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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第三章  光の壁、風駈けるキリオキス山脈
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輝くモサメデスの川面5  支都市タイタニナ

シスネロス市近隣の略図

挿絵(By みてみん)



 祐司とパーヴォットは途中で老婆にキノコ料理をご馳走になるなどの出来事があったのと、思ったよりシスネロスの支都市であるタイタニナが遠かったために、途中の村で巡礼宿舎に一泊するはめになった。


 祐司達が使った北クルトから峠を越えての道は本来は間道であり、人の少ない道だったがモサメデス東岸の道は、二三十分ごとに誰かしらと行き交うほどの交通量があった。


 そのためか、田舎の神殿の小さな巡礼宿舎は混み合っていて、六畳ほどの広さの部屋に五人ばかり押し込められた。


 巡礼宿舎は、祐司のような一願巡礼でなければ、地元の神殿で巡礼証書を作成して貰った巡礼だけが利用できる。料金はお布施という形で貧富に応じて、それこそ、銅貨数枚から銀貨一枚という場合もある。

 幾ら混み合っても、巡礼であれば必ず宿泊できることが原則であるために、巡礼の多い季節には相部屋は当たり前となる。


 祐司は、かなり大きないびきをかく、中年男性に悩まされながら旅とはそういうこともあるのだと自分を納得させながら寝た。



 多少、寝不足の祐司がタイタニナに到着したのは翌日の昼だった。


 祐司はタイタニナはシスネロスの支都市という格付けだと聞かされていた。シスネロス自体の市域は、タイタニナより、少し南にありタイタニナはシスネロス市の域外にある。 しかし、物資の参集する重要地点であるためシスネロス市から派遣された、シスネロス市庁舎の職員がタイタニナ市参事会に入っている。


 タイタニナの市政はシスネロスとの協議で行われる。このような都市をドノバ州では支都市と呼ぶのだという。

 シスネロス市は、かなり南、つまりドノバ州中央にトムスという付近の農産物を集積する小都市を、もう一つの支都市として持っていた。


 支都市の住民は、シスネロス市民権はないが、シスネロス市域での経済的な権利はシスネロス市民と同格だという。



 タイタニナの目の前にはモサメデス川が流れており、ここの渡し船を使って対岸に渡るとシスネロスはゆっくり歩いても2刻(四時間)弱だという。


 ただ、人と荷物の移動の多い季節柄、渡し船は四便先の船まで予約で一杯だという。祐司は船賃を先払いして、明朝の船を予約した。


 ほとんど真夜中近くまで明るさの残っている季節になっていたが、シスネロスの市門は日の長い時期でも七刻(午後八時)に閉門すると聞いていたからだ。


 高緯度のリファニアは季節によって極端に昼夜の長さが変わる。そのために、前近代の社会であっても、明治以前の日本のような太陽の出入りを基準にした不定時法は取られていない。


 街では面倒でも砂時計などを使って時間の進み具合を計る定時法を採用している。ただ、ヘルトナでの経験からするとひどくいい加減なものらしい。

 携帯の時計で正確な時刻を知ることができる祐司だが、行って見たが門は閉まっているという恐れがあるために用心のために早めに宿を確保したのだ。


 支都市と名がついているタイタニナは、小高い丘の上に直径が二百メートルほどのほぼ円形の城壁を持つ要塞のような造りの大型の集落である。ちょうど野球場の中に家が密集しているような物と言えると祐司は思った。


 もともとは、外敵が侵攻してきたときに周辺の住民が避難するために造られたと、祐司達が宿泊した宿屋の主人が言っていた。


 祐司は宿を入った時間が早かったので、パーヴォットを連れてタイタニナの神殿に参拝するとにした。タイタニナのような人口が千人少しといったほんの小規模な街にも神殿はある。


 少し大きめの民家のような神殿で、タイタニナの守護神という神像を祐司が拝んでいると、年老いた神官が声をかけてきた。


「お若い巡礼ですな。どちらからいらっしゃいました」


 祐司の一願巡礼の印であるオオタカの尾羽根を見た人間はあまり詳しいことは聞かない。一願の内容を人にしゃべれば、その願いは不成就になり、巡礼自身の存在価値を無にしてしまうからである。


