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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第十九章 マルタンの東雲
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光の歩み12 トムニデルの短剣

グラフィラヴァが初めて祐司の屋敷に訪ねて来てから五日後、再びグラフィラヴァは祐司の屋敷に来ていた。


 祐司はグラフィラヴァをメンヘラと断定していたが、一方的に拒絶すれば却ってグラフィラヴァの闘志を燃やす結果になるのではないかと恐れていた。

 そこで「貴女とは恋愛や結婚を前提したお付き合いは出来ませんが、お話は聞きましょう」というスタンスを取ることにした。


 そして祐司はグラフィラヴァに会うのはこちらの絶対的なホームグラウンドである自分の屋敷に限定することにした。


 それも十日に一度と言うことにしたかった。


 そこでグラフィラヴァに会わずにこのことを決めるために、グラフィラヴァが宿泊している宿屋に大家タイストの執事ヘルドルに出向いて貰った。

 そして何度かグラフィラヴァの付き人トムニデルをメッセンジャーにして何度か往復して貰って交渉した結果五日に一度一刻(二時間)という取り決めになった。


 祐司がグラフィラヴァを完全に排除しないという選択をしたのは後二ヶ月半ほどでマルタンを出立する算段があることと、パーヴォットが「使える女かもしれません」とグラフィラヴァのことを評価したためである。


 パーヴォットは祐司の周辺に出没する女性には動物的な勘が働く。


 ただグラフィラヴァの敵意がパーヴォットに向かうことのないようにグラフィラヴァの訪問日はパーヴォットが一日神学校へ行っている日にしていた。



「わたしももう少し勉強をして神学校を目指しとう御座いました」


 グラフィラヴァは部屋に招き入れられて、時候の挨拶が終わると意外な事を口にした。


「お嬢さんは小さな頃から頭がよかったのです。自分で習い事に熱心に取り組むだけでなく、わたしにも文字を教えてくれました。おかげで文章が読めますので人に侮られなく感謝しております」


グラフィラヴァの後ろで控えていた付き人のトムニデルが言った。


 祐司はグラフィラヴァと談話する条件にトムニデルを同席させることを要求した。グラフィラヴァは裏表がなくその時の意志のままうごくような或る意味特異な女性だと祐司は見抜いていたので突然迫られるようなことがないように、グラフィラヴァ側の人間だとして第三者を同席させたかったのだ。


