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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二章  北クルト 冷雨に降られる旅路
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閑話 その5  リファニアの宗教組織 -リファニア社会の心棒-

 リファニアという想像上の世界ですが、共通宗教というべきものが、その社会を支えています。話が進むと具体的な事例がでてきますが、なんなく雰囲気でも感じてみようかという方は読んで見て下さい。

 この話を読み飛ばしても、本編の流れの理解には一切関係しません。解説のような部分は不用という方は「キリオキスを越えて1」にお進み下さい。

 全土に統治力を及ぼすことのできないリファニア国王の他にリファニア全土に君臨する権威は、ノーマ神を主神とした信仰である。史実の北欧神話の原型とイス人の精霊信仰の合体のような宗教である。

 絶対的な神の権威という概念から、現世利益をもとにした死後の神々の楽園という世俗的な要求にまで応じた宗教でもある。


 このリファニアの宗教は共通言語とともに、一体感を持ったリファニア社会を構成する重要な要素である。この宗教には名前がない。それだけに人々にとっては自明のものである。


 各地の神殿は信仰の場であると同時に本来なら行政が行うべき基本的な人口の把握のもとになる住民台帳を信者台帳という名で作成している。


 また裕福な信者からの寄付金は貧窮者の医療、身寄りのない高齢者の介護、捨て子の保護や里親への斡旋、「寺子屋」のような教育の場を通じて地域社会に還元されており所得の再配分のような役目まで果たしているリファニア社会にとって必要不可欠な存在であった。


 後で述べる神職組織を統轄し高位の人事権を持った「大神官」会議のようなものはあるが、特にリファニア全土に君臨する特定の指導者がいるわけではなく、各地にはお気に入りの神を祭った神殿があり栄えている。


 リファニアの宗教は多神教であるが、個々の神殿は個別の神を祭っているために地域社会単位では一神教ともいえる。自分の故郷から離れた人間も、その街で栄えている霊験あらたかな神殿より、自分の信仰してきた神の小さな祠を建立して礼拝することが多い。


 それらの神殿が統合していられるのは、北部にあるマルタンという神学都市の存在が大きい。


 マルタンは、伝説の神官であるビヨルンスが初代リファニア国王ホーコンからマルタンの地を譲り受けて建設したという古い都市である。


 神官になろうとする者はマルタンにある学園で、聖職者の資格を取らなければならない。

 いかに、親が高位の神官でも世襲はできない。親が高位の神官なら手心や配慮で早い昇級はあっても、最下位の神職から段階を踏んでヒエラルキーを昇っていくしかない。


 神官を目指す者は神官職を与えられていない「神学生見習い」「神学生」を経て神官資格を獲得する必要がある。

 神学校は学年制ではなく昇段制度のような方式であるため、最短で四年、通常で六年、成績の振るわない者だと十年近く「神学生見習い」「神学生」のままである。


 神学校の学費は存在しない。「神学校」へ寄進される供物や裕福な親からの「仕送り」は教師役の神官の給与になる。

 どのような高貴な家の出身でも神学生は神学校付属の農地や放牧地で作業に従事して自分達の食い扶持を得る必要がある。


 いくら成績がよくても農作業を疎かにしていると昇級はできない。神学生の生産活動はビヨルンスが定めた法とされているためこれをどうこうしようと言う神官はいない。


 このことは将来、地域の有力者になる神官に全てではないにせよ、無茶な要求を信者に課したりすることを防ぐ役割も期待されていた。


 神学校学生の入学資格には、複数の「神官」の推薦状か、「神官長」以上の者の推薦状が必要である。どうしても領主や裕福な商人、郷士や村長といった地域の有力者の身内が有利になるが、年による変動はあるものの入学者の三分の一から半分程度は神官が運営する「寺子屋」で優秀な平民の子が推薦されてくる。

 裕福な階層の師弟ばかりを集めていては、神学生の生産活動に重大な支障が生じるという理由もある。


 入学した者は「神学生」と呼ばれるが正式には「神学生見習い」である。「神学生見習い」は二年で「神学生」になれるが三年以上かかる者は適性を見られる。ここで見込みの無い学生は暗に進路の変更を求められる。これらの者は当然、入学時より優秀な者を集めた平民出身者より有力者の師弟に集中する。


 学園からの指示を無視して居残り続けるのは可能であるが、何年も馬歳をむなしくするのは帰っても先の見込みがない平民出身者が多い。中には二十を幾つもの過ぎても十代半ばの生徒と机を並べて何回も同じ授業を受けている剛の者もいる。


 そんな年齢になると、学園も折れて空きがあれば、教師役の神官の世話をする下働きに雇うと声をかけてくる。それはそれで、ようやく食い扶持が確保できて結婚も出来て家庭も持てる。


 領主階級や地域の有力者の師弟の場合は、有料の「認定神官」養成のクラスに進む場合がほとんどである。ほとんどの有力者の師弟は心から神職を目指している訳ではなく、二男三男の食い扶持確保や一族の面目のために入学してくることが多い。


