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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第六章 サトラル高原、麦畑をわたる風に吹かれて
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あやかしの一揆、逆巻く火の手6  吹き荒れる一揆の嵐

「伯爵邸に向かえ」


 王都派の中から何度かそのような声が聞こえてきた。それが、合図のように王都派は、戦いから離脱出来た者から少しずつ広場から退いた。まだ、なんとか確保している広場の北の出入り口から王都派は次々に逃げ出した。


 北の出入り口を中心した王都派の半円形が出来た。その半円形は徐々に小さくなり出入り口に吸い込まれて行った。


 最後の王都派の者が出入り口に退いていくと、地元派も出入り口に殺到した。


 数名の剣をきらめかせた地元派が王都派を追って伯爵館に至る通り入ったと思うと、風が通りを駆け抜ける強烈な音がした。二人の地元派が広場に吹き飛ばされてきた。


「巫術師のカスパルとヘドヴィカだ」


 祐司の隣にいた地元派の郷士が呻くように言った。


「ユウジ殿、すまないが助太刀を頼む。見てのように”突風術”を使う巫術師がいる。巫術師相手の戦いの達人と見込んで是非お願いする」


 ダンダネールの切羽詰まった声がした。


 ダンダネールがいつの間にか祐司の傍らに来ていた。ダンダネールの横には白いマントを羽織った老年の男がいた。守備隊の高位指揮官らしかった。 


 祐司は後でその人物が守備隊隊長ガスバ・ウレリアノであることを知った。


 ダンダネールが焦っていたのは、相手が敗走した所を追撃して大きな打撃を与える機会を二人の巫術師のために阻止されたからである。


 もう事態は謝罪して済むという段階を過ぎてしまっている。王都派にしろ地元派にしろ相手を一度武力で完全に沈黙させる以外に現在の騒乱が終息する見込みはなかった。

そのために、敗走する相手を追撃するという大きな戦果が期待出来る機会をダンダネールは絶対に逃したくなかった。


「伯爵様は?」


 パーヴォットが心配そうに聞いた。


「王都派が塞いでいた南の通りを確保した。そこからお逃げいただいた」


 ダンダネールの横にいた守備隊隊長の言葉にパーヴォットは安心した顔を見せた。


 祐司はもう地元派と王都派の戦いで部外者というわけにいかなくなったことを悟った。祐司はあらためて覚悟を決めてダンダネールに言った。


「通りの両側に人数を配置して隠れていてください。もしわたしが巫術師を押さえることができたら一気に飛び込んできてください。それから、わたしのすぐ後、十人ばかり守備隊の兵士をついてこさせて下さい。言っておきますが、わたしが相手にするのは巫術師だけですよ」


 守備隊隊長の命令でバナミナ城塞からの駆けつけた完全武装の守備隊兵士が呼ばれた。


「すぐわたしの後についてきてください」


 祐司の言葉に十名ばかりの守備隊兵士は、顔はフルヘルメットで見えないが不安げな仕草をした。


「大丈夫です。すぐわたしの後にいればいいです。吹き飛ばされるのはわたしです」


 祐司は刀を右手に構えて、通りの入り口に立った。三十メートル程向こうに、二人の巫術師らしき人物が立っていた。その後ろに数十名の武装した王都派が警戒しながら後退していた。


 巫術師も少しづつ後ずさりをしているようだった。


 祐司と巫術師の間にある家の僅かな凹凸には吹き飛ばされることを免れた地元派が、十名ほどへばりついていた。

 この吹き飛ばされなかった地元派の存在により、逆襲を警戒しなければならなくなり、巫術師を含めた王都派は一気に後退できないでいた。


「オレはジャギール・祐司。行くぞ。そこで待ってろ」


 巫術師はお互いに顔を見合わせた。巫術師はどちらも三十年配の男女だった。巫術師であれば”突風術”の恐るべき使い手であるカタビ風のマリッサを討ち取ったジャギール・ユウジの名は知っている。いやがおうにも祐司に対して警戒感を抱くであろう。


