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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第四章  リヴォン川の渦巻く流れに
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逆巻く渦に抗して9  巫術師ガオレ

 ようやく話は、主人公の祐司の身の上にもどる。


 宿から連行された祐司が連れて行かれたのはシスネロス市の北東地区に位置する四百メートル四方ほどの城壁内にある練兵場だった。そこに大きなテントが幾つか張られて集められた人間が簡単な尋問を受けていた。


 祐司は尋問を受ける順番を待ちながら正直にいままでの経緯を話すか、それとも黙っておくか考えていた。


「おや、一願巡礼さんだよね」


 祐司の背後から声がした。振り返って見ると昨日、リューディナを紹介してくれた老人だった。祐司は老人を足萎えの物もらいと思っていたが、老人は二本の足でしっかり立っていた。


「え、立てるんですか」


 祐司は、素っ頓狂な声を出した。


「立てるさ。ちょっと足が疲れたんで座ってただけさ。で、どうだい、リューディナはよかっただろう」


 祐司は「まあ」と言うと、やっぱり老人はぽん引きではなく、足萎えを売り物にしている物もらいだったのだろうかと祐司は思った。


「義勇軍に編入するとか言っていましたが義勇軍てなんですか」


 祐司はダメ元で老人に聞いてみた。


「あいつらオレたちを盾に使い潰すつもりだ。モンデラーネと一戦やらかすつもりらしい。しかし、自信がないんで義勇軍てのをでっちあげて最初にモンデラーネにぶつけて、少しでもすり潰すつもりだろう。もしくは足止めだな。なにしろ、モンデラーネの戦車隊は有名だからな。

 人をはね飛ばしたら戦車も多少ガタが来る。槍で人を突き刺したら中々抜けない。屍累々になれば戦車が突進できなくなる」


 祐司の横に老人は座り込んで話をした。祐司もつられて座り込んだ。


「なんで、尋問してるんですか」


「多少、得物を使えるヤツで別働隊を作るんだと思うね。まあ、餌から決死隊へ昇格って程度だろう」


 老人は皮肉っぽく言った。


「戦にお詳しいですね」


「ああ、前は市守備隊の巫術師だったからな」


 祐司は、ガオレにもう少し詳しい話を聞きたかったが順番が来て尋問官の前に呼び出された。長い机に数名の尋問官が並んでおり、一対一で尋問を受けていた。

 尋問官といっても服装や物腰から見て市庁舎の役人というよりも、大店の従業員で字の書けるような者を急遽集めたような感じだった。


祐司を受け持った尋問官はまだ若い男だった。

 

 祐司は尊大な態度を取る尋問官に出来るだけ丁寧に言った。


「わたしは一願巡礼です。神殿にも安全は保障された身です。すぐにわたしの従者とともに釈放してください」


「できない。非シスネロス人は、居住者、滞在者の別なく義勇軍に編入された」


 どうやら、尋問官は一願巡礼の事を知らないか。意図的に無視しているようだった。


「アハヌ神殿の神官長に手紙を書きたい」


「手紙を書くのは自由だがこちらで預かっておく。それより、ジャギール・ユウジ、武芸の方はどうだ」


 祐司は持っていた書類を全て差し出した。


「盗賊を四名殺傷したことがあります。その顛末はヘルトナの守備隊長の紹介文に書いてあります。

 オオカミ憑きのオオカミを成敗しました。そのいきさつについては千年巫女神殿のグネリ神官長の紹介状に書いてあります。それにわたしの荷の中にオオカミの毛皮があります。ドノバ候に使えます郷士ヌーイ様とは懇意にいたしております。その紹介状もあります」


 尋問に当たっていた役人らしい若い男は紹介状を読み出すと押し黙ってしまった。それからにこやかな顔で祐司に丁寧に言った。


「取りあえず、紹介状と信者証明はこちらでお預かりします。全員そうしておりますので了解してください」


「わたしの武器は返して貰えますか。戦いにでるのなら使い慣れた武器がいいのですが」


 祐司を尋問した若い男は、本物の役人にしても、ほんの下っ端、それも雇用されて間もないような男だった。当然、不測の事態には何も決めることはできないだろう祐司は思った。


