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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第六章 サトラル高原、麦畑をわたる風に吹かれて
167/1175

虚飾と格式、領主直轄都市バナミマ6  村娘の夜伽 下

 翌日は、ダンダネールの従者や護衛たちも結婚式の振る舞い酒をさんざん飲んだために、二日酔いが続出して、翌日の出発は昼近くになった。


 翌日は、それまでのリファニアにしては暑いという気候から、一転して時雨が降る肌寒いような天候になった。


 道のあちらこちらに、水溜まりや、ぬかるみが出来ており、場所によっては昨日より余計に左右前後に揺られるように進んだ。ただ、速度が出せないためか、また、ちょっと馬車に慣れてきたのか祐司もパーヴォットも酔うようなことはなかった。


 祐司はパーヴォットに声をかけづらく、パーヴォットも何も言わないので二人は無言で馬車の揺れに耐えていた。


 ガセット村を出発して、一刻ばかりたった時に、道の端で休んでいる数名ばかりの男たちに出会った。三頭の馬に自分たちの荷物を積み込んで、仕留めたらしい二頭の鹿を足を縛って棒に通していた。


 ダンダネールの馬車が近づくと、雨よけにしているらしい熊の毛皮を羽織った男が声をかけてきた。

 顎髭を伸ばし赤ら顔で四十過ぎばかりの肥満した男の声は尊大な感じがした。その他の男達は立ち振る舞いから、顎髭の男の従者のようだった。


「おや、ダンダネール殿ではないか」


「スピリディオン殿、鹿狩りですかな」


 ダンダネールは馬車の上から答えた。


「ああ、なんとか二頭仕留めた。今夜の宿は決まっておるのか」


 スピリディオンと呼ばれた男は口調からダンダネールを目下に見ているようだった。


「いいえ、少し先を急いでバナミナまで一気に行くつもりです」


 祐司はそう返事するダンダネールの発する光を注意深く見ていた。ダンダネールの光に揺らぎがある。祐司はそれを感情の揺らぎだと思った。明らかに断ろうとして、嘘に近いようなことを言っているようだった。


 ダンダネールは声をかけてきた男を嫌っているようだった。


「どうだ、この先のオレの所領地の村で一泊せぬか。どうせ、今日中に、バナミナに着こうが、明日の午前中に、バナミナに着こうが、バルバストル伯爵様にご報告に参上するのは、明日の午後だろう。先頃、饗応して貰ってから、お返しができずに心苦しかったのだ」


 そう男に言われたダンダネールの光は、すぐに平常に戻った。祐司はダンダネールが男の誘いを断ることを諦めたのだと感じた。


「そこまで、おっしゃるのなら」


「では、決まりだ。雨もあがってきたことだ」


「スピリディオン殿、馬車にお乗り下さい」


 スピリディオンはダンダネールが言うのと同時に馬車に乗ってきた。


「わたしが降ります」


 居場所がなくなったパーヴォットはそう言って馬車から飛び降りた。スピリディオンはパーヴォットに礼を言うこともなく馬車に乗った。


 スピリディオンは、馬車に乗ってからもダンダネールに一方的に世間話をするばかりで、祐司には声をかけることもなかった。どうも、スピリディオンは祐司を従者と間違えているらしかった。


「この御仁はジャギール・ユウジ殿といいまして一願巡礼です。今度のシスネロスとモンデラーネ公との戦では手柄をあげました」


 ダンダネールは、スピリディオンの話にようやく間ができた時をはかって、祐司の紹介を急いでした。


「ほう、どんな手柄だ。雑兵の首でもあげたのか」


 スピリディオンは少し小馬鹿にしたように言った。


「はい、でもトドメを差したのは周囲の者達でございます」


 祐司はできるだけへりくだったように言った。


「ふん、手柄は敵の首を取った者のものだ」


「ジャギール・ユウジ殿が仕留めたのは、カタビ風のマリッサだ」


「ほう、それはどういった経緯だ」


 ようやく、スピリディオンはユウジに興味を持ったのか、ダンダネールに詳しい話を聞き出した。


「それは手柄であったな。カタビ風のマリッサが討ち取られたいう話は聞いておったがおぬしがのう」


 スピリディオンの言葉に祐司はさらに用心しながら謙虚な姿勢を崩さなかった。


「相手が油断している時に、突進しただけです。多分、マリッサもとっさのことで、上手く術を発動できなかっただけです」


 祐司はできるだけへりくだって、そして丁寧に言った。


「そうであったとしても、たいしたものだ」


 スピリディオンは一転して、馬車に乗っている間中、祐司に話しかけてきた。放漫な感じの男だったが、武勇を示した相手には最低限のリスペクトをすることは身についているらしかった。