 そのような者は神官に就任しても親の領地や勢力圏にある神殿に赴く。そのため、当初から特定の神殿のみで神官職を行使できる「認定神官」という制度が考え出された。正式な神官の指導の下で特定の神殿のみの祭祀が許される補助神官である。


 また神学校とは別に最初から認定神官を目指す「認定神官教場」がある。これは神学校の卒業生だけでは必要な人数の聖職者、特に補助的な聖職者が満たせないという理由もある。


 認定神官はその師弟を推薦した神殿の神官のもとに赴くことになる。推薦した以上は面倒を見ろということである。正式な神官職の職を奪うことなく、有力者との関係も最低限保つということで目をつぶられている。


 この認定神官過程は正式の神官過程よりもはるかに容易いために神学校への入学者の中にもかかわらず当初から希望する者もいる。

 認定神官でも顔馴染みである故郷の神官のもとで見よう見まねで祠祭のまねごとをしていれば、心の中はともかく「神官様」と周囲は敬意を払ってくれるからだ。一族の集まりにも神官の礼服で出席すれば当主の次席があてがわれる。


 聖職者として不行状な行いをしないかぎりは職務を罷免されることもない。体面上働いたり商売もできない領主の二男三男にとっては、部屋住みで一生を終わるより最低限確保したい職である。


 近代以前では一国の国民を束ねるような宗教・宗派ができれば、世俗的な支配階級は必ずその組織に食い込んでくる。世俗の支配階級が宗教の指導層にかぶさってくる。

 支配される側は、現世でも来世を夢見せてくれる精神的安息においても同一の階層に絞られ、宗教組織は世俗支配の強化に使われるとともに急速に腐敗する。


 このことをリファニアでは、この害を最小限にくい止めていた。実は針の穴を通るより難しく本人の努力だけではいかんともしがたいのではあるが平民にも高位の聖職者への道を開いているということで、概ね神殿、神官は信頼されていた。


 さて「認定神官」過程にも押し込まれずに本式の「神学生」を卒業すると、待望の神職へ叙任される。

 そして「神官見習い」「助神官」「神官補」「神官-下級・中級・上級の区別がある」を経て階位が上がっていく。

 なお「助神官」は現代では形ばかりが残っている階位で、「神官見習い」の古参者をこの名で呼んでいるだけある。そのため、「神官見習い」の上位は「神官補」と認識されている。


 この昇任は、宗教的な問題に関する口頭試問の他に、日常の宗教活動、分をわきまえた生活を送っているかなどが考慮される。


 神官職でも許可願いを上位の神官職に出せば、ほぼ結婚は自由である。神殿勢力以外の介入を避けるためできれば神官職同志の結婚が奨励されるが、女性神官の絶対数が少ないため、願いを出して「大神官」会議の審査を受ければ、非神官との婚姻もたいがいは許可される。


 領主の二男や三男などで、長子が亡くなったために神官を止めなければならない場合は神官職停止の願いを出す。神官職は兼業が認められていないためだ。ただ、都合がつくようになれば神官職に復帰できる。


 この辺りは、「認定神官」制度と同様に政治や世事と一線を画しながら実社会から遊離もしないという、リファニア宗教の柔軟性である。


 神官は神学以外に、医療や法律といった素養を学校教育に似た形で養成されるのでリファニアでは第一の文化人である。同一の教育を受けた人間が定期的にリファニアの隅々にまで派遣される制度はリファニアの文化的統合の基盤をなしている。


 また、専門の行政職をおけない小領主などは、神官の力添えで領地運営を行うことも希ではない。

 神官は学閥を形成しているともいえるためリファニア全土になにがしかの伝があり、他者への依頼や情報収集は神官の得意とする分野である。おかしな言い方だがリファニア国内でこれほど有能な外交官は存在しない。



 神官職になってからの昇任は二年に一度行われるのが慣例であるから、最短でも「神官-上級」になるまでは神学校を出てから十年はかかる。

 

 七つから「幼年神学生見習い」として神学校に通って読み書きを習えるが、「神学生見習い」として正式に神学の学習を認められるのは十四歳からである。平民は出来るだけ幼少から、身分のある者は年長になってから入学する傾向がある。


 三十歳未満で「神官-上級」の者は存在しない。普通の能力の持ち主では、四十歳前に「神官-上級」にたどり着くことは至難の技である。


 本文ではいささか頼りない神官長グネリだが、女性神官としてかなり出色の才を発揮して三十代で「神官-上級」に任命され、三十代後半で次の「神官長」にまで登り詰めている。

 ただ多くの神職志望者は、比較的大きな神殿の幹部や中規模の神殿を取り仕切る「上級神官」を目指して、苦労してそれに就任すると安住してしまう。


 そして、この先の「神官長」になるには、宗教的な修行を経る必要がある。


 これには、三日三晩不眠不休で祈りを捧げたり、冬季に戸外で薄着や半裸で人事不省になるまで数刻祈ったりすること以外に、巫術師の攻撃に耐えてその力をそらせる術を身につけ神の加護があることを証明しなければならない。


