霧雨の特許都市ヘルトナ おまけ ヒロイン達は、これを如何に解決しているのだろう?
おまけの話です。(どう解決しているのか)他の話では、滅多に触れないお話なので、リアリティに過ぎるという方はスルーして下さい。本編に影響しない話ですし。
祐司には生理がきつく、そのたびに愚痴を言っていた妹がいることから、パーヴォットの生理の処理を気にかけていた。
パーヴォットは初潮が来ているのかどうかもわからない。ただ、生理の処理についての知識があるかどうかは後見人である祐司が聞けば、パーヴォットは答える義務がある。
「でも、聞きにくいよなぁ」
結局、祐司は恥ずかしさを忍んで、大人の女性に聞くことにした。まず、頭に浮かんだのはグネリである。
「いや、まずいかも。グネリさんと話していると、パーヴォットは、”わたし我慢してます”みたいな顔をしてるしな。
グネリさんに聞いたなんてばれたらどんなことが起こるか。パーヴォットの喜怒哀楽は分かり易くていいが、あれは嫉妬だ」
そこで、祐司はヨスタの奥さんに相談することにした。もともと、奥さんはパーヴォットが女の子であることを知っていたこともあり都合がよさそうだった。
「ということで相談に乗っていただけますか」
一通り、ヨスタの奥さんに話をすると、奥さんは固まってしまい、さらに目玉があらぬ方を向いている。
「どうしました?」
目玉どこ?になった奥さんに祐司は恐る恐る声をかける。
「いや、あんた、男だよね」
ようやく、奥さんが言った。
「はい。やはり、こういったことを男が心配するのはおかしいでしょうか」
「少し気味が悪いけど、本当は男も気にした方がいいのかも知れないね」
奥さんは、真面目に対応してくれた。
「この前、あたしにパーヴォットの下着を買ってくれって頼んだよね。実は、あの日に使う特別な女の下着があるんだよ」
奥さんの説明によると、越中褌姿式の生理用下着があるという。それは、女性器に沿って、薄い防水処理を施した革が縫い付けてあるのだという。その革の部分に布などをあてておいて吸収させる。
富裕層では布を使い捨てる、中間層では布や海綿を洗って再利用する。貧困層では使い古しの樹皮紙をもみほぐしたものや枯れたコケを利用する。
「ところで、新しい物を買うのはいいんだがね。風習としては母親のお下がりを使うっていうのがあるんだ。あの子、持ってるかね」
「さあ?」
「聞いといてやるよ。わたしも覚えがあるが、母親の使っていた生理用下着をした時は、嬉しかったよ。なんか母親がずっと身近に感じたね。女の子はみんなそう感じるよ」
現代の日本でも、娘が母親の使用した生理用品を使えばそのような感慨を持つのかは、祐司には、さっぱりわからない。
近代以前の大量生産が行われないリファニアでは全ての物が手作りであり高価であった。そんなリファニア独特の感覚のようにも思える。
次の日、祐司は奥さんに首尾をたずねた。
「やっぱり、知らないそうだ。母親の残していったものは大方、キンガ師匠が始末したらしい。見たら思い出して辛くなるってのはわかるけどね」
奥さんはちょっと困ったように言う。
「ユウジさん、あんたキンガ師匠の家の片付けをしたんだろう。何かそれらしき物はなかったかい」
祐司は考えながら返答した。
「武具類と傭兵時代の軍服はヨスタさんに預かって貰いました。パーヴォットが何処かで落ち着いたら隊商に頼んで送ってもらうことにしてます。
幾つかの小物は形見分けで、ジャベンジャ隊長や、キンガ師匠と親しかった兵隊さんに貰ってもらいました。
衣服とか鍋、釜、家具といった品は売りました。代金はパーヴォットに持たせようとしましたが、嫌がるのでわたしが預かっています。女物の品物はなかったですね」
「女は、生理用下着を男にわからないように仕舞っておくもんだ。話では母親は、いいとこのお嬢さんだったんだろう。
きっと、パーヴォットのおばあちゃんの時代から使っているような上等な物を持ってたはずだよ。娘と別れなければいけない母親ならきっと置いていくよ。もう一度よくお探しよ」
そう奥さんに言われた祐司は、旅の買い物の途中にキンガの家にやってきた。大家は祐司達の出立の日までは使ってもらっていいというので鍵を預かっていた。南京錠を解除して中に入る。荷物は全て運びだされた空虚な空間があった。
ふと、祐司は天井を見上げた。
現代日本でも、リファニアでも人間の考えることに大きな差は無いはずである。そう思った。祐司は隣の家で、椅子を借りてきた。椅子の上に乗って丁寧に天井を叩く。すると、一ヶ所、浮き上がる部分があった。
板を乗せてあるのだ。天井裏を見るための穴だ。祐司は手で天井裏をまさぐった。手に何かが当たった。たぐり寄せて、床に降ろしてみると、証書入れくらいの小振りな柳行李だった。
開けてみる。
「あった!」
「こいつは良い品だよ」
ヨスタの奥さんは、祐司が持ってきた生理用下着を見て感心した用に言う。
