あやかしの一揆、逆巻く火の手5 祐司VSデルベルト
エネネリの裁判の前からデルベルトの頭の中は、出て行った奥方のことと、奥方が自分の母親に伝えた自身の死について一杯になっていた。
デルベルトが奥方のオレーシャと結婚したのは、王都タチに残っていた家などを処分するためと、親戚から縁談を勧められて王都タチに半年ほど出向いたおりだった。
奥方のオレーシャは、王都タチの王直属の下級郷士の次女で死を予見する女として噂が立っていた。そのため器量では並みより美人でありながら二十四歳になっても縁談が来ないという不遇をかこっていた。
デルベルトはリファニア支配階層の常識からは少々歳を取っているが、オレーシャが王都の女ということで舞い上がってしまった。
オレーシャの親もオレーシャを持て余していたのと、王都の下級郷士では考えられない程の知行地を持つデルベルトにぞっこんになった。
デルベルトは、遠隔地への輿入れということで常識外の結納金も用意した。
マール州までの旅は新婚旅行のようであり、デルベルトとオレーシャはそれなりの好きあった夫婦になった。そして、三人の子もなして、金には困っていたが、表面上は円満な夫婦として昨日までは問題なく過ごしていたつもりである。
それが、昨日のオレーシャは、デルベルトに死の予告をして子供とともに王都に旅立ってしまった。その原因は祐司であるとデルベルトは思い込み、祐司を殺すことで自分の死を逃れられると信じていた。
デルベルトは遠目に祐司を見かけると、頭に血が上って伯爵妃の安全を図れと副官に言い残して、あわてて自分に従ってきた家来だけを従えて祐司の方に駈けだした。そして、マントで投石を避けながら祐司の目の前に現れた。
ただ、ついて来た家来のうち二人は投石で怪我をして頭から血を流していた。そのうち、一人はかなり出血が激しいのか左手で頭を押さえて、右手だけで剣を持っていた。
デルベルトの赤いマントの下は、軽装備ではあるが胸部が鉄板になった鎖帷子を着用していた。
ただ、デルベルトに従っていたのは近衛隊兵士ではなく、デルベルト自身の家来のようで鎧などを装備しない平服だった。
「わたしはジャギール・祐司。一願巡礼でこの争いには無関係です」
祐司は戦いは避けられないことを知っていたが、そう言わずにはいられなかった。
「お前はダンダネールの客分だ。無関係などと言う寝言は言うな」
デルベルトの声は怒りで溢れていた。祐司にとってもデルベルトが祐司に遺恨と殺意を持っているのは明らかである。
「先程は、偽巫術師相手に猿芝居をして得意げであったが、平民風情が郷士には百年たっても敵わないことを教えてやる」
祐司はすばやく相手の人数が五名で、デルベルト以外はかなりへっぴり腰であることを冷静に監察した。
そして、激しく揺れる光を発するデルベルトが平常心でないことも見て取っていた。
「今日はついている。カタビ風のマリッサを討ち取った男を討ち取ったとなれば、嫌でもオレの名が中央盆地に鳴り響くだろう。マリッサは巫術師で剣などからきしだっただろうが、オレが本当の剣術を見せてやる」
祐司はダンダネールが、最初に出会った日にマール州の人間は”井の中の蛙”と言ったことを思い出した。
マリッサは高名な巫術師である上に剣の達人として知られていたのだ。ドノバ州では気の利いた子供でも知っていることを、近衛隊司令であるデルベルトが知らないことに祐司は憐れみさえ感じた。
「パーヴォット、まず自分の防御を優先しろ。怪我をしたら折檻だぞ。いや、折檻をしないぞ」
祐司は自分が落ち着いていることに満足しながらパーヴォットに言った。
「心得ました」
パーヴォットの声も普段と変わらなかった。
祐司はまずデルベルト以外の一人を倒すことにした。デルベルトは戦意旺盛であるが他の者は味方がやられたとなると一気に崩れるだろうと思ったからだ。
「バーーーーー」