 老神官は一願巡礼にしては若い祐司に興味を持ったのだろう。


「ヘルトナからまいりました」


 祐司は前の出発地を答えることにしている。


「リファニアの方でありませんな」


「わかりますか。どうも訛りが出るようです」


「少しだけです。気になさらぬ者の方が多いと思います。どうです、控え室でハーブ茶など。従者の方もどうぞ」


 老神官は祐司に興味を持ったらしく祐司が返事をしないうちに拝殿の横にある神官控え所に向かって歩き出した。


 祐司は無視するわけにもいかないのでパーヴォットに合図して慌てて追いかけた。



 ベンチのような長椅子に、祐司達を座らせた老神官は古びた肘付き椅子に座った。


「どうもこの椅子でないと最近腰がいたいので失礼します」


 急な来客だが、神官の奥方らしい小柄で上品な感じがする初老の女性がハーブ茶を入れたカップを盆で運んできてくれた。


「いいえ、お気になされることはありません。わたしはシャギール・ユウジと申します。こっちは従者のローウマニ・パーヴォットです」


「お誘いしながら名を名乗るのを忘れておりました。神官職を勤めますハヤル・トリンカです。このタイタニナで生まれ育ちました。ユウジ殿は故郷はどちらですか」


「ヘロタイニア(ヨーロッパ)のさらに遙か東のワからまいりました」


「ワとは初耳ですな。で、ワとはどのような所でございましょう」


 トリンカ神官の問にユウジは沈黙の答を返した。


「あなた、失礼でございましょう」


 トリンカ神官の横に立っていた初老の女性がたしなめるように言った。


「いや、申し訳ありませんでした。何か願いに関係あられることもありましょうからな。紹介が遅れましたが、こいつは妻のマベレンでございます」


 初老の女性は静かに会釈をした。


「ろくな物はございませんが、焼き菓子がございます。今、お持ちします」


 神官の細君が持って来た菓子はショウガの味が微かにする素朴な物だった。



 祐司はヘルトナからの旅の話の中で出て来たグネリの紹介状をトリンカ神官に見せた。


「ほほう。確かにナチャーレ・グネリ神官、いや、ナチャーレ・グネリ神官長の直筆でございますな。(神官学校がある)マルタンの最後の年に同級だったのですよ」


 祐司はかなりの高齢に見えるトリンカ神官とグネリの年齢差に、トリンカ神官の言葉に違和感を覚えた。


「いや、ご不審はごもっとも、わたしは神学生で落第を繰り返してました。で、今年だめだったら諦めようと思っていたのです。

 その年に、まだ十二だったか、グネリ神官長が入学してきました。何年に一度の才女と言われてましたな。まだ、子供みたいな感じで可愛かったですよ。


 でも、こんな小娘に負けるわけにはいかないと死ぬ気で勉強しました。おかげで、今は、わたしは、この神殿は他に管理者がいないということもありますが、この神殿限定の下級神官です。

 お恥ずかし話ですがこの年でまだ公式には神官補なんです。このような能のないわたしでも神官になれたのはグネリ神官長のおかげと思っております」


 祐司はグネリの高い評判を聞く度に、祐司と二人きりのグネリとの乖離に感心してしまう。


 それと、トリンカ神官が本当なら隠したいような話まで正直に言ったことから祐司は、トリンカ神官にちょっとした好感を持った。



 グネリの話からさらに話がはずんで、トリンカ神官はシスネロスとタイタニナの微妙なきな臭い話を始めた。

 

 トリンカ神官の話によるとシスネロスはリヴォン川とその大きな支流であるモサメデス川の合流する地域にある湿地帯にキリオキス方面から移り住んできた農民の集落がその起源だと言う。


