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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二章  北クルト 冷雨に降られる旅路
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霧雨の特許都市ヘルトナ16 狂戦士

 また、話は数分遡る(キンガ視点より始まります)


「ここは通さん」


 キンガは祐司の方へ走っていくバルタサルの一撃をなんとかそらすとバルタサルの前に仁王立になった。


 バルタサルは無言で激しくキンガに剣で何度も打ちかかった。キンガはその力を少しずつ後退することでなんとか受け止めた。


 キンガはひたすら耐えた。相手の剣は五キロ以上はある大振りの剣である。打ちかかるのも力がいるが、勢いのある剣の動きを止めて再び打ちかかる為にはかなりの力を消費する。そして、疲れて攻撃が緩慢になるはずであった。その反撃の機会をキンガはひたすら待った。


 ところが、バルタサルの攻撃は機械のようにペースを落とすことなく続けられた。キンガの方が息が上がってきた。


 たまらず、キンガは少し後ろに飛び退いた。


 剣の届く距離から離れると、バルタサルも少し荒い息をついた。しかし、それも一瞬のことだった。


 再びバルタサルの激しい攻撃が再開された。バルタサルは攻撃一辺倒で下半身や、脇はスキだらけだが、キンガにはそこを攻撃する余裕はなかった。

 バルタサルに一回でも空振りをさせれば、キンガは手痛い一撃を与えることができるはずだったが、バルタサルは正確に打ち込んできた。


 やがて、たまらずキンガが後ろに飛び退く。こんなことが数回繰り返された。


 腕の立つ剣士でも連続したバルタサルにさらされれば、やがて、剣を受け止め損ねて頭や肩を打ち斬られる。

  それを百戦錬磨のキンガは経験を生かしてしのいでいた。バルタサルはこんな長い間、攻撃を続けたのは初めての経験だった。


 気力や戦意はまったく衰えていないが、バルタサルの腕の筋肉が悲鳴を上げだした。腕の筋肉が痙攣を始めたのだ。まだ彼が二十代や、少なくとも三十代ならキンガの筋肉の方が先にまいっただろう。


 現実のバルタサルは、すでに四十の坂をかなり越えていた。


 キンガはバルタサルの嵐のような攻撃と攻撃の間が次第に長くなっていることに気がついていた。


 ただキンガも一連の攻撃を防ぎきったあとは、休息を必要としたため攻撃に出られなかった。冷静に考えればここで引き分けに持ち込む、つまり延々と今の状況を続けて祐司が残りの三人を始末してから二人で対応するのが最善の手段だった。


 事実、並の相手なら勝てる術を、驚異的な速度で動く祐司には授けたつもりだった。


 もし祐司が戦友ならキンガは躊躇なくそうしただろう。しかし、祐司はキンガにとって弟子である。祐司の応援に駆けつけることはあっても、その逆はキンガにとっては埒外の考えだった。


 反撃に出て祐司の応援に駆けつける。パーヴォットを早く救いたい。キンガはこの思いがあるため次第に焦りがつのってきた。


 次の攻撃の最中かその直後に乾坤一擲の反撃に出る。キンガはそう決意した。そのためには体力を温存する必要があった。


 次の攻撃からはできるだけ受け流す。キンガはそう決めた。


 バルタサルの攻撃が始まった。まともに剣を受けるのではなく、できるだけそらせるように攻撃を受ける。

 もともとキンガの剣の方が軽いため少しずつは、バルタサルの剣をそらして力で圧倒されないようにしていたのをより効率的にするのだ。それだけに高度な技術が要求される。


 キンガは限界まで精神を集中させた。


 バルタサルの攻撃が中断したときに、キンガは次の攻撃が終わった後に反撃にでることに決めた。この思いがキンガの集中力にほんの少しだがスキをもたらした。



 バルタサルが攻撃を始める。最初の数回はしのいだが、初めてバルタサルの剣をそらせなかった。

 キンガは修正ができまいままバルタサルの攻撃を受け続けて、ついに剣を横にした状態でバルタサルの剣を防ぐはめになった。


 三度、四度と恐ろしい力で横から打撃されたキンガの剣は限界がきた。キンガの剣は薄くすることで軽く造られ、バルタサルの剣は振り回せる限界まで厚くなっている。



 五度目についにキンガの剣はちょうど半分の位置で折れた。


 キンガは半分になった剣で二度ばかりバルタサルの攻撃を防いだが、ついに右の肩口にバルタサルの一撃を受けた。


 両者が百回ちかく打ち合ったために、双方の剣は刃が折れ曲がったノコギリのような状態になっていた。そのために、バルタサルの剣はキンガの右の鎖骨を折り、数センチ身体に食い込んで止まった。


 バルタサルが剣を抜くと鮮血がキンガの肩から噴き出した。キンガは右腕が使えなくなり、剣を振り回すことができなくなった。


 バルタサルは剣をキンガに突きだした。力を込めた刺突は、鎖帷子を押し破っりキンガの左の脇腹に剣先を深く突き刺さした。


 バルタサルの扱いにくいが、並の鎧を貫く重たい剣はこの一瞬のためにあった。


 キンガは剣を落として尻餅をつくように倒れた。


 キンガが見上げるとバルタサルが剣を頭上に振り上げてトドメの一撃を振り下ろそうとしていた。とっさにキンガは祐司からあずかった小刀を腰から引き抜いて左手に持った。


 小刀など一撃ではじき飛ばされてしまう。キンガは覚悟して目を閉じた。


 次の瞬間、何かが折れる音がした。


 キンガが目を明けると、バルタサルの剣が切っ先から三分の一ほどのところから先が無くなっていた。



 バルタサルは何が起こったのか理解するのに少し時間がかかった。仕留めたと思った瞬間に剣の先が無くなったのだ。バルタサルは反射的に残った剣を振り上げるともう一度キンガに振り下ろした。