 若い男はすっかり困り果てたような顔になった。


「上司に相談いたします」


「貴方のお名前を聞かせてください」


 できるだけ祐司は丁寧に言った。


「バナン・キンケルだが、何故、名を?」


 祐司は、更に、にこやかに言った。


「誰が対応したか知っていれば責任の所在がはっきりします」


「ジャギール・ユウジ、もう結構です」


 若い尋問官は、混乱しているようだった。ようやく相手がただ者ではないことに気が付きどう対応すればいいのかわからないのだ。


「待って下さい。わたしの従者を捕らえていると聞いています。どこにいますか」


「今晩、その確認をします。その時に申し出てください」


「わかりました。バナン・キンケルさん。きっと、調べてください。断られたら貴方の名前を出していいですよね」


 若い男は、黙ったままだった。



 祐司はもといた場所にもどってくると物もらいの老人は、まだ座っていた。


「わたしはジャギール・ユウジ・ハル・マコト・トオミ・ディ・ワ と申します。ご老体のお名前は?」


 再び祐司は老人の横に座ると自己紹介をした。


「バロォーミー・ガオレだ。バロォーミー・ガオレ・ハル・バンゼ・マール・ディ・ラウサ、市防衛隊の巫術師をしていたのは本当だ」


 老人の言ったことに大きなウソがないことは、老人が巫術師特有の光を発していることから祐司には明白だった。


「巫術師さんがどうしてこのような場所に?」


「いや、巫術師と言っても元巫術師なのだ。一年ほど前からかっらきしでな。うんともすんとも術が効かなかったり、たまに効いてもえらい尻切れ蜻蛉で、とうとう解雇された。 

 すると、支払いはいつでもいいよと言っていた居酒屋やら娼館、それ行きつけの食堂から行商人までが掛け売りの分を寄越せと押し寄せてきて身ぐるみ剥がされた」


 巫術師が能力を減じるのには加齢により巫術のエネルギーをコントロール出来なくなったり、不養生のために同様の事が起こる場合である。


 そして、希にだが巫術のエネルギーを取り込めなくなる場合があるという。これは巫術のエネルギーの作用から逃れていくことであり本来ならよい兆候であるが巫術師ともなると致命的な病気と言える。


 祐司は目の前の人物が老人でかつ不養生であろうことはわかった。巫術師特有の光は発しているが、点滅する線香花火のような光の出方から後者の理由ではないかと思った。


「市防衛隊なら非シスネロス市民でもシスネロス市民扱いだったが、まったく運がないわい。

 さあ、後一人でわしの尋問の番だ。こんな巫術を使えん老いぼれはいの一番に食われるエサに決まりだな」


 ガレオという老人は自嘲気味に言った。


「巫術を見せて見返してやってください」


 そう言った祐司には算段があった。


「できればそうしたいがな」


「僕の故郷に身体のツボをついて能力を回復させる術があります」


「ああ、ワってとこかい。何所にあるのか聞いたことがない名だ。後でどんなところか聞かせてくれ」


 ガオレの言い方は疲れ切り諦めた男の言葉だった。ガオレも何度も自分の力を取り戻す努力をしたに違いないと祐司は感じた。


 祐司はいつも着ている上着の左右のポケットを留めるトグルに布でくるんだ水晶を隠していた。いざという時に二つくらいは水晶を持って置きたかったので、神殿で水晶を盗まれた後に工夫した隠し場所だった。


 祐司は両手に力を入れてワザと開けてある小さな穴から水晶の尖った先を出した。


 未だに試したことはなかったが、巫術のエネルギーを日本から持ってきた水晶に吸収して貯蔵できることは確かだった。

 また、巫術のエネルギーの一部を構成していると思える電気エネルギーをエネルギーの貯蔵量に差のある二つの水晶の間に電池を挟んで取り出すこともできる。


 祐司は巫術のエネルギー全体も取り出せるのではないかと思っていた。電池のかわりに巫術のエネルギーを効率的に貯めることができるのを、エネルギー差のある二つの水晶の間に挟めばいい。


 巫術のエネルギーを効率的に貯めるものとは何か?


