ベムリーナ山地の秋霖24 地下神殿
「さあ、そろそろ懲罰坑だ」
”精霊亭”の亭主の話が終わり数分黙って歩いていると、鉱山の治安担当主任であるヘルマンニが案内役の治安担当監督ゲルブレクトに言った。
「少し遠回りになりますが」
ゲルブレクトが、明らかにそれでもいいのかというような顔をした。
「懲罰坑も見て行きたい」
ヘルマンニが迷わずに言った。
「すぐ先で、少し下ります。階段があります」
ゲルブレクトはひょうひょうと歩きながら言った。
今まで歩いてきた坑道の横に、比較的大きな竪坑があった。竪坑の傍には横置きの巻き上げ機があり二人の囚人が回して鉱石を引き上げていた。そのすぐ横で、トロッコ押しの囚人が荷が届くのを待っていた。
ゲルブレクトは階段と言ったが、梯子の構造をした非常に急な代物だった。これは、鉱石を引き上げるためにできるだけ竪坑を垂直にする必要があるためのようだった。
どうも、ザザムリバ鉱山では、梯子とは完全に垂直になったモノであり、多少でも傾斜があれば見かけは梯子でも、階段と呼ぶようだった。
十メートルほど下ると、少し狭い坑道に出た。
そこにも、一人の囚人がいた。囚人の傍には鉱石が積まれていた。この囚人は下で鉱石を積む役のようだった。
「ヘルマンニ様、囚人はトロッコ押しをすませると、先程のような仕事をするのですか」
パーヴォットが、ヘルマンニにたずねた。
「あのような仕事をする者は、刑期が三分の二以上過ぎた者だ。トロッコ押しが終われば三四年は別の仕事がある。
ほら、そこで、坑道が二つに分かれているだろう。右の方を見ればどういった仕事をするかわかる」
ヘルマンニが指さした右の坑道は、坑木が折れて坑道全体が潰れたような状態になっていた。
「あの潰れてかけた坑道から音がするだろう。奥の方で囚人が補修作業をしている」
ヘルマンニが言うように、坑道の奥から幾つかのハンマーを振るうような音がしていた。
「見ているだけで恐ろしいです。早くここから出たくなります」
パーヴォットが怖じ気づいたような声で言った。
「坑道というのは、上から大きな力で押されています。だから、木で補強してやる必要があるのです。
ただ、太い木でもたたき割るような力がかかってこの坑道のような状態になります。囚人はこういった場所の補修や、新しく掘った坑道に坑木を設置する仕事をしています」
ゲルブレクトが説明する。
「補修作業している時に、また、落盤は起こらないのか」
カレルヴォが聞いた。
「だから、囚人の仕事なんだ」
ヘルマンニの言葉から補修作業中にも落盤は起こるようである。
「刑期終了までにどのくらいの割合で事故にあうんだ。あまり、多いと仕事に支障があったり、囚人の意欲が下がるだろ」
カレルヴォが、明らかに囚人の心配ではなく効率面から聞いた。
「計算では、十年働いている囚人百人のうち十二人が、深刻な落盤事故に遭います。そのうち五人は命を落とします。
少しくらい崩れるような落盤でしたら、十年も働いていれば、ほとんどの囚人が遭遇します」
ゲルブレクトが、すぐさま答えた。安全や人命に対する意識が、現代日本よりはるかに希釈なリファニアあるが、その数が多いのか少ないのかは祐司にはわからない。
ただ、カレルヴォが納得したような顔をしていることから、為政者の側から見れば許容範囲のようである。
「去年は、死んだのは三人だけだ。十人ばかりが大怪我だ。後遺症が残って坑内で働けなくなった者は、しかたないので鉱石の選別作業に回している」
ヘルマンニも、事も無げに言う。
「ここは落盤など起きませんよね」
パーヴォットは、急に坑道のあちらこちらを見ながら言った。
「大丈夫です。今、われわれがいる坑道は、そんなに山の力がかかっていません。坑木もしっかりしています。それに、落盤が起きる時はなんとなく前兆があってわかります。かすかですが山が泣くんです」
