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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第六章 サトラル高原、麦畑をわたる風に吹かれて
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あやかしの一揆、逆巻く火の手17 伯爵館包囲戦 九 罪人たち

 この話は処刑に関する残酷な描写があります。そのような描写が嫌な方はご注意下さい。

包囲十四日目 


 前日、ダンダネールはサモタン城塞の本陣に行ったまま長時間戻らなかった。祐司が聞くまでもなく重要な話し合いがされたようだった。

 祐司が寝る前にルティーユから聞いた話をダンダネールにできたのもダンダネールの帰りが遅かったからである。


 ルティーユに聞いた伯爵の暗殺を企てる女性に、ダンダネールは心当たりがあるらしく、少し険しい顔で祐司に言った。


「すぐにでも確認させよう。もし、本当に下手人が捕まったら、またもやユウジ殿の手柄になる。伯爵殿下には、はっきり言っておくので心配されるな。ユウジ殿に褒美がでるようにする」


「褒美などいりません。人の話を伝えただけです」


 祐司はあわてて褒美を断った。


「密告に褒美を出さないとなれば誰が密告してくれるのだ。ユウジ殿には、それなりの褒美は貰ってもらう」



 ダンダネールが前日、話し合ったであろう内容は伯爵館正門の目の前で処刑台が造られ始めたことで大体想像ができた。


 処刑台が出来ると、三十半ばの女性、十代半ばの男女が上半身を太めの縄でくくられたまま引き出されてきた。三人とも白い単衣のワンピース状の着物を着ていた。


 リファニアでも白い着物は死出の装束である。


 処刑台の上に四人の兵士を引き連れてた役人が上がってきた大声で宣告した。


「反逆者に告ぐ。ただ今から、バルバストル伯爵殿下に刃を向けた凶悪なる反逆者ガスバ・ドラシオン、かの者は身命を賭して伯爵の命を守るとの誓いを立てたのにも関わらず隊士を扇動して、畏れ多くもバルバストル伯爵殿下に刃を向けた。

 よって、恥ずべき反逆者近衛隊二番隊長ガスバ・ドラシオンの妻、その双子の子を連座により処刑する」


 確かに、今回の内乱の切っ掛けになった市広場でも騒乱時には、伯爵自身の直接の命に反して近衛隊は王都派に荷担した。名を呼ばれている男は、その時の隊長だと近くにいたバルガが祐司に教えてくれた。


