最果ての村アヒレス4 巫術師崩れ
この話では、祐司の旅に大きな影響を与えた少女が出て来ます。そして、前話の最後の場面から、祐司視点で事件が進みます。
祐司はアヒレス村が見えてきた場所で最初の村人に出会った。
道ばたで早咲きのポピーのような花を摘んでいた少女だった。少女は花を摘むのに一生懸命だったのか祐司が近くに来るまで気がつかなかった。
「こんにちは。わたしは巡礼だ。ここは千年巫女様の祭礼をするアヒレス村だよね」
立ち上がった少女が逃げださないように、祐司は急いで声をかけた。まだ春浅い時期に人跡の薄い街道の北からくる人間を警戒するのは当然だろうと祐治は思った。
少女は立ち止まって祐司を見た。
かなり小柄だが十四五歳くらいかと祐司は思った。ぼろぼろの服を着た少女である。薄褐色の髪を藁のようなもので束ねていた。
まだ、時折、凍えるほどの風が吹き日陰には昨日まで降っていた雪が残雪で残っているのに少女は裸足だった。
少女はスヴェア以外の人間で、初めて至近距離で見た人間である。予想したように少女は時折、赤みがかった極薄い光を発していた。巫術のエネルギーがリファニアの人間に反応しているのだ。
「春だから商人が来てると思うんだ。もし、来てるなら案内して欲しいんだけど」
少女は黙ったまま祐司を見ていた。
「来てないなら、村の神殿を教えてくれないか」
少女は訝しげに祐治を見たまま立っている。祐司は巡礼の印であるオオタカの尾羽がよく見えるように身体の位置をずらした。
「これ、食べないか?」
祐司は馬の荷物から燻製を一切れ取り出した。少女はそれをひったくるようにして受け取ると、一口二口とかぶりついた。
祐司は少女が摘んでいたのは花ではなく、草であることに気がついた。スヴェアに食べられる草だと教えて貰ったものが幾つかあるが、その中でも、普通の雑草との違いがほとんどなかった草である。
「ヨスタさんが来てる」
少女は、まだ口に肉が入っているのにかまわずに言った。
「ああ、商人の名だね」
「もう一つ」
少女が手を出した。祐司は先程より少し大きな燻製肉の塊を少女に渡した。
少女の顔から少し緊張感がなくなった。ひどく痩せていて何日も顔を洗っていないような汚れようだが、祐司は頭の中で鳶色の目の愛らしい少女に変換した。
突然、燻製肉を受け取った少女は手招きすると走り出した。祐司は馬を曳きながらあわててついていく。しばらく、走り、家が散在するような場所になると少女は立ち止まって前方にある大きな平屋を指さした。
「あそこかい?」
「今日はお店になってる」
少女はそう言うと、祐司が今来た道の方向へ走り去った。
祐司はクズリも始末してもらおうと教えられた店に入った。
ところが祐司はいきなり、ディオンという人相の悪い酔っぱらいに難癖をつけられて内心途方に暮れた。
そして、成り行で老人が酔っぱらいになぶられる。祐司は酔っぱらいが一際強い光を常に発していることに気がついた。光の強さは安定しないが、赤みの強い光と黄色の光が混じっている。
祐司は巫術師だと判断した。
事情はわからないが、降りかかる火の粉は振り払わなければならない。それに祐司は巫術師になら負けないと思った。
光に品格があるとすれば、スヴェアの光は至上の光でディオンという男の光は酷く蓮っ葉な光だった。下位の巫術師は光が安定せず巫術の発動時に光が強くなるようだ。
「やめろ」
祐司の言葉にディオンは一瞬たじろいだようだった。
「だまって見てろ。こいつの次はお前だ!」
ディオンは逃げかけた村長の手を左手で掴んで、右手を村長の胸に当てて巫術を発動しようとする。村長の目が恐怖に引きつった。
祐司は書籍の知識から”衝撃術”だと思った。まともに食らえば村長は数日全身麻痺で苦しむか、後ろの壁に叩きつけられ何本か骨が折れるほどの衝撃を受ける筈である。
祐司はディオンと村長の間に入って二人を引き離そうとした。