 そして祐司は意志強固なのかほとんど感情の動きを見せないトムニデルがグラフィラヴァに心を寄せているのではないかと推測していた。

 これはまったく根拠がないことではなくホンの少しだけ見せるトムニデルの感情の動きから察していたことだ。


 リファニアは身分社会であるから付き人をするようなトムニデルがグラフィラヴァに告白するような状況はあり得ない。

 トムニデルにすればそれは分かりすぎるほどのことであるから、グラフィラヴァに対する感情を抑えることで他の感情の動きも鈍くなったのではと祐司は考えていた。


「トムニデルさんはグラフィラヴァの従者あるいは付き人と名乗っていますが、どちらの名称で呼べばいいですか」


「わたしは女性ですから付き人と呼んでいただいた方がいいかと」


 祐司の質問にグラフィラヴァが答えた。


「トムニデルさんの腰の剣はダガーでしょうか」


 祐司はトムニデルがベルトに差し込むようにして携帯している短剣を見て言った。


 リファニアのダガーは刃渡りが一ピス(約三十センチ)前後の細身の剣で甲冑の隙間から差し込んで相手にトドメをさす用途がある。

 身分に明らかな差があれば帯剣してきた客がそのままで家の中に入ることはあるが、普通は剣を外套を預けるように玄関で使用人やお内儀に渡す。


 ただトムニデルの持っているような短剣となるとそのまま家に入っても咎められないが、礼を持った行動ではない。


「お女中に渡すべきだったでしょうか」


 トムニデルがこの時ばかりは動揺したような巫術のエネルギーの光の変化を見せた。


「いいえ、まあいいですよ。貴方はグラフィラヴァ様の護衛でもあるでしょうから」


 祐司はにこやかに返した。


「トムニデルはこの短剣一筋です。わたしが促さないと普通の剣を携行してくれません」  

「余程短剣に自信があるのですね」


 グラフィラヴァの説明にリファニアに来て剣を日常で使うという経験を重ねた祐司は多少おどろいたように言った。


 幾ら武芸が優れていても短剣は長剣には分が悪すぎる。短剣で長剣を受け止めることは出来るがその圧力を凌ぐのが難しい。

 そして長剣を持った相手を倒そうと思えば相手の白刃をかいくぐり相手に抱きつくほどの距離に接近して一撃を与えるしかない。


 また複数の相手でもそこそこ武芸の腕があれば、相手を威嚇しながら防御に徹してなんとか逃げることは可能であるが短剣となるとそれも難しい。


「トムニデル、短剣をジャギール・ユウジ様にお見せして」


トムニデルは少し躊躇ったような仕草をしたがすぐに鞘ごと短剣を祐司に両手で捧げるようにして渡した。

 リファニアでは武器武具を相手に渡す時は両手で持つのが作法である。これは両手で持った場合に咄嗟にその武器武具を使えないからだ。


 祐司も短剣を両手で受け取って「では見せていただきます」と言った。


祐司は受け取った短剣を左手で引き抜いた。


 これもリファニアの作法で見せて貰うために手渡された武器は利き手でない方で操作する。


 一般にリファニアでは武器武具は右利きを前提に作られているので、ほぼ受け取った武器は左手で操作するが希に”弓手のダッサレー”のような左利きの武器使いの者がいるので、その時は「わたしは左利きです」と断らなければならない。


 祐司は受け取った短剣が意外に重たいと感じた。そして引き抜くと思った通り短剣は両刃のダガータイプだった。

 その穂先の方は勿論細く刀身も薄かったが、刃先から一アタ(約三センチ)ほどの刃元になると急速に刀身は厚みを増しており短剣の半ばほどでは出刃包丁並みに五ミリほどの厚さがあるようだった。


 短剣は丁寧に磨かれていた。祐司も刀剣を扱うようになって久しいのでそれこそ毎日のように磨いているように感じた。

 そして突然短剣に目に見えないほどのへこみや微妙な曲がりがあるということに気が付いた。


「これは一度人に対して使われましたか」


ほとんど祐司自身が意図しなかったような質問が口から出た。


 祐司は以前研ぎ師のジュデザ・ウデヴェインに自分の日本刀の研ぎ直しを頼んだ時にに「この片刃剣は何人か持ち主がかわっていますね。それぞれが人を斬った跡があるが一番斬っているのは一番新しい持ち主だ」と言われたことがあった。

(第十二章 西岸は潮風の旅路 春嵐至り芽吹きが満つる19 花と緑のヘルコ州 参照)


 たしかに祐司の日本刀は作風から戦国末期から江戸初期ぐらいに作成されたもので、その時代と幕末に人に対してふるわれた可能性があった。

 そして祐司がジュデザ・ウデヴェインに研ぎ直しを頼んだ時点で、祐司はリファニアにおいて十数人ほどの人間にその刀を味を与えていた。


 祐司は何故そんなことが刀を見ただけでわかるのか不思議だったが、トムニデルの短剣を見た時に自分の日本刀に何か似た味というようなモノを見いだしたのだ。



「わかりますか」


 トムニデルが少し驚いたように言った。そして何か言いたげな様子だったが、それをグラフィラヴァが右手で制した。 


「そのことについてはわたしが話します」


 そう言ってグラフィラヴァは説明を始めた。


「御存知のように我が主家ゲルベルト伯爵家はモンデラーネ公の傘下ということになっております。

 バナジューニの野の戦いの前に数千のモンデラーネ公軍が駐留してきました。その物資の補給がゲルベルト伯爵家の持ち出しでございました。


 それだけならモンデラーネ公の傘下になるというのはそのような負担があるのだという納得ですみますが、モンデラーネ公軍の兵士は横柄でした。

 毎日のように領民に対して押し買いのようなこと、酒屋で金銭を払わないで飲み食いする。呼び止めては自分達の荷物を持たせるなどということをしておりました。


 そして若い女性はモンデラーネ公軍が来るとおちおち表を歩けなくなりました。道で女性に出合うと「おぬしは商売女であろう」と言いがかりをつけて乱暴に及ぶのでございます。


