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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第三章  光の壁、風駈けるキリオキス山脈
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キリオキスを越えて9  ヌーズル・ハカンの”情けは人の為ならず” 五

 遠距離だが、怪しい武装した集団を見つけたパーヴォトにユウジは声をかけた。


「どれくらい離れている?」


 ユウジが、鋭い声を出す。


「四半リーグほど離れた茂みの中にいます」


 パーヴォットは、しばらく様子を見るような仕草をしてから答えた。


「どうしますか。一気に逃げますか?」


 ユウジが小屋の中の人間を見回して言う。


「女子供がいますし、土地勘はあちらの方があるでしょうから、どうしようもないような所で追いつかれるかもしれません」


 ハカンが渋い顔で答えた。


「では、おびき寄せて一網打尽でしょうか。幸い弓がこちらにあるようですから」


 ユウジとパーヴォットの弓を見ながらスェデンが対案を出す。


「相手が四人だとすると、一人でも手傷を負えば退散するでしょう。しかし、どうやっておびき寄せます」


 ユウジがスェデンの顔を見るが、そこまでの、具体案はスェデンもないようだった。


「ここに来いっていう、何か合図があるんじゃないでしょうか」


 ナニーニャが、そう言いながら暖炉の横を指さした。暖炉の横には枯れ草が、人の腰ほどにまで積み上げたあった。枯れ草は、たき付けに使用するのもだろう。


「わたしも妙なくらい量が多いなとは思っていました。ナニーニャに言われて合点がいきました。これを暖炉に入れてみましょう。かなり、煙が煙突から出てるでしょう」


 スェデンがそう言いながら枯れ草を一束抱えると、ハカンとユウジの方を見た。二人はスェデンにかぶりを振った


 スェデンが枯れ草を、暖炉に放り込み始めた。たちまち、白い煙が煙突に立ち上って行く。



「パーヴォット、様子は?」


 しばらくして、ユウジがパーヴォットに聞く。


「近づいて来ます。もう、道に出てきました」


「ハカンさん、弓矢は?」


 ユウジはパーヴォットの弓を取り出してからハカンに聞いた。 


「まあ、人並みだな」


「ということは、かなり自信がありますね」


 ユウジはパーヴォットの弓をハカンに渡した。


「しかし、こちらから先制攻撃をかけて、人違いでしたでは拙いな。盗賊だという確証が欲しいな」


 ハカンは弓の調子を見ながら言う。


「先頭を歩いている男はボッシガトです。ヘルトナで見た手配書と同じ顔です。額に大きな刀傷がありますから間違いありません。武装は弓に、二間(3.6メートル)ほどの槍です」


 まだ、盗賊達は、数百メートルほど離れているが、パーヴォットが人相を報告する。そして、パーヴォットがヘルトナで描き写していたリファニアでの、人相書きは現代のプロが描いた素描ぐらいの精度がある。


「もう一人は仲間のハンバンだと思います。弓を持ってます。後は長剣です。後の二人は手配書にない男です。同じように弓と長剣を持ってます」


「従者さん、あんなに遠くにいるのに見えるの?」


 テポニナの子供であるタラが不思議そうに聞いた。


「引きつけましょう。万が一、人違いということもありますから足を狙って、ボッシガトと思える男に矢を打ち込みましょう。後の二人はそれで戦意がなくなるでしょう」


 その時、突然、ワタネが縛られていた柱から離れたかと思うと一目散に戸を押し開けて、外に飛び出して行った。


「しまった」


 ハカンは急いで矢を弓につがえると、足が悪いためよろめくように走っているワタネを射た。


「話しをつけてくる。撃たないでくれ」


 ワタネは、そう大声で怒鳴りながら走っていた。


 矢はワタネの右の二の腕に命中した。二の矢を放とうとしたハカンの腰に、テポニナが抱きついた。矢はあらぬ方向へ飛んでいった。


「射ないでください。堪忍してください。トドメだけは堪忍してください」


 あわてて、ハカンは体を揺すってトポニナを離すが、その時には、ワタネは道端の草むらに隠れながら背を低くして走っていた。姿が見え隠れする上に距離も離れてしまったのでハカンは射るのを諦めた。


「まあ、いいでしょう。ワタネが飛び出したことで異変を知らせてしまいましたから。でも、残念です」


 ハカンにユウジは声をかけた。そして、刃物で切られたロープを見せた。


「ナイフを隠し持っていたのでしょう。体を確かめなかったのは迂闊うかつでした。でも、ワタネも中にいれば何とでも言い訳できたのに。わたしには、あの人が盗賊だという確証は何も無かった」


