光の歩み26 祐司の推論 下
「で、先日お願いした件ですがよろしいでしょうか」
祐司は話が一段落したところで自分の希望が叶ったかを訊いた。
「承知した。その者にはいざという時にユウジ殿の側で待機してもらおう」
祐司はモンデラーネ公側間諜組織との抗争に手を貸してくれというカレルヴォの願いに、或る男を自分の補佐にして欲しいと頼んでいた。
「ところで話はついたのか」
カレルヴォの問いかけに祐司はニヤリとした。
「はい。話したというか説得したというか。いやどうでしょう。本来あるべき姿であれと背中を押したような感じです。
どうか女も男ともども王都で世過ぎができますようにお願いします。手駒としても役に立つ人物と思えます」
「本人達がその気ならパリョ・セルエリク様は自家で抱えてもいいと仰っている。貴族家の世子だが、パリョ・セルエリク様が実質的にベイエルス準男爵家を差配しているから安心していい」
カレルヴォの言葉に祐司は「仲立ちありがとうございました」と言って頭を下げた。
「依頼していたもう一つの件ですが」
祐司は少し上目遣いで訊いた。
「巫術師デゼ・ヨルンダの件だな」
祐司は相手方に著名な巫術師がいると聞いていたので、その情報を教えてくれるように頼んでいた。
無論祐司には巫術は無効なので、巫術師がどのような術をどの程度使うのかは問題ではない。
ただ祐司に期待されているのが万が一の巫術師封じであるようなので、その情報を欲しがらないと不審に思われる可能性があるため、巫術師について出来るだけ詳しく教えてくれと頼んだのに過ぎない。
「色々機密があってどの程度情報を出していいかで時間がかかりましたが、結局出し惜しみして不測の事態が起こっては悔やむということで全て話します」
ドンスレルが必要もないのに声を落としてしゃべり出した。
「まずデゼ・ヨルンダの術の種類と威力です。モンデラーネ公軍で”カタビ風のマリッサ”が台頭するまでは筆頭巫術師というだけあって、”雷”の威力は並みだが速射が出来きます。息を五ほどすれば次が繰り出せるそうです。
そして何より脅威なのが、近距離の目標を狙えることです。五間(約九メートル)ほどの距離の者でも極めて低い弾道で命中させます。
戦場ではそんなに敵の接近を許せば、少々敵を打倒したところで飛び道具で始末されるだろうが今回のような街中で攪乱をしようという時には役立つ術でしょう。
”屋根”は五ペス(約八十メートル)ほどの大きな直径のものを四半リーグ(約四百五十メートル)以上前に押し出します。ただ今回の事案では”屋根”についてはそう大きな要素ではないでしょう。
問題は”突風術”と”隠霧術”です。
”突風術”も”雷”と同じで威力は並みだが連射が出来きます。息を二三するだけで次々と繰り出してくるようです。それもほぼ直射だそうです。威力はそう無いそうですが喰らえば動けなくなるでしょう。
”隠霧術”は手の先が見えないほどの霧を半リーグ(約0.9キロ)四方に出します。街中でそんなものを出されたら大混乱になります。
モンデラーネ公の筆頭巫術師は戦場ではモンデラーネ公のすぐ傍にいて護衛をすると言うことですから、”隠霧術”に優れていると万が一の敗走の時には大きな助けになったでしょう。
後は”照明術”に長けているようです。若い時は野営陣地の幕舎百張に四半刻(三十分)ほどで光を与えたと言います。
ただ今の情報はデゼ・ヨルンダの全盛期のものなので、かなり老年になって現在では幾分かは割引をされるでしょうが甘く見る方が危険だと思います」
「ヘッゼル・マシャーナは?」
祐司が聞いたヘッゼル・マシャーナは元は北西軍に所属していた女性巫術師である。祐司がイルマ峠城塞で率いた北西軍の巫術達からは蛇蝎のように嫌われていた。
そのマシャーナは事もあろうに北西軍と敵対しているモンデラーネ公軍の傘下になりマルタンに潜伏しているという事だった。
マシャーナの釈明なしに一方的な話になるが、男女の関係になった巫術師ヘルカネルによるとヘッゼル・マシャーナは巫術師組頭を色仕掛けで籠絡してヘルカネルをはじめ他の巫術師の働きを横取りしたり、ヘルカネルを貶めるような言動を取っていたという。
悪辣な行いとしては面白半分に祐司の配下であった巫術師ケルサックに”雷”を浴びせて、祐司が過剰な巫術のエネルギーを取り去るまで三年間松葉杖が必要な体にしたことである。
