ドノバ連合候国の曙15 パーヴォットの武勇
今回は、話末にヒロインであるパーヴォットの全身図があります。
シスネロスを逃げ出したパーヴォットが、便宜を図ってくれた傭兵のポカと別れたのはロヴィー婆さんの家に行くための小径が本街道から分かれている場所だった。
パーヴォットが、ロヴィー婆さんの家で世話になりだしてから二週間近くが経つ。
「雨があがって、良い天気になりました。お婆さん、リンゴを取ってきます」
パーヴォットは、編み物をしているロヴィー婆さんに声をかけた。ロヴィー婆さんの家の前には、幾多の果樹が植えてあった。ただ、出来のいいリンゴの木だけは、家から少し離れた場所にあった。
「ああ、デリエナ頼むよ。いや、パーヴォットさん」
ロヴィー婆さんは間違いに気が付いて言い直した。
「本当に、また焼きリンゴパンを作ってくれるんですか」
「ああ、もう何年も作ったことは無かったけど、また、おいしいって言ってくれる人ができたので作りがいがあるよ」
ロヴィー婆さんの、娘のデリエナは、二十年近く前に、熊に襲われて非業の最期を遂げた。それ以来、ロヴィー婆さんの精神は、変調を来して若い女性をデリエナと誤認した。
パーヴォットが、ロヴィー婆さんに最初に会ったのも、パーヴォットをデリエナと間違えて家に無理矢理に連れて帰ろうとした時だった。
(第三章 光の壁、風駈けるキリオキス山脈 輝くモサメデスの川面4 老婆の招き 参照)
その事件が、きっかけで、祐司とパーヴォットは、ロヴィー婆さんに昼食をご馳走になる。そのことが縁になり、何よりもドノバ州で身よりもなく、知人もほとんどいない中で、パーヴォットが思いついて頼れるのは、ロヴィー婆さんだけだった。
パーヴォットが、リヴォン亭の主人と、顔見知りの傭兵ポカに、祐司に渡してくれといった手紙に、書いてあった”子のない母”という言葉は、娘のデリエナを失ったロヴィー婆さんのことを示していた。
パーヴォットが、ロヴィー婆さんの家にたどり着いて、ユウジさまが迎えに来てくれるまで匿って欲しい事情を話すと、ロヴィー婆さんは、快くパーヴォットを受け入れてくれた。
パーヴォットは手持ちの金を、世話になるのでお礼として渡そうとしたがロヴィー婆さんは、頑として受け取らなかった。そこで、パーヴォットはロヴィー婆さんの日常生活の手伝いをすることにした。
パーヴォットが、リンゴがたわわに実っている枝を左手で持って、右手でいくつかのリンゴをもぎ取っていると不意に後ろから人が近づく気配がした。
パーヴォットが、あわてて振り向くと、そこには、三十代前半と思える男が二人立っていた。
二人とも、旅装束のような、短めの貫頭衣式の上着を着て、ステテコのような形式のズボンをはいている。それらの服はかなり汚れており、何日も着ずめのようだった。無精ひげも、かなり伸びて、粗野な感じを受けた。
二人とも、小振りの剣をベルトに下げているだけで他には武装していなかった。
「ロヴィー婆さんいるかい」
小柄な方の男が、微笑しながらパーヴォットに言った。
「どなたですか」
パーヴォットは、田舎風の若い女性が夏季に着る、脹ら脛が半ば隠れるほどの長さの裾があるワンピース型の薄手の一重という服装だった。
時々、ロヴィー婆さんが、亡くなった娘の服を着てみてくれと、しつこく言うので時々着ていたのだ。
「デリエナ?まさか」
小柄な男が目を見開いて言った。
「わたしは、デリエナさんではありません。よく、似ていると言われます。だから、ロヴィーお婆さんからも時々来て欲しいと頼まれているんです」
パーヴォットは、小柄な男が二十年も前に亡くなったデリエナの名を出したのでロヴィー婆さんを知っているのは本当だろうと感じた。
「そうだよな。デリエナが生きていれば、あんたみたいな歳じゃないな」
小柄な男は独り言のように言ってから、パーヴォットに聞いた。