「良い度胸だが、お前はバカだ。手加減はなしだ。死んでもお前の責任だ」
ディオンは衝撃波を撃とうと右手を祐司に突き出して胸を押した。何も起こらない。あわてたディオンは何度も右手を祐司に押しあてる。
知らない人間が見れば酷く滑稽な格好である。祐司はゆっくりディオンの方へ体を押し出した。ディオンの押し出した手が迫ってくる祐司の胸を再び押した。その反動で祐司よりはるかに小柄なディオンは尻餅をついた。
「だいじょうぶですか」
祐司はディオンの肩と腰を持って起こしてやった。巫術のエネルギーがどんどん排出されていく感覚が祐司にはわかった。祐司には初めての経験だった。祐司はその感覚がなくなるまでディオンをさわり続けた。
「うるさい」
ディオンは祐司を払いのけた。ディオンはひどい千鳥足だった。急に巫術のエネルギーが抜けて体の均衡を欠いているのだ。
「お前は明日の朝日は拝めないからな」
捨て台詞を言ったディオンはあちらこちらにぶつかりながら表に出て行った。
あっけに取られていた村人達が、ディオンがいなくなると一斉に手を叩いて笑い出した。
「客人、名前は?」
いつの間にか起き上がった村長が祐司に声をかけた。
「ジャギール・ユウジ・ハル・マコト・トオミ・ディ・ワと申します」
祐司はスヴェアに考えてもらった名前を名乗った。
「ワとはどこですか。聞き覚えがありませんが」
村長が訝しげに聞いた。
「ヘロタイニアよりも遙かに東にある島です。巡礼のために久遠の時と空間を超えてリファニアへとやってまいりました」
「それはよいお心がけです。申し遅れましたが、わたしはドヴィラ・マルク・ハル・マルク・ハース・ディ・クルト、この村の村長を務めております」
「ドヴィラ・マルク殿、さっそくなのですが、今宵の宿を求めております」
祐司は助けた人間が村長だと知って内心喜んで言った。
「なら問題ありません。わたしが使っている巡礼宿泊所の部屋が空いています。後でわたしが神官のナチャーレ・グネリに話をしましょう。ジャギール・ユウジが行って騒ぎになってもいけませんから」
ヨスタが後ろから声をかけた。
「え、騒ぎですか」
「はい、先程の男は神官館に住んでおります」
ヨスタは小声で祐司に言った。
「では、お布施はあなたに、お預けすればよいでしょうか?えーと」
「わたしはメジーガルテル・ヨスタという村出入りの特許商人です。村長、これは密猟でしょうか?」
「旅人よ。御領主様の特許狩猟場でキツネやテンを狩ったなら密猟でなくとも売却価格の二割をもらうところだ。
しかし、誰がわざわざどう猛で捕獲に手間のかかるクズリを狙うものか。馬が襲われかけたということだが、自分から獲物をここに持ち込んでいる以上やましいことはなかろう」
村長は威厳を取り戻すように悠然とした口調で言った。
「それではジャギール・ユウジ、あなたのクズリを買い取りましょう。いいですか」
ヨスタは祐司の方を振り向いて問うた。
「お任せします」
祐司は相場が分からなかったが、スヴェアが紹介する商人であればそこそこの値をつけてくれるだろと任せた。
「中々の大きさで毛の質もいい。銀一枚と銅貨二十枚といいたいがまだ加工前ですから」
祐司が床の上に置いたクズリの死体を持ち上げてヨスタが言った。
「誰か皮を剥いでくれませんか。前なめしまでいいですから。肉は差し上げます。作業料は銅貨二十枚です」
一人の村人が手をあげた。ヨスタはクズリを村人に渡した。
何気ない行為だがヨスタは経験豊かな商人である。実は祐司から買い取った価格は村人が聞けば自分達より少し安いと感じるはずである。すなわち自分たちは勉強して貰っていると思ってくれれば明日からの商売の糧になる。
「では、残りの金額をお布施ということにして、わたしがナチャーレ・グネリに渡しておきましょう」
「残りの金額でも多すぎないか」
村長が声をかけてきた。
