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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第四章  リヴォン川の渦巻く流れに
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逆巻く渦に抗して4  独立不羈の旗印 二

 シスネロスは二世代前に起こったドノバ内戦で望まぬ戦いに勝ったが、戦い以上に困難な問題に直面した。



 本家が滅亡したドノバ候ホノビマ家の領地をどう扱うかということである。この問題は分家間での相続争いが激化する前にシスネロスの軍事力を背景に最も本家に血が近く、また当初からシスネロスに好意的だった分家を新しい候爵家とすることで決着させた。


 この時に、長いリファニア王家との折衝に加えて多額の献上金を費やした結果、新しいドノバ候に叙任されたのが、今のドノバ候の祖父に当たるドノバ候ルードビッテである。


 ドノバ本家を滅亡させて、苦労して分家を新しいドノバ候に迎えなければ行けない理由は、リファニアの土地はリファニア王の直轄統治か、封土を与えられた貴族による統治であるという建前があったからである。


 無主の土地として周囲の貴族の介入を防ぎながらシスネロス市が直接統治するという選択は新たな戦争を覚悟しないかぎりはあり得なかった。また、シスネロスに新たな戦争を行う意思はなかった。


 結局、ドノバ候ホノビマ本家の直轄領と、直前に滅んだ分家の領地に関して、シスネロス市が徴税を行い行政も面倒を見るが、形式的な統治者に新候爵家をシスネロスにおくことになったのだ。



 そして、今、モンデラーネ公が復帰を要求しているのは、逃亡に成功した幼児が流浪の末に成長して先代ローゼン候(現モンデラーネ公のもとの叙位)の手元にたどり着いた自称にすぎないドノバ侯爵パウティス。カマル・ガキラック・パウティス・ハル・パットウィン・ホノビマ・ディ・ドノバのことである。


「これについては、ここにおられる正しきドノバ候ジャバン殿下に一案ありとお聞きしております。ドノバ候にご意見を述べていただいて結構でしょうか」


 ズラーボン・ルヴァルド市参事が議長席のさらに後方、一段床が高くなった場所に置かれて豪華な椅子に座っているドノバ候に一礼する。


 特に決まりはないが、ドノバ候が市参事会に臨席するのは重大事項を論議するときと定められ市長が臨席を要求するか、ドノバ候が市長に依頼するかの場合である。また、ドノバ候は市長の要請があるまでは沈黙を守るというのが慣例である。 


 現在のドノバ候が新侯爵家の三代目でジャバン公正候ことジャバン公正候-ボォーリー・ファイレル(公正な)・ジャバン・ハル・ホデーン・ホノビマ・ディ・ドノバである。四十半ばでリファニアの君主としては油の乗ってきた年頃である。


 ドノバ候は先代の末期から領地の徴税権を借財の精算を行うことでシスネロス市へ引き渡して、徴税手間賃を差し引いた収入を得ている。


 そのため、徴税に関する役人が必要なくなり領地の広さに比べて家臣団は少ないが、防衛や領内の治安維持を行うドノバ候近衛軍と名付けられた戦闘可能な家臣はかえって多い。

 ドノバ候はシスネロス市よりかなりの宮廷費も受けており、それなりの敬意を払ってもらいドノバ侯爵としてシスネロス市内に貴族では唯一の屋敷を構えている。 


「わたしもこれは譲れないことはわかっている。シスネロスの自治の根幹を犯すのもだからだ。

 ただ、同族として侯爵家の末裔がこの街に一市民として居住することは許可してよいと思っている。また、かつての領主家に敬意を表して公式行事に招いても良いと考える」


 ドノバ候ジャバンの言葉に市参事の間でざわめきが起こる。


「まあ、話は最後まで聞いていただこう」


 ドノバ候は咳払いをして座を静めてから話し出した。


「僭称ドノバ侯爵パウティスは五十を越えているが、先年息子を亡くした。しかし、正嫡の十代の娘がいると聞く。我が長子バンジャ・レ・エーリーの婚姻相手にはどうだろうか」