 半刻ばかり馬車が進むと、街道からガゼット村に続いていたような枝道の所でスピリディオンは馬車を停めさせた。


「さあ、ここがビルボラ村だ。オレが話をつけてくる。どんどん進んでくれ」


 スピリディオンはそう言うと、勝手に御者に指示を出した。


 村は街道のすぐ北にあった。離ればなれになりながらも数十軒の家があるのが見えた。昨日、ダンダネールが案内してくれたガゼット村と比べるとどことなくすすけたような感じがあり、微妙に困窮の度合いが酷いように思われた。


 道では数人の子供が遊んでいたが、スピリディオンが馬車に乗った姿を見たのか数名の大人が飛び出してきた子供を道端に押しやってスピリディオンに頭を下げた。


 昨日のガゼット村の人間が結婚式で浮かれて、それなりの服装をしていたことを差し引いても、ビルボラ村の大人や子供の服装はガゼット村の村人の服装と比べて、つぎはぎなどが目だって粗末で手入れもおざなりなような感じがした。


「よし。ここで止めてくれ」


  スピリディオンは馬車から飛び降りると、近くにあった大きな農家のドアを開けると勝手に入り込んで行った。


 しばらくすると、スピリディオンと村長らしい四十年配の男が出て来た。


「話はついた。来てくれ」


 スピリディオンはそう言ってから、再び家に入ろうとしたが思いついた様に配下に命令した。


「鹿の足を一本渡してやれ。オレも豪儀だからな」


 祐司はこのような場で、何が豪儀か基準はよくわからなかったが十人以上の男の宿泊に鹿の足を一本出しても村にすればかなりの持ち出しになるだろうと思った。


去年こぞの燕の子は、今年は親燕になり、もとの親燕はまた新しい子を産む。ほむべきかな。オレはどちらでもいいぞ」


 スピリディオンは、村長に謎のようなことを言って、他の家と比べて多少大きな村長の家に黙って入って行った。


「わたしたちも入りましょう」


 祐司はダンダネールに促されてパーヴォットといっしょに家に入った。


 中は十畳ほどの広さで、ダンダネール、スピリディオン、それに祐司が椅子に座ると後の人間は立っていなくてはならないほどだった。

 温かいショウガ味のハーブティーが配られた。それを飲みながら待っていると村長が部屋に入って来て村長の家の向かいの建物に案内された。


 その家は村長の家の半分ほどの大きさだったが中に入ると一間しかなく大きな空間が広がっていた。どうやら村の集会所のようだった。そこに、あわてて近くの家から運び込んだような種々の机が二列に並べられていた。


 そこでも、ハーブティーやら軽めのビールを飲みながら半刻ほど待っていると大皿に種々の料理が運び込まれてきた。


「どうやら当たりだったらしいな」


 スピリディオンがしたり顔で言った。


「当たり?」


 小声でパーヴォットが言ったことをスピリディオンは聞き逃さずに説明した。


「多分、結婚式の料理だ。この季節は多いからな」


「そのような物を食べていいのでしょうか」


 ポーヴォットが祐司の方を向いて言った。


「御領主が来ているんだ。何の遠慮があろうか。第一、一番のご馳走を領主に食わさずに自分達だけで食べようなどと言う了見が平民のあさましいところだ。

 誰のおかげで平安に暮らせておると思っておるのだ。まあ、平民は考えが浅いからしかたないかもしれんがな」


「そうでございます」


 祐司はスピリディオンが絵に描いたような阿漕なことを言うので,反論してもしかたないと思って相づちを打った。


「バルバストル伯爵妃第一の寵臣であるスピリディオン男爵の領民であるということの自覚がない。そのことだけで周囲の並みの領主領の者達に自慢できるであろうに」


 スピリディオンのこの言葉に並みの領主と言われたダンダネールは笑いながらも目が険しかった。また、ダンダネールの発する光が大きく揺らいで感情が高ぶっているのが祐司には見て取れた。


 ダンダネールは明らかにスピリディオンを嫌っているようだった。


 村人がおずおずと給仕を始めた。


「おい、野郎の汚い顔なんぞ見たくもない。女手はあるだろう。できるだけ若いのに給仕させろ」


 スピリディオンが怒鳴り散らした。村人が怯えたように慌てて飛び出して行った。


 しばらくすると、十代後半から二十歳前後と思える女性が数名現れて給仕をしたり、酒の酌を始めた。

 

 時々、スピリディオンの従者達が女の尻や胸をさわって「キャー」という悲鳴が聞こえた。スピリディオンはそれを笑いながら見ていた。ダンダネールは苦々しい顔で自分の部下達の方を見て目で威圧していた。