そしてマシャーナはパーヴォットを力尽くで押さえ込んで、巫術師アハレテがパーヴォットに暴行を加えるのを手助けした女性の名である。祐司にとってマシャーナという名は憎むべき女性の名なのだ。
(第二章 北クルト 冷雨に降られる旅路 霧雨の特許都市ヘルトナ14 襲撃 中 参照)
「マシャーナという女は出身はバセナス州南部のマルゼキク郡の旅籠の娘です。宿泊した北西軍の女性巫術師に誘われて弟子になってから北西軍に入ったということです。
今年で二十七才ということでが、あまり性格がよくないという評判は子供の頃からのようです。
報告書では自尊心が過度に強く強欲と書いてありました。ただ巫術師にとって自尊心はつきものです。そして強欲は弱点でもありますから、金を積めばこちらに寝返るかもしれません。
さて巫術師としてのマシャーナは”雷”と”屋根”は軍の巫術師としては平均的な能力です。
その他の能力は”送風術”だがこれはやや強めのモノを扱うらしい。乾いた場所なら土埃を舞わして目くらまし程度のことは出来るそうです。
”暗視術”も使えるそうですが、そう優れたモノではないようで闇夜で五間(約九メートル)ほど離れた人間が辛うじて分かる程度のようです。
北西軍からの報告で注意を喚起してあったのは”熾火術”です。マシャーナの”熾火術”です。特別な”熾火術”です」
「特別な”熾火術”?」
ドンスレルの説明に祐司は小首を傾げた。
”熾火術”とは地味な巫術で”街の巫術師”の行う術の類であるが商売になることはない。
一般的には両手を掲げてその上に火口を置くとしばらくして火口から煙が出てきて点火する術である。
街中では火種は容易に得られるのでわざわざ金を出して巫術師に火を熾してもらう必要はない。
軍で働く巫術師の場合は宿営する時に少し便利な術ということになるが、野外でも絶対に必要な術ではない。
祐司はサムロム峠で敵中を突破するのに”熾火術”で点火した原始的な焼夷弾を使用したことがあるが、これは例外的な”熾火術”の使用法である。
(第十二章 西岸は潮風の旅路 春嵐至り芽吹きが満つる11 サムロム峠の攻防 五 敵中突破 参照)
「マシャーナの使用する”熾火術”は強力で三間(約5.4メートル)以内の距離なら乾いた布を発火させることが出来るということです。
ただ距離が遠くなるに従って発火するには時間がかかるそうですが、相手がしばらく動かないなら服に火をつけることが出来ます。
この術を使ってマシャーナは少し離れた場所に火種を持たずに火災を起こすことも出来るでしょう」
「マシャーナのことをよく知っている巫術師達はそんな術の話はしていませんでしたが」
ドンスレルの話に祐司はまた小首を傾げた。
「北西軍との契約でこの術のことはマシャーナに秘密にしておくようにとされていたということです。
特殊な状況の場合は殺そうと思う相手を焼き殺すことが出来るかもしれません。ただマシャーナがこの術を使えると知られていれば対策は容易です。
マシャーナの面が割れていれば至近に近づけなければいい。また水筒の一つでもあれば発火直後の火はすぐに消せます。
ですからここで使用すれば効果的だとするという状況が生まれるまでは、北西軍はマシャーナに術のことを秘匿させたのでしょう。
実はマシャーナは北西軍を辞めたいっても形は脱走なのです。ですから北西軍はマシャーナの秘密の術を我々に伝えたのでしょう。
マシャーナを捕らえて尋問が終われば北西軍に引き渡す約束になっています。無断で軍を抜けただけで死罪になることもありますから、もし軍機を漏らしているとなると親族まで連座になるかもしれません」
ドンスレルの言葉に祐司は恐らくそういった結末になるだろうと思った。
「わたしの愚かな意見を言っていいですか」
祐司の言葉にカレルヴォが嬉しそうな口調で返した。
「それを待っていた。ユウジ殿の発想は我々とは少々異なる。だから我らが見落としたことも指摘してくれる。
またなんとなく頭でわかっていたが言葉に出来なかったことを明確にジャギール・ユウジ殿は説明してくれる」
祐司は心の中で「はー」と息をついた。
カレルヴォが言うことは何度か言われたことがある。これは別に祐司が優れた人間だからでないことは祐司自身がよくわかっている。