「パーヴォット、見ない方がいい」


 祐司は静かにパーヴォットに言った。


「そうですね。あの女の子はわたしと同じくらいの年です。わたしなんかと違って幸せに暮らしてきただろうに」


 パーヴォットは祐司に促されて近くの路地に入って行った。


「やめてくれ。オレが死ねばいいだろう」


 伯爵館の城壁の上から、取り乱したように男が叫んだ。今、名を呼ばれた近衛隊の男のようだった。二人の男がその取り乱した男を押さえつけようとしていた。


 男は二人の男の制止を振り切って剣を捨てると城壁から飛び降りた。伯爵館の城壁は市壁よりも大分小ぶりであるが、それでも四五メートルの高さはある。

 落ちた男はしばらくうずくまっていたが、足の骨でも折ったのか右足を伸ばしたまま四つん這いで包囲陣に近づいてきた。


「あなた、戻ってください」


 処刑台の女が泣き叫けんだ。


 その女と男女の双子に目隠しがされた。女はもう何も言わずに、両手を合わせて祈りだした。


 女は二人の兵士に背を押された。そして、跪かされて丸太が女の前に置かれた。処刑人が処刑専門の剣なのか、幅広の重そうな剣を持って処刑台に上がってきた。

 それが合図化のように、先程、女を跪かせた二人の兵士が女の髪の毛を引っ張って,女の首を丸太の位置に固定した。


 女は手を合わせて、まだ祈っていた。


「反逆者ガスバ・ドラシオンの妻、バクメ・アデリタを処刑せよ」


 役人の声に処刑人はすぐさま剣を振り下ろした。一撃では首は落ちずに二撃目で首は胴から離れた。


「子供は助けてくれ」


 目の前で妻が斬首された男は泣きながら叫んだ。這いつくばりながら包囲陣に辿り着いた男はたちまち包囲陣の兵士に捕らえられた。


「反逆者ガスバ・ドラシオンの子、ウルサ・デルミラおよびハラレ・アブランを処刑せよ」


 女の子が母親と同じように、髪の毛を二人の兵士に引っ張られた。そして、兵士達は女の子のか細い首を、母親の血で染まった丸太の上に固定した。


 処刑人は流石に少女と思い手元が狂ったようだった。剣は右の耳と側頭部を削いだようで少女は苦痛で体を動かした。

そのために剣は同じ場所を狙えずに首を何度も打ち据えた。五撃目にようやく首は胴から離れた。


 男の子は首にロープをかけられて頭を前から引っ張られて丸太に首を固定された。


 処刑人は自分を落ち着かすためか少し間をおいて剣を振るった。今度は一撃で首が落ちたが処刑に間を置かれ、恐怖の時間を多く過ごすことになった男の子のことを考えると祐司は陰鬱な気持ちになった。


 妻子が殺された処刑台の上に伯爵館から出て来た男が甲冑などを脱がされた状態で放り上げられるように連れて来られた。


その男に、兵士を従えた役人が宣告した。


「反逆者ガスバ・ドラシオン。近衛隊の一員でありながら主を襲った所行は許し難い。本来なら裁判の上、刑を決めるが、近衛隊規則により近衛隊隊員でありながら主に害を及ぼそうとしたものとして即刻処刑となす。ただし、郷士としての名誉のために斬首は家族に使用した剣を用いる」


「バラートとアデラはどうなりました」


 男は畏れるように役人に聞いた。


「その二人は未成年ゆえ刑が軽減された。他州で一生奉公となる。行いがよければ二十五で奉公から放免されるであろう」


「ありがとうございます。早く妻と子の所に送ってください」


 二十五まで奴隷に近い労働と言うことだが、二人の子の命が保てた事で男は礼を言った。


「一つ聞く。最後に食事を摂ったのはいつだ」


 役人がやつれた男の顔を見て言った。


「昨日の朝です」


「最後の慈悲だ」


 急いで用意したのか大きな木のボールを役人が男に渡した。


 男はそのボールを口に当てた。口の端から白い液体がこぼれた。どうやら牛乳のようだった。その様子から容易に男が餓えと乾きに苦しんでいたことがわかった。


 男は上半身を立てた姿勢で目隠しだけされた。本来なら正座に近い格好になるのだろうが足を負傷しているので足をのばしたままだった。


「伯爵殿下に何か言うことはあるか」


 役人の言葉に男は覚悟が決まっているのかのように淀みなく言った。


「はい、わたしは近衛隊です。近衛隊は本来なら伯爵殿下を命を的にしてでもお守りすべき人間です。わたしの悪名は末代まで残るでしょう。

 そのようなわたしに名誉ある斬首を賜りました伯爵殿下には心よりお礼の言葉を言います。そして、伯爵殿下にお詫び申し上げます。どうか、この言葉を言ったと記録してください」


 男は丸太に首を固定されることはなかった。処刑人は男の家族を殺害した剣を手にした。

男は妻や子と同じように手を合わせた。


 それが、合図のように処刑人は剣を振るった。


 やはり、斬首は一撃とはいかず二撃目で首が落ちた。ただ、一撃目が脳髄辺りに深く食い込んだので即死だっただろうと祐司は思った。


 しばらくして、パーヴォットが戻ってきた。


「終わったよ。最後は伯爵館から出て来た近衛隊の兵士が首を刎ねられた。首を刎ねられた子の父親だ」


「そうでしたか。四度、歓声が聞こえたので、あの三人以外に誰が誰が処刑されたのか思っていました」


「歓声?」


「ええ、地響きがするくらいの歓声と拍手でしたよ。拍手がおこるくらいですから、きっと見事な最後だったのでしょうね」


「そうか。歓声と拍手か」


 祐司には歓声や拍手が聞こえなかった。もしかしたら、聞きたくないので聞こえなかったのかもしれないなと祐司は思った。

 後で聞いたところでは、歓声や拍手が起こるのは処刑される人間が覚悟を決めて見苦しい行いをしなかったことに対する尊敬の印らしかった。


 祐司は伯爵館の方を見た。いくつかの顔が城壁の上からじっとこちらを見ていた。処刑の間、伯爵館は静寂に包まれていた。


 祐司はダンダネール以下の地元派幹部が参加したであろう昨日の会議の内容がわかった。王都派の一族を含めた全面排除である。

 伯爵の命を聞かなかった者は許しはしないという意志表示である。そして、その意志を貫徹するいうことを処刑を見せることで籠城する王都派に伝えたのだ。


 そして、追い打ちをかけるように、処刑された近衛隊隊長の伯爵に最後に託した言葉が書かれた矢文が数十撃ち込まれた。


”近衛隊は本来なら伯爵殿下を命を的にしてでもお守りすべき人間です。わたしの悪名は末代まで残るでしょう”