 ダンダネールの部下は躾けられているのか、給仕や酌をしてくれる女達に礼の言葉をかけることはあっても、からかったりはしなかった。


 一刻ばかりさんざん飲み食いしてから、スピリディオンは手を叩きながら「村長」と大声を出した。

 

 村長があわてて飛んできた。


「腹は膨れた。そろそろ部屋に案内してくれ。ダンダネール殿と、その一願巡礼もだ」


 酔って少し足元がふらつくスピリディオンが村長に言う。


「御家来の方々はここでいいでしょうか。今、ベッドを運び込みますので」


「まあ、いいだろう。だが、酒はもっと持ってきてやれ。他の楽しみがないからな」


 スピリディオンは、少し謎めいた言い方をした。昨夜のこともあるので祐司はスピリディオンが自分だけの楽しみを要求しているのがわかった。

 それよりも、祐司はパーヴォットを酔った男達といっしょに一晩過ごさせるわけにもいかないので思い切ってダンダネールに言った。


「わたしの従者は、まだ子供でございます。わたしと同室でいいでしょうか」


「そういうことでしたら、母屋の方に使っていない小部屋がありますのでそこで寝てください」


 横から村長が有難いことを言ってくれたので祐司は頭を下げて自分からも頼んだ。


「ユウジ様、わたしは馬とラバの様子を見てから寝ます。あまり無茶はなさらないで下さい」


 パーヴォットはわかったようなことを言って、集会所の表にいた村人に連れらて村長の家の方に向かった。


 祐司、それにスピリディオンとダンダネールは村長と村長の奥さんに連れられて村長の家の裏手にある建物に案内された。


「スピリディオン様はご存知でございますが、ここは御領主様が滞在成される時にお泊まりいただいている家でございます。スピリディオン様とダンダネール様はここでお休みください。ユウジ様は横にある離れをご利用ください」


 村長が建物のドアを開けながら言った。


「では、ユウジ殿。明日はバナミナだ。ゆっくり休んでくれ」


 ダンダネールはそう言うと、スピリディオンと村長に案内されながら建物に入っていた。


 祐司が村長の奥さんに案内された離れは、丸太小屋のような建物でつい数ヶ月前まで寝泊まりしていたスヴェアの納屋に似ていた。


「これはいいですね。ゆっくり寝られそうだ」


 祐司は村長に笑顔で言った。


「お気に召してよかったです。いつもは御領主様の警護の方が寝泊まりいたしますが、今日はお忍びということですので」


 村長の奥さんは祐司といっしょに中に入ってランプに位置などの簡単な説明をしてれた。


「中からは閂で戸締まりができます」


 村長の奥さんはそう言うと早々に帰って行った。祐司は閂を閉めるとベッドの上に転がった。少し酒が回って一寝入りしたかったのだ。



 半刻ばかり祐司がうたた寝のような感じでベッドで寝ているとドアをかすかに叩く音がした。


 祐司は内心来たかと思った。


「どなたですか」


祐司はドアのところで声をかけた。


「夜伽にまいりました」


 消え入りそうな声がドアの向こうでした。祐司は女をドアのところでいつまでもさらし者にして置くわけにもいかないでのでドアを開けた。


「わたしが夜伽をいたします」


 俯いた女はそう言うと祐司の部屋に入ってきた。年は十代の半ばから後半で、ブロンドと言ってもいいような薄いブルネットの髪が肩までかかっていた。

 顔は十人並みよりきれいな感じだが、農作業で日焼けした顔は化粧もしていなかった。背は祐司の胸当たりで、小柄なリファニア女性の中でも小さい方だった。顔立ちも幼い感じがしてちょっと背徳感があった。


 祐司の感覚では少女である。


「夜伽?」


 祐司は少しとぼけたように言ったが、心の中では夜伽が来るのではという気持ちもあった。どのような女が来るのかと思いながら待っていたのも事実である。


「はい、スピリディオン様からの言いつけでございます。わたしはダニエラといいます。村長の次女でございます。今年で十八になりました」


 少女は下を俯いたまま小さな声で言った。リファニアの感覚では十八にしてはかなり幼い感じがした。十八はリファニアでは少女と呼ばないが祐司の感覚では目の前の女は少女そのものでだった。


「お気遣いなく。特にわたしは要求していませんので」


 祐司は昨夜のマグレッタの事と、それを嫌がっているのであろうパーヴォットのことが、走馬燈のように頭の中で駆け巡った。ただ、頭の一角で目の前の少女を値踏みしているもう一人の祐司も頭の中にいた。