 貴族には公妃以外にも側室とも言うべき女性はつきものであるが、財産は別として爵位の相続権を持つのは嫡子だけである。


 いくら庶子がいようが、その子らに相続権はなく一族の中で、最も血縁関係の濃い嫡子が爵位を継ぐ。あるいは嫡子の娘がいる場合は実力のある者や他家の次男以下を娘婿として血脈を継がそうとする場合もある。


 この慣習のためリファニアでは男性嫡子のいない場合の代替わりの時に争いが頻発することになる。


 ドノバ候ジャバンの提案は、現在のドノバ侯爵家と旧ドノバ侯爵家の統合を意味しており、いくら無視してはいても、外部勢力に介入の途端に使われる鬱陶しい旧ドノバ侯爵家問題を解決できる。


「殿下、ドノバ侯爵家の侯爵夫人には、ドノバ州内の貴族領主の令嬢か、シスネロス市の貴族の家系を持つ市参事の娘をという取り決めをどうされます」


 ハタレン市長が市参事の胸中に浮かんだであろう疑念を代表して言った。


「それは守る」


 ドノバ候がはっきりと言い切った。


「次期の当主は御次男のデヴォー・ロムニス殿、そういうことですかな」


 ドノバ候、つまり現当主ボォーリー・ファイレル(公正な)・ジャバンの妻が自分の妹というスラヴォ市参事がしたり顔で言った。


 スラヴォ市参事は前述のように近在地区の代表者である。代々の郷士格大地主として三代前にドノバ州南部の男爵家から庶子を婿養子として貰い受けてから、必ず多額の結納金を出しても貴族の娘を乞うて当主の嫁にしている。


 貴族の嫡子の嫁は必ず貴族の家系でなければならない。それは尊称の問題ではなく、貴族の家系は巫術に耐性があり、それを守っているのが貴族だという認識がリファニア世界にあるからだ。


 市参事のなかで、このような貴族との婚姻が可能な家は、近在の代表者であるスラヴォ市参事のバーラナント家と、川船を用いた運送業を行うズラーボン・ルヴァルド市参事のクルナット家がある。

 また、政治的な配慮から、当面は婚姻の可能性はないが没落貴族の出身であるビルケンシュット市参事のガババーナ家も資格がある。


 市参事以外となると、没落貴族を含めて七家ほどがシスネロスの中で貴族の血を伝えている。


「その発表は僭称ドノバ候の娘との婚姻後ということですか」


 スラヴォ市参事の問いかけにドノバ候は大きく頭を振った。


「ご存じのように長子バンジャ・レ・エーリー殿は学問好きで認定神官補の身分を得ている。マルタンで半年も修行されれば神官に叙されましょう。

 ただバンジャ・レ・エーリー殿のことですからマルタンに滞在できるとなると色々口実をつけては長逗留されるかもしれませんな。嫁御にはシスネロスを離れて是非マルタンにいっしょに行っていただきましょう」


 マルタンはリファニア中央部やや北よりに位置する宗教都市で神官学校がある。シスネロスからは急いでも一月半ほどはかかる遠距離である。


「バンジャ・レ・エーリー殿なら、シスネロスの守護神殿であるアハス神殿の神殿長にはご身分といい御学識といい、うってつけでございますな」


 ハタレン市長がにやけた声で言った。


「上手く僭称者パウティスが乗りますか」


 ルヴァルド市参事が心配げに言った。 


「モンデラーネ公の庇護といっても手駒の一つ、僭称ドノバ候パウティスは、自称を取って侯爵傍系家として正式に伯爵ないし子爵位をリファニア王から叙任してもらい、故郷で名家として裕福な余生を送るほうがいいと判断すべきですな。

 わたしも領主といっても子供の頃のあの暗く寒い田舎の領主館暮らしなどまっぴらです。僭越ながら叙任のための工作は引き受けましょう。ただ、叙任のための軍資金の一部を出して貰うと助かるのだが」


 ドノバ候はそこまで言うと市参事達をいったん見渡した。


「このような案もあるということです。どんな娘とも知れない自称ドノバ侯爵の娘より、ここにいらっしゃる市参事の器量よしで素直な娘御をデヴォー・ロムニスの嫁にしたほうがわたしも気が楽ですからな」


