嵐の後6 監察官キンベザ・ゴットフリー
伯爵館の攻防が終わって三日後から、サモタン城塞で論功行賞が行われることになった。農民兵は刈り取りの作業のために大方が帰還して代表者だけが残っていた。
祐司も伯爵舘の包囲戦が終わった以上、一刻も早く王都タチに出立したかったが、ダンダネールが伯爵殿下よりの褒美を祐司が受け取るまでは、今、しばらく滞在して欲しいと言って譲ってはくれなかった。
ダンダネールは包囲戦後も多忙で、祐司が襲撃された日を含めて、いつも深夜に帰宅していた。
伯爵舘の陥落から五日後、祐司がレティシアとアルカンに襲撃されて三日後、この日、ダンダネールは昼前に屋敷に帰ってきた。
祐司とパーヴォットはダンダネールに居間に呼び出された。
「半日の休みをいただいた。午後は少しはゆっくりしたい」
乗馬の練習から帰ってきた祐司にダンダネールは椅子に深く腰掛けながら言った。
「あまりご無理をされて体を壊しては元も子もありません。それはいいことです」
祐司は笑顔で答えた。
「ユウジ殿、待たせたが、明日は伯爵自ら恩賞を授けられる。御足労だが、わたしとサモタン城塞に出向いてくれ」
しかし、休むと言ったダンダネールはそれでも仕事の話をした。
「伯爵様は伯爵館ではなくて、サモタン城塞にこれからお住みになるのですか」
パーヴォットが素朴な質問をした。
「そうだ。元々の伯爵家は武人としてサモタン城塞に住んでいた。元に戻るだけだ。幸いなことに伯爵館のバナミナの行政を行う建物は焼け残ったので、これからは、伯爵舘の敷地はバナミナの役所としてだけ使う」
「論功行賞の方は順調ですか」
祐司の質問には、ダンダネールは表情を和らげて答えた。
「王都派が独占していた官職がおおかた空いたからな。無理なく行えている。また、王都派の領地の多くが伯爵家に返還ということになったが、その統治には人数がいるから新しい役職も増えた」
「まだ、戦いの決着がついてから、五日しか経っていないのに段取りがいいですね」
祐司はびっくりして言った。
「まあな。包囲戦の後半辺りから準備を始めていたからな。それで、役職の手当も順調に進んでいる」
祐司はいくらなんでも無理だろうと思った。ダンダネールの発する光も揺れていた。ダンダネールが嘘を言っている証拠である。
多分、今度の騒乱の起こる前から、王都派を追いだした場合には地元派で役職を分ける手筈ができていたのだろうと祐司は思った。
「ダンダネール様は?」
パーヴォットがまた素朴な質問をした。
「当ててみろ」
ダンダネールが笑いながら言ったとたんに、パーヴォットが答えた。
「儀典長」
ダンダネールは優美なマントを羽織っていた。祐司はそれがマール州での儀典長の服装なのだろうと思った。
「そうだ。それから顧問を命じられた。これからはバルバストル伯爵の下に家老を筆頭にした六名の顧問会が置かれる。
その顧問会は合議制だ。顧問会の意見具申をもとに伯爵殿下が決定を下される。伯爵殿下の親政が行われるわけだ」
儀典長は現代においては、大使の名称を与えるが形式的なもので、海外からの要人などの往来において正式行事を所管する役職である。
しかし、リファニアでは余程重要な行事以外はスタッフに任せて、領外からの賓客をもてなしながら外務担当の最高責任者を兼任することが多い。
ダンダネールは儀典長という名の、バルバストル伯爵領における対外的な窓口に就任したということである。
「ところで、今日は客人が昼食を食べに来ている。是非、ユウジ殿も同席をお願いする」
ダンダネールは手の平をあわせながら言った。
「どなたでしょうか。わたしは卑賤の身の上に愚かな人間です。身分の高い方とは釣り合わないと思います」
祐司はダンダネールの伯爵館包囲を手伝うという依頼を果たした。後は、面倒なことに巻き込まれずに王都タチに向かって一刻も早く出立したかった。できれば、公的な事はもう何もしたくなかったのである。
