閑話 その8 リファニアの歴史と貴族
この話を読み飛ばしても、本編の流れの理解には一切関係しません。解説のような部分は不用という方はスルーしてください。
リファニアは建前では、統一国家である。千年数百年以上前にヘロタイニアから侵入したヘロタイニア人たちが、以後も移民を受け入れつつ原住民のイス人を次第に同化していった。
この初期移民時代に渡ってきた集団は大きなくくりで見ると民族的には一つだが、方言差とは言い切れない互いに会話が困難な数種類の言語をしゃべっていた。
それがイス人を含めた接触の中で混合的な言語がリファニアでは使用されだした。これが体系化されたものが現在のリファニアの言葉である。
初期のリファニアの指導者が伝説に包まれたホーコンという人物である。
当時は、まだリファニア南部の四半分を領域として周囲のイス人集団に対して指導的な立ち位置で同盟を結んでいたに過ぎないが、ホーコン王の晩年に至って、リファニア王国の建国が宣言された。
爾後、五代目のリブラレル王に至るまで征服戦争が続けられる。およそ二世紀のちのリブラレル王の時代には、北部を除いてリファニアはほぼリファニア王国の傘下に入った。
ただその姿は統一王国とはほど遠いのもだった。
ヘロタイニア人を政治の中核にしたリファニア王国は、その建国時はヘロタイニア人の絶対数が少なくヘロタイニア(ヨーロッパ)やアサルデ(アフリカ)より、部族長を領主にした領地の確保を約束して部族単位での移民を募っていた。また、友好的なイス人部族長も領主として支配体制に組み込んでいたために典型的な封建体制が確立していった。
ちなみにアサルデからの移民とは、古代エジプト人と北アフリカの住民の混血で、純粋なアフリカ系人種に地中海系のヨーロッパ人種が混血した人々が主体で浅黒い肌と、かなり縮れた波状の黒髪と黒目の人々である。
征服戦争当時、隙あらばイス人と勝手に同盟を結び勢力を広げようとする向背定かでない領主と信用無いその軍勢に対して初期のリファニア王はヘロタイニアやアサルデから移民という名の傭兵を募って直轄軍を強化していた。
もちろん彼らは食い詰めた若い男性であるため、次第にイス人の女性と結ばれたり、単に種を提供してヘロタイニア人やアサルデ人とイス人の混血が増えることに寄与した。
実質的なリファニア王である五代目リブラレル王以降はこの流れが止まり、次第に自分達はヘロタイニア人とは異なったリファニア人というものが意識の面でも形成される。
現在のリファニア人はヘロタイニア人を自分たちとは全く異なった民族として捉えている。
そして千年前には全土に王が威名を轟かせるリファニア王国が姿を現す。ただ三世紀を経て強大で面従腹背といった封建領主が幾つも誕生し、軍事的な指導者としてのリファニア国王の地位も低下して当初は広大だった王家の領地も、恩賞や持参金或いは王領の経営を代行するなどを名目に簒奪の憂き目にあった。
このため、リファニア内におけるリファニア王国直轄領は、現在の王家であるバルゼナル家の家領のみでみると九州に毛が生えた程度の面積である。広大なリファニアからみれば2パーセント弱程度の面積である。
(話末参照)
リファニア王としては情けない状態であるが王国直轄領は南西部の肥沃な地域に立地することと、リブラレル王以来の都であり、歴史の彼方から続くリファニア有数の都市タチの存在により領地単位で見た場合に経済的には裕福な領主である。
ただ強大な領主でも国王に対しては形式的な臣従の義務を放棄すことはなく、外戚として影響力を行使することはあっても武力で王家に取って変わろうとすことはなかった。
社会が安定してくると史実の地球では18世紀になるまではなかった特定地域の民族国家、リファニアという国とリファニア人という概念も生まれてきた。
これはヘロタイニアないしアサルデとイス人の混血が進みリファニア人ともいうべき集団が多数派になっていったことと、なにより、史実の地球と異なるのは、巫術師の術により原始的な航海術でも遙かに安全に大海を行き来できること、広範囲に同一言語が通用するために中世程度の社会でも、はるかに世界を知っていたことだ。