 祐司はちょうど京都の高野川と加茂川の合流点にある土砂が堆積した逆三角形の地形の大きなものを思い浮かべた。


 シスネロスは当初は洪水の害を受けながらも、営々と堤防を築き近隣の荒れ地や湿地を開墾しながら次第に大きくなった当初は農業主体の都市国家である。

 そして、市壁が築かれて小都市となる頃には、リヴォン川の水運の拠点と見なされて近在の物資が集まってくるようになった。


 各地から商人が集まってきたり、また、シスネロスの中でも初期の開拓で地主になった人々から商売を始める者が現れて数代前には、中央盆地の南東部にあたるドノバ州の大半を所領とするドノバ侯爵家の特許都市になったという。


 ドノバ侯爵家は尚武の気質に富んだ家柄で度々、リファニア王にかわりリファニア王国の武威を示すためと称して南東沿岸に侵攻したヘロタイニア人達の小国家群との戦いに当主自ら軍を率いて出征していた。

 戦いによって小さな飛び地のような所領を南東地域に得たこともあったが、兵站が続かずに数年で放棄しては、また奪回するということを繰り返した。


 この戦いでドノバ侯爵家は、名目的な支配者とはいえリファニア王から多くの伴系貴族の称号を分家や婚姻で結びついた家臣に与えることが許された。


 爵位はリファニア王のみが各地の統治者に与えられてるものである。近い分家筋まで含めて、誰かに攻め滅ぼされるか、お家断絶になってポストが空かない限りは新しい爵位は出ない。

 リファニア王のもとには宮廷貴族という一群の貴族がいるが、これとてもとから所領を持っている者にしか与えられない。


 ただ、各州の領主は自家の分家を伴系貴族にすることができた。リファニアでは伴系貴族を多く従える領主はステイタスが高いと見なされる。ただ、平時には多額の献上金をリファニア王家に差し出さないと伴系貴族として認めるという勅許は出ない。


 ただ、戦時になればその活躍によって領主が推薦する分家筋に伴系貴族の称号を与えられる。


 ドノバ侯爵家が経済的な見返りが薄い戦争を続けたのはこの名誉のためだった。


 しかし、経済的な見返りの薄い戦争で次第に侯爵家は窮乏する。これを支えていたのがシスネロスの経済力だった。自治を認めてもらう冥加金以外に、多額の資金をドノバ侯爵家に貸し付けていたのだ。


 ところが、五十年ほど前にシスネロスが借財の肩代わりに侯爵家の直轄地での徴税権を要求したことから、侯爵家とシスネロスの内戦が始まった。

 シスネロスはもともと侯爵家と戦う意思も、侯爵家をつぶすような意思も無く経済的に行き詰まった侯爵家にかわって統治の代行を行い手数料を得る程度のつもりだった。


 当時の侯爵は、これをよしとせずにシスネロスに一方的に戦争をしかけた。ところが、資金力に物をいわせたシスネロスは籠城戦から反撃に出て、物資が滞った侯爵軍を打ち破り、あまつさえ滅亡させてしまった。


 領主のいない州はないので、シスネロスに近しい行動を取っていた分家が新しい侯爵となった。しかし、新侯爵はシスネロスに館を構えてシスネロスの形式的な元首にしか過ぎない。


 今ではドノバ州はシスネロスの市参事会が事実上統治する州である。


「何か問題が出てきているのですね」


 そこまでの話を聞いた祐司は、トリンカ神官がシスネロスとシスネロスの仇敵であるはずの侯爵に対して中立的に語ってきたことから違和感を感じていた。

 中世段階と言えるリファニアで、ほぼ完全な自治を達成したシスネロス市民からすれば誇るべき話として語られてもよいはずである。


「で、そちらの従者はどちらのご出身ですかな」


 トリンカ神官はパーヴォットを見ながら言った。さすがに不躾な質問だと思ったのかその声は慇懃だった。


「生まれも育ちも北クルト州のヘルトナです。キリオキスの西には知った者はおりません」


 祐司はトリンカ神官の憂慮を察して言った。


「ユウジ殿もよくよく気をつけておいていただきたいことがあります。ドノバでは、極少数ですが旧侯爵家の残党が隠れております。シスネロス市はこれに過敏になっております。 

