あやかしの一揆、逆巻く火の手12 伯爵館包囲戦 四 エネネリ
包囲九日目
その日は伯爵館など幾つかの建物の煙突から、薄いながらも多くの煙が長い時間に渡って上がっていた。
「どうやら、小麦は食い尽くしたようだな。大麦の粥を食べだしたようだ」
バルガがあくびをしながら言った。流石に五十年配では夕べの一戦が堪えているようだった。
バルガが伯爵館から煙が出ていることで大麦を食べ出したと言ったことには理由がある。小麦はパンにして食べるが竃に火を入れて熱した後で、火を落として余熱で焼く。大麦は米と同様な炊飯を行うために炊きあがるまでは火を使うからである。
「大麦って、一昨日渡したばかりではないですか」
パーヴォットが不思議そうに言った。
「大麦は粥にして食べるから水でひきのばせば、水腹になって食べた時は満足できるだろう。いくら水に苦労していてもそのくらいの水はどうにかして調達するだろう」
バルガはつまらさそうに答えた。
「そうでございますね。わたしも何度か薄い粥でしのいだことがあります」
パーヴォットが真剣な顔で言った。バルガも同調するように頭を振った。祐司はパーヴォットとバルガの間にできた共感する雰囲気を真に理解することはできなかった。
食糧生産と人口がようやく均衡しているような中世世界のリファニアでは、かなり裕福な者でも飢餓と無縁ではない。飢餓とその時に体験したことは多くの人間の共通体験なのである。
飽食の日本で育った祐司は、仕事が忙しくて飯を食い損ねた経験はあるが、本当に食べる物がない飢餓を経験したことはない。
この日から包囲陣の中に本格的に農民兵が投入されだした。農民兵は攻撃には向かないが、守備では粘り強く戦う。
万が一、伯爵館から攻撃の奇襲を受けてもバナミナの街中で休息している領主や郷士の軍勢が駆けつける僅かの間だけ包囲陣を持ち堪えてくれればいい。
農民兵が包囲陣に入ることで、攻城時の主力になる伯爵麾下の兵はさらに体力気力を温存できるようになった。
祐司は、この日持ち場を離れる時に交代で来た農民兵の中に見知った顔を見た。
「おい、そこの人。ガゼット村で先般結婚式をあげた人ではありませんか」
祐司がダンダネールの所行地であるガゼット村で世話になった時に、二組の夫婦の合同結婚式に招待された。その時に隣村の娘を娶った男だった。
どこかで分捕ったのであろう、真新しいオープンヘルメットを被った若い男に祐司は声をかけた。
「はい、一願巡礼さんですね」
若い男は祐司に笑顔で答えた。
「奥さんを置いて戦ですか」
「はい、御領主様の一大事ですから。近所でも一揆騒ぎで大分揉めましたが、なんとか男手を二十人ばかり工面しました」
「ご苦労様です。でも、命懸けの仕事ですから油断しないようにして下さい」
「はい、ありがとうございます。でも、食う物は保証してくれるし、伯爵様から一日銅貨三十枚の手当もでます。
ちょっとした小遣い稼ぎです。死んだり怪我をしたら補償も出るそうです。死んだら年貢は七年免除なので嫁は死んでもかまわない何て言うんですよ」
若い男は正直だった。
「街の衆よりは、おれ達は夜目が効きますから、夜の間は任せてください」
ガゼット村からの加勢は、領主のダンダネールの屋敷で面倒を見ることになり使用人室のいくらかが配置換えされた。それでも、部屋が足りないので庭に幕舎が張られた。
人数に余裕が出来て村の道普請や水路工事に手慣れた農民が多くなったので、人手を使って包囲陣の前に逆茂木や落とし穴などが、この日から本格的に作られた。この作業は士気を弛緩させないようにという意図もあるようだった。
包囲十日目
包囲を開始して初めて雨が降った。雨と言っても霧雨のような雨が、午後から半日ほど降り続いた。
その目で見るためかもしれないが、水に苦労しているであろう伯爵館の方では空気が嬉しそうだった。
「向こうは喜んでいるかもしれませんが、雨の日はつろうございますね」
パーヴォットが祐司の昼食を運んでくると臨時に張った雨避けの幕舎に駆け込んでいた。パーヴォットは祐司の従卒ということなので祐司がするべき雑用はパーヴォットが引き受けている。