政治を行う人間なら外の世界がいつも頭の片隅にある世界である。
リファニア王国はヘロタイニアと比べれば気候が温暖で安定しており「約束の地」のような存在であった。このためリファニア王国に渡ろうとするヘロタイニア人達はいつの時代にも存在した。
しかし、リファニア人としての意識を持つ、リファニアの人間は、もうこれ以上の移民を自分達の国に受け入れることを嫌がった。救命ボートはもう一杯になったから乗せられないという理由である。
それでも、ヘロタイニア人は生きるためにリファニアを目指した。それは時として暴力的な集団であった。
時折おこる祖国防衛の戦いのためと、リファニアという自分たちの立ち位置を守るためにリファニア国王は必要とされた。
このため、初代ホーコン王に始まるリファニア国王の地位は、血縁関係のある四つの王朝が実質的に交代したが初代から延々と血筋が繋がる尊き存在と認識されている。
リファニアは天皇のような存在はあっても幕府なき封建社会という概念が近い。
ただ、五百年ほど前に王家が分裂状態になった隙をついて、大規模なヘロタイニア人の侵攻を許してしまった。現在、ヘロタイニア人の特徴をより多く持った住民がいるのはこの影響である。
この数百年に渡り、狭い面積ながら南東部沿岸に、リファニア国王に従わない排他的なヘロタイニア人の連合領域ができている。
周辺のリファニア領主と小競り合いを繰り返してヘロタイニア人達の領域が拡大しかけるとリファニア国王を名目的な指揮官にした領主連合軍とのちょっとした戦争が発生する。
「貴族階級」
リファニアの支配階級は貴族である。おおよそ五階級に分けられるので公・候・伯・子・男と本文では表現している。公爵の上には、王の摂政を務めることのできる大公があるが王の兄弟か、叔父などが一代限りで務めるにすぎない。
男爵の下には準男爵がある。もともとは貴族としては狭小な領地しか有しない者に叙位されていた位で、建前は男爵と同格とされている。
現在では、かなり大きな領地を持つ者もいるが、領地が増えたからといって上位の位を与えられるわけではない。
そして、貴族見習いのような士爵という位がある。この士爵については後述する。
爵位は一つの家(本家、分家を含めて)で一人の総領にしか与えられない。ただし、妻は○○子爵夫人、子供は○○子爵子弟などと公式に呼ばれて貴族と見なされる。これは、総領の孫、甥や姪、従兄弟くらいにまで適応される。
ただし、貴族は貴族同士で結婚するので、どちらかの家の繋がりで、中規模な貴族の家であれば一族の二三十人が貴族である。
それ以上、離れると郷士格を与えられて次第に本家とは血筋で疎遠になる。このため、二代に一度くらいは本家と分家の婚姻が行われることも多い。
さて、リファニアの貴族は、ある意味で真の貴族である。平民がいかに勲功をあげようが貴族に叙位されることはない。
リファニアの貴族は巫術に耐性がある。言い換えれば、巫術に耐性のあるのが貴族であり、その能力は遺伝する。
このために成り上がり貴族というものは存在しない。
貴族は男女とも成人の儀では、弱い”雷”による衝撃を与えられてその耐性を証明する。両親とも巫術に耐性を持った貴族なら子はほぼ耐性を持っている。この儀式は不倫の子ではないという証明の儀式でもある。
一般に最も巫術の影響を受けるのは巫術師である。反対に言うと貴族で巫術師はいない。
社会の多くの場面で有用に巫術は使用されているので、あからさまに巫術師は賤民視されることはないが、巫術は祝福された術ではなく、どことなく禁断の術という感覚はリファニアには存在する。
その禁断の術に抗う力は、神々から与えられた祝福と考えられている。
前述したように、巫術のエネルギーへの耐性は遺伝する。そして、貴族の巫術のエネルギーへの耐性は主に女系による劣性遺伝である。見た目は次のようになる。
A:(貴族男性)×(貴族女性)
子は耐性
B:(貴族男性)×(非貴族女性)
子は不耐性 希に耐性
C:(非貴族男性)×(貴族女性)
子は不耐性、希に耐性
D:(非貴族男性)×(非貴族女性)
子は不耐性、極希に耐性(数代前以内に貴族がいるような場合)