 そして言い訳のように鐚銭を無理に女に持たせました。後で商売女と合意でしたことだと言い訳するためで御座います。


 他家ではどうだか知りませんがゲルベルト伯爵様はモンデラーネ公軍に何度のそのような乱暴狼藉に類は取り締まって欲しいと申し入れるとともに家臣で警邏隊を作って領内を巡回してモンデラーネ公軍の兵士の動きを抑えました。


 ところがこれを恨んだモンデラーネ公の兵士が大勢おりました。モンデラーネ公軍の兵士はモンデラーネ公の命なら死地に行くことも抗いませんが、他の家からの命だとなるとつむじを曲げてしまうようです。


 バナジューニの野の戦いが終わって数千ほどのモンデラーネ公軍が舞い戻ってまいりました。

 ゲルベルト伯爵家は当主ペファザ・フルリル・コルネリド様をはじめ主立った重臣とともに半数以上の兵士を失いました。


 それで領内の治安維持が難しくなっておりました。


 モンデラーネ公軍の兵士は思わない損害を受けた上に合戦での戦利品が手に入らずに見るからに苛立っておりました。

 そしてバナジューニの野の野で首尾良く事が進まなかったのは、ゲルベルト伯爵家をはじめとしたベムリーナ・ノセ州の領主が不面目な事をしたからだとして前にも増して乱暴狼藉が多くなりました。


 ある日わたしは夫ベンゼ・バテスタデの甲冑がシスネロス市庁舎から返還されてきたと知らせを受けてゲルベルト伯爵家の本城に受け取りに行きました。

 

このトムニデルの他に郎等と奥女中を一人ずつ連れて馬車に乗っておりますと、三人の酔ったモンデラーネ公軍の兵士が農民の親子ずれに難癖をつけて母親を連れ去ろうかという場面に出くわしました。


 わたしは馬車を止めさせると身分を名乗った上で、『この者達が無作法をしましたか』と問いました。わたしが身分のある者であるからと黙っていますので『我が領民に過失がなければ、このまま何もせずに立ち去ればことは荒立てぬ』と申しました。


 すると『腰抜けコルネリドの女は黙っていろ。いやお前が俺たちの相手をしろ』と無体なことをいいました」

*コルネリドは”バナジューニの野の戦いで討ち死にしたゲルベルト伯爵家の当主ペファザ・フルリル・コルネリドのこと


 ここまで祐司はグラフィラヴァの話を聞いて呆れてしまった。


 見境のなくなったようなモンデラーネ公軍の兵士の前に女一人で飛び出して、正義感溢れた事を言うのは勇気はあっても賢い選択ではない。

 馬車に乗っているのであるから馬車を一目散に走らせて誰かに助けを求めるのがグラフィラヴァのような立場の女性がすべきとことである。


 警告を与えた上でそのような行動をすれば、モンデラーネ公軍の兵士としても事が大袈裟になる事を嫌ってそのまま退散した可能性が高かったと祐司は思った。


「勇気がおありですが、無茶な行動だったと思います。警告をして誰かに知らせるべきでした」


 祐司はグラフィラヴァには何事も隠すこと無く会話することを心がけているので素直に感想を言った。


「貴方の言うようなことを後で色々言われました。しかしこればかりはわたしの性分であり、領民の苦難を見て見ぬ振りをするなど郷士身分の者として出来ないことと思っております」