「昔、世話になった者だ。婆さん元気かい?」
パーヴォットは、警戒心を気取られないように、できるだけ子供っぽい声で答えた。
「元気ですが」
「それは、よかった。ちょっと挨拶をしていきたいんだが」
男は言葉にパーヴォットは急いで頭を回転させた。まずは男の正体を確かめなくてはならない。パーヴォットは時間稼ぎをすることにした。
「ロヴィーお婆さんは、元気は元気ですが、今日は少し具合が悪いの。それで、村から手伝いに来ています。会えるかどうか、ロヴィーお婆さんに聞いてみます。あなたのお名前は?」
「ハンガの子のマネルと言えばわかる」
男は少し躊躇してから答えた。
「ところで、お前さんは誰だい?」
小柄な男の横で黙っていた、頬の痩けた男が初めて口を開いた。
「先程から言っておりますように、ロヴィーお婆さんの知り合いです。お婆さんは、今日は少し具合が悪いので手伝いに来ています」
「知り合いね。近在の者か?」
頬の痩けた男が居丈高な口調で聞いた。
「はい、そんなもんです」
パーヴォットはできるだけ言質を取られないように言った。
「ちょっと待っててください。すぐにロヴィー婆さんを呼んできますから」
パーヴォットは走る様に小屋に戻った。小屋に入ると、ロヴィー婆さんが竈で使う太い薪を右手に持っていた。
「何か、脅かすようなことは言われなかったかい」
ロヴィー婆さんは、心配そうにパーヴォトに聞いた。
「見てたんですか?」
「こんなご時世だ。あんたを一人で表に出して悪かったよ。あの男は、何か言ってたかい」
ロヴィー婆さんは心配そうに言った。
「ええ、マネルって名乗ってました。ハンガの息子だと言えばわかると。それにデリエナさんのことを見知っているようでした」
「マネルは確かにハンガの息子だ。子供の時に何回かここに来ているからデリエナを知っててもおかしくはない。マネルは女の取り合いで、人に大怪我をさせて、どこかに出奔したんだよ。
マネルを見たのはずっと前のことだから、あいつがマネルかどうかは自信がないね。でも、もう一人は知らない顔だ。」
ロヴィー婆さんは少し考え込んでから思い出す様に言った。
「モンデラーネ公軍の兵隊でしょうか」
パーヴォットは少しだけ開いた窓から表を見ながら言った。二人の男達は、まだ同じ場所に立っていた。
「そう思っていた方がいいね。マネルだけなら違うかもしれないが、連れがいるのが不自然だ。今、この辺りは余所者が入ることが制限されているからね。許可されている旅人でも街道から離れるなってお触れが出ている」
ロヴィー婆さんもパーヴォットの横で表を見ながら言った。
「パーヴォットさん、あんた目がよかったね。ちょっと、ここから周りを確認しておくれ」
パーヴォットはゆっくり集中して周囲を観察した。
「お婆さん、向こうの茂みに二人ばかり男がいて、こちらを見ています」
「あいつらの仲間だね」
「それから、向かいの山にある山道をかなりの人間が歩いています」
「あんな遠い場所まで見えるのかい。便利な目だね。ちょうどいい、村の衆だろう」
ロヴィー婆さんは心底感心したように言った。
「でも、随分遠くですから今すぐには間に合うか。あっ!」
パーヴォットは山道を歩いている一群の先頭に見知った姿を見つけた。どんなに遠くても大柄なその男は間違えようがなかった。
「どうしたんだい」
「ユウジさまがいます。ユウジさまがこちらに来ます」
パーヴォットは子供がはしゃぐような声で言った。
「なんとか時間稼ぎをしないと」
パーヴォットは、小さな声でそう言うと周囲を見回した。
「いつまで、もたもたしてるんだ。追っ手が現れるかもしれない。手早くやるぞ」
そう大声で言いながら藪の中から二人の兵士装束の男が、マネルとその連れのもとに小走りで出て来た。
二人の兵士は剣を抜いた。そして、戦士長の記章を付けた兵士が冷酷にマネルに言い放った。