「ジャギール・ユウジ、三四日は逗留されるのでしょう。機会があれば神官のナチャーレ・グネリに千年巫女の祭壇に案内してもらいましょう。そのおつもりでここまで巡礼に見えたのでしょう」
「はっ、はい、そうです」
祐司はヨスタにしばらくは自分の行動を任せることにした。
祐司はヨスタが店じまいするまでつき合った。集会所の臨時商店を閉めるときに、村長の使いという子どもがバスケットに入った黒パンとチーズ、タマネギの酢漬けなどを持ってきた。ヨスタは子どもに銅貨を渡してやった。
「ユウジさんのおかげで、夕食をいただけました」
ヨスタは祐司と並んで歩きながら言った。
「でも、ディオンは仕返しにきませんかね?先ほどはどうして空振りになったのかわかりませんが、かなり強力な巫術師らしいですよ」
ヨスタは真顔で心配そうに言った。
「当分、巫術は使えません。それより、もう少しグネリさんことも含めて話をしてくれませんか」
祐司はスヴェアからグネリが困っていたら渡すように指示された手紙のこともありヨスタに頼んだ。
「さっきの子どもに、ナチャーレ・グネリに宿泊所に”迷いの森”の方からきた巡礼がいるので来て欲しいという伝言を頼みました。本人から聞きましょう」
ヨスタはなかなか気の利く男である。”言葉”は日本語より簡単な文法構成であるが、前置詞の存在で「”迷いの森”の方から」「”迷いの森”の方向から」は区別できる。
グネリであればヨスタが「”迷いの森”の方から」と伝えたとなるとその真意を理解するだろう。祐司はそう確信していた。
グネリが宿泊所に来たのはかなり夜も更けてからだった。
グネリは薄いブラウンの髪の毛と少しばかり青みを感じさせる瞳であり、顔つきもヨーロッパ系の色合いが強いから似ているわけではないのだが、祐司が見たグネリの第一印象は、小学校時代に世話になった小柄な保健の先生を思い出させた。
小学生の祐司が小さいと感じたのだからよほど小柄な先生だったのだろう。その先生は可愛らしい顔のおばさんで、年が自分の母親と同じだと知ってひどく驚いた記憶がある。
祐司が一番驚いたのが、グネリには巫術のエネルギーに反応した光が見えないのである。一瞬、祐司はグネリは自分と同じ世界からきた人間かと思った。
しかし、そうであれば巫術のエネルギーを排斥す光が、自分と同じように身体から離れた場所に見える筈である。
「ユウジ様は千年巫女様の庇護を受けているお方です。どうぞこれを、千年巫女様のお力が増大いたしましょう」
グネリは古代文字を刻んだ親指ほどの石を祐司に渡した。
「千年巫女様の呪い除けです。ディオンは呪いをかけに千年巫女の祭壇に向かっています。ユウジ様には一刻も早く術の圏外に逃げてください。
呪いの儀式の場に至り、儀式が終わるにはまだ時間がかかりますから、今からお逃げ下されば十分間に合います」
「えー、もう回復したんですか?」
スヴェアの話から巫術師からのエネルギーを排出させたら最低でも数週間、上手くいけば年単位で巫術を使えないだろうと聞いていた祐治はびっくりした。
「申し訳ありません。事情を知らぬとはいえディオンの力を回復させてしまいました。でもほんの少しです。直接、術であなたを害することはできません。ですが千年巫女様の祭壇へ行けばその力を借りてユウジ様へ呪いを導くほどの力はあります」
「でも、呪いってそんなに簡単にできるんですか?」
「ディオンはユウジ様の髪の毛だというものを持っておりました。村人からでも聞き出したのかあなたのお名前も。この二つで呪いの儀式ができます」
祐司はディオンと絡み合ったときに、ディオンがやたらと頭をまさぐるので、後で髪の毛を整えたことを思い出した。ディオンは転んでも只では起きない男なのだろう。
「なんとなく呪いの儀式って、どこの世界でもパターン化している気がするな。でも、心配ありませんよ。取りあえずこの手紙を」
祐司はヨスタとグネリに一緒にスヴェアの手紙を渡した。