 ドノバ候が言い終わった時、市参事達はそれにともなう持参金以外に市参事会員の出す多額の祝い金をドノバ候が思い描いてないわけがないだろうと感じて互いに顔を見合った。


「殿下のおかげで勇気の出る話も聞けました。戦う以外にも対策はあるということですね。では、次にいきましょう」


 ズラーボン・ルヴァルド市参事が、この話には決着がついたというように次のモンデラーネ公の条件を読み上げた。


「年に金8000枚の上納金を納めること。それとは別にモンデラーネ公名による中央盆地での軍事行動を起こしたときは費用の三分の一を負担すること。なお、王名による軍事行動はリファニアのいかなる場所であっても相応の負担を負うこと」


「これは我らの得意とする交渉、値引きが通用する条項と考えている」


 最初の提案と同じようにドナン・アズエイ市参事が解説を始めた。

           

「モノは考えようだ。積極的にモンデラーネ公の兵站部門に取り入ることで新たな商売も始められる。こう言っても、わたしは商人ではないから腹を探られることもあるまい」


「モンデラーネの走狗になれと」


 ランブル市参事が落ち着いた声で言った。もっと罵倒するような言い方をすると思っていたアズエイ市参事は少々気抜けして説明を続けた。


「上納金、軍の負担金を一括りにしてもらう。兵糧金を負担することでかわりにモンデラーネ公にシスネロスの安全を守ってもらう。上納金よりも金額は多くても安全を買うと対価と思えば納得がいく。シスネロスの安全のために軍を動かすときは全額負担しても、常備軍を拡大するよりは損はあるまい」


 ランブル市参事がまた何か言い出さないうちに、ルヴァルド市参事は少し早口で次の要求を読み上げた。


「大公の守備隊1000名を駐留させて、その費用はシスネロス市が負担すること。モンデラーネ公の兵には郷士格の敬意と特権を認めること。シスネロス市の傭兵軍は解雇すること」


 モンデラーネ公によるシスネロスの統治権の侵害に等しい内容に、どの立場の市参事の顔が曇った。

 その顔色を眺めながら、一息ついたルヴァルド市参事はさらに一気に、それに対する対応策を述べた。


「市の郊外にシスネロス市の負担で駐屯地をつくる。名目はシスネロス近郊への危機に対する前哨だ。費用負担は最初の兵糧金に入れて納める。それならば、反目も少なくてすみ、兵士達への補給や兵士が落とす金でかなりの部分は回収できるだろう」


「傭兵軍はどうする。シスネロス防衛の基幹だぞ」


 ランブル市参事が大きく目を見開いて聞いた。


「要望のように解雇しよう。傭兵隊も解体する」


 アズエイ市参事が呟くように言った。


 たちまち怒号が部屋に飛び交った。交渉派の市参事も反対を唱えた。


「静粛に!アズエイ市参事には何か策がありそうだ」


 ハタレン市長は、騒ぎを大声で諫めた。ようやく静かになったところでアズエイ市参事は話を続けた。


「傭兵に市民権を与えて常備軍に改変する。傭兵ではなくシスネロス市が給与を出す有給市民軍だ。通常は市と郊外の治安を司る警備部隊とする。名前は治安警備隊とでもすればよい」


「子供だましだ」「これだけの街だ。治安組織の存在を認めないわけにはいかないだろう」

「いや、余計に難癖をつけれれるような気がするぞ」


 再び会議場は騒然とした。


「それならわたしが引き受けよう。わたしの家臣という事にする。他家の家臣の数についてどうこう言うことはリファニア開闢以来の不文律だ。ただ、その分の公費はお願いすることになるがな」