「申し訳ございませんが、生娘ではございません。どうかお許しくださいませ」

 

 相変わらず少女は俯いたまま恥ずかしそうに言った。


「いや、そんなことを言っているのではなく」


「スピリディオン様や父からしかれます。どうか、夜伽として受け入れてくださるようお願いいたします」


 少女はやっと顔を上げたかと思うと悲壮な顔つきで絞り出すように言った。


 祐司は昨日のマグレッタのこともあり、断固断るという垣根は低くなっていた。リファニアで、夜伽が当たり前という風習ならという気持ちもあった。第一、目の前の女性は祐司の目から見て好みの女性であった。


 それでも、祐司はパーヴォットの寂しそうな顔つきが浮かんできて、やはり今夜は行為をするような気持ちにはなれなかった。なによりも、少女の悲壮な様子から、もし自分が少女を抱けばなにか鬼畜な行いをするように感じたからだ。


「姉はスピリディオン様、村会筆頭の娘さんがダンダネール様の相手を言いつかりました」


 ダニエラという少女の言葉に祐司は絶句した。確かに領主をもてなす、あるいは子種を得るという行為がマール州にあるにしても姉妹が同時に夜伽を行うなど背徳ではないかという気持ちが満ちてきたからだ。


 祐司はどう断ったものかと思案した。


 突然、若い男がドアから飛び込んできた。


 男は激しい怒りに顔を歪めていた。男は棍棒のようなものを振りかざして祐司を目がけて突っ込んできた。

 祐司はそれを軽く受け流すと、男の足に自分の足を引っかけた。男はバランスを崩して壁に顔面をぶつけるとうずくまってしまった。


 その時、二人目の男がドアから入ってきた。二十半ばの男でがっしりた体格だった。


「ボフミル。やめろ」


 男はそう言うと倒れている男を後ろから抱きかかえた。


「マチェイ兄さん」


 ダニエラが後から入ってきた男に言った。 


「こいつは、ダニエラの許嫁のボフミルです。わたしはダニエラの兄でマチェイといいます。ボフミルは連れて帰りますのでどうか見逃してやってください」


 マチュイと名乗った男は、ボフミルという男を羽交い締めで押さえたまま言った。


「明日が結婚式です。いくら御領主様の言いつけでも我慢ができません」


 ボフミルはマチュイには抵抗する素振りを見せずに言った。


「結婚式?」


 祐司は間が抜けたように言った。


「ダニエラとわたしは明日が結婚式です」


 再びボフミルは興奮してきたのか吐き捨てるように言った。


「それはおめでとう。いや、あなたの結婚式の料理やら酒をいただいてしまい申し訳ない」


 祐司はますます間の抜けた調子で言った。


「それでも足りずにダニエラまで」


 ボフミルはきつい目で祐司を睨んで言った。祐司はなにかとんでもない悪役になったような気がした。 


「先程も言ったようここは堪忍してくれ。御領主様の命令だ」


 少し抵抗しだしたボフミルをマチュイは必死で押さえつけながら言った。


「あんな者が領主なものか」


 ボフミルは吐き捨てるように言った。祐司は何か安物の時代劇でも見ているような気がしてきた。


「自分が何をしたのかわかっているのか。自分一人のことではないんだぞ。スピリディオン様の勘気に触れたら村全体がただではすまないんだ」


 マチュイは必死でボフミルを諭した。


「どうぞ、ボフミルを堪忍してください。そのかわりにあなたのお気にめすよう、どのようなご無体なことも我慢します」


 ダニエラが泣きながら祐司の手を取って言った。


「我慢されても」


 祐司はすっかり困惑してしまい情けなさそうに言った。


「だめだ。ダニエラには手をださないでくれ。そのかわりに気の済むまで存分にオレを成敗してくれ」


 ボフミルは泣き声になった。そして、祐司の方を見て必死の形相で言った。


「でも、信じて下さい。殺すつもりはなかったんです。気絶してもらって明日になればよかったんです」


「では、話して頼もうという手段は考えなかったのですか」


 祐司は半ば呆れたように言った。いくらなんでも明日が許嫁と結婚式という少女を抱く趣味はない。


「領主に平民の話を聞くなんて人間はいないと思ってました。あなたは領主が連れてきた人間だから同じような人だと…」


 祐司はとんでもない鬼畜に思われていたのだとわかり脱力感を感じた。


「お願いします。わたしを抱いてください。ボフミルには言い聞かせます。伽が断られたとなるとスピリディオン様はきっと恥をかかされたと怒り、父に難題を吹きかけます」


 ダニエラは泣き声で言った。


