩れ落ちてきた。

 おそらく大岩の落下を食い止めていた大石がなくなったのと、震動により大岩が落下したのだ。


 祐司とパーヴォットが洞窟の横にまるで立て掛けるように鎮座していた大岩がこの大岩である。


 大岩が雷鳴のような音を上げて落下すると洞窟の中で何かが崩れるような音がして、「埋まっちまう」という声が聞こえた。


 ノベトンの母親と弟が「生き埋めになってしまいます。助けて下さい」と懇願するので、集落長と戸主達は慌てて大岩をのけようとしたがもちろん小屋ほどもある大岩はびくとも動かなかった。


 洞窟の中からは「助けてくれ、動けない」という悲痛な声がひっきりなしに聞こえてきた。


 しかしその声も夜が明ける頃にはしなくなった。


 疲れ切った戸主達に集落長は「詳しくはわからないがノベトンはおそらく死んだだろう。こうなっては秘密を抱えたままでいることは出来ない。マルタン奉行所にノベトンを洞窟に入れて捕らえていたが洞窟が崩れたようだと届けを出す」と言った。


 集落長は「まだ生きているかもしれません」というノベトンの母親と弟に「これは人の助けを借りなくては大岩は取り除けない。助けたければその覚悟がいる」と説得してさらに「死んでいればここで葬ることが出来る。生きていればアヴァンナタ公爵家に引き渡されて死罪だろう。そうなれば死体も帰ってこない」とも言った。


 さらに集落長は母親と弟だけに「多分、ノベトンは半死半生だ。お役人にその姿を見せて、このとおり死んでいますといえばそのままになるだろう。集落で弔いをするからその後はどこかかに逃げてくれればいい。ただ早く助け出さないと本当の弔いになってしまう」と入れ知恵をした。


 これでようやく納得した母親と弟も奉行所に届け出ることを了承した。


 ところがこれからがさらに大事だった。その日の昼には奉行所から同心と十数人の捕り方がやってきたが、その人数が加わっても入り口を塞いでいる大岩を動かすことは出来なかった。

 しかたなく同心は大岩を動かすのではなく大岩の横の岩を穿って新たな開口部を作ることにした。


 この開口部が祐司とパーヴォットが見たウクララの洞窟である。


 奉行所は数名の石工を動員するとともに、彼等の指示で集落の人間も手伝って鑿だけで岩壁を砕きだした。

 ところが岩壁を構成しているのは石工が普段扱っている加工し易い砂岩では無く硬度の高い玄武岩であったので幾本もの鑿が曲がるほどだった。


 そのため一日でようやく一ピス半(約45センチ)ほどの人一人が通れるほどの穴を穿つだけだった。


 この作業を開始して三日目に大岩の隙間から歌声が聞こえてきた。ノベトンの母親と弟は生きているのだと喜んだが、すでに洞窟に閉じ込められてから五日が経過したわりには元気な声でありさらに歌声は途切れること無く延々と続いた。


 これは開口部を穿つ作業をしている人間には怪異な出来事にしか思えなかった。


 ノベトンが生きているにしてもすでに飲まず食わずで五日が経過しているのであるから歌など歌い続けることなど出来ないほどに衰弱していて当然だからである。


ようやく開口部が本来の洞窟に達したのは作業を始めてから七日目だった。


 まず同心と二人の捕り方が洞窟内に入って検分すると洞窟内の壁面に背をつけたノベトンは胸まで岩くずに埋まっており、両手を掲げて上から落ちてきたのであろう一エリ(約300キロ)ほどの重さがあろう岩が自分の方へ崩れてこないように支えていた。


 そして怪異なのはノベトンは既に息絶えており死体の様子からかなり死んでから日数がたっていると思われることだった。

 つい先程までノベトンの歌声を聞いていた同心達はお互いに顔を見合わせるばかりだった。



 この事件はマルタン奉行所を管轄するセウルスボヘル伯爵家から正式に事の顛末を記した公式文書をアヴァンナタ公爵家に送ったことで一件落着となった。

 またウクララ集落に対しては集落長のノベトンを捕縛して洞窟に閉じ込めたが大岩が落下するという不測の事態が起きたと言うことで、ノベトンの母親と弟を含めて何の咎めもなかった。


 さてこの事件が起きて四十年後にまた怪異な出来事が起きる。


 ウクララ集落の二人の狩人がセナ山の麓でてんを追っていた。貂は狩人に追われてノベトンが隠れていた洞窟に逃げ込んだ。

*正確にはアメリカテン



挿絵(By みてみん)




 ノベトンの事件以来、洞窟は集落の者は薄気味悪がって近づくことはなかった。


 二人の狩人は追いかけていた貂が見事な毛並みだったのでどうしたものかと思案していた。

 しばらくすると貂が穴から出て来た。するとその貂を追って一人の男が走ってきた。狩人達は驚いたが、男は入り口から出てきた途端、何やらびっくりした様子で穴の奥へ戻っていった。