「リファニア王の監察官キンベザ・ゴットフリー、キンベザ・ゴットフリー・ハル・ベルトラン・バナス・ディ・タチニア殿だ。わたしについて来てくれ」
ダンダネールは、祐司の返事を待たずにドアを開けると食堂に向かった。
食堂には一人の男がいた。それが監察官キンベザ・ゴットフリーだった。
キンベザ・ゴットフリーはエネネリの裁判の日に見たリファニア王の監察官だった。その時は、上品な旅装束という姿であったが、目の前の監察官はリファニアの略式礼装であるケープ状の上着を羽織っていた。
「キンベザ・ゴットフリーです。今日はこの度の騒乱で活躍されたジャギール・ユウジ殿と会食できるということで楽しみにしています」
キンベザ・ゴットフリーは、監察官というからには郷士以上の身分であるはずだが、丁寧な口調で祐司に言った。
「ジャギール・ユウジです。リファニア王の私服監察官であらせられます、キンベザ・ゴットフリー様とお食事をするなど畏れ多いことでございます」
祐司は心底恐縮して言った。これは祐司が日本人だったからもしれない。確かに今まで貴族、それもとっておきの大貴族であるドノバ候の面通しも受けた。幾人かの郷士ともつき合った。
しかし、それは祐司の持っている価値観の異なるリファニアの身分社会での高貴な人々であり、建前上は尊重する態度は取っていても心から畏敬していたわけではない。
ところがリファニア王となると、一国の君主である。それも女王が遠縁の王族を配偶者にして実質的な王朝の交代は複数あったが、千年以上も血を繋いできた君主家である。
これは、現在のイギリス王室であるウィンザー朝が、1066年に成立したノルマン朝のウィリアム1世を始祖としていることと同じである。
祐司に取って悠久の時間を経て代々血筋を受け継いだ身近な一国の君主とは天皇となる。
祐司の頭の中では、リファニア王は天皇と同様の存在になっていた。そのリファニア王の監察官と聞いただけで祐司はたじろいだ。
「ユウジ殿、あまり硬くなられないように。実はダンダネール殿とは王都タチでの悪友でな。私服監察官と言っても三等監察官で偉くもなんもないのだ」
祐司が緊張しているのに気がついたゴットフリーが、軽い調子で言った。
「まずは、食事にしよう。話は食べながら、ゆっくり始めればよい」
昼食はダンダネールの家で調理したものではなく仕出しの料理だった。ダンダネールの奥方であるフスラヴァは、妹が産気づいたということで実家に行って留守だった。
リファニアでは出産するときに実家に帰って身内の経産婦の付き添いを受けることは比較的よく行われる習慣だった。
男三人とパーヴォットの四人の昼食会で、祐司は今度の騒乱の中であったことを聞かれるままにゴットフリーに話した。
「まことに勇壮な話を聞かせていただきました」
ゴットフリーは、祐司に礼を言った。
「キンベザ・ゴットフリー殿からはマール州と、その西のベヌリーナ・サルナ州をこの春から夏に回ると手紙を貰ったので、昔の悪事をネタに一仕事頼んだのだ。
モンデラーネ公支配下の地域では、リファニア王の監察官と言っても歯牙にもかけられないかもしれないが、マール州ではリファニア王と言うだけで有難く思ってくれる連中がいるからな」
ダンダネールが首尾よくエネネリの裁判の日に監察官がいたことの種明かしをした。
ゴットフリーの言う三等私服監察官とは、単独もしくは隊商などと同行して、自分の見聞した地方の様子をリファニア王に報告するだけの役目であり、その地域の統治者に意見する権限などない。
さらに監察官は王領をはじめその影響下にある地域では、リファニア王の命は形式的な権威ではなく現実の権力として通用するが、それ以外の地域では邪魔をしなければ来てもいい。程度の扱いしか受けない。
本来なら王都タチから見て権力の及ばない辺境のマール州でも同様のはずが、王都派はリファニア王を頂点とする格式と家柄をその権力基盤にしていたためにリファニア王の権威を具象する監察官を疎かにできなかったのだ。