「わたしの方はユウジ様の確認ができれば十分です」
一目手紙を見たヨスタは言った。
「この手紙を持つ男が困っておれば助けを施せ、また逆もよし。この男は巫術による災悪には万能であるが、他のことは無能であると書いてあります」
グネリは難しそうな顔で言った。
二人は暖炉に手紙を投げ入れた。
「読めば焼けと書いてあります」
ヨスタが言う。
「わたしの手紙にも」
グネリが言う。
皮の焼ける匂いが部屋にたちこめた。
「あなたも巫術の力を持っていますね。しかし、巫術を操ることはできない」
祐司は、今まで光を発していなかったグネリが、突然に赤や紫の炎のようにゆれる光を発するのを見た。その光は不完全燃焼のような光だと祐司は感じた。そして、グネリのその光から感情まで読み取って言った。
「はい、千年巫女様のお弟子様、さすがでございます」
丁寧にしゃべっているグネリだがその心は千々に乱れて、己を失いそうになるのを必死に堪えているのが祐司にはわかった。祐司かヨスタ一人なら飛びかからんばかりの力と葛藤している。
「どういうことですかな?」
何も知らないヨスタが聞いた。
「本で読んだことしかありませんが、希に巫術の力を巫術師の何倍も蓄えることの出来る人間がいます。しかし、その力は本人に取っては厄介なものでしかありません。出口がない力は本人を苛みます。救いは巫術を探る人間との親しい行為で力を逃してもらうこと」
「あはは~ん」
ヨスタは大人である。
「おわかりですか」
「ナチャーレ・グネリ、失礼を承知で言いますがディオンは貴女の子どもなんかじゃない。赤の他人ですね」
「はい、隠し事はしません」
少しためらいながらグネリは言った。
「どんな経緯でディオンと知り合ったかは分かりませんが、多分、貴女との関係を村で公言されたくなかったら、貴女の苦しみを救って欲しければ言う事を聞けと二重に脅かしをかけていたのでしょう」
祐司は、グネリの様子に構わず本題から入った。
「申し訳ありません。もう死にたい。恥ずかしいかぎりです」
グネリは顔を手で覆うと泣き出した。グネリの光は白っぽく規則正しくそして弱くなった。祐司にはグネリが本気であることがわかった。
「落ち着きましたね。今、さほど苦しくありませんね」
祐司はグネリに優しい口調で言った。
「何もかもお話します。さっしのようにディオンには脅かしを受けております。でも、時に優しいのです。でも、時にはわたしを罵ったり乱暴なこともいたします。
ディオンに大人しくもらって大手を振っていっしょになりたいと思うこともあります。わたしはすっかり混乱しております。正直、わかりません。
この数年、わたしの体はわたしをついばみました。神官の知識として、これが何に由来してどのようにすればよいかは知っておりました。
わたしは巫術の力をため込みやすい身体なのです。限界までくるとこれを解き放ってやらないとわたし自身が苦しみます。この力を解き放つ方法は幾つかございますが、男女の契りが最も手近な方法でございます。
ただ、相手がわたしの身体から力を取り出せる巫術を使える必要が御座います。
村にも巫術の心得のある者が数名おります。しかし村でそのような行為をすれば品行公正な神官としての評判は地に落ちます。
そこでわたしは一年に一度程度ヘルトナの街へ所用をつくっては出かけました。そこで、裏家業と申しますか、金を払って素性の悪い男の紹介で見知らぬ後腐れのない巫術の心得を持った男を誘ったのです。
そして、その一人がディオンです。ディオンは神学校があるマルタンの生まれです。神学生が生ませた私生児ということでした。
頭がいいということで見込む人が、世話をして神学校に通っていました。これは知り合いの神官にも確認しましたし、第一ディオン自身が神学学生の資格証を持っておりました。