 後先を考えずにその場その場の感情で動くグラフィラヴァらしいと祐司は思うと供にそれが郷士身分の矜持という行動規範で動けば義女と呼ばれるだろうと思った。


「さて、話を続けます」


 グラフィラヴァはそう言って少し微笑んだ。


「わたしは『他家の者が我が亡き主君ゲルベルト伯爵ペファザ・フルリル・コルネリドを呼び捨てにするのは看過できません。


 ましてや主君ゲルベルト伯爵ペファザ・フルリル・コルネリドはそちらの主君モンデラーネ公バッカウ・バガセナ・アウトドル様の為に同盟者として戦いました。すぐに無礼を謝りなさい』と咎めました」


祐司は兵士に情交の相手をしろと言われたことでなく、主君を呼び捨てにされてことを咎めるとは何かグラフィラヴァという女性らしいと祐司は思った。


「すると益々兵士はいきり立てって、『土臭いしなびたお前なんぞに用はない』といって農民の女性を突き飛ばしてわたしの方へ近づいてきます。

 するとトムニデルが兵士とわたしの間に入って『そこまでです。お嬢様に近づいてはいけません』と諭しました。


 しかしそんなこと聞くモンデラーネ公軍の兵ではありませんから、『お前らが悪いんだ。死んだり怪我をしても恨むな』と言って剣を抜きました。

 

 トムニデルが『よろしいでしょうか』と問うのでわたしは『存分に。後のことはわたしが責任を取る』とだけ言いました。


トムニデルは一番近い場所にいた兵士に俄然と突進すると、自分のマントを投げつけました。それを振り払おうとした兵士に肉薄すると左右の短剣を抜きました」


「左右の短剣?」


 祐司は話の途中で思わず訊いてしまった。


「ああ、すみません。トムニデルは外では二本の短剣を所持しています。一本はこの部屋に入る前に外套と一緒にお女中に預けました」


グラフィラヴァは咎めることなく言った。そこで祐司はそれに甘えて自分の興味を満たすことにした。


「その短剣も見せていただいていいですか」


 グラフィラヴァは少しトムニデルの方を見た。トムニデルが特に何の仕草もしなかったので「どうぞ」とグラフィラヴァは返してきた。

 祐司は丁度チカイと焼き菓子を運んで来た女中のナデラに命じて、トムニデルの外套を持って来させた。


「何か堅い重いモノが外套の中にあるようです」


 外套を持って来たナデラが小声で祐司に言った。


 祐司はこのナデラの行動に満足した。もしナデラがこのことを祐司に伝えなかったら後で注意するつもりだった。


 祐司は受け取った外套をトムニデルに渡した。


 トムニデルは外套の背中の裏地を左右に分けるとその中から短剣を取りだした。祐司がみたところ裏地の一部が筒状に区切られておりそこに固定して短剣が収納できるようだった。


取りだした短刀をすぐにトムニデルは祐司に渡した。


 その短刀は最初見た短刀よりやや大型で刀身は穂先からかなり厚くなっていた。両刃でなければ脇差だなと祐司は思った。



挿絵(By みてみん)




「その短剣は右手で防御に使うモノです」


「トムニデルさんは左利きですか」


 トムニデルの言ったことに質問をした祐司にトムニデルが意外な事を言った。


「いいえ、右利きで防御するのはその方が防御しやすいからです。わたしに課せられたことはお嬢様を守ることです。

 わたしはその為に自分を守って生き残ることを第一にしなければなりません。それに左手で攻撃すると相手が戸惑いますから有利なこともあります。またわたしは左手の方が力が強いので効果の或る一撃を浴びせることが出来ます」