祐司なりにこの理由として考えたことは、リファニアでは形而上的な哲学が発達していない。
哲学なんぞ何の役に立つかと言われたとしても思考方法は哲学により進化するということである。
無論世の過半の人間は本気で哲学を学ぶわけではないが、大学などで哲学を聞きかじった人間の多くは教育機関にいる。
そうした人間の思考の方法は人文や社会系統以外の数学に代表される自然科学を通じて知らず知らずに生徒や学生に影響している。
祐司は公的な教育機関がない中世世界リファニアに来て近代的な集団教育の効能というものをおぼろげながら見出していた。
祐司は少し考えて言いたいことを整理すると口を開いた。するとそれまで部屋の隅の机にかじりついて置物のようにしていた同心が祐司の言うことを書き留めだした。
「相手の狡猾さによりますが相手は飛び抜けて聡明でもなければ愚かでもないとして
考えます。
さて怪しげな者が集まるという情報が陽動だった場合に、真の目的は何処でしょうか。情報ではまず行うのは勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の暗殺ということですが、これは相手が余程愚かでないと行うとは思えない行動です。
勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様は前王妃ベネシー様の菩提を弔うという目的でマルタンにおられます。
勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様を害するとなると、王家へのあからさまな挑戦に加えて神々をもないがしろにすることになります。
モンデラーネ公は王家に代わってリファニアの覇者になりたいと思っているなら、大義名分は大事にしたい筈です。
絶対に暗殺をしないとは限りませんが、得られるモノと失うモノを比べた場合にあまりにも失うモノが大きな選択です。
マルタンの現場の者が目の前のことだけ考えて勝手に行うことも考えられますが、先ほどのお話ではモンデラーネ公直参の家臣もマルタンに入っているということでした。
そのような者が唯々諾々と勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の暗殺を容認するとは思えません。
もし容認したり或いはそのような命令を自ら行ったすればモンデラーネ公側の間諜組織は手のつけようがない程にがたが来ているということになります」
「そうだな。矢張り一番考えやすいのは勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の暗殺をするぞと偽の情報を与えて、相手方の警護を分散させるという手か」
カレルヴォが右手で顎をさすりながら言った。
「真の目的は何かは相手の人数から考えれば…」
「元からマルタンにいる者は全部で二十人と思っていい。ただ半分は年寄りか女で戦力にならないだろう。
ただ外部から入ってきた者が十人いる。これは先程の言った各種の人間に偽装した郷士だ。これが主戦力だな」
カレルヴォが祐司の疑問に答えた。
「では手荒なことが出来るのは多くて二十人としましょう。仲間割れしていないとしてです。この人数で相手方より数倍多くなって狙える目標を考えるとどうでしょうか
さてバンガ・セレドニオルとオパデバ・ビオンネリーナの奪回が目的とするとマルタン奉行所ですね。でも幾ら捕り物で出払ってても二十人でなせる目標ですか」
祐司は半ばわかっていながらこの質問をドンスレルに行った。
「無理です。第一マルタン奉行所は捕り物の本部です。牢番を別にしても常時二十数人は詰めています。専属の巫術師までいます」
ドンスレルは断固とした口調で言った。
奉行所が襲撃されて捕えている囚人を奪われるとなると、マルタン奉行所を司るマルタン守護のセウルスボヘル伯爵キネゼ・ジョルム・オスカリッドからすれば耐え難い恥辱になる。
「では矢張り勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の暗殺が目的として、本陣を襲撃できますか」
祐司は今度はカレルヴォに質問した。
「常時三十人で警戒している。勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の家臣も十数名いる。