怒号を張り上げてデルベルトが両手で剣を体の前に突きだして突進してきた。勢いと自分の体重で祐司を一撃で倒そうとする算段のようだった。
猪突猛進のような攻撃はリファニア世界で人より素早く動ける祐司には、充分に空間のある場所であれば容易く回避されてしまう。
祐司は少しばかり左に避けると、デルベルトの剣先を自分の刀の背で受け、剣をそらしながらデルベルトとすれ違った。
そして、祐司はそのまま走ってデルベルトの背後にいた無傷の男に斬りかかった。
まさか、自分の方に祐司が切り込んでくると思っていなかった男はあわてて剣で上半身を防御した。祐司は身を屈めるようにして無防備な男の下半身に刀を横から浴びせた。
祐司は男とすれ違うときに刀に骨に当たる感触を持った。
祐司が振り返ると男は左の脛を半ば断ち切られたような状態で地面に倒れ込むところだった。
デルベルトは姿勢を立て直して祐司の方へ再び突進しようとしていた。その時、背後からパーヴォットがデルベルトの右の脇の下辺りを両手で持った剣で突いた。
パーヴォットは冷静にベスト状の鎖帷子であったために防御されていない脇を正確に突いたようだった。
「卑怯者」
デルベルトは大声で振り返るとパーヴォットに剣を振り上げた。
「逃げろ」
憤怒で剣を振り上げたデルベルトは全くの無防備な状態だった。パーヴォットの技量なら容易くデルベルトの胸や腹に一刺し入れられただろう。もともと刺突に弱い鎖帷子であるから浅手でも確実にデルベルトを傷つけただろう。
しかし、稽古と実戦は違う。デルベルトの勢いに気押されたパーヴォットはあわてて防御の姿勢で後退した。
祐司は刀を突き出しながら全速力でデルベルトに向かって駆け込む。デルベルトは祐司の方に体勢を戻そうとする。
しかし、巫術のエネルギーの影響を受けていない祐司の素早さを計算に入れていなかったデルベルトは、まだ、背中の大分部を見せている状態で祐司の刀を受けることになった。
祐司の刀はまったく無防備なデルベルトの背に吸い込まれた。祐司はデルベルトの鎖帷子がその発する光により巫術で強化されていることを見抜いていた。
思惑通りに、祐司の刀は錆び尽きたブリキにでも吸い込まれるようにデルベルトの鎖帷子を貫通した。そして、刀は刀身の三分の一ほどまでがデルベルトの体に入っていた。
祐司は刀を抜こうとしたが、刀を受け止めたデルベルトの筋肉があわてて収縮したのか手では抜けなかった。祐司は咄嗟にデルベルトの尻を足で蹴飛ばすことでようやく刀を抜いた。
「下郎」
デルベルトは祐司の方へ体を向けると恐ろしい声を上げた。
祐司の剣はデルベルトの体を貫通したようで、デルベルトの上半身はたちまち血で染まっていった。血の出方からかなり大きな血管を傷つけたようだった。
ようやく立っているのが精一杯というデルベルトに二人の配下が駆け寄って服を引っ張って後退させようとした。
「逃げましょう。殺されます」
デルベルトの配下は泣きそうな声でいうと二人でデルベルトの肩を抱きかかえて逃げ出した。
最初にデルベルトが祐司に突進を始めてからこの時点までは、十数秒の出来事である。
「オレの近くにいろ」
「ユウジ様、折檻してください。卑怯なマネをしました」
パーヴォットがうなだれていた。
「相手の背後から切るのは構わない。ただし、自分の背後も警戒してからだ」
「でも練習では相手を後ろから襲う練習はしません」
パーヴォットが少し不満そうに言った。確かにリファニア剣法の稽古では後ろから相手を打つのはルール以前のマナー違反である。
「戦いは試合ではない。卑怯もなければ正々堂々もない。命を全うして、怪我をせずに勝てばいいんだ。パーヴォットのしたことは卑怯ではなく背後を油断したデルベルトが迂闊なのだ」
「はい」
パーヴォットは素直に返事をした。
「ただし、調子に乗るな。次は相手がパーヴォットを誘い込むために背中を見せていると思ってかかれ。まあ、次があっては困るが。再度、言いつける。わたしと一緒の場合はまず自分の安全を図れ」
「はい」