 ですから、シスネロスに対して批判めいたことを話す人間は旧侯爵家に与するものとして密告されることがあります。密告には報奨金が出ますから余所者にカマをかけて、シスネロスの悪口をわざとしゃべらせて報奨金を稼ごうという輩もおります」


 トリンカ神官は少し声を落として言った。


「密告されるとどうなるのですか」


「拘束されて取り調べを受けます。それだけでも不快なおもいをします。悪口程度なら旧侯爵家の賛美につながることを言った罪で罰金を取られます。それが、また密告の報奨金になります」


「言葉には気をつけます」


 祐司はそう言いながらトリンカ神官自身が密告された経験があるのでは思った。


「シスネロス市の住民は自治を獲得した誇らしい民であると自分達を考えております。しかし、今のシスネロスはドノバ州全土を統治しています」


 トリンカ神官はさらに声を落として言った。


「二種類の住民がいるということですね。シスネロス市民と旧侯爵家が統治した地の住民ですね。シスネロス市民からすれば旧侯爵家の住民は、わたしの故郷の言い方で言えば二級市民扱い」


 祐司もトリンカ神官に合わせて声を落としながら少し身を乗り出して言った。


「二級市民ね。言い得て妙ですな。シスネロス市民はドノバ州の何処にでも住める。しかし、シスネロス市民でない者はシスネロス市民にはなれません。居住できても滞在者扱いだ。

 ドノバ州の政治はシスネロスの市参事会が左右します。市参事会会員の一部はシスネロス市民が選びますが、シスネロス市民でないものは市参事を選ぶことができません」


 祐司はシスネロス市民が領域国家になったのにいまだに都市国家の枠組み、意識で統治をしているのだろうと思った。


「侯爵家からシスネロス市参事会に統治が移行して、年貢というものはなくなって土地に対する税と、シスネロス市民と同額の人頭税だけになりました。それも貧者は猶予してくれます。

 後は商人に対して商売をする許可書の申請金がありますが、これはどの領主領でもあります。付近の領主領と比べれば二三割負担が少なくなっているので、わたしの子供の頃は、ありがたがっていました。でも、時間が経てばそれが当たり前になって、不満が出て来ます」


「人間とは難しいものですね。シスネロスはドノバをまとめる政策はしていなのですね」



「まあ、ないことはないのです。シスネロスの守護神であるアハヌ神の神殿ができましてね。できるだけ、そちらに参拝するように、シスネロス市から派遣された市参事顧問がことあるごとに言い立てるのです」


 ここで、自分でも次第に声が大きくなってきたことに気が付いたトリンカ神官は急に声を潜めた。


「シスネロスの威光を見越して、その尻馬に乗る者もいます。タイタニナの守護神であるチャテマ神を祭るこの神殿に参る者も以前より少なくなってしまいました。

 でも、かたくなにチャテマ神だけを信仰する者もいて、タイタニナの中は信仰の面では引き裂かれたような状態です」


 トリンカ神官はハーブ茶をすすって一息いれてから話を続けた。


「ドノバ全体の守護神だと言ってアハヌ神の神殿は今ではドノバ州のあちらこちらにあります。シスネロス市とそれ以外のドノバ州の住民の軋轢はシスネロスの守護神と土着の守護神という神々の領域にまで及んでいます」


「シスネロスの意図はわからなくもありませんね。ドノバ州全体で信仰する神があればというのは。ただ、やり方がまずいですね。ドノバ州全体の守護神というものは元はなかったのですか」


 祐司は首を左右に振りながらため息をついて言った。


「まあ、しいていえば侯爵家の守護神でもあるエト神でしょうか。でも、侯爵家の守護神もまずいですな」


 

 このあとも、祐司とトリンカ神官はしばらく雑談を続けた。


「すっかり長居をしてしまいました」


「いいえ、今日はありがとうございました。お話を聞いていただき少しは胸のつかえがおりました。安心してこのような話が出来ますのは妻以外にはおりませんので」


 トリンカ神官は、最後には神殿の出入り口まで細君といっしょに祐司達を見送りに出て来た。


 祐司はパーヴォットに、買い物をして帰るから先に宿に帰って馬とラバの世話をするように命じた。祐司はパーヴォットの姿が見えなくなってから、トリンカ神官の細君にたずねた。