「つらいったって、こちらは雨が当たらないところにいるからな」
祐司はパーヴォットから固く焼きしめたパンと、スープの入った銅製のカップを受け取った。
スープではなく温かい牛乳の時もあったが、固いパンをスープにひたして軟らかくしながら食べるのがリファニアの一般的な野戦食である。
「ユウジ様、見て下さい。人が城壁にロープをかけて下りてきます」
パーヴォットが城壁の一角を指さして言った。二人の人物がロープから離れて地面に降りようとしていた。
「角笛を吹け」
祐司はパーヴォットに命じた。同じような角笛や太鼓の音があちらことらから聞こえてきた。たちまち包囲陣のあちらこちらに狙いを定めた弓兵が姿を現した。
「射るな。脱走者だ。雨を集めるために警備が手薄になったんだろう」
ダンダネールが飛び出してきて大声で周囲の包囲陣にも怒鳴った。
祐司はダンダネールの発する光が動揺していることに気が付いた。祐司は今こちらの方に走ってくる脱走者がただの脱走者ではないと感じた。
城壁から数本の矢が飛んできたが、脱走者は左右に走りながら無事に包囲陣に辿り着いた。
脱走者は三十代半ば程の男女だった。男女とも下働きの男が着るような粗末な感じの服を着ていた。
「マネロ・ファティウス殿、バルガ、この二人をサモタン城塞に届けてくる。後の指揮は頼むぞ」
ダンダネールは近くの包囲陣に入った脱走者の男女を貰い受けてくるとファティウスとバルガに言った。そして、三名の兵士を連れてサモタン城塞に出かけて行った。
「ダンダネールさんは、脱走者を縛りもしなかったな。服装から見てどこかの領主か郷士の使用人のようだが、女が男の格好をしているのはおかしい。一番おかしいのはダンダネールさんが自ら二人を連れてサモタン城塞に行くことだ」
祐司はダンダネールを見送りながらパーヴォットに言った。
「見た目とは、あの二人は使用人ではないということですか」
パーヴォットの問に祐司は推論を口にした。
「多分、伯爵側の間者だろう。伯爵館内のことが見てきたかのように噂で流れていたのは憶測ではなしに通報者がいたのではないかな。それが、ばれそうになって、女も男の服装で城壁に近づいて逃げ出した」
「当たらずとも遠からずでしょう」
いつの間にか背後に来ていた バルガが言った。
「ユウジ様、城壁の兵士の様子がおかしゅうございます」
城壁の方を見ていたパーヴォットが少し大きな声で言った。
「何か異変でもあるのか」
「確かに何人かは女でございます。弓を持っているのに先程、矢を放たない兵士が何人かいました。それで、不思議に思って目をこらして見てみたのです」
「間違いないか」
バルガが城壁の方を見やりながら言った。
「パーヴォットの目は確かです」
パーヴォットの驚異的な視力を知っている祐司は確信を持って言った。
「包囲陣の各所に伝えて遠目の効く者に確認させよう」
祐司達の交代時間近くになって、どうもパーヴォットの言っていることが本当らしいことがわかってきた。
大楯を持ち巫術師の”屋根”の援護を受けて城壁近くまで接近した偵察隊から確かに城壁で守備についている兵士の中に女がいることが報告されたのだ。
「こちらは、不意の攻撃に備えて見張りをしているが、主導権を握っているのはこちらだ。いつ一斉攻撃が始まるかわからない伯爵館の連中は、いざという時の兵力を温存して置く必要がある。さりとて見張りと急襲に備えた最低限の兵力は四六時中城壁に貼り付けて置かねばならない」
ファティウスがしたり顔で言った。
「兵糧の欠乏、水の欠乏に加えて兵力の配備にも苦心しているとうわけですね」
祐司の言葉にファティウスは続けて言った。
「古来より女性が戦場に出たという話は幾つかあるが、大概は負け戦の末の話だ。女に兵士の格好をさせて兵力が充分あるように見せかけているのだろう。
そうすれば、こちらの急襲を躊躇させられるからな。そして、戦闘力のある本当の兵士は休ませているわけだ」
「こちらも、偽兵を使って総攻撃を今にもかけると思わせて、伯爵館の兵士を城壁に集めて疲れさせればいいのでは」