 この矢文は伯爵館にいる近衛隊の兵士に重くのしかかった。リファニアの武人は命より名誉を重んじるからである。


 処刑が終わり矢文が撃ち込まれると、再び巫術師による伯爵館への”雷”の攻撃が再開された。

 伯爵館の巫術師は不意をつかれたのか、”屋根”を展開していなかったために、最初の十発ほどがまともに伯爵館を襲った。


「伯爵館の中は、かなりの人数が入っているから、あれで数十人ほどが戦闘不能になっているな」


 いつの間にか祐司の後ろに来たダンダネールが、感情を排除したような口調で言った。



挿絵(By みてみん)




包囲十五日目


 この日も伯爵館正門前の処刑台には二人の男と、その家族が九人が連れ出された。二人の男は立っているのもようやくというほどに憔悴していた。祐司の目にもかなり厳しい尋問ないし拷問が行われたことが想像できた。


 昨日と処刑台の様相が異なっていた。処刑台の上には二本の太い丸太が立てられていた。その二本の丸太の間に渡された長く太いロープに絞首刑用の輪をしつらえたロープが結びつけてあった。


「あの者達は先日の夜襲で捕縛された者たちだ」


 ダンダネールが祐司の後ろから声をかけた。


「でも、捕縛された者は大勢いましたよ。何故、あの二人だけが処刑と連座になるんですか」


「あの者達は近衛隊兵士だ。昨日の近衛隊二番隊長と同様に伯爵殿下に忠誠を誓っている。それに反して伯爵殿下に反旗を翻したのと、畏れ多くも伯爵殿下の命を狙っていたと自白したためだ」


「他に捕縛された者はどうなるんですか」


「伯爵殿下からみれば又家来(家来の家来)だ。捕虜として身代金を払えなければ一生奉公として売りに出される。まあ、家族も連座するから払えたとしても全財産を失うだろうな」



 捕縛された近衛隊兵士の家族は、老婆二人と中年の女性が三人、十代の男子三人、十代の女子が一名だった。

 老婆は男たちの母親で、中年の女はそれぞれの妻と妹、十代の子は男達の子だと、近くにいた兵士が祐司の耳元で囁いた。


 家族の様子も昨日の郷士の家族とは様子が大分異なっていた。


 郷士の妻子は何かを悟って自分の運命として受け入れているような雰囲気があった。そのために、処刑で称賛の拍手が起こったのだ。

 しかし、今日の家族は何もしゃべったりしないが、それは、恐怖からしゃべれないのだとわかるくらいに、顔が青ざめて目が泳いでいた。


「元近衛隊隊士ベドベ・アスガーおよびバンガ・ドレアスは先日、わが伯爵軍に対して夜襲を行い捕縛された。その行為から伯爵殿下に対する反逆行為は明白である。

 また、反逆者ベドベ・アスガーの言で、伯爵殿下の暗殺までも意図していたことが明らかになった。よって、近衛隊規則により妻と直系二等親の者を連座の上で処刑する」


「おい、おれ達は教導平民だ。何故、平民同様の辱めを受けるのだ。斬首せよ」


 近衛隊兵士の一人が大声を上げた。


 リファニアは身分社会であるので、処刑方法も身分により異なる。斬首は貴族と郷士に対する処刑方法で、戦場と同様に名誉ある死をもたらすと考えられている。また、即死が期待出来ることから慈悲をも与えた処刑であるとされていた。