「そんな貴方の秘密をわたしにしゃべっていいのですか」


 半ば祐司はあきれ顔で返した。


「わたしの武芸はお嬢様を守る時のモノです。貴方がお嬢様を害することはありません。そしてわたしの武芸について貴方は人に話さないお方と思います」 


トムニデルの返事はあくまで生真面目な口調だった。


「貴方は真の武人です。戦場に出れば名を上げるでしょう」


 祐司は実際にトムニデルが短刀を使っていることは知らないが心持ちは一流の武人だと認めた。


「わたしの父もいつもそう言っております。トムニデルが合戦に行くのならわたしの付き人でなくていいと」


 グラフィラヴァが少し自慢するように言った。


「わたしは短刀しか使えません。合戦では無用の長物です。いや短物です」


今度もトムニデルは几帳面に言うが、祐司には几帳面に冗談ともつかないことを言うので余計におかしかった。


「すみません。途中で話の腰を折ってしまいました。先程の話の続きは?」


 祐司が謝るとグラフィラヴァが話を再開した。


「はい、トムニデルは兵士に自分のマントを投げつけてました。相手が怯んだので一気に間合いを詰めて左右に持った短剣で相手の太股を指貫きました。


 その兵士はうずくまってしまいましたが、もう一人は剣を振りかざしてトムニデルに走り寄りました。

 兵士が剣を振り下ろしてくるとトムニデルは両手の短剣を頭上で交差させて剣を受け止めました。


 そしてそのまま剣を滑らせるようにして相手の懐に飛び込んで左右の肩を短剣で貫きました。


 すると残りの兵士は『ほえずらかくな』と言って仲間を助けもせずに逃げようとするので、わたしは『卑怯者、仲間の手当てをしろ。我等はそなたを傷つけない』と怒鳴ってやりました。


そこでおずおずと戻ってきた兵士に後を任せて私達は本城に向かいました」


 この話を聞いて祐司はトムニデルという男の度胸と武芸の能力に驚くとともに本当に今の状況をグラフィラヴァが見切ったのだろうかと思った。

 武芸の鍛錬を毎日してそれなりの修羅場を経験したパーヴォットなら兎も角もリファニアの普通の女性が冷静に見切れるような事ではないと思った。



挿絵(By みてみん)




「トムニデルさん、今のグラフィラヴァさんの話に付け加えることはありませんか?」


 祐司は自分の疑問をグラフィラヴァに聞くのではなく、トムニデルに間接的に聞いた。


「はい。大体そのようなことです。ただ相手が酔って足取りも怪しかったので、お嬢様の言ったようなことになりました。相手が素面なら大胆なことはしませんでした」


 こういったトムニデルが初めて感情が揺れ動いたことに祐司は彼の発する巫術のエネルギーによる光のざわめきから察した。


 その感情が何から来ているのかを理解した祐司は心の中で微笑んだ。



「そうですか。でもグラフィラヴァさんもトムニデルさんも勇気のある行いをしたと思います。その後で面倒なことにはならなかったのですか」


 祐司はモンデラーネ公軍の兵士を負傷された後の話に興味があった。


「はい、特に。聞いたところでは話を聞いたモンデラーネ公軍ではトムニデルを引き渡せと言った話もあったそうです。


 ところが短剣しか持たない相手に三人かがりで斬りつけて相手にかすり傷さえ負わせないとはモンデラーネ公軍の兵士はあってはならないことということで何事もなかったとされたようです。


 ですから父にその日にあったことは領内では他言無用というお達しがモンデラーネ公軍の要請でありました」


 グラフィラヴァは面白そうに言ったが、モンデラーネ公軍の威信を守るという事以外にも矢張りグラフィラヴァがゲルベルト伯爵家の高位家臣の娘であり夫がバナジューニの野で戦死したことが大きな理由だろうと祐司は思った。


「色々と興味深い話です。でもその話は他言無用では?」


「領内では他言無用と言われたのです。ここはゲルベルト伯爵家領でもリヴォン・ノセ州でもありません」


 グラフィラヴァはいたって真面目な口調で返した。


「そうでしたね」 


そう言った祐司は自宅でトムニデルが同席するという条件ならグラフィラヴァと時々会うことを了承しようと思った。

 一方的に拒絶すると余計に関わり合おうとする可能性があったのと、春までいなし続ければという算段があったからだ。


 またトムニデルという自分の感情をコントロール出来る男と祐司は話をしてみたかったのだ。

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