貴族は貴族と婚姻する。貴族階級では嫡子と、平民の間に生まれることの多い庶子の間には越えられない差があるのは、この遺伝も大きな要素である。
巫術のエネルギーに耐性を持った貴族は「神に守られし者」という称号がある。不気味で邪悪な巫術に抗する人であるという意味合いがある。
貴族階級のものが、平民と婚姻することは、身分というもう一つの障壁とともに、巫術に対する優位性の保持がある。
祐司の推定だが、巫術師はその出現当時から戦いを有利に導いていた。それに対抗したのが巫術に耐性のある者だった。巫術に耐性のある者も祐司のように完全に巫術のエネルギーを無効にできるわけではないから巫術師との戦いは一進一退だっただろう。
やがて、巫術に対抗できる力を持った者が、混乱を押さえて支配者階級になる。その子孫がリファニアの貴族である。
巫術には、祐司を呪い殺そうとしたディオンのような、遠くにいる寝た人間を自由に操るような術を行使する者がいる。
この術はかなり珍しいものであるが存在は知られている。そして、神殿からは禁止された巫術になっている。
もちろん、その術をディオンのように躊躇いなく使う者もいるが、この術は貴族にはまったく効かない。巫術師が貴族に、この術を使うと祐司ほどに完璧に弾き返すことはないが術をかけた巫術師に、何日も続く酷い頭痛や身体の麻痺などの症状が出る。
見方を変えると眠っている間に死ぬような行動を取らされる術が効かない貴族でないと、安心して支配者などやっていられない。貴族でなければ支配階層を務められないのである。
ただ、平民身分、郷士でも、以下の場合は巫術への耐性がある場合がある。先祖に貴族がいれば、耐性を獲得した人間はある程度の割合で存在する。
これについては、切実な問題だけに、経験的な法則からリファニアでは「メンデルの法則」が発見されておりある程度、どのような子が生まれてくるか確率的に予想できる。
それをもとに、祐司が推測したことを次にまとめる。(結果だけ知ればいいという人は・・・・以下まで飛ばしてください)
○=巫術への耐性遺伝子(劣勢、女系)
●=巫術への非耐性遺伝子(優勢、女系)
△=巫術への耐性補完遺伝子、男性の場合この遺伝子が揃わないと耐性は獲得でき ない(劣勢、男系)
▲=巫術への非耐性遺伝子(優勢、男系)
女性は性染色体としてXXの組合せ、男性はXYの組合せなるが、Xにはもう一つの劣勢である耐性補完遺伝子が含まれており、XXすなわち女性は必然的に耐性補完遺伝子が発現する。
以下は男女が同数の確率で生まれてくる場合の巫術への耐性者出現の割合です。
♂△▲○●(耐性なし)-♀△▲○●(耐性なし)
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△△○○(♂耐性あり、三十二分の一で出現)
▲▲○○(♀耐性あり、八分の一で出現)
▲△○○(♀耐性あり、八分の一で出現)
♂△△○●(耐性なし)-♀△▲○●(耐性なし)
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△△○○(♂耐性あり、三十二分の三で出現)
▲▲○○(♀耐性あり、八分の一で出現)
▲△○○(♀耐性あり、八分の一で出現)
♂△△○●(耐性なし)-♀△△○●(耐性なし)
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△△○○(♂耐性あり、八分の一で出現)
▲▲○○(♀耐性あり、八分の一で出現)
▲△○○(♀耐性あり、八分の一で出現)
♂△△○○(耐性あり)-♀△△○●(耐性なし)
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△△○○(♂耐性あり、四分の一で出現)
△△○○(♀耐性あり、四分の一で出現)
♂△▲○●(耐性なし)-♀▲▲○●(耐性なし)
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▲▲○○(♀耐性あり、十六分の一で出現)
▲△○○(♀耐性あり、十六分の一で出現)
*以上、男女が逆でも同様の確立