 二人の狩人のうち年かさの男は物心ついた頃にノベトンの事件があり、ノベトンの顔を朧気ながら憶えていた。

 年かさの狩人は「あの男はこの洞窟で死んだノベトンに似ている」と若い狩人に言った。


 二人の狩人はこんな洞窟にノベトンでないとしても人が潜んでいたのかと思い、洞窟の奥へ行ってみることにした。


 ウクララ集落に伝わる話では洞窟はそう大きくなく普通の部屋ほどの空間だという話だったが、洞窟の中に入ると人影は見えなかった。

 しかし洞窟の奥に縦穴があって下から光が漏れてきていた。狩人達がその縦穴を覗くとすぐ下に空間があるようだった。


 二人の狩人は何かに魅入られたようにその縦穴に入った。


 縦穴の下は降りながら奥へ続く洞窟になっていった。そして光は洞窟の奥から来ているようだった。

 二人は洞窟の奥へと進んでいった。ここから二人の言うことが食い違ってくるが、年かさの狩人は一刻ばかりも歩いたというが、若い狩人はほんの少しばかりの距離を歩いたという。


 やがて大きな空間に出会った。そこには川が流れており、作物も良く実った大きな村があった。耕作地や放牧地には村人らしい人間の姿もあった。



挿絵(By みてみん)




 狩人達は驚いていたが、とりあえず村の人に声をかけてここは何と言う村か聞いてみることにした。

ところが村人は狩人達の姿が見えないのか誰も二人を見ることもましてや返事をすることもなかった。


 狩人達は村中をのぞいて回っていたが、ある家をのぞいた時驚いた。


 なんとそこには去年死んだはずの若い狩人の祖父が座って酒を飲んでいたのだ。そしてその隣で酒を飲んでいたのは年かさの狩人がノベトンではないかといった男だった。


 若い狩人が祖父に大きな声で呼びかけると、突然辺りの犬がいっせいに吠え始めた。するとノベトンらしき男が「犬が吠えだしたぞ、何か災いがやって来た!オレらを何処かへ連れて行くつもりだ。皆の者、火を焚いて災いを追い出せ!」と叫んだ。


 するとどの家からも煙りが上がり、狩人達は煙たくて仕方ないので村を出ることにした。


 突然、二人の狩人は誰かに後ろから引っ張られた。振り返るとそこにはいつの間に現れたのか数人の村人が「行くな」とでも言うように狩人達の服を掴んで引っ張っていた。

 狩人達は恐ろしくなり、必死にふりほどくと急いで逃げ出した。そしてこの村に入ってきた時の洞窟へと走った。


 村人達も追っては来たが洞窟の入り口まで来ると追ってこなくなった。狩人達は急いでウクララ集落に逃げ帰ってこの怪異な話をした。


 ことの真相を確かめめる為に武器を携行した数名の男達が二人の狩人と洞窟に来てみると確かに洞窟の奥に縦穴があったが、その縦穴は二尋(約3.6メートル)ほど下に降りられるだけで何処にも横にいけるような穴はなかった。


 結局二人の狩人は寝ぼけていたのか魑魅魍魎に誑かされたのだということになった。


 若い狩人はもう一度縦穴に入って祖父に会いたいと言っていたが、数日後に突然倒れたかと思うと死んでしまった。そして時に縦穴から光が漏れているのが目撃されるようになった。


 これは怪異な事が起こっているとして集落の者達は旦那神殿であるセナ山神殿に相談に行った。


 セナ山神殿はマルタンから怪異な事に詳しい神官を呼んで数日に渡って洞窟の調査をした。

 調査が終わると数名の神官が死者を弔う詠唱をした。そして悪霊払いが呼ばれた。悪霊払いは大きな平たい石に魔除けの呪文を刻むと縦穴の上に置いて穴を塞いだ。


 祐司とパーヴォットは洞窟の中に平たい石を見たがこれが悪霊払いが置いた石である。


 これらの事が終わるとセナ山神殿の神官長が、ウクララ集落の者を全員集めて説明をした。


 それによると死んだ者の霊は”黄泉の国”へ行くが、時に悪霊となってこの世を彷徨う。ノベトンは悪霊と成ってあの洞窟に縛られている。

 そして”黄泉の国”へ行こうとする霊を誘いこんで偽りの死後の世界に閉じ込めてしまう。


 それはノベトンの悪霊としての寿命が尽きるまで続く。ただ悪霊に誑かせかされた霊は死んでいることが自覚できず”黄泉の国”へ行くこと無く悪霊のようにこの世に留まってしまう畏れがある。

*悪霊の寿命は数十年から数百年とされている。


 その為にこれから毎月一回はセナ山神殿の神官達が洞窟に出向いて死者を弔う詠唱をあげて、一人でも多くの捕らわれている霊を救うと宣言した。

 そして悪霊は封印されてはいるがその影響力は時に洞窟の付近に及ぶことがあるので、集落は洞窟から離れた場所に移転した方がいいと締めくくった。

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