閑話 その12 リファニアの酒
この話を読み飛ばしても、本編の流れの理解には一切関係しません。解説のような部分は不用という方はスルーしてください。
祐司は、すすめられれば酒を断ることはありません。しかし、酒好きと言うほではありませんので、リファニア世界では風呂上がりにビールを飲む程度です。
リファニアは基本的には亜寒帯気候の地域ですので、我々の世界の寒い地方には強い酒があるという漠然とした常識が通じます。
リファニアの代表的な酒は、ビールと火酒、果実酒である。
まず、ビールであるが、ワインと共に人類最古の酒である。すでに、最初の文明とされるシュメール文明や、エジプトでも飲まれていた。
五千数百年前の”空の割れた日”よりも、先行していた酒であり、紆余曲折はあったが、リファニアのビールは、中世ヨーロッパ後半程度の品にはなっている。
すでに、紀元前六世紀頃には中東でホップが使用されており、リファニアのビールもホップが入っている。
これが祐司がリファニアのビールを、そう違和感なく飲んでいる最大の理由かもしれない。
ただ冷蔵設備がないのために、冷えたビールとはいかない。しかし常温で飲むことを前提にした味に仕上がっており、祐司は風呂屋の帰りに美味しく飲んでいる。このビールはアルコール度数は日本のビールよりやや高く八パーセント程度である。
しかし夏季に冷たいビールを飲むことが、美味しくビールを飲む方策だとは、認識されている。
そのために冬季に氷室を雪や氷で満たし、夏季にその氷でビールを冷やすことも行われている。または巫術師がつくる氷を利用する。ただこれらの方策は貴族や富裕層にしかできない。
リファニアのビールは、製造が短時間でできる上面発酵で行われている。このため日本をはじめ世界各地で愛飲されている透明感のあるピルスナービールではなく、濃い褐色をしたエールビールとなる。
実は祐司が愛飲しているビールはリファニアでは酒宴などに出るビールで一般に多く飲まれるビールは、アルコール度数が二三パーセントほどの軽いビールである。
ちょっとした村にも、ビールを店先で飲ませるビール製造業者がおり、娯楽の少ない田舎ではなくてはならない慰安施設となっている。
リファニア世界ではこのような場所は、男性だけでなく女性も通ってお茶代わりのようにコップ一杯のアルコール度数の低いビールを飲むということは普通の風景である。
しかし、慢性的に不作が続くような地域では、ビールの製造のために大麦を回す余裕も少なくなる。そのような、地域では庶民はビールは年に何度か飲めれば良い方である。
ビールが都市やその近郊の比較的豊かな農村部の酒だとすると、火酒と果実酒は田舎主体の酒である。
火酒は、焼酎だと考えてもらえばいい。原料はジャガイモが多いが、小麦、大麦、ライ麦、トウモロコシやソバなどリファニアで生産される穀物全般が原料となる。アルコール度数は四十パーセントほどの物が多いが、水で薄めて販売されることもある。
自家製の物も多く、人が住む地域なら一リーグ四方に十を超える種類の火酒が存在するとも言われる。
品質もピンキリで、上等な物は都市部の居酒屋でもよく飲まれる。しかし、火酒は田舎の酒としての認知が強く、貴族階級や富裕層の正式な食卓には似つかわしくないとされている。
酒で身を持ち崩したテスラの父親が飲んでいたような火酒は、最下等の火酒である。素人の密造酒程度のアルコール度数と、味を誤魔化すために糖分を主にした不純物が多く含まれた臭い酒である。
火酒とともに庶民の酒とされるのが、果実酒である。寒冷なリファニアで利用される果実の代表はリンゴとアンズである。
果実酒は、アルコール濃度が十数パーセントのものと、蒸留して三十パーセントほどのものに区分される。
果実酒は貴族や富裕層も愛飲する酒である。特に十年以上も貯蔵したものは正式な晩餐で出してもよいとされている。
ただ、果実酒がよく飲まれるのはリファニアの中でも、温暖な地域でありリファニア全土を代表する酒ではない。
これらの酒の他に、リファニア以外の土地からもたらさせる酒がある。その代表はワインである。
ワインはビールと並んで世界最古の酒である。ただ、ワイン文化が発達したヨーロッパの地中海沿岸は”空の割れた日”の影響で、寒冷な土地となっておりブドウが生育できない土地である。
リファニアのワインは北アフリカと北アメリカから、壺に詰められた状態で輸入したものである。質は生産地域でも現代のワインと比べると遙かに劣悪な品質であり、現代日本のワイン愛好家はリファニア世界では不幸な人種となる。
そして、リファニアではワイン自体も不幸なことに酸っぱい酒として認識されている。そのために、蜂蜜や砂糖を混ぜたり、水で薄めて飲むのが一般的なワインの飲み方である。
しかし、中には通ぶる人種もおり、酸っぱさがワインの真骨頂であると言って現代日本では、流しに捨てられるようなワインをありがたがって多額の金を出して飲んでいる。
そういった品質に問題のあるワインも、リファニアでは生産できない舶来の酒として珍重されており、貴族階級や富裕層では、正式の晩餐には欠かせない酒である。