 それは巫術師の肉体である。


 祐司は今までの経験と推論で、巫術師は巫術のエネルギーを貯めやすい肉体と、そのエネルギーを鍛錬によってコントロールできる人間だと理解している。


「バロォーミー・ガオレ、お得意の巫術はなんですか」


「かつては降雨術や隠霧術なんかが得意だった。電光はあんまり得意ではなかったから軍用巫術師しては使い出がもう一つだったな」


「ちょっと、動かないで下さい」


 祐司はガオレの服を少し巻き上げて腹の辺りを露出させた。そして、上着を脱いで左右のポケットを留めている少し水晶の先端を露出させたトグル(留め具)をガオレの腹に一瞬当てた。

 右のトグルになっている水晶はキリオキス山脈からずっと巫術のエネルギーを吸い取らせてきた水晶でもう一つは未使用の水晶である。


 ガオレは電気に打たれたように少し痙攣した。


「大丈夫ですか」


 少しやり過ぎたかと,祐司は心配になって聞いた。


「今のは何だ?身体の中で火が走り回っているみたいだぞ」


 祐司は見たガオレは身体から発する光が少しばかり明るくなりかなり安定してきて線香花火から普通の手持ち花火のような感覚で光が増減するようになった。

 ただ、今まで見かけた巫術師はかなり安定した光を出すのが特徴だった。祐司は巫術のエネルギーは電気の用に一度に流れ込む訳ではなさそうだと思った。


「もう一度、いいですか」


「やってくれ」


 ガオレは少しばかり荒い息で言った。


 祐司は少しばかり力を入れて水晶の先端をガオレに二三秒押し当てた。ガオレが仰け反って少しばかりうめくような声を上げた。


「具合が悪いですか」


 祐司はあわてて聞いた。


「大丈夫だ。なにか昔の感覚が戻ってきた。上手くやれるかもしれない」


 数回、荒い息をしてからガオレは言った。ガオレの光は青味の混じる黄色であった。それが巫術師としてのガオレの本来の光だった。


 やがて、ガオレは呼ばれて尋問を受けるためにテントの方に向かった。祐司は近くにある連行者のためのテントに入った。


 突然、頭上が暗くなった。祐司が空を見上げると練兵場の上、数十メートルの空間に周囲から雲のようなものがどんどん集まっている。


 雲はやがて渦を巻き上空にあがって行く。その雲を芯のようにして、周囲から小さな雲の破片のようなものが次々にまとわりついてきて、ついに直径が数百メートル程の小さな積乱雲のようなものが現れた。


 突然、大粒の雨が降り出した。文字通り滝のような雨だった。人々が雨を避けるために右往左往する。雨は三十秒ほどでやんだ。それでも練兵場はぬかるんで地面に座れるような状態ではなくなった。


「ちょっとやり過ぎだな」


 祐司は練兵場の建物の際に残る乾いた地面の方に移動しながら言った。


「すごい術だな。なんて名の術だ」


 祐司を見つけたガオレが声まで若返って聞いてきた。


「指圧といいます。身体の中の気の流れをよくします。でもガオレさんの降雨術の方がすごい」


 ガオレは祐司に”ワ”についてなどの質問をした。祐司は一願巡礼であることと、実際は”ワ”出身の両親のもとでイース(アイスランド)で生まれたというスヴェアから与えられた情報の中で最小限の要素だけを話した。


 ガオレはもっと聞きたそうだったが、祐司は一願巡礼の願いに抵触することは話してはいけないということで納得してもらった。



「おい、今の雨を降らしたのはお前か」


 市民軍の兵士を引き連れた尋問官のリーダーらしい男が、祐司とガオレの方へあわてて走ってきた。


「ああ、バロォーミー・ガオレのお得意さ」


 ガオレの言葉に、尋問官は持っていた書類に何やら書き付けると急いで戻って言った。



「今から名を呼ぶ者は、ここへ集まるんだ」


 五人の市民軍兵士が、練兵所に集まっていた男達に怒鳴った。そして、名を呼び始めた。

その中には、祐司とガオレの名もあった。


 名を呼ばれた男達は二百人ばかりだった。心なしか、選ばれた男達は体格がよく、年齢も比較的若い者が多かった。


「お前達はこれから旧兵舎に行くんだ。ぐずぐずするな」


 練兵場の一角に集められた男達は、練兵場の北の端にある古い建物へ連れて行かれた。


「さあ、入るんだ」


 押し込められた建物は長い間、使っていないようなかび臭い匂いがした。祐司達は、一階の二百人の男が入っても、互いに寝転ぶ余地があるほどのかなり広い部屋に押し込められた。

 

「どうなるんでしょう」


 さすがに、祐司は不安からガオレに聞いた。


「なるようにしかならないさ。ここは、市民軍の旧兵舎の食堂だ。以前、一度来たことがある。頑丈な建物だから要塞にも使用できる。反対に、ここから黙って抜け出すのも難しいがね」


 ガオレは、少し笑いながら言った。




挿絵(By みてみん)





挿絵(By みてみん)



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