「この柳行李もしっかりしている。きっと、お嫁入り道具だったんだろうね。リファニア女は、落ちぶれて晴れ着を売っても、生理用下着だけは娘のために最後まで取っておくんだ。
パーヴォットの母親は、身を売るほどの酷い目にあったんだろう。これを売ればかなりの金になったろうに。母親の心意気を感じるよ」
奥さんは最後の方は、少し泣き声だった。
女性器に合うように、細く縫い付けられた革の両端は土手のように盛り上がっていた。周囲に漏れないようにする工夫だろう。
普通は下着の内側だけに革が縫い付けてあるというが、祐司の持って来た生理用下着は表側の曲湾して体にフィットするように堅めの革が縫い付けてあった。そこには、銀の象眼を入れた細かな絵柄が施されていた。絵の周囲には、芥子粒のような小さいサファイアが幾つも埋め込んであった。
一際、目を引くのは、革の一番上、ちょうど下腹に当たる部分に埋め込まれたグリーンピースほどのルビーだった。
「パンサ神が二人の子供の手を取って踊ってる絵だね。子宝の印だよ。それに、このサファイアとルビーも子宝を願うもんだ。今度は生理が来ずに子を授けてくださいと願ってこれをつけるんだよ」
「ここに小さな字が書いてある。使った人の頭文字だよ。一つはA(本当はリファニア文字)とLだ」
「Lは多分、パーヴォットのお母さんのリャニーメルのことです。もう一つは公爵の妾に差し出されたというおばあさんの頭文字でしょう」
後で、祐司がパーヴォットに聞いたところ、おばあさんの名はアンテァアだった。
「ところで、肝心なことですが、パーヴォットには初潮があったのでしょうか」
祐司はちょっと勇気を出して言った。
「昨日からね」
奥さんは、こともなげに言う。
「はあ、で、その…」
今日は祐司が固まる日だった。
「あの子、ほっとしたんじゃないかね。話は聞いているよ。ああ、心配しなくてもわたしは余計な事は誰にも言わないから大丈夫だ。
去年、裏の通りの若い女中が、初潮のないのに腹が大きくなったことがあってね。相手はそこの旦那だ。おかみさんがどっちもまとめて殺してやるなんて言って刃物を振り回して一騒ぎあったんだ。
この辺りじゃみんな知ってる話なのさ。そんなことが、身近であったし、いつ初潮があってもいい年頃だからパーヴォットは心配してたと思うよ」
「それで…」
「生理用下着はあたしのを貸してやってるよ。使い方もちゃんと説明しておいた。第一、もうあたしはあがってしまったから無用の長物さ。
それに、子供は男の子が三人で使い道がない。そうだ、貸すなんてケチなことは言わないよ。餞別にパーヴォットにやるよ」
「でも、それは奥さんのお母さんのでは」
「それはやらない。やるのはわたしが日常で使ってたやつさ。これとは月とすっぽんだけど実用的で働きやすくて、いい品だよ。
あとは吸わせるもんだけど布もいいけど、旅で簡単に洗えて干すことが出来なくても使える海綿が一番良いよ。ちょっと高いけどね」
「海綿買います」
祐司はあわてて言う。
「買っといてやるよ。あの海綿は特別な形をしているから男が行くような店には売ってないからね。代金はユウジさんに請求していいかい」
「もちろんです。一番いいのを買って下さい。予備も買っておいてください」
「でも、これはどうすれば」
目の前の生理用下着に目を落として祐司が聞く。
「この生理用下着は特別製だ。貴族や裕福な家では生理に関係なく初夜にこれをつけるんだよ。わたしは生理のある子を産める女ですっていうわけだ。
だから、パーヴォットの嫁入りの時まで大切にしておくんだね。これを見たら男はイチコロだね。わたしの安物だってヨスタはメロメロだったからね」
奥さんは、笑ったが少し卑猥な感じがした。
「奥さん、大胆な言いようですね」
完全に気押された祐司は、言った後でため息をついた。
「女もこんなこと若い男に平気で言えるようになったらおしまいさ。でも、折角、母親がその母親から伝えてきたものだから、次の生理の時には一度使えばいい」
「はい、薦めてみます」
「ユウジさん、次の生理がこなかったなんてことがないようにね。まだ、あの子は子供だからね。
そんなことになったら、何処にユウジさんがいても、裏の通りのおかみさんのように、あんたを包丁で刺しにいくよ」
奥さんの言葉には迫力があった。
「重々承知しております」
「冗談さ。でもさ、悪口のように、男が女は子宮で物を考えるなんて言うけど、これを使えばパーヴォットは、女は子宮で情愛を感じるってことがわかるよ」
奥さんは笑いながら言った。しかし、目は真剣だった。
「奥さん、パーヴォットの初潮があったということで、旅の出発は遅らせた方がいいでしょうか」
祐司は恐る恐る聞いた。男は現代日本でも、リファニアでも生理のつらさやわずらわしさはわからない。
「生理は病気じゃないから、これから女として慣れていかなくちゃね。もう一日ほど様子を見るけど幸いあの子は軽いようだから大丈夫だよ。でも、多少は気遣ってやっておくれ」
奥さんは事も無げに言う。
お わ り