祐司はふと思いついた案があった。
「街の女に甲冑を着させるのか」
ファティウスは、軽口のような口調で祐司に言った。
「いいえ、案山子で充分です」
「案山子か。ダンダネール殿が帰ったら相談してみるか。いや、待てよ。それは案外いけるかもしれないぞ」
ファティウスは祐司の思いつきに予想以上に食いついてきた。
包囲十一日目
祐司達が交代の為に包囲陣に到着すると、伯爵館から討って出た兵士の甲冑やら、骨董品のようなヘルメット被った頭だけの案山子があちらこちらの、土嚢で作った胸墻に頭だけが出るように立て掛けてあった。
「ユウジ殿、昨日、出して貰った思案をさっそく実行させている。全部で千くらいは作るつもりだ。そんなに予備の甲冑もないので、それらしい鍋やら洗面器、男物の大きな帽子まで集めさせているがな」
ダンダネールが笑いながら祐司に近づいてきた。
「どこかで軍師でもしておったのか」
ダンダネールが聞いた。
「とんでもございません。昔、読んだ軍記物に出ていただけでございます」
祐司はまさか自分の言ったことが、すぐに実行されるなど予想もしていなかったためにひたすら恐縮して言った。
「まあ、子供だましだと言えばそれまでだが効果は出ている。先程から城壁の兵士の数が倍ほどになった。食糧と水に続いて休んだり寝る時間も減らしてやったというわけだ」
ファティウスが祐司の肩を叩きながら言った。祐司が見ていると、包囲陣の兵士は配置した案山子を時々移動させたり揺すっていた。
「あんまりじっとしていては見破られるからな。見張りの兵士も暇つぶしの仕事ができて一石二鳥だろう」
ダンダネールはそう言うと、祐司の方にあらたまったように向き直ってから言った。
「ユウジ殿、実は貴殿に会いたがっている者がいる」
「誰でしょうか」
ダンダネールの口から意外な人物の名が出た。
「エネネリだ」
「エネネリさん?」
「エネネリは、あの裁判の日に地元派で確保した。今は未決囚の扱いだからサモタン城塞で監禁されている話はしたな。
監禁と言っても囚人扱いではなく、普通の部屋に閉じ込めている。家族と婚約者は城塞で下働きをしてもらっている」
ダンダネールは祐司に噛んで含めるように話した。
「どうしてエネネリが?」
「ユウジ殿にお礼がしたそうだ。結果論だが今の事態になったのはエネネリの功績も大きい。そのエネネリの頼みだ。行ってやってくれないか」
ダンダネールの頼みとあっては祐司に断る術はなかった。
「わたしはこれからサモタン城塞に行く。いっしょに付いてきてくれ」
ダンダネールはそう言ってから、待たせてある馬車の方に向かった。祐司はその後に従った。
祐司がダンダネールと馬車に揺られてサモタン城塞に着くと、ダンダネールは門衛に祐司を託して伯爵に面会に行った。祐司は守備隊の兵士に案内されてサモタン城塞の最上階である四階に案内された。
ダンダネールが言っていたように四階は牢屋といういう雰囲気ではない瀟洒な作りのドアが廊下に並んでいた。
案内の兵士は一室の前に止まると持っていた鍵でドアについている南京錠を開けた。どうも、もともとは鍵のかかるようなドアではなく臨時に南京錠を取り付けたような感じだった。
「さあ、ここです。面会が終わりましたら部屋の中にあるヒモを引っ張ってください。表の鐘につながっています。鐘の音がしましたら部屋を開けにきます」
そう言って兵士はドアの上にある小さな鐘を指さした。祐司は案内された部屋は招待された客のための部屋で、鐘は使用人を呼ぶための物ではないかと思った。
兵士に促されて部屋に入ると予想通り牢屋ではなく、御簾をかけたベッド、足の彫刻を施した机に椅子があるこざっぱりした客室だった。
祐司が部屋に入りきると、ドアが閉まり南京錠をかける音がした。客室であってもこの部屋の住人が囚われ人であることを示す音である。
「ジャギール・ユウジ様で御座いますね」
部屋の真ん中に小柄な女が立っていた。エネネリだった。
エネネリのほぼ黒髪といっていい濃い茶色の髪は祐司が見たことないほどに細やかな髪だった。