 日本における切腹とそれに付随した打ち首に近い感覚である。


 それに対して、絞首刑は平民に対して行われる処刑方法である。絞首刑と言っても縛り首に近い方法が取られるために、長く苦しんで死を迎える不名誉な処刑であるとされる。


「ふん、お笑い草だ。貴族や郷士様からしたらてめらも平民なんだよ」


 群衆から同様の罵声が幾つも浴びせられた。


「王都派は教導平民を任命しては、近衛隊に入隊させた。それで恩を売って手足のように使おうと思った。

 あの者達は不憫だが今まで王都派の権威をカサにしておったのだからその対価を払ってもらわねばな」


 ダンダネールが感情を押し殺して言った。


 処刑台の上の者達は麻袋を被せられて後ろ手に縛られた。昨日の郷士とその家族が両手を合わせて祈りの状態で斬首されたのは大きな違いである。


 数十センチほどの高さの台に立たされた十一人の人間の首に輪になったロープがかけられていく。


 パーヴォットの背中を押して祐司は処刑が見えない場所に行くように促した。パーヴォットは何も言わずに立ち去った。


「右から四番目で祈祷を唱えている老婆がわかりますか」


 ダンダネール隊で一番若い兵士が祐司の横に来て言った。


「はい、麻袋を被せられる前に、目を閉じて口を動かしていたお婆さんですね」


「あの人は、わたしの家の近所で駄菓子屋をしてたんですよ。夫に死に別れてから息子が自慢で、今にきっと出世するだろうと言ってました。

 その息子が近衛隊の入隊して上民になった時は大喜びでした。でも、息子が出世しなければ、今でも駄菓子屋をやって子供相手に気楽に暮らしてだろうに」


 若い兵士はそう言ってから首を横に何度も振った。


 全ての用意が整うと、処刑人が台を次々と足で蹴飛ばした。


 十一人もの人間をぶら下げてロープは重みに耐えかねて大きくしなった。そのために、吊された者などは何度か足先が処刑台の床についた。そして、苦しみのために体を痙攣させるように動かした。


 祐司はその様子から真ん中に子供、その両側に女性、端に男性を吊したのかがわかった。ロープは真ん中ほどよくしなるので背の低い子供をおいたのだ。

 

 見ている兵士、農民兵、そしてバナミナの市民から笑い声が起こった。


「ユウジ殿、あれが死の舞踊です。自分達とその家族の何日後かの運命だと思うと伯爵館にいる上民出身の近衛兵は動揺するでしょう」


 いつの間にか横に来ていた副官のバルガが感情を抑えたような声で言った。


「おい、折角の死出の踊りだ。もっと上手く踊りな」


 首を吊られた者たちはまだ誰も死にきれずに、時々、つま先を床につけてはかろうじて息をしているようだった。

 何人かが床につま先をつけると、首を吊ったロープを支えている水平に張った太いロープが、たわみすぎて急に元にもどる。そして、息をついていた者のつま先を床から引き離した。


 すると、再び太いロープが重荷に耐えかねてたるむ。すると、今まで吊されていた者達がつま先で立てるくらいにしなって一息つかせるのだ。


 その様子を踊りに見立てて”死出の踊り”と言うようだった。


 残酷なのは、自分と同じロープに吊されているのが家族だと言うことである。自分が足をついて一息つけば、家族が吊された状態になるのである。


「どうです。たいしたものでしょう」


 若い兵士が嬉しそうに祐司に言った。


「え?」


「あのロープのたわみ具合と絞首用のロープの長さですよ。ロープが短いか、たわみが少ないと、あっという間に吊し終わってしまう。

 反対にロープが長すぎたり、たわみが少ないと、みんな足が床についてしまってやり直しになる」


「そうですね」


 若い兵士の言うことに祐司は気のない相槌を打った。


「それを上手く調整するのが処刑人の腕の見せ所です。処刑人は罪人の身長と体重を量ってから、同じ重さの砂袋を使って、数刻かけてロープの長さを調整するんですよ。だから、最後は全員お陀仏です」


 若い兵士は祐司の様子に無頓着に説明した。


 祐司は昨日見た斬首が人道的な刑に思えてきた。また、処刑される近衛隊兵士が斬首を要求したことも理解できた。


 処刑される者達を嘲るような声はあちらこちらから起こっていた。祐司はいたたまれなくなって、処刑台に背を向けるとパーヴォットが去った方に向かった。


「伯爵館の者に、昨日と今日の処刑は明確なメッセージを送った。近衛隊に属する者は家族まで連座して極刑にする。

 しかし、領主や郷士の家臣は命までは取らないということだ。中の連中は扱いが違うと知ってどうするかな」


 祐司がダンダネールの横を通るときに、ダンダネールは独り言のように言った。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)


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