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以上のように、巫術に対する抵抗力は、主に女系を通じて遺伝される。巫術に対抗する力も女性の方が圧倒的に発現しやすい。これが、主に男性を通じての遺伝なら貴族という階級から考えて巫術への耐性はより多くの人間に伝わるだろう。
また、性的な関係におおらかなリファニア社会の風潮が貴族女性の間で一般的なら同じような結果をもたらすだろう。しかし、リファニアでは上流の女性ほど、相続の関係から厳格な男女関係が要求される。
結局、巫術への抵抗力が伝承されるのは貴族の嫡子ということになる。
しかし、巫術への抵抗力が発現しないで、その遺伝子を伝えていることは祖先に貴族を持った人間なら可能性がある。そして、生んだ(生ました)相手も同様の遺伝子を持っていれば貴族でなくとも、巫術への抵抗力を持つ事になる。
郷士や平民でも巫術への抵抗力があると認識され、周囲に有力者がおり、戦場や行政組織で功績をあげた場合に、神殿の推薦と領主の承認によって士爵に叙任される場合がある。
士爵とは前述したように貴族見習いである。三代続けて巫術に抵抗力がある家系は、準男爵ないし男爵への叙位が認められる。
ただ、リファニア王国建国時以来、貴族と領地は密接に結びついているために、そう数が増えるものではない。郷士並みの領地しかないために、十代近く士爵のまま据え置かれている家も珍しくはない。
士爵の価値は、貴族へ新しい血を供給することにある。女性の方が巫術への抵抗力が遺伝しやすいために男系が絶えることはままある。その場合に下手に他の貴族家から男子を迎えると家名と領地を乗っ取られる恐れがある。
そのため、一段、身分が低いとされる士爵は入り婿候補に歓迎される。
女性貴族は巫術への抵抗力を子孫に伝えてくれる貴重な存在である。どのようなみそっかすの女性貴族でも、貴族との婚姻が引く手あまたである。
貴族女性は、正式な妻となり嫡子を産むために、リファニアでは女性貴族は、貴重な戦略物資扱いになる。
万が一を避けるために、女性貴族は深窓の令嬢として育てられる。ただ、その貴重さから女性貴族の地位も高く結婚すれば、夫との共同統治者として夫の外征時には内政の責任がある。
また、貴族の次男以下でも巫術に耐性があれば将来の血筋の確保のことと、巫術に耐性ある人間は戦場では大いに価値があるために、まあ、金持ちだから嫁は平民の娘でいいとはいかない。
相続権を持った長子、あるいは一人娘は親が相手を決めるが、次男以下は社交という見合いで貴族の相手を見つけることもある。
同じ貴族の子弟でも耐性を持っていない者は、郷士資格を与えられて放り出される。男性より、かなり数は少なくなるが女性で耐性を持たない者は部下の郷士へ下賜される。
ただ、これらの巫術に耐性を持たない貴族の子弟でも、遺伝子の中にはその耐性が劣性遺伝のために発現しなかったものが多いために少しではあるが、貴族以外にも巫術に対する耐性遺伝子は拡散している。
女性はほとんどが耐性を持つために、絶対数では女性貴族の方が多い。このため、三女四女となれば貴族以外に嫁ぐことがある。
ただし、嫁ぎ相手は巫術に耐性のある家である。最も多いのが、長年、貴族の嫁を賜った大商人の家である。
実は士爵から貴族に叙位される家で最も多いのは大商人の分家を出自とした郷士階級の家である。彼らは分家の一つを士爵とすると、三代ほどかけて貴族の血筋を補強しながら、家計の苦しい領主から遺産分与のような形を取って領地を確保する。
以上、リファニア貴族についての概略を述べたが、彼らの存在意義は巫術によるところが大きい。
巫術師がいる限り、それに対抗する貴族が必要とされるからである。
本来、貴族とは巫術師は不倶戴天の間柄であるが現在では、多くの腕の立つ巫術師を貴族は庇護している。
話末:リファニア外の王領
リファニア外に、現在のカナダ領ニューファンドランド島(11万平方キロメートル)や、北アメリカ東北沿岸に王領がある。また、不毛の地に近いが、バフィン島(51万平方キロメートル)なども王領であり、王領自体は150万平方キロメートルほどもある。