祐司が駈け始めた。祐司は足音からすぐ後ろを約束通りに、守備隊兵士がついて来ていることを確信した。


 二人の巫術師の目が一瞬光を放ったように祐司には見えた。次の瞬間、巫術師達は同時に”突風術”を発動した。


 祐司は思わず笑みを漏らした。巫術士達は術など発動させる時間があれば逃げるべきだったのだ。

 その必要はなかったが、祐司は多少左右に進路をずらせた。後で、突風を避けたと言い訳をするためである。


 目論見通り、近距離で祐司を狙った突風はそよ風のような風しか起こらなかった。


 あっという間に距離を詰めた祐司は左に立っている男性の巫術師に狙いを定めた。祐司は”突風術”という環境に負荷の多い術を使う巫術師に対しては容赦がない。むしろ、狙っていると言っていい。


「右をやれ」


 祐司は後ろの兵士達に怒鳴ると、あわてて剣を構えようとする巫術師の刃を両手に持ち構えた刀で上段から切り下ろした。巫術師は自分の剣でそれを受け止めようとした。


 祐司の刀は巫術師の剣を真っ二つにたたき割るとそのまま巫術師の脳天に食い込んだ。祐司は巫術師が人一倍武具に巫術を注ぎ込む傾向があることを知っていた。

 祐司の日本からの刀は巫術のエネルギーを無効にしてしまうので互いの武器が触れ合えば圧倒的に有利だった。


 祐司は短槍で人を突くという感覚は経験したが、刀が頭蓋骨を叩くという感覚は初めてだった。硬い頭蓋骨に食い込んでようやく行き足が止まった刀は、滑りながら傷口を切り裂いた。


 巫術師はそのまま膝をつくと、血と脳漿が混じったような液体で顔を汚しながら倒れた。


 祐司が横を見ると、もう一人の女性巫術師は守備隊兵士の槍が二本胸に突き刺さって、必死に剣を振り回していた。巫術師の胸に槍を突き立てた二人の傭兵はそのまま前進するので槍はすでに巫術師の体を貫いていた。


 その横を、完全武装の守備隊兵士が通り過ぎて行く。通りでゆっくり後退していた王都派は、全速で逃げだしたいのだが、そうすると背を見せた瞬間に槍で突かれるので剣で槍を防ぎながら後ろ向きにしか後退できない。


 左右が家の壁という狭い通りで、相手は自分の剣より遙かに長い長柄である。それが、槍衾のように迫ってくる。せいぜい、長柄の穂先を剣で防ぐしかない王都派は何人かが長柄に突かれた。


「バナミナ市民諸君、伯爵殿下に忠誠を見せる時だ。今こそ旗幟きしを明らかにせよ。反逆者に鉄槌を浴びせよ」


 通りに進出してきた地元派の郷士達が、戸や窓を固く閉じている通りの民家に向かって何度も同様のことを怒鳴った。


 やがて、一軒の家の二階の窓が開いた思うと、薪が通りにいる王都派の上に投げられた。それを合図に何軒かの家から、薪や煉瓦が王都派に投げ落とされた。


 この頭上からの攻撃に、最後尾で守備隊兵士の攻撃を支えていた一人が全速で逃げ出す。すると、スキができて一気に押された。そうなると、先頭でなんとか傭兵の攻撃を受け止めていた者達が堪らずに逃げ出した。


 王都派は総崩れになった。伯爵館に続く通りは背中を刺された王都派の死体と負傷者が点々と伯爵館まで続くことになった。



 祐司が広場に戻ってくると、ダンダネールが数名の地元派郷士と話し込んでいた。


「ユウジ殿、またもやお手柄だ」


 祐司に気がついたダンダネールは少し興奮した口調で言った。いつもは冷静なダンダネールでも戦いの興奮の中にいた。


「相手があわてて術をかけ損ないました。突風は出ましたがなんとか避けました」


 祐司はさも危なかったかのように言った。


「気合いだな。いや、巫術師相手の戦い方を見せて貰った。カスパルとヘドヴィカは”突風術”では達人と言われている。王都派自慢の巫術師に臆せぬとは驚いた。

 それに、伯爵殿下から直接聞いたが伯爵殿下のお命を守ってくれたそうだな。なんとお礼をいってよいのかわからん」


 祐司はそう言ったダンダネールの発する光を慎重に見ていた。ダンダネールの光は安定しており、ダンダネールは心底そう思って言ったことがわかった。


「ダンダネール様、マール州で一番作法に詳しい貴方が礼の仕方がわからないなんて言わないでください」


 パーヴォットが笑いながら言った。



挿絵(By みてみん)