「え、あれだけ追いつめたのは、ユウジ殿ではないか。もう、白状したも同然だ。それに話しをつけてくるなどと世迷い言を言っておったぞ」


 ユウジの言葉にハカンは驚いて言う。


「いいえ状況証拠ばかりです」


「ジョウキョウショウコ?」


 ハカンの疑問にユウジは答えなかった。ハカンは話を今のことに戻した。 


「しかし、こちらの人数を知られたのは拙いかな。スェデンさんには悪いが、こちらで、戦力はユウジ殿とわたしだけだ」


「いいや。そう思ってくれれば、むしろ好都合です」


 ユウジの言葉にハカンは怪訝な顔で聞いた。


「どういう意味だ?」


「スェデンさん、それにナニーニャさん、出番です」


 ユウジは、いつの間にか手を握り合っているスェデンとナニーニャに声をかける。


「出番?」


 スェデンが目を大きく開けて言った。


「得意なヤツを披露してください」


「何をしろと」


「雷か、突風衝撃の術ができるでしょう。あなた方は巫術師だ」


 ユウジの言葉によって小屋の中に、一瞬静寂が訪れた。


「おい、それは本当か?」


 ハカンはスェデンとナニーニャを見る。女衒ぜげんと売られる女には見えない。心で繋がった男女であるということは無粋なハカンでも見て取れた。


「事情は色々おありのようですが、まず、この危難を乗り切ってから聞きましょう」


 ユウジが急がせるように言う。


「この状況ではやむを得ない。ナニーニャやるぞ」


 スェデンの言葉に、ナニーニャは「はい」と力強く返事した。


「では、わたしは彼らを引きつけてきましょう。どのくらいの距離ならやれますか」


 ユウジはパーヴォットにかわって戸の隙間から外をうかがいながら聞いた。


「”雷”は百歩ばかりに近づいてくれれば狙った人に当てられます。でも、そんなに強力ではありません。突風も五十歩くらいでいけます。

 それより遠くだと急に威力が落ちます。突風の範囲が狭いので仕留めるとなると四十歩ほどでないと外すかもしれません。ただし確実に人は吹き飛ばします」

*リファニアの一歩は一メートル半ほどの長さである。


 スェデンは一息置いて言葉を続ける。


「わたし達の巫術は、半人前で二人で協力してやっと並みの巫術師以下のことしかできません」


「二人でする巫術か。合体巫術というのだろ。余程相性が合わねば出来ぬ、珍しいものだと聞いておる。今日はそれが見られるとは旅はしてみるものだ」


 ハカンが感心したように言った。


「わたしも行く」


 前のめりの気持ちになったハカンを、祐司は手で制して言う。


「スェデンさん達が、巫術を発動して相手が怯んだら出て来て下さい。どのような不測の事態が起こるかもしれませんから、ハカンさんはそれに備えてください」




「気をつけろ。中の奴はぴんぴんしてる」


 そう言いながら右手に矢がささったワタネは、異変に気が付いて木の後ろに隠れていたボッシガトのところに転がり込んだ。


「どうなってるんだ」


 ボシッガトが苛立つようにワタネに言う。


 ワタネは昨日から今日にかけてのことを手短に話した。


「テメエのドジじゃないか」


 ボシガットはそう言うと目で、手下のハンバンに合図した。ハンバンは突然、ワタネの腕に刺さっていた矢を抜いた。


 ギャーと、矢の返しに肉をいくらか持っていかれたワタネが悲鳴を上げる。



「何故、夕食の時に毒麦を食べさせなかった」


 激痛にのたうち回っているワタネにボシガットが怒鳴るように言った。


「赤ん坊が死にそうだったんだ。巡礼が治療してくれてたんだ」


 痛みを堪えてワタネが絞り出すような声で返事した。


「結局、死んだ。見てたぜ。まあそれでも、ちょっとはテメエに働いてもらわないとな」


 手下のハンバンが薄ら笑いで言いながら、出血しているワタネの腕を布できつく縛った。


「数人いたようだがどんな奴らだ」


 手荒な傷の手当てを受けて、少し痛みが収まってきたワタネが答える。


「男は郷士の息子っていう若い戦士と、巡礼、女衒だ。見たところ格好ばかりな奴らだ。後は女子供だ」


「小屋が濡れていなきゃ火矢を打ち込むんだがな」


 もう一人の手下が忌々しそうに言った。


「少し様子を見たらどうだい」


 ワタネが言うと、手下のハンバンがもう決まったことを告げるように答えた。


「いいや、昼くらいまでにカタをつける。キリオキス・エラ側から隊商が接近している。上の見通しのいい場所から、ちらりと見えたんだ。半刻ほどでここに来る」


 ボシガットが、ようやく痛みが、我慢できるほどに収まりかけてきたワタネの傷口を右手で掴みながら聞いた。ワタネは苦痛のうめき声を上げた。


「ところで毒ライ麦は?」


 ワタネは激痛を堪えて答えた。


「すまない。小屋の中だ」


「あんだけで、銀貨三十枚ってお宝を払ったんだ。取り返す」


 そう言うと、ボシガットはようやく傷口から手を離した。そして、ワタネに命令する。


「お前が先頭だ」


「え、あいつら弓を持ってるんだぜ」


 左手で傷口を押さえながらワタネが気弱そうに反論した。


「お前のドジだろうが」


 再び、ボシガットがワタネの傷口を握った。


「まあ、皆殺しだ」


 手下の一人がハンバンが苦痛に呻くワタネに笑いながら言った。


「テポニナと子供は助けてやってくれ。金を貰ったら、あいつとはドノバあたりで所帯をやり直すつもりだ」


 痛みで頭の芯が悲鳴を上げている中でワタネが必死で頼んだ。


「殺しはしないぜ。お前が言うとおりにしないとテポニナはオレが頂く。お前はテポニナと金を貰いたかったら先頭を行くんだ」


 ボシガットは、そう言うと、ようやくワタネの傷口から手を離した。もう一人の手下が、木の枝で組んだ一メートル四方ほどの盾のようなものをワタネの前に投げ出した。

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