「皆殺しだ」
「でも、ロヴィー婆さんは知らない仲ではないし。少し脅かせば食べるものはすぐ出すから待ってくれないか」
慌ててマネルが言う。ロヴィー婆さんは自分では自覚がなかったが、子供好きで、近在の子供でロヴィー婆さんに果物やお菓子を貰ったことのない子供はいないほどだった。
マネルも子供の頃に、ロヴィー婆さんに何度かリンゴのジャムや、焼き菓子を貰ったことがあった。
「すぐに食べ物が手に入るというから任せたが埒が明きそうもないじゃないか。あの小娘は小屋に入ったきり出てこないぞ。お前達を怪しんでいるんだ。
もう話し合いの時間じゃない。大事の前の小事だ。ババアと小娘だけだ。やってしまうんだよ」
マネルの心情などお構いなしに、戦士長は命令した。
「やってしまうって」
マネルは思わず聞き返した。
「面が割れているんだ。口を利けないようにするんだよ。躊躇するな大儀のためだ」
戦士長は抜きはなった剣をマネルの方に向けて威嚇するように言った。
「食べ物を手に入れたら手っ取り早く燃やしてしまおうぜ」
戦士長に従ってきた兵士が少し浮かれたように言った。
「お前達二人は裏へ回って逃げられないように見張っていろ」
戦士長はマネルとその連れに命令すると、小屋に向かって大声を出した。
「おい、食べ物と、金を寄越せ。さもないと、火をつけるぞ」
小屋の戸が少し開いた。戦士長は、その空いた空間に細長い物が現れたことに気が付いた。
「危ない」
戦士長は小屋から矢が飛んでくるのを見て怒鳴った。その矢は火を起こそうとして、かがんだ兵士の右肩に刺さった。兵士はグウウと言うと小屋の方を見ながら立ち上がった。
二の矢が飛んできたが、これは難なく避けた。
小屋の戸が完全に開いた。中から頭全体を覆う黒いヘルメットを被り、黒っぽく染めた革鎧で胸を覆った小柄な剣士が現れた。剣士は細身の抜き身の片手剣を右手に持ち戸から、少し離れた場所で仁王立ちになった。
剣士は顔を布袋で覆っており、目だけが見えていた。
「二人ではなく、三人か」
マネルの連れがびっくりしたように言う。
「追っ手でしょうか」
マネルは不安げに戦士長に聞いた。
「いや、こいつだけだろう」
戦士長が自信ありげに言った。そして、剣を構えた。
「こちらは四人がかりだ。だが、油断はするな。お前からいけ」
戦士長が、マネルとその連れに命令した。
マネルはへっぴり腰でおずおずと剣士に近づいた。剣士は、その場を動かずに足の向きだけを変えてマネル達に剣を向けて威嚇していた。
「左右に散れ」
剣士まで数歩の距離に近づいたマネル達に、戦士長は大声で言った。その声で、マネル達は剣士を挟むように左右の位置についた。
戦士長は、剣を抜くと正面から剣士に近づいた。
「剣の基本はできているが、そう手練れではない」
戦士長はそう言うと、剣士との間合いを詰めて顔の位置ほどに上げた剣を振り下ろしながら剣士に斬りかかった。
剣士は、戦士長が斬りかかってきた剣に当てると自分の片手剣を器用に角度を変えて、戦士長の剣を滑らせた。
あわてた戦士長は、後ろに飛び退くと両手に力を込めて横殴りに剣士目がけて切り込んだ。剣士の細身の剣を力で跳ね飛ばそうという算段である。
剣士はあわてて片手剣を両手で持つと、戦士長の剣をまともに受け止めた。
戦士長は「しめた」と思った瞬間に、急に自分の剣に違和感を感じた。剣と剣が斬れ合った場所から、自分の剣の先がなくなっていた。
ひょいとばかりに剣士の剣が顔の前に延びてきた。戦士長はあわてて後ろに飛び退いた。
「何をしている援護しろ」
戦士長の声に、ようやくマネルとその連れが剣士に左右から近づく。剣士は剣を左右に交互に向けて少し退いた。
そのスキに戦士長は、矢で射られて腕を押さえている兵士のもとに走り寄った。
「お前の剣を貸せ」