 広場には八十四の死体と、地面でのたうち回っているほぼ同数の負傷者が残された。その過半以上は王都派で負傷者は反逆者として捕縛された。


 地元派もこの騒乱で、守備隊兵士を含めて十九人が死んで二十七名が重傷を負った。


 最終的に地元派の死傷者が少なかったのは、農民とバナミナ市民の投石で地元派と切り結ぶ前から王都派のかなりの者が負傷して戦闘力が落ちていたことと、数の不利から退勢に追い込まれた王都派が逃げ遅れた時に大きな損害を出したためである。


 伯爵が王都派に殺されそうになった路地には、頭から血を出し右手首がほとんど切断された死体、大量の血痕と誰かの右手が残されていた。

 そして、祐司達が逃げた家と家の隙間には三人の王都派の死体が残されていた。路地には大量の血痕が残り逃げた者もかなりの手傷を負っているようだった。


 地元派による追撃戦になった伯爵館に続く通りでは、有力巫術師カスパルとヘドヴィカを含む三十五人が討ち取られて十九人が捕縛された。


 通りで発見された死者の中にはデルベルトの死体もあった。追撃が激しく家臣がもてあまして放置したらしく、祐司が負わせた傷以外にはなく失血死のようだった。


 地元派にとっては後でわかったことだが、頭の具合は単純だが、やはり、王都派の有力者で近衛隊を統率するデルベルトを王都派が早々に失った打撃は大きかった。


 この追撃戦では、最初に突風で吹き飛ばされた地元派が七人負傷しただけで死者はいなかった。



「ユウジ殿、我が屋敷で待っておいてくれ」


 ダンダネールがそう言いながら、先程話し合っていた守備隊隊長と横を駈けて行った。


 祐司は僅かの時間に、三人の男を殺して二人にしばらくは行動不能になる傷を与えたことに気がついた。


「とんだ殺人鬼だな」


 祐司は独り言を言った。


「伯爵妃のことですか」


 パーヴォットが不思議そうに聞いた。祐司は黙っていたがパーヴォットが何か言いたそうにもじもじしていた。


「何かあるのか」


「知らない男と手を繋ぎました」


 パーヴォットが俯いて言った。


「??」


「伯爵様と逃げる時に思わず伯爵様の手を引っ張って逃げました」


 パーヴォットが思い詰めたように言った。


「オレは気にしない」


「折檻をお願いします」


 パーヴォットは何かを期待するかのように言った。


「今はだめだ。人が見ている」


「はい。人がいないところでお願いします」


 パーヴォットは嬉しそうに言った。


 パーヴォットは多くの斬殺死体を見て、自分でもデルベルトに剣を差し込んだ。日本の十四歳の女の子なら考えられない所行である。そして、次の瞬間には祐司に甘い折檻をして貰うことをおねだりする。