「わたしごときの報告書が、直接リファニア王に読まれることはありません。しかし、今度の騒ぎでリファニア王も読んでくれるでしょう。王都派は騒ぎを起こさずに、わたしを無視していた方がよかったのですよ」
ゴットフリーは、軽く笑いながら言った。
「エネネリの裁判は最初から、王都派が騒ぎ立てると計画されてたのですね」
少し緊張が和らいできた祐司は思いきって疑問に思っていたことを口にした。
先日、ダンダネールにこの話をした時は、特に咎められることもなかったので、好奇心からもう少し詳しい話を聞きたかったのだ。ダンダネールは祐司の質問に微笑を浮かべながら答えた。
「いや、あれは偶然だ。死んでも言えないが計画は別にあった。エネネリのことで、民の信用をなくした王都派を倒す計画だ。
収穫が終わった時期に一気にことを進めるつもりだった。ユウジ殿がエネネリを巫術師ではないと見抜くなど神々ならぬ身では知ることは出来なかったからな。そこで、どうしたモノかと困っていたら上手く王都派が暴発してくれた。
まして、あそこで伯爵妃がだだをこねだすとは更に予想外だった。そこで、計画以上に上手くことが運びそうだったので、急遽、キンベザ・ゴットフリー殿に登場していただいたのだ」
祐司は元の計画は、武力を伴った急襲、すわなちクーデターだっただろうと推測した。
「何故、そこまでお話になられます」
祐司はダンダネールが王都派打倒についての計画を自分が予想していた以上に話したことに戸惑った。
「心苦しかったから、としか言いようがない。だが、種明かしはここまでだ」
「承知しております。わたしと従者のパーヴォットは愚か者で、今のお話の真意もわかりません。また、すぐに忘れてしまうでしょう」
ダンダネールに祐司は少し頭を下げて言った。
「それで頼む」
ダンダネールの言葉に、間をおかずに祐司が言った。
「今の話は他言いたしません。神々に誓います」
「わたしも神々に誓います」
祐司に続いてパーヴォットが言った。
ダンダネールとゴットフリーは顔を見合わせた。信仰深いリファニアでは神々に誓うという言葉は絶対的な意味を持つ。
反対に神々に誓ったことを犯せば神々の名を謀った最大の不敬ということになるために、滅多なことでは”神々に誓う”という言葉は使用されない。
むしろ、”神々に誓う”という言葉を使用せずに一生を終える者の方が圧倒的に多いだろう。
その言葉が祐司とパーヴォットが言ったので、ダンダネールとゴットフリーは驚いたのである。
むろん、リファニアの人間ほど”神々への誓い”へのハードルの高くない祐司に取っては、気楽に使える言葉である。パーヴォットも祐司が誓うのなら比較的容易に神々に誓えた。
「それでは、できる話をしようか。近日、公表されるし地元派の者は大半が知っているのですでに噂にもなっている話だ」
ダンダネールは落ち着いた声で言った。
「わたしも監察官として報告の義務があるから、今の時点で決まっていることを聞かせてもらいたい」
ゴットフリーが少し身を乗り出して言った。
「ゴットフリーには正式なことが決まる前に必ず報告する。きょうは大雑把なところだけを話す。
まず、領地における、今年の年貢の前払いは、バルバストル伯爵殿下が受け継ぐ。半分程度の王都派が二三年の年貢を前払いさせている。残りは翌年の半分から一年程度の前払いだ。
契約で、どのようにして将来の年貢から値引きするかは決まっている。普通は、その年の年貢を八掛けくらいにしている」
ダンダネールはゴットフリーを呼び捨てにした。どうも、ダンダネールとゴットフリーは本当に友人同士らしいと祐司は思った。
「それでは、バルバストル伯爵家は火の車ですね」
パーヴォットが言ったことに、ダンダネールはしたり顔で説明を始めた。
「いや、今年の分の年貢先払いの件は、バルバストル伯爵殿下が受け継ぐが、来年以降に支払う先払いの年貢分は今までの管理者が返済する。