エネネリの黒い中に微かな茶色が混じった瞳が祐司を見つめていた。はっきりした目鼻立ちながら幼い顔つきは裁判の日に見たエネネリの表情をより温和に見せていた。
自分が処刑されるかもしれないという、裁判の日のエネネリの少しきつい顔つきと今の顔つきを比べたら、今の顔つきが本来のエネネリの姿だろうと祐司は思った。
「はい、そうです。裁判の時は乱暴をして申し訳ありません」
祐司は少し頭を下げて言った。祐司はエネネリを背負い投げで投げ飛ばしたことをあらためて謝った。
「いいえ、なんともありません。それよりわたしに頭を下げるようなことはお止めください。ユウジ様のおかげで命は繋がり、家族もこの騒ぎが終われば家に帰れるそうです。その大恩あるユウジ様に伏して礼を言うのはわたしの方です」
エネネリはあわてて言った。
「監禁されているとのことですが、おつらくありませんか」
祐司は単にエネネリが礼を言いたいのだろと思って礼儀正しく話そうと思っていた。
「いいえ、十分なことをしてもらっています。いつも働きづめでしたからかえって楽をさせてもらっています。いつもの年なら収穫で大変な時期ですが、昨日、村長さんから言付けがあってウチの畑の収穫は村でしてもらえることになりました」
「それは何よりです」
「それより、わたしの巫術の力は本当になくなってしまいました」
エネネリが言った言葉に祐司はギクリとした。エネネリの巫術の力を奪ったのは祐司である。そのことをエネネリが正しく認識していて問い詰められたらどうしようとかと狼狽えたのだ。
「不思議ですね。鍛錬をおこたったり歳を取ったり、病で巫術の力が弱くなります。エネネリさんは厳しい尋問で体調を崩したからではありませんか」
祐司はそう言いながら自分でもまずい言い方だと思った。
「いいえ、裁判の日までは確かに巫術の力はありました。それに、ユウジ様に”突風”を出した時も、絶対に術は発動していました。手応えがありますからわかります」
祐司はスヴェアから巫術師が術を発動させる時は、体の中から力が飛び出していくような感じを受けることを聞いていた。
エネネリは自分が確かに術を発動させたのに祐司には利かなかったことを不審に思っているのだと祐司は思った。
「…」
「わたしは巫術の力がなくなって本当に嬉しいのでございます」
エネネリは祐司を問い詰めることなく微笑んで言った。
「どういうことですか」
「巫術の力がある時は、妙に体が火照ったり、節々が堪らなく痛かったのです。わたしに取っては病苦以外何者でもありませんでした。
特にベストラス山の辺りにいくとそれがひどくなりました。そんな時にかぎって、天候を変えるような広い範囲の風が起こせました。そして、しばらくは体が楽になりました」
祐司はエネネリは巫術の力はコントロールして使えたが、体が巫術の力に耐えるようにはなっていなかったのでは思った。それに加えて使い切れない巫術のエネルギーを人体に影響するほどに溜め込むのだとエネネリの体を覆う不安定な光から祐司は判断した。
軽自動車に無理矢理二百馬力のターボエンジンを搭載したような状態だろうと祐司は思った。そして、そのエンジンは止める事ができない。ブレーキー、タイヤ、車体に無理がくる。
「わたしを苦しめておりました力を取り除いてくださったのはユウジ様ですね」
ここで祐司はエネネリの問にさらに混乱したような口調で答えた。
「いや、そんなことはできません」
「無理に聞き出そうとは思いません。ユウジ様は巫術の力を与えたり、取り除くことのできる凄い巫術師なのでございましょう。でも、そのようなお方が自分の力を隠したがることは、わたしのような中途半端な巫術を使う者にもわかります。誰にも言いません」
祐司はエネネリが祐司を巫術師だと思っているのなら、それを否定しない方がよいと考えた。
「あなたがそう思うのならそう思っていてください。でも、本当にそのことは人には言わないでください。余計なことが尾ひれのようについて、わたしに災いをもたらすかもしれませんから」
祐司の言葉にエネネリは満足できる答えを返してきた。