ゲルブレクトが苦笑しながら言った。
「さあ、そろそろ懲罰坑だ」
ヘルマンニが、そう言ってから二つほどの作業中の竪坑を過ぎて、かなり大きな竪坑がある場所にきた。
そこには、比較的大きな縦置きの車輪の様な構造をした巻き上げ機があり、三人の囚人が巻き上げ機を回転させていた。
そして、他の竪坑と異なっていたのは、祐司が使用する短槍より少し長い槍を持った兵士が二人いたことだった。
二人の兵士は、槍を右手、ランタンを左手に持って、対角線の位置で竪坑の縁に立っていた。
「ここの囚人は模範囚だ。楽な仕事をしている」
ヘルマンニが言う。
兵士と囚人は、ヘルマンニに軽く会釈をした。ヘルマンニは、少し手を上げた。兵士と囚人は、ヘルマンニたちがいないかのように仕事を再開した。
兵士が「止めろ」と命令した。兵士は、ランタンを竪坑に向けて何事かを確認してから「上げろ」と命じた。
「下から囚人がいっしょに上がってきていないか確認している」
ヘルマンニが兵士の行動の意味を説明した。
やがて竪坑の中から、鉱石が詰まった丈夫な木の桶が上がってきた。桶の大きさから囚人が運んでいたトロッコに積まれたほどの鉱石である。
囚人の一人が、ノッチをかけて回転車を固定させる。
すると、三人は鉱石の入った網を引き寄せる。鉱石の上に木札と空の革水筒が置かれていた。木札にはチョークで、三角と丸を組み合わせたような印が描かれていた。
囚人の一人がそれを確かめて、画板のようなものにチョークで記録した。
残りの二人の囚人は桶に入った鉱石をばらまいた。そして、一人は壁際にあった桶の中の水を革水筒に入れる。もう一人はこれも壁際にあった袋の中から硬く焼きしめた手の平ほどの大きさのパン三片を取り出した。
二人が、それぞれ革水筒とパンを桶の中に入れると、桶は竪坑の位置に戻されて降下していった。
「ここは、鉱山で、さらに罪を犯した罪人が送られる場所だ。主に喧嘩で人を殺めた者や、仕事を休むほどの怪我をさせた者だ。
鉱石五十斤(三十㌔)について、水二クォート(二リットル)、鉱石百斤(六十㌔)で、堅パン三切れが与えられる。働く時間には制限がない。ただ、ハンマーと鑿で鉱石を掘り出すだけでいい。懲罰にしては寛大だろう」
ヘルマンニは、作業の様子を見届けてから言った。
ヘルマンニは、簡単にハンマーと鑿で掘り出すだけでいいというが、石英の混じった硬い泥岩をハンマーと鑿だけで、百斤(六十キロ)掘り出すのにどれほどの労力がいるのだろうと祐司は思った。
「さっき、木札にあったのは、誰が掘った鉱石かという印です。字が書けない者がほとんどですから、囚人には記号を与えています」
ゲルブレクトが補足するように言った。
「二年ここにいれば、元の仕事場に戻す。しかし、今まで戻ってきた者はほんの一握りだ。そのもどってきた者もほとんどが一年以内に坑内の事故で死んでいる」
ヘルマンニが、そう言ってから乾いた笑顔を見せた。
「どういうことだ」
今まで、黙り込んで作業を見ていたカレルヴォが聞いた。
「この下は、監督はいない。多分、力のある者が他の者から鉱石を取り上げる。そして、体力を温存して生き延びる。
ただ、このような閉鎖された空間でも何が起きているかは囚人に噂で伝わる。なにしろ死人が出れば、その死体を回収するのは囚人の仕事だからな。死体を見れば何が起きていたかはわかる。そして、生き延びた者は蛇蝎のように嫌われる」
ヘルマンニの言葉に、頭の回るパーヴォットが聞く。
「坑内の事故って、階段や梯子から転落するということが多いんでしょう」
「なかなか聡い従者だな。そうだ、階段や梯子からの転落は多い。よくある事故だ」