 これができるのは、巫術の影響を限定できる貴族の血を引く者か、自身でも低級でもよいから、相手の巫術をそらせるような巫術を探れる天賦の才能が必要である。

 貴族の血筋や巫術の才がなければグネリのように巫術の力をため込むような特異体質の人間以外には努力の範疇を超えていかんともしがたい壁である。


 この制度が厳守されて神官長の権威を守っているため、史実のヨーロッパでしばしば見られたように権力者の師弟が若くしていきなり高位の僧職について教会に影響力を行使するといったことはリファニアではほぼ不可能である。


 こうした理由から「神官長」は「神官」とは一線を画した資格を持つ。例えば「神官長」は「神学生」を自分が運営する神殿だけに通用する「私選神官見習い」という形で弟子にすることが出来る。


 本文でグネリを脅かして、この制度を悪用しようとしたのが祐司のために呪い返しを受けて悲惨な死を迎えたマッカレール・ディオンである。


「神学生見習い」からやっとのことで「神学生」になったような人間はかなりの確率で十年以上「神学生」を続けることが多い。

 先の見通しが立たなくて、やけから不行状を起こして退学処分になったり、「神学生」は神職候補であるため学園の下働きにもなれない。このため自ら「神学生」身分のまま学園を去る平民出身者は結構いる。


 学園が自ら紹介することはないがマルタンの街には、「私選神官見習い」を募集する代理人が何人かおり常に落ちこぼれ「神学生」の動向には気を配っているため、なんとなく需要と供給のバランスは保たれている。


 「神官長」は野心があれば大きな神殿を、それらの弟子を使って自分の裁量で運営できる一国一城の主にもなれる。「神官長」は領主階層でも一目置き、民衆からは貴族なみの尊敬対象になる。


 しばしば、本文で「神官長」グネリの紹介文が力を発揮する理由である。


 さて、「神官長」の上は「大神官補」である。「大神官補」も望んでなれるものではない。「神官長」職にあるものに「大神官」会議から呼び出しがかかるのだ。少なくとも十年程度は真面目に「神官長」として勤め、地域の評判もよい「神官長」に声がかかる。


 本人が承諾すると、三年ほど特別な場所で修行を行う。この辺りは将官や佐官を要請する軍隊内の大学に似ている。その場所も、信仰以外にも組織のマネジメントのような過程も学ぶという以外は修行の内容もつまびらかにはされていない。


 この修行を終えたものは、特定の神殿に属さない「大神官」になる。「大神官」は適性によって「神官」以下の神職の審査して任命を行う役目、各地の神殿の巡回指導を行う役目と、「古代の書」などの文献研究を行い教義の検討や諮問を行う役目がある。

 

 「大神官」は対外的には、「神官長」と同等であり、古刹ではあるが小規模な神殿を本拠にしているに過ぎない。また、大神殿を統括する「神官長」と比べると周辺地域への影響は皆無である。

 神官職を栄達の過程と見る者からは降格人事であり、真に信仰に生きて組織の健全化を願う者にしか勤まらない。


 「大神官」を数年勤めると、十人に一人ぐらいの割合で「大神官」会議から「大神官」会議メンバーに突然任命される。通常は六十歳以下のものが任命されることはない。任命されると神官職を辞さない限りは拒絶することはできない。


 任命された者は家族に今生の別れを告げて「大神官」会議の一員となる。彼(彼女)が再び世間に出るのはその死が伝えられた時のみで、葬儀も「大神官」だけで秘密裏に行われる。


 このように秘密めいた「大神官」会議ではあるが、その長と思われる「主席大神官」だけは国王の葬儀と新国王の即位にだけは姿を見せる。


 他のいかなる権力者も会えるのは「大神官」までで、「大神官」を通じて自分の意向を「大神官」会議に伝えて貰うことしかできない。「大神官会議」は「神官長」以上の任命権と全ての神職の資格剥奪権を持っている。


 「大神官」会議に逆らった聖職者は未だにいないが、実力で「大神官」会議に逆らえば手足となる世襲の絶対忠誠を誓う暗殺部隊が動くのだと噂されている。



 これらの公的ともいえる神職以外に、神殿にはその神殿の主席神官が任命する「巫女」がいる。

 巫女は日々の供物を捧げたり、神々に捧げる舞を舞うことが仕事であるが、現在では地域の未婚女性の習い事のように見られている。


 神々以外の信仰ではイス人の間ではシャーマンがいたり、精霊を呼ぶ巫蠱ふこ、祈祷師がいる。これら者の信仰も神々の信仰を否定しない限りは、神殿から支信仰者として有料の認可証が出る。


 神殿に属する神官の中にも神意を感じたり、または出世競争に敗れたために自分で新規の神殿を興す者もいる。しかし中には金儲けに狂奔するような輩もいる。


 本文のラーマニア神殿がこの例である。



 神殿では頼めないようなことを祈ってもらう呪術師など諸国をさすらいながら日々の糧を得る者もいないことはない。ただ、公にはなっていないが、巫術に耐性がある貴族以外の人を呪い殺すことのできる巫術師という存在がいるためその数は多くはない。

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