 

 再びまた何かが折れる音がした。


 バルタサルの剣は今度は根本から三分の一ほどのところを残してその先を失っていた。折れた剣の破片が二つ十メートルほど先にあった。


 バルタサルは剣を捨てた。その時、ベガウトの声が聞こえてきた。



 

 ベガウト達の背後で祐司の目にバルタサルが走って来るのが見えた。その後ろには倒れたキンガいた。

 バルタサルはあっという間に、祐司達三人が対峙している場所に来ると倒れているギャフスの手下が持っていた長槍を拾った。バルタサルは祐司を威嚇するように、二度三度頭上で槍を振り回した。


 バルタサルは人の声とも思えない蛮声をあげると槍を頭上に掲げたまま祐司の方に突進してきた。


 祐司はベガウトと話して、更にルードビニの攻撃を余裕で受け流したことで平常心にもどっていた。生化学的にはアドレナリンの分泌が低下していた。

 もし、ルードビニの攻撃を受け流すことなく一撃で、ルードビニを仕留めていたのなら祐司の戦闘モードは持続してバルタサルに立ち向かっただろう。


 しかし、悪鬼のような姿で迫ってくるバルタサルに立ち向かう戦意は祐司からは失われていた。月並みな表現で言うと臆病風に吹かれたのだ。


 祐司はバルタサルに背を向けると一目散に森へ逃げ込んだ。槍を頭上に掲げた持ったバルタサルがその後を追いかける。少し、後ろから勝利を確信したような表情のルードビニが追従する。


 よろめくように走る祐司にバルタサルが迫ってくる。バルタサルは槍を威嚇するように左右に振り回した。ところが槍は近くの木に当たって跳ね返された。その反動で反対側にあった木に槍の穂先が食い込んだ。祐司はその隙に逃げる。


 祐司は数歩も行かないうちに恐怖のあまり足がもつれた。


 目の前の道は岩になっていて、1メートルほど落ち込んでいた。岩の上にはロープがある。何故ということを考える余裕もなく祐司はそこを飛び降りた。


 更に体勢が崩れた祐司はよろめくように走った。


 後ろを振り向くとバルタサルが祐司の方へ走りながら岩の上から槍を突き出してくる。


突然、バルタサルが転倒した。バルタサルは勢いのついたまま岩の上で躓いたのか無防備な体勢で大きく前のめりになって落下した。


 そして、その後を走っていたルードビニは岩の下でうずくまるバルタサルにつまづいてバルタサルにのしかかるように倒れた。


 最初は何が起こったか祐司はわからなかった。


 バルタサルはロープに足を取られたのだ。すぐ脇にはパーヴォットがロープを引っ張っている姿が見えた。


 パーヴォットは自分を縛っていたロープを岩の横にある木に結んで祐司の危難を寸前のところで救ったのだ。


 祐司の身体に再びアドレナリンが大量に分泌された。


「怪物、こっちに来い。相手をしてやる」


 祐司は出来るだけパーヴォットからバルタサルとルードビニを引き離すつもりで、二人が起き上がって武器を構えようとしている場所を避けて、一度森の中に入ってから草原の方に続く道に戻った。



「ユウジ、右横だ」


 森の入り口の直前でキンガの怒号が聞こえてきた。


 進路を左に変えた祐司が、森から出るなり右横合いから剣が飛び出してくる。


 祐司はさらに左に身体を投げ出す。祐司が真っ直ぐ走ってきたであろう場所に剣が伸びてくる。

 次の瞬間、右の視界端にいた男に対して祐司が見当を付けて繰り出した槍の穂先に鈍い手応えがあった。


 祐司が完全に身体を入れ替える。祐司の槍は刃が半ば以上に、ベガウトの胸元に突き刺さっていた。

 ベガウトは槍の柄を持って引き抜こうとするような仕草をする。祐司が二撃目を繰り出すために槍を力一杯引くと、祐司の顔にまでベガウトの胸から吹き出た血がかかった。


 ベガウトはそのまま倒れ込んで動かなくなった。血が周りの地面に広がったいくのを荒い息で祐司はしばらく見ていた。


 祐司は槍を構え直すと森の方を向いた。


 右手をだらりとたらしたバルタサルが左手で槍を持って現れた。その後に顔を地面で強打してのか頬や額に裂傷を負ったルードビニが剣を持った森から出て来た。


 バルタサルは右手を脱臼か、もしかしたら折ったのだろうと祐司は思った。


バルタサルは間合いを詰めると、片手で槍を祐司の方へ突き出す。祐司は左へ体を避ける。


「バカ、あいつは片目だ。それなのに相手が見える方へ逃げてどうするんだ」


 キンガの罵声が飛んできた。いつの間にかキンガは身体を引きずって近くまできていた。


 突然、バルタサルが酷く咳き込みだした。口から血が飛ぶのが祐司には見えた。そのバルタサルの足元に矢が続け様に二本突き刺さった。


「逃げろ。オレの仇を取れ」


 仰向けになって虫の息のベガウトが気力を振り絞って言った。最後の言葉は正しい命令だった。そう言うとベガウトの口から血が溢れた。


 まだ、槍で祐司を威嚇しようとするバルタサルをルードビニは無理矢理森の奥へと引きずり込んだ。


四話ほど戦いの描写に使ってしまいましたが、実時間で二十分弱の出来事になります。

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