 ドノバ候の言葉に再び静寂が訪れた。


 幾人かの市参事はそれがドノバ候家に強大な牙を与えることを意味することに気がついていたが、今は更なる論議を避けるために黙っていた。


「特に、ご意見がなければ、交渉の過程でドノバ候の提案を対案として出すということでよろしいか」


 ハタレン市長はそう言うと、アズエイ市参事の方を見た。アズエイ市参事は了承の印に頭を少し下げた。



 誰も意見を言わなくなったので、ルヴァルド市参事はモンデラーネ公の最後の要求を読み上げた。


「最後にモンデラーネ公領に接する地域のうち十ヶ村を割譲すること」


「州境近くにあるシスネロスの直轄地だ。旧ドノバ侯爵時代から飛び地になっていた土地だ。租税も禄に出せぬ辺境の地ゆえ割譲は最後に譲る取引材料として使おう」


 財政担当のガイドネ・ドストレーム市参事が言う。


 ドノバ候が何か言いたそうにハタレン市長を見た。ハタレン市長はすかさず手で発言しようとした何人かの市参事を制した。


「ドノバ候、シスネロスの管轄地と言えどもドノバ州の一部の話です。ドノバ候として、ご意見を聞きたいと思います」


 ドノバ候はハタレン市長に促されたかのようにゆっくりしゃべりだした。


「わたしの個人的な意見は反対だ。土地は国家の基盤だ。どのような荒れ地であろうが土地を売る国家に未来はないぞ」


 ドノバ候は、一服おいてから、さらに話を続けた。


「諸君らの幾人かは商人だ。商人が国を司ることは悪いのではない。しかし、商人の理論で国を考えて貰っては困るのだ。

 君たちが売り払おうとしておる土地が君たちの所有する土地であっても、ドノバ州ドノバ候の領地であるのだ。この世には売れないものはないが、売ってはいけないものがある」


「わたしも全面的に賛同いたします。ヤツの本質はごろつきです。一度、与えればこちらが何もかも失うまで恐喝まがいに要求してくるでしょう」


 交渉担当のギューバン・ビルケンシュト市参事がドノバ候を援護するように言った。

 

ギューバン・ビルケンシュト市参事は、ドノバ内戦で没落してしまった子爵位を持った領主の末裔である。

 先代は家族と最低限の体面を保った暮らしを送りながら、数人の使用人を持てるくらいの捨て扶持を与えられてシスネロスの一角で逼塞していた。


 ギューバン・ビルケンシュト市参事は次男であったが、学問優秀で市庁舎に職員として採用されてから頭角を現した人物である。

 リファニアで他領と交渉を行う際には、双方の爵位が物を言う。その点を見込まれてギューバン・ビルケンシュト市参事は兄の子に爵位を継がせるという約束で兄に代わって子爵位を継いでいる。


 以来十年以上に渡って、シスネロスの実質的な外交官として活躍している。それだけに、ビルケンシュト市参事の発言は重みがあった。


 この一連のやり取りを聞いていたモンガネ・ダネル市参事はドノバ候やハタレン市長まで出来レースだと感じた。オブザーバーという立場で参加しているドノバ候であっても、その発言には重みがある。


 何しろ全ての市参事が就任する以前から市参事会に参加している人物であり、何しろドノバ候という身分に重みがあった。


 ドノバ候の発言は軽々にできないのだ。


 そして、ダネル市参事は自分のメンツを潰された筈の、ドストレーム市参事が意外にせいせいしたような、あるいは難しい役をこなしたような顔をしているのを見逃さなかった。


 どうやら、最初から、領土割譲については、交渉派の中でも反対が強いのだろう。そのことを、市参事会一致の意見に持って行くために、ドノバ候を含めた芝居をしたのだろうとダネル市参事は当たりを付けた。


 ダネル市参事は川舟の船頭出身で、川船組合からの推薦で市参事になった人物である。ダネル市参事は、市参事就任当初は、決まり切った仕事を惰性のように行う市参事会の改革をと意気込んでいた。


 ところが自分が市参事の立場になって種々の情報を得られるようになると、実際は市参事達が有能で、難事を何とか解決していることが理解できた。そしてダネル市参事は市参事会には、協力を惜しまないようになっていた。


(この出来レースに、ご相伴できなかったのは、わたしがランブル市参事に毒されているかもと警戒されているのだろう)


 そうダネル市参事が想像していると、隣に座っていたランブル市参事が吠えるように言った。


「断固拒否。話し合いではそのことを相手に伝えればいい」

 

「すでに、三万の軍勢がこの街の六十リーグ以内に接近しているのだ。拒否などと言う相手の面目をつぶすような、もしくは相手方の挑発にのるようのことでは本気の戦になるぞ」