この時、広場の戦況は徐々に地元派が優勢になっていた。全体の指揮を執るべきデルベルトが見境もなく祐司にかかりっきりになったために、王都派はそれぞれが目の前の敵と戦っている状態だった。
それに対して、地元派の守備隊は守備隊司令ガスバ・ウレリアノの命令で曲がりなりにも組織的に戦っていた。また、王都派自体もダンダネール以下の有力者が複数のグループに分かれながらも王都派よりはまとまっていた。
この様子は祐司にも見て取れたが、まだ、出入り口を王都派が押さえていたため近衛隊の増援が到着すれば形勢は逆転しそうだった。祐司はなんとか広場から逃げ出すことができる場所を探した。
「よし、そこの隙間から逃げよう」
祐司は右手に見えた家と家とのわずかな隙間に身を滑り込ませた。カニ歩きでその隙間を抜けると、半尋(一メートル弱)ほどの幅の路地に出た。
そこには、バルバストル伯爵、その小姓、それに二人の抜き身の剣を持った男が伯爵の前後に立って伯爵を守るようしていた。
そこから、少し左手に離れた所には、地面に大きな血痕を残して、剣を持ったまま俯せに倒れている男がいた。倒れている男は伯爵の護衛のようだった。
祐司は、ちょうどバルバストル伯爵の目の前に現れた。
「誰だ」
突然、現れた祐司とパーヴォットにバルバストル伯爵は驚いて叫んだ。
「ジャギール・ユウジ」
祐司は切羽詰まった状況を見て取り、最低限の言葉を発した。
「おお、申し訳ないがちょっと手伝ってはくれないか」
路地の左右には三人づつ。計六名の抜き身の剣を持った男がいた。左手にいる一人は祐司が見知った男だった。バナミナに到着した日に晩餐を同席した王都派郷士ヒルトニアだった。
「囲まれたんですね」
「一人やられて、進退窮まっていたところだ」
祐司は左手の三人が、酷く揺らぎ光の色合いが混じった光を発することを見て取った。祐司がバナジューニの野や、僭称ドノバ候捕縛のおり、傷ついたり敵兵に囲まれた者が発していた光に近かった。
祐司は左手の三人は怯えや恐怖の感情が渦巻いていると直感した。左手の三人はそう脅威ではない。
「右手の方はわたしが一人で引き受けます。護衛の方は二人とも左へ。伯爵様はわたしの出て来た隙間からお逃げ下さい」
「知っている。わたしもそこから逃げてきたら囲まれたのだ」
「パーヴォット、伯爵様と逃げろ」
祐司のその声で、祐司の目の前の男が突っ込んで来た。路地があまりにも狭いために三人が一列になって突っ込んできた。
祐司は横目で、固く閉じられた家の裏口に薪が積んであるのを見ていた。祐司は相手が数メートルに近づいたところで、太い薪を掴むと先頭の男に投げつけた。
男は祐司が薪を掴んだところで、その軌道を見極めて避けようとした。リファニアでは投擲物は、巫術のエネルギーのために最初はゆっくり飛ぶから相手が薪を投げてからでも充分避ける余裕がある。
ただし、祐司が投げれば現在の地球上と同じ物理の法則で運動する。
薪は先頭の男の顔に、ガッシというような低い音を出してまともに当たった。男は立ち止まって右手で持った剣が体より後ろにいき、左手はあわてて薪が当たった額にいった。
男は少し朦朧とした感じだった。脳震盪を起こすほどの衝撃を受けたらしい。
普通なら、デルベルトを相手にしたように一人目をやり過ごしてから、自分の前にいる味方で前の様子のわからない二人目を一撃で屠ふろうとするところだが、自分の背後にいる伯爵のために最初の男にまともに近づいた。
朦朧とした様子の男はあわてて、足を踏み出して前に体重をかけると、その反動を利用して祐司に剣を振り下ろしてきた。祐司はまず相手の一撃を刀で受け止めながら後退した。
少し相手がつんのめって祐司より前に出ようとしたところで、祐司は剣を握っている右手の手首に刀を振り下ろした。
祐司が振り下ろした刀は僅かの距離しか移動できなかったので、勢いはなかったが、祐司は骨に弾かれるような感覚を刀の柄で受けた。