「わかっております。それに、こんな話は誰も信じません」
しばらく、沈黙していたエネネリが思い詰めたように言った。
「ユウジ様、お礼がしとうございます」
「エネネリさんは、礼を言ってくれました。それで充分です」
「わたしを抱いてください」
エネネリの部屋に入った時から、エネネリの言葉を祐司は予想していた。
エネネリの発する光が初めて千年巫女神殿の神官長グネリに会った時に、グネリが出している光の具合と同じだったからだ。
エネネリは巫術のエネルギーを貯めて巫術も使えるが、吐き出すことのできない巫術のエネルギーを溜め込むというグネリと同様の体質らしかった。その巫術のエネルギーは体を苛む。性行為を行えば一時でもその苦痛から逃れられる。
そして、祐司がエネネリと性行為を行えばグネリの場合と同じように、体を苛む巫術のエネルギーは消滅するだろう。
(第二章 北クルト 冷雨に降られる旅路 最果ての村アヒレス4 巫術師崩れ 参照)
「あなたには婚約者がいます」
祐司はそう言いながら、エネネリが抱いてくれと言った以上、そのことでエネネリが引き下がるとは思えなかった。
むしろ、自分への言い訳で言ったに過ぎない。あなたには婚約者がいると警告したという言い訳である。
「まだ、結婚していません」
確かに性におおらかなリファニアでは未婚者に貞節が要求されることはない。しかし、婚約者がいるとなると流石に背徳と噂されるだろう。
「わたしの家は貧しい家です。小さな畑では生活ができません。それで、代々、狩りをしております。正直、わたしが巫術を使うまでは村でも最も蔑まれた家でした。
ですから、わたしは十五歳になった時から、慰み者のように、村の男の夜這いを受けました」
祐司はリファニアでの生活からエネネリの言っていることはなんとなく想像できた。夜這いの習慣はリファニアの農村では、ままあるらしい。しかし、村長や村会に出るような家の娘が夜這いをかけられることはない。
村のヒエラルキーの中で下層の家の娘が夜這いを受ける。
「そんな女を抱くのは嫌ですか」
エネネリは半分泣きそうな声で言った。
祐司は意を決した。エネネリは村の男の慰み者と言ったが、夜這いをかけられても最終的な決定権は女が持っている。ヒエラルキーが下位の家の娘はしがらみから断りにくいだけである。
エネネリは経験的に性行為をすれば体が楽になることを知って、そう拒まずに男を受け入れたのではないかと祐司は思った。
二十歳と言ってもパーヴォットより小柄で、百四十センチほどの身長しかない、まだ少女の面影の残ったエネネリを抱くことに祐司は背徳感を感じていた。
「でも子ができたら」
祐司はそう言いながら自分は逃げていると感じた。そして、全てのことをエネネリに責任を負わせようとしている自分に気が付いた。
「多分、わたしは石女かもしれません。今まで一度も身ごもったことはありません」
「そう言われても責任がありますから」
「わたしの婚約者は、半分イス人(アジア系)の血を引いております。ここの守備隊の隊長さんの計らいで何度か逢い引きもさせてもらってます」
エネネリのその言葉に祐司の自制心は崩れた。
「ユウジ様、わたしがお礼を言っていたのにユウジ様に返って気を使っていただきました。ありがとうございます」
祐司が鐘を鳴らすヒモを引いて兵士を呼んでエネネリの部屋を出て行くときに、エネネリは深々と頭を下げた。
祐司はエネネリに餞別を渡すつもりで、銀貨二枚を用意してきていたが流石に行為の後で渡すのは気が引けた。
「また、会いましょう」
祐司がそう言うとエネネリは満面の笑顔で応えた。そして、エネネリの覆っていた不安定で激しく変わる色の光は消えて大人しい薄緑の色の光がエネネリを覆っていた。
この時点では祐司は知りませんが、巫術のエネルギーを溜め込んでいる女性は極めて妊娠しにくい状態です。祐司の巫術のエネルギーを排斥する自分由来の細胞がそのような女性の体内に入った場合は……。
このとこはいずれ祐司は知るようになりますが、本文ではまだずっと先のことです。