「おれがスピリディオンを殺す。で、オレだけが処罰されればいい」


 再びボフミルは怒号のような声で言った。


「領主を殺して身内の処罰が及ばないわけがないだろう。スピリディオン様をもし殺しても、後継ぎはあの弟だ。余計、酷いことになる」


 マチュイは抵抗するボフミルを押さえながら必死に説得しようとした。


「困りましたね。どうすれば八方上手くいくのか」


 祐司は困り顔で呟いた。次の瞬間、祐司は飛び上がるほど驚いた。パーヴォットが開いたドアの前に立っていたのだ。


「パーヴォットに考えがあります」


「いい、いつからいたんだ」


 パーヴォットは祐司の問には答えずにドアを閉めると部屋の中に入って来た。


「わたしに夜伽をお願いします。ユウジ様が従者に譲るというのはありですよね」


「あー??」


 言っている意味が飲み込めないで祐司が言葉を失っているとパーヴォットは、いきなりダニエラに飛びついて抱きしめた。


「この野郎!」


 ボフミルがとうとうマチュイを振り払って立ち上がった。


「いや、待って。この方は大丈夫です」


 飛びかかってこようとするボフミルを制してダニエラが言った。


 パーヴォットはダニエラから離れると、いきなり服を脱ぎだした。パーヴォットの足元に服が置かれ、パーヴォットは全裸になった。その全裸のパーヴォットを挟んで、祐司はパーヴォットの背後、他の三人はまともに正面からパーヴォットを見た。


 祐司はパーヴォットの一糸まとわない白くきめの細かい肌をした背中、そして、小ぶりながら引き締まった尻、体全体と比べてほどよい太さと長さを持った足を瞬きもせずに見つめた。祐司の目には白い光を発するパーヴォットが何か神々しいような存在に見えた。


「そういうことですか。もう、服を着て下さい」


 マチュイの言葉に、パーヴォットは恥ずかしそうに服を急いで着だした。


 祐司は一瞬パーヴォットが全裸のままこちらに向くのかと思ったが、いや向いてくれるのかなと思ったがパーヴォットは明らかに祐司を意識して見られないように急いで服を纏った。


「さあ、男の方は出て行ってください。四半刻ほどしたらダニエラさんをお返しします」


 パーヴォットはそう言いながら祐司を含む三人の男を丸太小屋から追い出した。



 三人の男は村人に見つからないように近くの茂みに隠れた。隠れている間、それぞれの気持ちが一杯になって三人はほとんど口をきかなかった。


「ボフミル、いつまでも堪えてくれとは言わない。ただ今日はどうしても堪えて欲しかった」


 三人で待っている時に、ダニエラの兄であるマチュイが、許嫁のボフミルに呟くように言った。

 祐司はそのマチュイの発する光が、色は異なるがダンダネールの発している光の様子になんとなく似ている気がした。嘘は言っていないが何かを隠しているのだと祐司は思った。


 丸太小屋のドアが開いてパーヴォットが手を振った。それを見た三人の男は急いでドアに駆け寄った。


「終わりました。ユウジ様、どうぞお入りください。ボフミルさんはダニエラさんを母屋まで送ってください。それから…」


 そう言ったパーヴォットの後ろには恥ずかしそうにしているダニエラがいた。祐司はパーヴォットに助け船を出した。 


「お兄さんのマチュイだ」


「マチュイさんもダニエラさんと母屋に帰って下さい」


 パーヴォットの言葉にボフミルとマチュイはパーヴォットに手を差し出した。パーヴォットは二人の手を握った。ダニエラは祐司に手を差し出した。祐司はパーヴォットを気にしながらダニエラの手を握った。


 ダニエラ、その兄マチュイと許嫁のボフミルは何度も頭を祐司とパーヴォットに下げて母屋に向かった。


「ユウジ様、お休みなさい」


 パーヴォットも母屋に行こうとした時に祐司は半ば無意識で尋ねた。


「何をしたんだ」


「わたしの母は後ろ指を差されてもしかたのない商売をしていました。でも、母には親しくしてくれる人が沢山いました。子供を亡くした女の人が母に頼み事をしたんです。

 まだ、小さかったわたしと一緒に寝たいと。母は承知しました。わたしはその女の人と一緒に寝ました」


 パーヴォットは答えになっていないような事を言った。


「ユウジ様、おやすみなさい」


 パーヴォットはそれだけ言うと母屋の方に帰って行った。


「おやすみ」


 祐司もパーヴォットに一言だけ言うと丸太小屋に入った。ベッドは温かかった。そして、パーヴォットの匂いがした。


 

挿絵(By みてみん)


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