 ダネル市参事は、思わずランブル市参事を諫めるように言った。


「モンデラーネ公がはなから交渉する気がなかったら」


 ランブル市参事は恐い顔でダネル市参事に言った。


「戦うにしても、交渉はすべきだ。もちろん、妥協しろと言っているのではない。独立自治の信義は譲らない」


「信義も結構、ワシもシスネロスの独立を守ることは最重要と思う。ただ、三万の大軍の前に、表も裏もその信義を守り通せるか?」


ドストレーム市参事が吐き捨てるように言った。   


「三万という数字が弱点だ。三万の軍勢は大軍だが、それを長く養えるとも思えぬ。時間は我々の味方だ。

 断固拒否の信念を持ちながら、のらりくらりと交渉をするフリをしていればいい。なんなら相手の交渉役には結構な贈答品を送ればいい」


 ランブル市参事が得意げに言う。


 この発言に他領との交渉を一手に引き受けているギューバン・ビルケンシュト市参事が苛立った声で言った。


「海千山千のモンデラーネ公のことだ。時間稼ぎの交渉などすぐに見透かされる。それとも、この命懸けの交渉ランブル殿、貴方が交渉役を引き受けてくれるのですかな」


 ビルケンシュット市参事は他も市参事の意見を聞くことが多く、問われなければめったに発言することはなかった。

 ただ、今回の交渉の難しさを肌身で感じているだけに、ランブル市参事の交渉を揶揄したような言い方に思わず怒鳴ったのだ。


売り言葉に買い言葉で、ビルケンシュット市参事とランブル市参事が立ち上がって睨みあった。



 会議室のドアをノックする声がして廊下で待機していた事務官が入ってきた。その後ろから傭兵隊司令のキャナン・ディンケがうやうやしく入ってきた。


「何事だ」


 ハタレン市長が鋭い声で言った。


「はい、市民の一部が市民兵動員を求めて市庁舎前の広場で騒いでおります。市庁舎前を警備しております傭兵隊はどのように対処すべきでしょうか」


 キャナン・ディンケ司令は、ハタレン市長の目を見て聞いた。


「数は?」


 ハタレン市長の問に答えたディンケ司令の報告は、大方の市参事の予想を越える物だった。


「数千はいるかと」


「キャナン・ディンケ傭兵司令、すぐに解散させろ」


 アズエイ市参事が苛ただしい声で言った。


「先程は見たところ数千ですが各街区に檄文が回っておるようで続々と市民が詰めかけております。通りを埋め尽くすような市民が、各組合の旗や手作りの市旗を無数に掲げてこちらに向かっております」


 明らかにキャナン・ディンケ司令はアズエイ市参事の指示が実行困難であるという言い方をした。


「それが市民の一部か。市民の総意ではないのか」


 ランブル市参事は勝ち誇ったように口を挟んだ。


「貴様の差し金だろう」


 アズエイ市参事は思わずランブル市参事に怒鳴ったが、ランブル市参事はそれを受け流した。


「武力行使なくして市民の行動を止める事は無理です。死傷者が出てよければ対応します。許可いただけますか」


 誰からも明確な命令や指示が出ないためにディンケ司令は大声を出した。


「そのようなこと許可できるか」


 ランブル市参事が大声を出した。そして、待っていたかのようにランブル市参事がハタレン市長にゆっくりと言った。


「市民総会の招集を要請いたします」


 ようやく、交渉による戦争回避に一時傾きかけていた市参事会を延々と引き延ばすような行動を取っていたランブル市参事の真意が全員にわかった。


 ランブル市参事は一気に市民の熱狂を背景にして市政を牛耳るつもりだったのだと。


 事務官が部屋に入ってきて、ハタレン市長に何事か耳打ちした。見る間にハタネン市長の顔が険しくなった。


「モンデラーネ公の使者が滞在宿舎で暴徒とかした市民に襲われました。使者は殺害されたようです」


 ハタレン市長の言葉で一瞬にして市参事会会議室は凍り付いた。



挿絵(By みてみん)



 会議ばかりでなくて、祐司とパーヴォットの話を読みたいという方は、”逆巻く渦に抗して8 人狩りの夜”に進んで下さい。前書きの部分に飛ばした話の概略が書いてあります。

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