男は剣を落として路地にうずくまった。
祐司はその男に構わず、刀を頭上に振り上げた。
最初の男の行き足が止まったので、立っていた二人目の男が剣を振り下ろしてくる所だった。祐司はすんでのところで剣を刀で受け止めた。さすがに大きな衝撃が手に伝わってきた。
二人目の男はさらに剣を振り上げた。祐司はそのまま横向きになった刀をなぎ払うように動かして二人目の男の懐に飛び込んだ。
今度は刀が勢いよく、再度、剣を祐司に叩き込むために振り上げた二人の目の男の右二の腕に食い込んだ。
祐司は不気味な手応えを感じた。
二人目の男の右手は、断ち切られた骨が見えるほどに二の腕の半ば以上が切断されていた。
祐司は左手だけで刀を持った二人目の男を、そのまま全身で押したおすように前に出た。
二人目の男は、切断されたがまだ剣を握っている右手をつけたままの剣を手放すと後ろ向きに昏倒した。
二人目の男は後頭部をしたたかに石畳に打ち付けて動かなくなった。
「まだ、するか!」
祐司は三人目の男を一喝した。
一人目の男が突っ込んできて祐司が刀で受け流してからここまで七秒ほどである。
祐司が剣術の達人のようだが実際は、巫術のエネルギーの影響を受けない祐司が相手より早く動ける。特に初動が圧倒的に早いというアドバンテージがあるからこそできた事である。
一秒ほど前に相手がどんな風に剣を動かすのかがわかり、相手より二倍ほど早く動けるのである。
もちろん真剣であるから恐れがあれば動きは鈍る。しかし、祐司はすでに数度の剣戟を経験しており肝が据わっていた。
「とうりゃーーー!」
祐司が再び一喝すると三人目の男は、数歩、後ずさりをしてから全力で逃げ出した。
「こっちは片づきました。わたしが殿になりますから、他の人も早く隙間に逃げ込んで下さい。ここにいるより広場の方がましです」
祐司は伯爵の小姓、路地の右を守っていた二人の護衛の順番に家と家の隙間に飛び込んだのを見届けると、剣を構えながら路地の左手で震えている先頭の男に刀を振り上げた。
「だぁーーー」
祐司の叫び声に先頭の男が後ずさりをして、足が絡まり腰砕けのように路地にうずくまった。先頭の男は尻を突きながら後退すると突然立ち上がって、後にいた二人の男と後ろも見ずに逃げ出した。
祐司が路地の右手を見ると数名の男が路地に入ってこようとしていたその男達に逃げだした三番目の男が何やら言っているようだった。敵の加勢が来たようだった。
祐司は自分も逃げる頃合いだと思い、まず右手を二の腕から切断されうずくまっている二人目の男の腹を勢いよく蹴った。
さらに、右手首を半ば程切られた一人目の男の腹も蹴ろうとしたが、一人目の男は左手に剣を持って立ち上ろうとしたために祐司のつま先が男の顎を蹴った。
男は祐司を睨みつけた。祐司はその男の顔、そして、男の発する光から凄まじい殺気を感じた。
祐司は恐怖も手伝って男がまだよろめいて、剣を片手で持ちあぐねている間に上段から刀を男の頭に振り下ろした。刀は数センチ男の額にめり込んだ。
血が顔全体からにじみ出るように噴き出して男の顔は血で真っ赤になった。祐司は男が吹き出す血で自分の顔が血にまみれていくのを感じた。男はそのまま尻から後ろ向きに倒れた。
右手に刀を持って祐司は隙間に飛び込んだ。そして、飛び込んで来た隙間の入り口を見つめながらカニの横歩きで元の広場に戻った。
「ユウジ様、顔から血が。お怪我をされたのですか」
隙間の出口にいたパーヴォットが叫んだ。
「返り血だ。布をくれ」
急いでパーヴォットが渡してくれた布で祐司は顔をぬぐった。
「ジャギール・ユウジ。無事でなにより。最初にジャギール・ユウジが倒した男はわたしが公認した剣術の師範リストハルトだ。
といっても伯爵妃の推薦だがな。しかし、よく倒してくれた。自分が任命した師範に殺されては物笑いの種だからな」
バルバストル伯爵が祐司に声をかけた。伯爵の言葉で祐司は最初に切り結んだ男が異常な殺気を持っていた理由がわかった。