その中にはルクヴィスト子爵家お抱えの腕利きの巫術師が二名含まれる。それに加えて衛士神官まで巡回している。
ただ暗殺はバンガ・セレドニオルとオパデバ・ビオンネリーナの奪回より簡単だ。死ぬ気になれば一人で出来る」
王家直参のカレルヴォからすれば自分が護衛している勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルドに手がかかるような事態になれば、自分達ばかりだけでなくかなりの地位にある高官にまで至る責任問題である。
そのためかカレルヴォは「死ぬ気になれば一人で出来る」という部分を少し弱気な口調で言った。
襲撃されるとわかっていても相手が相打ち狙いで決死の覚悟で行動すれば、万が一のことがあるからだ。
「わたしは勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様暗殺はとってつけた理由のように思えます。矢張り陽動と思います。
先程も言いましたがバンガ・セレドニオル様とオパデバ・ビオンネリーナ様の奪回の為に勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の暗殺を行うといいますが、狙う獲物の餌としては間尺に合いません。
餌の方が大きすぎます。まるで”牛を餌に狐を狩る”以上の損な取引です。バンガ・セレドニオル様は身内の有望な武将かもしれませんが、まだ名を残す武功など挙げていません。
オパデバ・ビオンネリーナ様に至っては家臣の妹に過ぎません。
確かにバンガ・セレドニオル様はモンデラーネ公の妹であるシュテインリット男爵妃ムレポ・ショルシナリーネの義子で、シュテインリット男爵家は重要な家臣だとは思います。
しかし勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の暗殺者が明らかなれば代償が大きすぎます。
前王妃バネシー様の菩提を弔う勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様をモンデラーネ公が暗殺したとなれば、モンデラーネ公に靡きかけながらも中立的な立場を取る領主はモンデラーネ公への接近を躊躇うでしょう」
祐司の言った”牛を餌に狐を狩る”とはリファニアの格言で、間尺に合わないことを示す。日本語の”海老で鯛を釣る”の真逆なことである。
「だが、今のモンデラーネ公側の間諜組織ならそのような墓穴を掘ることをやりかねないほどワケがわからないことをする可能性がある」
カレルヴォは具体的な事案を知っているような口調で言った。
「しかも例え陽動だと思っても、勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様やマルタン奉行所への襲撃はあってはならないことですから万が一の為に人手を割く必要があります」
ドンスレルも心配げに言った。
「モンデラーネ公側の間諜はそれが狙いだと思います。ですから勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様暗殺もマルタン奉行所襲撃も陽動で真の目的は別にあると思います。
そしてどうも相手はわたしも引っ張り出そうとしているように思えます。とすると狙いはわたしの家にいる女中が目的では?」
祐司の問いかけにカレルヴォとドンスレルは顔を見合わせた。
「わたしはその女中が何者かは知りません。でもカレルヴォ様とドンスレル様は御存知のようです。
益々わたしが知っていい人物ではないと思いましたが、個人的には守ってやりたいと思います。
エジェネルを害しようと潜んでいる相手が出てきてくれるとなると問題が解決しますから却って都合がいいかと思います」
祐司がここまで言った時にカレルヴォとドンスレルを見ると、さらに祐司の言うことを聞こうといった様子だったので祐司は言葉を続けた。
「わたしがありそうだと思うのは次のような構図です。まず相手は大きく目的の異なる二つのグループに分かれていると思えます。
一つは本気でマルタン奉行所襲撃を行いバンガ・セレドニオル様とオパデバ・ビオンネリーナ様を奪回しようとしています。