マール州の法では年貢は、その年の年貢はその年の夏至から、翌年の夏至の前日までに納めることになっている。
だから、それ以降の分は年貢ではなくただの借財だ。バルバストル伯爵殿下は年貢の先払い分を受け継ぐが借財までは受け継がない」
今度は祐司とパーヴォットが顔を見合わせた。ダンダネールは、その様子を見て面白そうに続きを話した。
「だから、かろうじて生き残った王都派は知行地を召し上げられ捨て扶持を与えられる状態か、知行地を減らされた状態で、農民に借財を払わなければならない。まあ、収入の半分を出して、五分程度の利子で堪忍してもらえば二十年年賦ほどで返せるだろ。
知行地を失って捕縛された者は王都の縁者から金を無心するしかない。今まで貧乏暮らしの王都の縁者達に、自分が領主だということで、いい顔をしたいために金品を送っていた者が多い。人の情があれば幾ばくかは払ってくれるだろう」
「払ってくれなかったら」
パーヴォットがおずおずと聞いた。
「それも叶わない家は残った者が奉公に出るしかないだろうな。まあ、考えても見ろ。上手く逐電したが、デルベルトの奥方のオレーシャが捕まったとしたら王都の親は家屋敷を売ってでも金を送ってくるだろうな。
王都で暮らす中で自分の娘が奉公に出されたとあっては、まっとうな付き合いもできず、昇進は孫子の代まで出来ない。それが従兄弟程度の縁者でも、かなり噂と打撃になるだろう。一家でも金をマールに送れば他の家も送らざるをえない」
近衛隊長だったデルベルトは、エネネリの裁判の日に、祐司とパーヴォットによって致命傷を負わされて死んでいる。
その奥方のオレーシャは、死の近い人間を察知するという特技から、デルベルトの死を予言して裁判の前日に子供を連れて実家のある王都タチに逐電していた。
「そうであれば、伯爵妃であったランディーヌ様には生きておいていただいた方がよかったですね。きっと、王都の子爵家や、姉君達が金策をしてくれたでしょうに」
祐司が言ったことにはダンダネールは返事をしなかった。祐司は少しダンダネールの発する光が乱れたことから何か都合の悪い内容を自分が言ったと思った。
「流石にダンダネール殿は体面を気にする王都の雰囲気に詳しい。それでも、ない袖は振れない家や一族もいるでしょう。
その時は女は他領に出してください。いくら反逆者の一族とは言え郷士の奥方や娘が女郎奉公では民にいい影響があるとは思えません」
ゴットフリーは、同階級の者に憐れみと階級の尊厳を守るという意味の忠告をダンダネールにした。
「それは、考慮せねばな」
ダンダネールはそこまで考えていなかったようだった。
「何人かが奉公に出たくらいで借財を払えますか」
祐司が懐疑的に聞いた。リファニアは中世段階の社会なので、物価は高いが人件費は安い社会である。
「借財を払えなければ、借財のうち半分は、バルバストル伯爵殿下が補填する。すなわち年貢の半引きだ。
悪いが身の不運と思って残りの半分のうち払えない分は農民に被ってもらう。それでも、農民はバルバストル伯爵殿下に感謝して、王都派の前領主を恨むだろうな」
ダンダネールは鼻の先で笑いながら言った。
「腹黒ですね」
祐司も笑みを漏らしながら言った。
「この日のために、我らは三十年間、時を待っていた。ここ二十年は、タチから来た新参者に食いつぶされておったからな」
ダンダネールは腹黒と言われたことに、ちょっと反論するように祐司に言った。
「教導平民の制も、改めることをバルバストル伯爵殿下に申し上げた。変える時は一気に変えんとな」
ダンダネールは突然、話の内容を変えてきた。祐司は何かしらの意図があるのだろうと感じた。
どうも、ダンダネールは今までの話の中で詳しく話したくないことがあり当たり障りのない話へ持って行きたいのではと祐司は思った。
「どのようにするのでございますか」
祐司はダンダネールの意図をくみ取って、ダンダネールが出してきた話題に対して質問してみた。