剣術の稽古では許されない投擲を行ったこと。剣術師範でありながら不覚にも素人と思えるような稚拙な刀さばきをする祐司に不覚を取ったことで頭に血がのぼっていたに違いない。
バルバストル伯爵の周囲には、護衛を含めて六名の地元派と思える剣を構えた男と、三人の守備隊兵士がいた。
南の出入り口方は次々と守備隊の兵士が広場に入って来ていた。祐司が路地にいる間に南の出入り口は地元派が確保したようだった。これで、地元派の負けはなくなった。
曲がりなりにも統一的な指揮系統があった地元派は広場の地積確保と行った無意味な行動を取るかわりに南側の出入り口確保に人数を割いたおかげだった。
どうやら、当面の危機を逃れたことを確認した祐司は、自分の出て来た隙間を覗いた。すでに、途中まで追っ手が進んできていた。
「守備隊の方、隙間の左右に行って。わたしが合図したら槍で突いてください」
祐司はそう叫ぶと隙間の前に抜刀したまま立ち塞がった。隙間の中の男は行き足が鈍ったが、それでも少しづつ剣を前に突き出しながら近づいて来た。どうも、後ろに何人もおり止まるに止まれないようだった。
祐司は出口ぎりぎりまで男が来たのを確認すると、守備隊の兵士に叫んだ。
「突いて!」
左右にいた守備隊の兵士は槍を隙間に差し込んだ。守備隊は治安任務のための出動で、戦場でつかう長柄ではなく、一間半ほどの槍であったが隙間の中にいる男達の剣よりは圧倒的に威力を持っている。
第一、相手は前後にカニ歩きでしか動けない空間にいるのだ。
守備隊兵士が数度、力強く槍を隙間に突き込んだ。そして、三人の兵士の槍が隙間から戻ってきた時には、槍の穂先が血塗れになっていた。
「三人は動かなくなるまで刺しました。もう、ここの隙間からは死体を除けない限りは誰も通れません」
報告に来た守備隊兵士に祐司は言った。
「用心のためです。ここから背後を突かれたら拙いです。ここの隙間を見張ってください」
「四方を警戒しろ。乱戦だ。何が起こるかわからない」
そして、祐司はパーヴォットに怒鳴る。
だだ、少し落ち着いて周囲の見ると剣による争いは、武装農民を味方にして圧倒的に数に勝る地元派が押しているようだった。
王都派には数が少ないが甲冑を装備し槍を持った近衛隊兵士がいる。伯爵をはじめ地元派は近衛隊に伯爵の命令を聞くように言ったが、王都派は自分が送り込んだ教導平民の兵士を駆り立てて王都派につかせたのだ。
この赤いマントと部分的ながら甲冑で身を固めた近衛隊兵士達に農民やバナミナ市民の投石は効かなかった。
デルベルトが祐司を恐れて増員した上でエネネリの裁判の時に用心して待機させておいた近衛隊兵士が地元派に対抗していた。
ただ、近衛兵は血縁と地縁で王都派とは切っても切れない関係で伯爵妃側の戦力となったが、この血縁、地縁は思わぬ弱点を露呈した。
フルヘルメットをしていれば、顔を見分けることはできないが近衛兵は手柄を立てた時のためと、お互いに個人が識別できるように、各々がマントに紋章を描いていたために。知り合いからは誰かは判別できた。
そのため、王都派は顔見知りや世話をした近衛兵がいると自分が指揮官のように、傍に呼び寄せた。
近衛兵は断り切れない仲のために、その者達の言うように戦った。結果として近衛はバラバラで戦うことになった。
広場で戦っている集団の中では近衛兵が飛び抜けて重武装である。
しかし、武装した近衛隊兵士は圧倒的に有利だが数が少ない上にバラバラで戦っているために味方の援護を行うか、味方の為に数名の敵を引きつけているしかなかった。
致命的だったのは、近衛隊司令のデルベルトが早々に指揮を放棄して、感情のままに祐司に挑んで瀕死の重傷を負った。
そのために、近衛隊は最後まで組織としてではなく個人や少数のグループで戦っていた。優位な力を持ちながらも近衛隊は隊として攻勢に出ることが出来ずに空しく消耗していった。
王都派はしだいに広場から駆逐されつつあった。