しかし、生来の乱暴な性格が災いして放校されたのでございます。ただ、母親が頼み込んだおかげで神学学生の資格は剥奪されなかったそうです。神学学生の資格はそれだけでは何の意味も御座いませんから許可がでたのでしょう。
そして、ディオンはヘルトナに流れてきて巫術師の弟子になったのです。でも、ヘルトナでも問題を起こして破門になりヘルトナの街で半端仕事をしておりました。
ところが、相性というのでしょうかわたしの力をディオンは余すことなく吸収出来るのです。
ディオンは調子に乗ってわたしから吸収したその力を悪用したためヘルトナの街におれなくなりました。
そして、わたしがうかつに漏らした言葉尻から、わたしの正体を推測してここにやってきたのでございます」
グネリはこれだけのことを泣きながら、そして絞り出すように話した。
「ユウジ様がここにいると申すのなら、今からディオンを止めにまいります」
泣き止んだグネリは祐司を見て悲壮感漂う様子で言った。
「僕を助けたいのなら行く必要はありませんよ。ディオンを助けたいのなら行かねばなりません」
軽い調子で祐治は流した。
「侮ってはいけません。ディオンはたいした巫術師ではないかもしれませんが、呪いに関しては、一級の使い手です。
この冬、村の二人の男が急病で生死の境をさまよいました。ディオンが気まぐれにしたことです。わたしの懇願で、ようやく呪いを解いてくれました」
グネリは切羽詰まったように祐司を説得した。
「巫術師の中には、人を呪って病気にさせたり、殺すこともできると者がいるという噂はありますが、いくら何でも無理でしょう。そんなことが、できるのなら巫術師が天下を取っているでしょう」
ヨスタが懐疑的な口調で言った。
「噂の真偽はともかく、千年巫女の言葉を信じてください。巫術による害を僕は防ぐことができます」
裕司の言葉に、グネリはかすかに首を縦にふり、小さな声でハイと言った。
「ユウジ様、実は千年巫女様の手紙には、もう一言かいてありました」
「なんですか」
「わたしを苦しめるものを鎮めるにはユウジ様と親しく…」
グネリの声は最後の方は小さくて聞こえなかった。
ユウジはスヴェアなら当然、グネリの苦しみを知っているだろうと思った。巫術のエネルギーを抜くには水晶を使えばいい。
{でも、なんでオレと親しくなんて?}
祐司は疑問に思いながらもスヴェアの言葉を思い出した。生き物には巫術の力に親和性がある。並の巫術師程度なら水晶の力で十分である。
またスヴェアや”岩の花園”のモンスターのように大きな巫術の力をためていても大きな物理的な力で祐司にかかってきたり、あるいは闘争心などが燃え上がっている場合は、あっという間にエネルギーを抜き去ることができる。
{ただ、そのような状況にない場合は?}
答えに気がついた祐司は、これはスヴェアの罠かもしれないと思った。でも、スヴェアも承知のことになると思い祐司はヨスタの方を向いて、意味深長に言った。
「ヨスタさん、お店の方に忘れ物はありませんか?」
「ユウジ様、よくぞ言ってくださいました。買い取り資金を店に忘れてきました。年は取りたくありませんがどこに置いたやら少し探すのに時間がかかりそうです」
ヨスタは少し間をおいて、言葉の最後を強調した。そして、祐司の肩を叩くと部屋を出て行った。
「あなたの憂いを僕は解くことが出来ると思いますよ。巫術のエネルギーは多分少しづつ溜まっていき、あなたの年齢になって許容量に達したのでしょう。一度空にしてしまえば、また、貴女が生きてきた年月くらいは心配ありあません」
「ユウジ様」
グネリの後光は、赤緑と紫、それにえもいわれぬ、様々な原色が激しく炎のように揺らいでいた。グネリは祐司を宿泊所の寝室に招き入れた。
ヨスタが戻ってきた時は、すでに祐司は寝室で寝入っておりグネリの姿は見えなかった。
その夜、祐司は一度だけ目を覚ました。何かが近づいてくるような感じを受けたがそれはすぐに消え去った。