ヘルマンニは、微笑しながら答えた。
「ここでも正義はあるんだ」
現代日本の感覚とは多少ずれた正義感を持っているパーヴォットが独り言のように言った。
「さすがに下には降りることができません。週に一度だけ、厳重に武装した監督と兵士が掘り進める箇所を指示しに降りるだけです」
ゲルブレクトが、淡々とした口調で言った。
竪穴からは乾いた鑿の音が合奏のように響いて聞こえている。
「規定通りに仕事をしているようだ。決められたことを手を抜かずにやり続けることこそが任務だ。これからも、絶対に規定を守って仕事を続けろ。そうすれば、それなりの報酬はある」
ヘルマンニは、兵士と囚人に向かって言った。そして、振り返るとゲルブレクトに指示を出した。
「この者達に、来月もここの仕事をさせろ」
このヘルマンニの言葉を聞いて、兵士と囚人は、嬉しそうな表情を浮かべた。
兵士はなにがし等かの手当がある仕事、囚人は気を抜きさえしなければ命の危険もない比較的楽な仕事であるのだろうと祐司は思った。
「ヘルマンニ様、地下神殿の方へ進んでいいでしょうか」
ゲルブレクトが遠回しな言い方でヘルマンニに催促した。ヘルマンニは「ウン」と言うように顎を引いた。
数十メートルほど進んで、一旦、竪坑を上に上がる。そこは、坑木の組み方から今までとは異なった別の坑道のようだった。
その坑道は、しだいに左にカーブしていく。幾つかの竪坑があり、それぞれ、小型の巻き上げ機が設置してあった。
その竪坑のどれもが、鑿の音がしていた。時々、トロッコを押す囚人ともすれ違う。
やがて、坑道に兵士が立っている場所に来た。
近づいてからわかったが、兵士が立っている場所には、岩壁を掘り抜いて待機場所のようにした部屋があった。その中にも二人の兵士がおり、ヘルマンニがくると慌てて飛び出てきた。
「神殿へのドアを開けろ」
ヘルマンニは、入坑許可証を見せると兵士に命令した。
兵士は、岩壁に設えられた、金属板で補強された頑丈そうな木製のドアに鍵を差し入れて開けた。そのドアを兵士が二人がかりで開けた。
「お帰りの時は、ドアの横に木槌がありますので叩いて下さい」
ドアを一同がくぐり抜けると兵士は、そう言ってまた重たいドアを二人がかりで閉じた。
ドアが閉まると鍵をかける音がした。
ドアの内側には、先程の坑道より少し小ぶりな坑道があった。
坑道は少し下っていくような感じで、次第に地面や岩壁が濡れてきた。ところどころ天井からは水がしたたり落ちていた。水は坑道の端につくられた小さな溝を伝って、祐司達が進む方向に流れていた。
坑道の行き止まりに、大きな竪坑があった。竪坑の前には鉄格子のドアがあり南京錠がかかっていた。ゲルブレクトが懐から鍵を取り出して鉄格子のドアを開ける。
全ての人間が竪坑のある位置に入ったことを確かめたゲルブレクトは南京錠をかけた。そして、祐司達は竪坑を二十メートルほども垂直に近いような梯子にしがみついて外側を背にして下った。
坑道を流れていた水は小さな滝のように、その竪坑を落下していた。祐司達は濡れないように慎重に階段を下る。
やっとくだり終わったと思うと、数メートル横には、また同じような竪坑があり、再び二十メートルほどを下る。
降り立った坑道は、真新しい坑木が組まれていた。坑道としてはかなり小ぶりで、人が二人並んで進むほどしかない。その上、坑道の右には比較的大きな溝があり、勢いよく水が流れていたために、一列になって進むしかなかった。
その狭い坑道を、百メートルほど進むと、また。南京錠で閉じられた鉄格子のドアがあった。
「さあ、このドアの向こうです。でも、まだ少し歩きますよ」
ゲルブレクトが開けた鉄格子をくぐった祐司は、坑道に坑木がないことに気がついた。そのことを聞く前に、ゲルブレクトが説明した。