「村長、村会を十年以上努めた者、バナミナでは町会の世話人といった役職に一致させる。教導平民は就任時に、バルバストル伯爵殿下に謁見できる。
村長や役職を離れれば上民ではなくなる。すなわち上民は身分ではなく役職に就いてくることになる」
バルバストル伯爵領における、教導平民は一般的には上民と呼ばれ、かつては、平民の模範となるような行為を行った者が任命されていた名誉称号である。
それが、時を経て有力者や、有力者に取り入った者が任命されるようになり、貴族、郷士階級と平民階級の間の身分のようになっていた。
「今までの上民が納得しないのでは」
パーヴォットが心配そうに聞いた。
「今までの上民はそのままだ。まあ、半分くらいは重なっている。例えば新しい上民は赤のターバンの着用することを許す。今までの上民は、今までのように白いターバンだ」
ダンダネールの説明に、ゴットフリーが興味深そうに割り込んできた。
「伯爵妃や王都派が人気取りで乱発していたそうだな。そのような上民は白いターバンの者だろう」
「今では推薦人が王都派の白いターバンの上民は居心地が悪いだろう。伯爵妃の推薦などで上民になった者は、かえって卑しまれているらしい。そのうち、白いターバンは賤しい印になるやも知れないな」
ダンダネールは、意地の悪そうな微笑を浮かべながら答えた。
「それでは、”金熊亭”の主人もですか」
パーヴォットが、少し上目遣いにダンダネールに聞いた。どうも、パーヴォットは”金熊亭”でのことをいまだに根に持っているようだった。
「そうだ。”金熊亭”は五年後につぶれるのが今年つぶれることに早まるだろう」
ダンダネールが指を組みながら答えた。(第六章 サトラル高原、麦畑をわたる風に吹かれて虚飾と格式、領主直轄都市バナミマ2 格式の高い宿屋 参照)
「ところで、家老のバルマデン準男爵はどうなりました」
祐司はちょっと思いついたことを聞いた。
「領地はお預かりになった。そして、扶持で召し抱え直しだ」
ダンダネールの答えにパーヴォットが驚いた声を上げた。
「え?追い出されないんですか」
「伯爵妃の首を取れば恩賞を与えるという矢文もあったからな」
「それでも、なんとなく…」
ダンダネールの言ったことにパーヴォットは納得しきれないようだった。尚武の気質があるリファニアでは、反逆者とはいえ最後まで伯爵妃ランディーヌに従って命を落とした者の方が名誉ある行為をしたと考えられる。
「バルマデン準男爵は、新しい役職を拝命した」
ダンダネールは更にパーヴォットが考えもしていなかったことを言った。
「役職もですか」
「謀反人探題だ。反逆した者が全て捕縛された訳ではない。また、その家族や郎党で身を隠した者も多い。謀反人探題とは、その者達を見つけ出す役職だ」
「え、それでは泥棒の親玉に泥棒を捕まえろと言っているみたいじゃないですか」
ダンダネールの説明に、パーヴォットは一寸怒ったような声で言った。
「謀反人探題はバルマデン準男爵以下、数名の寝返り王都派がいるだけだ。だが、謀反人が捕縛されれば、全て謀反人探題の手柄として恩賞を与える」
「そういうことですか」
祐司は、納得したように言った。
「そういうことだ」
ダンダネールもきょとんとしているパーヴォットを見ながら言った。
今度の争乱は、伯爵妃に非があるとはいえ、本質的にはお家騒動である。絶対的な正義と悪があったわけではない。
王都派の残党からすれば理不尽この上ない結果である。その自分達を犯罪者として捕縛するのが王都派の裏切り者だとすれば、王都派の憎しみはバルバストル伯爵以下の地元派の面々よりも裏切り者であるバルマデン準男爵が買うことになるだろう。
王都派残党の憎しみをバルマデン準男爵に一手に引き受けてもらおうと言うバルバストル伯爵側の算段である。
「あ、そういうことですね」
ようやく、パーヴォットも企みがわかったらしく納得した声で言った。
執事が食堂に入ってきた。
「ファティウス様がお見えです」