 祐司はパーヴォットも戦乱の時代の子だと思った。


「取りあえずダンダネールさんの屋敷に帰ろう」



 ようやくダンダネールの屋敷に戻った祐司は状況を奥方のフスラヴァに報告した。祐司の話を聞くと奥方は使用人を総動員して屋敷の窓に板を打ち付けさせ防備を固めだした。


「ユウジ様どうなるのでございます。このような騒乱となると、まだ、人も多く死んだり傷つくのでございましょうか」


 休息のために寝室に戻った祐司にパーヴォットが不安げに聞いた。


「いや、そうとも思えない」


 祐司は女中が持って来てくれた洗面用の桶で顔や体に付いた血を洗いながら、自分でも根拠のないことを言った。


「どうしてですか」


 祐司はパーヴォットの問いかけに自分に言い聞かせるように言った。


「しばらく様子を見るしかないな。それより、着替えを出してくれ。服も血まみれだ」


「どこへ行かれるですか」


 祐司がパーヴォットの問に答えずに部屋を出て行こうとするので、パーヴォットが不安げに聞いた。


「井戸で体を洗ってくる。手桶も水も血で赤くなっている。服も今のうちに洗っておかないと血が取れなくなりそうだ」 


 祐司は本当は風呂に入りたい気分であるが、ダンダネールの屋敷でも家風呂はなかった。


「洗濯は任せてください」


 パーヴォットが慌てて祐司を追いかける。 



 ダンダネールの館で待っていた祐司とパーヴォットの前にダンダネールが姿を現したのは、少し薄明の雰囲気が出て来た夜中近くだった。


「ダンダネール様、遅かったですね」


 顔に疲労の色が浮かんでいるダンダネールにパーヴォットが声をかけた。ダンダネールは何も言わずに、出迎えた奥方の手を握った。


「王都派は伯爵妃をかついで伯爵館に立て籠もった。こちらは、バナミナ城塞に集結している。すぐに武装して出かける。今は交代で各自の家に帰り戦い装束に着替えている」


 ダンダネールはそう言うと執事に命令口調で言った。


「お前と御者以外の男に武装させろ。すぐに出発だ。いちいち話すのが面倒だからここへ全員呼べ。それから、今すぐに食べられるものを持ってこい」


 十名ばかりの男が集まり、家族も揃うと食事をしながらダンダネールは状況を説明しだした。


「伯爵館は、こちらで包囲しているが攻め込むには力不足だ。バルバストル伯爵殿下は地元派領主に特別警戒令を出した。

 バナミナ守備隊は伯爵が完全に掌握した。守備隊隊長のガスバ・ウレリアノ以下の守備隊兵士はあらためて伯爵殿下に忠誠を誓った」


「御夫婦で内戦ですか。派手な夫婦喧嘩だ。貴族はスケールが違いますね」


 今度はパーヴォットは小さな声で祐司に言った。それでも周りの男達が聞いて軽く笑った。 


「それぞれが王都派と地元派の象徴だ」


 ダンダネールも聞こえていたのか笑いながら言った。


「王都派は近衛隊を確保したということですか」


 祐司が確認するように言った。


「残念ながら近衛隊は王都派の牙城だからな。それでも五十人ばかりが寝返ってこちらについたのは僥倖だ。

 主君を裏切るか、世話になった伯爵妃につくかという選択を迫られると腰砕けになるような奴らだから小心者ばかりだ。まあ、一線でこき使ってやる」


 ダンダネールは一呼吸置いてから言葉を続けた。


「それに守備隊は誰も王都派への寝返りはなかった。傭兵部隊で近衛隊より精強だし、先を見る目は確かだ。

 心ある者は勝負がついたことを理解している。後は、それがわからない馬鹿が身を持ってわかるまでの騒動だ」


 ダンダネールの言うことが本当なら近衛隊は三百人ほどであるから、二割近い寝返り組を出したことになる。


「だが、今はどちらも体勢を作りきれていないから小競り合いは街中で常時起こっている。フスラヴァ、ともかく用心が肝要だ。手際よく一階の窓は塞いでいるようだが、女でもいいから不寝番をおけ」


 ダンダネールが奥方のフスラヴァに渋い顔で言った。


「どうなります」


 奥方のフスラヴァも少し不安な様子で聞いた。


「伯爵館を包囲したといったが、まだ穴だらけだ。やっかいなのは王都派は市の北門を確保していることだ。そこから、援軍が入ってきている。王都派領主や郷士の領地はバナミナ周辺に多いからな。