「ここからは、通りやすいように少し拡張しましたが、天然の洞窟になります。」
右端にはやはり溝が掘られており、かなりの水が進んで行く方向に流れていた。
「この水は鉱山で出た水です。鉱山はかなり高い所にありますから、そう多くの水は出ませんが、それでも鉱山ではやっかいなものです。
以前は、汲み上げていましたが、今はここに排水できるようになって、大幅に作業の効率があがりました」
曲がりくねった天然の洞窟を数百メートル進むとと急に開けた場所にでた。
そこは、鍾乳洞だった。
鉱山から流れてきた水は、鍾乳洞の真ん中にある池に流れ込み、銅が含まれているためか緑の光を放つ池の水はさらに奥へと流れ込んでいるようだった。
「どうです。びっくりしましたか。見事なものでしょう。今から五年ほど前に坑道を掘り進んでいたらこの鍾乳洞に出くわしたんです」
ゲルブレクトが自慢げに言った。
ただ、秋芳洞などの日本の見事で大きな鍾乳洞を知っている祐司の目から見れば、ささやかな鍾乳石が数本見られる程度の貧祖な鍾乳洞である。
「出くわした?」
カレルヴォが不思議そうに聞いた。
「鉱脈を追っているうちに発見したのです。神々のお導きに違いありません」
ゲルブレクトが、また自慢げに言った。そして、鍾乳洞の岩陰に一同を案内した。
「ここから階段があります。あがりましょう」
ゲルブレクトが言うように、岩陰には人がようやく一人通れるほどの階段が刻んであった。一目でかなり古いモノのように見えた。
階段は十メートルばかり続いており岩のテラスのような場所に出た。
「ここがザザムリバ鉱山を守る地下神殿です」
ゲルブレクトが言うように、岩のテラスの奥には、岩壁を刻んだ小さな神殿があった。
「大昔の神殿だ。そこに碑文がある」
ヘルマンニが、岩壁を指さした。確かに岩壁の一部が削られており、そこに文字が刻まれていた。
「ネズミの年、吉日にムリン神に捧げる」
祐司は、古い字体の碑文の先頭部分だけをかろうじて読んだ。ムリン神とはムーリン神のことのようだった。
「調べてもらった神官の話では、千三百年以上前のもののようだ。その頃は、まだ土着のイス人に信仰がおよんでおらず、しばしば神殿が略奪されたそうだ。だから、そんな時代に地下に神殿を造ったのだろう」
ヘルマンニが解説してくれた。
「ほんとうの出入り口は落盤で塞がれてしまったようです。ですから今ここに出入りするのは先程の坑道しかありません」
ゲルブレクトは、そう言いながら神殿の右の方を指さした。確かに、そこはかつては、この神殿に通じていた通路のようだったが、びっしり石が詰まって完全に塞がっていた。
「太古の神殿が、そのまま、ここにあるんですね」
ずっと、神殿を見ていたパーヴォットが感嘆したように言った。
「参拝しますか」
ゲルブレクトが聞いた。
「是非、お願いします」
祐司は二の句無く言った。
「来月からここは、街の神殿の一部になり、直接管理されます。そうなれば、一般の住民も参拝できることになりますが、落盤で塞がった昔の出入り口を整備してないと実際は無理です。
また、その出入り口が出来たら、坑道からここに来る道を閉ざさなければなりませんが、排水路だけは確保しなければなりません。それも一仕事です」
ゲルブレクトは、そう言いながら岩の神殿の前に置いてあった二つのランタンに火をつけた。そのランタンの光で、神殿の中に高さが三十センチほどの石造りの神像が露わになった。
「あの神像は、千年以上前のムーリン神の像です。この神殿のご本尊になります」
ゲルブレクトが、神像に深く頭を垂れてから言った。
「壁に掘ってあった文字から、ここは一願成就の神殿だとわかった。貴殿は一願巡礼ということだから、その一願を祈ってみてはどうだ」