ただ勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様暗殺はその為の手段です。ですから絶対に行うとは限りません」
「もう一つはエジェネルを狙っているグループです。エジェネル周辺を手薄にするために最初のグループを囮にしようとしています。ですから奉行所に密告書を投げ込んだのはこのグループの者です。
このグループは陽動の為に最初のグループにマルタン奉行所襲撃を行わせるつもりです。
ただ二十人、そのうち真に戦力となる郷士十人で襲撃が成功するとは思えませんから、何か偽の情報をエジェネルを狙っているグループが与えていると思います。
そうですね。例えば代官所に内応者がいるから襲撃すれば容易にバンガ・セレドニオル様とオパデバ・ビオンネリーナ様を救出出来るとかいったことです」
「矢張りユウジ殿もそうした結論か」
カレルヴォが感心したように言う。
「といいますと?」
「実は警備隊長パリョ・セルエリク殿やマルタン奉行ゼンゼ・ディトハルデル殿を交えて話し合った。それでそうした結論になったのだが、確信が持てなかった。
だから全く別の視点で考えるジャギール・ユウジ殿の意見が聞きたかったのだ。これでパリョ・セルエリク殿とゼンゼ・ディトハルデル殿も動く決心がつくだろう。
ところでユウジ殿、エジェネルの名と面はまだ割れていない。相手がわかっているのはおそらく年若い女性という程度だ」
カレルヴォは種明かしのように説明した。
これに並行してドンスレルが祐司の言ったことを書き写していた同心に「地図を」と言った。
同心はすぐに徒図を祐司の目の前で広げた。それはマルタンの地図だった。
「そこでジャギール・ユウジ殿には屋敷ではなく、ここで仕事をお願いしたい。それからあの二人も」
ドンスレルは目の前の地図でマルタンの東端の一点を指で示しながら言った。
「実はマシャーナの報告書をムリリトから届けてくれた使者が本人を見知っていたのです。その者が奉行所に来たあの女を見てとんでもないことを言い出しました」
祐司が地図で示された場所について訊こう思う間もなくドンスレルは別の話を持ち出した。
「それで思いついたことがあるので一度あの女に話してくれないか。承知ならやってみたいことがある。
不承知でも全く困らないからその旨を言って話して欲しい。引き受けてくれたらタダとは言わない。
郷士身分のお嬢さんに勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様から出る褒美だからそれなりのモノになる」
どうも打ち合わせが出来ていたようでカレルヴォが間髪を入れずに口を開いた。勅使が身分のある人間に自分から依頼して褒美を出すとなると金貨十枚でも安いだろうと祐司は思った。
この後祐司はドンスレルとカレルヴォから大まかな計画を聞いた。
「その計画で最低限の目的は達せられるのは容易だと思います。ただ全て計画通りに進むのは難しいでしょう。
それからプランBとCも考えていた方がいいですね。そして用心すべきは味方に裏切り者がいないか確証を持つことです。
疑心暗鬼も困りますが。どうでしょう、マルタン奉行所の与力同心と勅使ルクヴィスト子爵デンゼバ・ハルヴィルド様の随員に一通り会えますか」
祐司はドンスレルとカレルヴォからの話は概ね無難な事だろうと思ったが、自分の意見を付け加えた。
「会ってどうする」
カレルヴォが小首を傾げた。
「気の動きでやましい考えの者がわかるかもしれません」
祐司とすれば多少でも自分の安全にかかわる事であれば出来ることをしておきたかった。
やましいことがある人間は祐司を見れば体から発する巫術の光が乱れる可能性があるからだ。
「厳選されたメンバーだが、こちらに来て籠絡されたか弱みを握られたという可能性は排除できないな」
祐司の言葉にカレルヴォは口をしかめながら返した。
「会うぐらいなら問題ないでしょう」
ドンスレルが言う。
「よほど相手がうろたえたのなら分かる程度ですし、疑わしいと思ってもわたしの主観に過ぎませんので証拠になりませんよ」
「それでいい。疑わしい者がいればそれとなく見張っておくだけで十分だ。やましことがなければ本人も気が付かない。やましければ自重する」
祐司の言葉にカレルヴォも納得したようだった。