「少し衣料を買いたいのですが、いい店はあるでしょうか」


「どのような衣料をお求めですか?」


 祐司の言った品物に細君はあからさまに意外そうな顔をしたが、理由を聞くことなく店を教えてくれた。




 慣れない品物の購入に祐司が少し手間取って宿に帰ってくると、パーヴォットは宿の中庭で剣の稽古をしていた。


「精が出るな」


「馬の世話が終わりましたから稽古させてもらってます。いつも助けていただいてばかりです。わたしも少しは強くなってユウジ様の足手まといにならないようになりたいと思います」


 剣を振り回しながら,パーヴォットが几帳面な口調で言った。


「今日はそのくらいにして、風呂屋に行くぞ。まず、部屋に戻ろう」


「でも」


 しぶるパーヴォットに構わずに部屋に入った。


「開けてみろ」


 気の乗らない様子で部屋に入ってきたパーヴォットに、祐司は風呂敷のように使用している麻布に包んだままの購入した品物をパーヴォットに渡した。


 中から出て来たのは、明るい鳶色に染められた亜麻製のワンピースドレスだった。リファニアでは女物の代表的な日常着である。



挿絵(By みてみん)




「これは?」


 パーヴォットの目が大きく見開いた。少し濃い目の灰色の瞳が輝いている。


「着替えなさい。最初から女として風呂屋に行けば大丈夫だろう」


「こんな高価ものを」


 産業革命にほど遠いリファニアでは日常品といっても衣服は高価な物である。少し程度のよいものなら銀10枚程度はする。露天商や行商人でいえば一ケ月に近い稼ぎである。


「心配しなくていい。古着だ」


 祐司はトリンカ神官の細君に教えて貰った豊富な品揃えをしている古着屋で購入した。それでも、値切って銀六枚だった。


 ただ、祐司の感覚では高いという認識はなかった。リファニアの衣服を作るには多くの人出がかかる。


 まず柔らかくなるまで何度も人が叩いた亜麻糸を手作業で丁寧に織られた細かな目の生地にする。そして何度も染める作業が必要な染まりにくい植物性染料で染める。 

 裁断や裁縫も完全に手作業で作られた衣服は現代の日本で求めたら目が飛び出るほどの値段になるだろう。


「ありがとうございます」


 パーヴォットはワンピースを握りしめたまま、少し震えるような声で祐司に礼を言った。顔を下にしたままでいるところを見ると涙ぐんでいるのかも知れないと祐司は感じた。


 祐司が”パーヴォット”と呼べば、パーヴォットは祐司に飛びついてきただろう。祐司は理性を総動員してこれを押さえた。



 祐司はパーヴォットに、風呂屋の場所を教えて風呂屋の代金を持たすと着替えるように言いつけて先に風呂屋に向かった。

 男の子の従者を連れた巡礼が、いつの間にか年頃の女の子と連れだって歩くのはあまりに怪しすぎるからである。



 祐司が期待していた風呂屋はヘルトナの風呂屋の四半分のほどの小さなものだった。それでも一週間近く歩きづめだった祐司にはありがたかった。


 パーヴォットが風呂屋で借りた入浴用の貫頭着を着て蒸気で溢れる浴室に入ってきた。 パーヴォットは少し恥ずかしそうに祐司の目を少し見ただけでうつむいてしまった。


 祐司は何か声をかけたものかと迷っていた。やがて、数人の男女が浴室に入ってきたのを幸いにして祐司は黙って汗をかきながら時々、恥ずかしそうに下を向いたままのパーヴォットの方を見て、そこはかない幸せな気分に浸った。


 久しぶりの風呂なのでつい長居をしてしまったが、風呂屋の帰りに祐司が空を見上げると、まだ空の一部には濃い色の青空が残っていた。



挿絵(By みてみん)

リファニアでは春の夜空は、いつまでも暮れ切らない。

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