祐司が神殿に近づこうとすると、ヘルマンニが声をかけてきた。
「はい、ありがとうございます。どこの神殿、祠でも我が一願を念じております」
祐司はいざ心の中で、本心に秘めたる一願を願おうとして躊躇した。
祐司の願いは現代日本への帰還である。そのためには、巫術のエネルギーで人の住める土地になっているリファニアを犠牲にする可能性が高い。
リファニアにとって、災悪をもたらす自分はリファニアの神々に願いをすべきではないと祐司は感じた。そして、祐司はリファニアの神々には、リファニアの人間が幸せになることを祈るべきだと思った。
「皆で祈ろう」
ヘルマンニが、声をかけると一同は頭を垂れて神殿に祈りを捧げた。
祐司は心の中でパーヴォットの幸せを祈った。
祐司一行は、四半刻ほど地下神殿にいてから、地上に戻るために降りてきたゴンドラのある場所に引き返した。懲罰坑と大釜のあった場所は通らなかった。
どうも、ヘルマンニは、懲罰坑と大釜の様子を見たいために往路で通ったようだった。
地下神殿から、ゴンドラのある場所まではトロッコが行き交う大きな坑道ばかり通っても半刻以上かかった。
その間に無数の枝のようになった小さな坑道があるので、坑道の総延長は二十リーグ以上あると、ゲルブレクトが教えてくれた。
やがて、祐司達は鉱山に入って来たゴンドラの場所に戻る。
祐司とパーヴォットは、そこでゲルブレクトに何度も謝辞を述べて、ゴンドラで地表に戻った。
地表に戻ると雨があがり急速に雲が流れて青空が見えだしていた。祐司は、何度もヘルマンニに今日の礼を言った。
祐司は地表に戻ってから地下では巫術のエネルギーによる光を一度も見なかったことに気がついた。巫術のエネルギーが溜まった土壌や岩が見られるのは地表付近に限られるようだと祐司は思った。
ヘルマンニとカレルヴォは、旧交を温めるために二人で酒を飲みにいくことになったので祐司とパーヴォットは、二人だけで”精霊亭”に帰って早めの夕食を食べた。
その後で、明日の出立に備えて、祐司とパーヴォットは風呂屋に出かけた。
「ユウジ様と一緒でなければザザムリバ銀山を見学するなんてできませんでした。有り難うございます。
今まで、使っていたお金が、あんなに苦労して掘り出されて、大勢の人の手を借りてお金になっていたんだと初めてわかりました」
洗濯物を畳みながらパーヴォットが祐司に言った。
「ここに来て見ろ。きれいな星空だ」
窓から夜空を見上げていた祐司は、パーヴォットの話には乗らないでパーヴォットに声をかけた。
「そうですか。街が明るすぎますよ」
確かに、ザザムリバの街は、二十四時間操業の鉱山で働く人間のために、リファニアでは珍しく眠らない街であり、それなりの灯火もついてはいる。
「オレの故郷では星が見えないくらい街が明るい」
祐司からすれば、どんな日本の田舎町でも、ザザムリバの十倍は明るい。
「いつからそんなほら吹きになったんですか」
パーヴォットが微笑みながら言った。
「きっと、明日は良い天気だ」
星が激しく瞬くのを見て祐司が言った。星の瞬きは上空に風が吹いている証拠である。祐司は雨雲も追い払われるだろうと思った。
「もう、雨は降らないでしょうか」
「話では、秋霖は半月ほどで終わるらしい。一月も続くことはないそうだ」
パーヴォットの質問に、ようやく祐司は窓から離れて、パーヴォットの方を見ながら言った。
「そうですね。急に肌寒くなってきましたものね。さっきから体がぞくぞくします。きっと雨の時期が終わって季節が進んだのですね」
パーヴォットのこの言葉を聞き流した祐司は後で悔やむことになる。
何話も費やしてしまいましたがザザムリバ鉱山観光も、この話で終わります。次話より、話は、この章の後半のまとめに向かって動き出します。