 その援軍は包囲陣を突破して伯爵邸に三々五々入っている。こちらも援軍を呼んでいるが遠方の者が多いから本格的に援軍がくるのは明日以降だな」


 地元派も王都派もバナミナ在住の領主、郷士は全体の三割程度である。ダンダネールの話しから双方とも、即戦速攻よりもまずは味方の集結を図ったようである。


「さきほどダンダネール様が言っておられた特別警戒令といいますと?」


 パーヴォットがダンダネールに聞いた。


「分かり易く言うと籠城だ。バナミナからは一切の兵は出さない。領主は定数の兵を率いて期限内にバナミナに集結するという言うことだ」


「すると、地元派の兵でバナミナはあふれかえるんですね。そうなれば、一気にカタがつきますね」


 パーヴォットは安心したように言った。


「捕虜の尋問から伯爵妃も王都派に特別警戒令を出したということだ」


 ダンダネールは椅子に背をもたせかけながら言った。


「となると、バナミナにくる王都派を市城壁で防いで籠城しつつ、伯爵館に籠城した王都派を包囲するわけですね」


 奥方のフスラヴァがちょっとがっかりしたように言った。


「どうかな。次々と一揆の報告が入っている。一揆が起こっては領主はバナミナなんかに来る余裕はないだろう」


 ダンダネールは椅子の背にもたれながら少し上を見て言った。


「一揆ですか」


 今度は祐司が言った。


「昨日の夕刻近郊の王都派領主の知行するクルトル村で領主の息子一行が伯爵妃のために人数を出せとして村長や村会メンバーの家族を人質として連れて行こうとした。しかし村民は抵抗した。そこで領主の息子が村長に斬りつけた。それが切っ掛けで暴動が起こった。

 そして暴動が一揆になった。一揆はクルトル村から次々連鎖反応のように広がっている。まあ一揆は王都派の領地で集中的に起こっているから王都派の援軍はそうは増えまい。伯爵館の王都派も籠城の用意で手一杯だろうから、すぐに打ってでることはないだろう」


 祐司は、バルバストル伯爵と王都派に都合のよい一揆が、はかったように起こったというダンダネールの話に違和感を感じた。


 そしてダンダネールの予想は、半分当たって半分は外れることになる。


 王都派がバナミナの北門を確保している間に、一揆の勢いに押された王都派領主が予想以上に早く家族一族郎党を引き連れてバナミナに避難してきたからだ。


 結局、王都派は近衛隊を別にしても動員できる半分程度の人数を伯爵館に集めることができた。

 ただ、バナミナ以外から伯爵館に入ったのは女子供を含めて命からがら逃げ延びてきた者が大半で戦力としては疑問があった。


「ダンダネール様、エネネリはどうなりました」


 祐司は気になっていたことを聞いた。


「騒ぎが大きくなる前にサモタン城塞に護送されて行った。今はサモタン城塞の独房にいる。今はこのような状態だからしばらくは取り調べもままらならない」


「死刑になったりしませんか」


 パーヴォットが心配そうに言った。


「人心を惑わした罪で取り調べ直すことになるが、人心を惑わした結果、死んだりする人間が出れば死刑もあるが、多分、悪くて領内所払いだろう」


 ダンダネールの言葉にパーヴォットが嬉しそうに答えた。


「それを聞いて安心いたしました」


「ユウジ殿、取りあえず今日は、この屋敷で休息してくれ。わたしは今の手勢だけで伯爵殿下警護と捕虜交換のために今日は屋敷を留守にせねばならぬ」


 ダンダネールは少し厳しい感じのする口調で言った。


「捕虜交換ですか」


 ダンダネールの奥方であるフスラヴァが訝しげに聞いた。通常の戦であれば捕虜交換は珍しくない。しかし、今度の相手は反逆者である。犯罪者のもとに犯罪者を手渡すようなものである。


「そうだ。伯爵館には地元派の人間もかなりいたからな。捕まえた王都派の領主や郷士と交換をする交渉をする。ただし、こちらが出す捕虜は負傷者ばかりという算段だ」


 ダンダネールは口に指を当てながら言った。戦闘力のない負傷者を伯爵館に送り込むという話から、祐司は包囲戦を行うことをバルバストル伯爵や地元派は決めたのだろうと思った。


「いっしょにいかなくてよいのですか」


 祐司はダンダネールにたずねた。


「うむ、最初はそう思っていたが、あまりにもこの屋敷が手薄になる。客人にものを頼むのは気が引けるが今日は用心の意味もあって残って欲しい」


 ダンダネールはそう言い残すと、先程まで使用人であった手勢を引き連れて出かけて行った。このダンダネールの心配は的中した。


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