鞘ごと剣を差し出した兵士から戦士長はひったくるように剣を受け取った。戦士長は怒っていた。何年もの間、金をかけて巫術で強化してきた自慢の剣が折れたからだ。
「許さないぞ。お前の剣ごと、身体を真っ二つにしてやる」
戦士長は鞘を捨てて剣を抜きはなった。
「おい、あいつはなんだ」
手を矢傷を押さえている兵士が声を上げた。
戦士長が兵士の見ている方向を見ると小屋の煙突から、黄色い色の煙が吹き出すかのような勢いで出ていた。
「合図を送っているんだ。やばい、逃げよう」
マネルが怯えたように言った。
「大丈夫だ。この辺りに落ち武者狩りはいないことは確かめてある。今、気が付いても、やって来るまでには時間はたっぷりある」
戦士長は落ち着いた声で言った。そして、戦士長は再び剣士に向かってゆっくりと進み始めた。
「最初の手合いで、お前の腕は見切った。次はないぞ」
そう言って戦士長が、剣士に走り寄ろうと剣を構えた瞬間、小屋から火の付いた何かが投げ出された。地面に転がったものは火の付いた布だった。
その布は地面に転がると、煙突から出ている煙と同じような黄色い煙をあげ始めた。布に火が付いた。中に激しく燃焼している黄色い石が見えた。
ただ、それは一瞬のことで、たちまち濃い黄色い煙が辺りにたちこめだしたので燃える黄色い石は見えなくなった。
同じような火の付いた布が三つ、小屋から投げ出された。そのいずれもが激しく黄色い煙を吐き出し始めた。
辺りは、濛々たる煙で視界が利かなくなった。
煙を吸い込んだマネルが激しく咳き込み出した。戦士長も煙を少し吸い込んだだけで、立て続けに咳をした。
風は小屋の方向から吹いてくるので、戦士長もマネルもあわてて小屋から離れた。
濃い煙の中から、マネルの連れと、腕に矢傷を負った兵士が激しくむせながら出て来た。
ようやく、煙から遠ざかった二人は膝をついて四つん這いになって嘔吐とも思えるような咳を繰り返した。
「とても近づけない」
咳をしながらマネルが言った。
「慌てるな。しばらくすれば煙は消える。煙の色も変わってきている」
戦士長が言ったように、煙は少しずつ薄くなっており、色も随分と白っぽくなっていた。その白い煙は、少しばかり吸い込んでも咳は出なかった。
しばらくすると、煙は薄くなって白い煙ばかりになった。その時、白い煙の中に、人影が見えた。その人影は何かをマネル達の方に放った。煙の中から飛び出てきたのは、小屋から放り出されたのと同じ火の付いた布だった。
その布はたちまち、先程を同様に黄色い煙を出し始めた。
「もう少し下がるんだ。右手の方から小屋に近づく。風向きからして大丈夫だ。一気にやっつけるぞ」
戦士長は、かなり後退して煙の影響がない場所にくると、右手の方向へ移動しながら言った。マネル以下の者達も右に煙を避けた。
「おい、彼奴ら逃げ出すぞ」
マネルが大声を出した。剣士が片手に剣を持ったまま、もう一つの手で老婆の手を引きながら小屋から急いで走り去ろうとしていた。
「逃がすか」
戦士長が剣を頭の上に振りかざしながら走り出した。数歩走った所で戦士長は右から人の気配を感じた。右を見ると、短槍を構えた男が煙の中を戦士長目がけて走ってくるのが見えた。
不思議なことに、短槍を構えた男の周辺の煙は、男を避けるかのように消えていた。
「ドリャーーーーー」
短槍の男は雄叫びを上げて戦士長に短槍を突きだした。戦士長は左に避けた。戦士長にとっては簡単に避けられるはずの短槍は、戦士長の動きに同調するように、戦士長を追いかける。
戦士長は脇腹に衝撃を受けた。何事が起こったのかわからないうちに戦士長は自分から短槍の穂先が遠ざかっていくのを見た。そして、急に足に力が入らなくなった。
「パーヴォット、できるだけここを離れろ」
短槍の男は、そう怒鳴るとマネル達の方へ短槍を向けた。マネル達は、短槍の男が近づくとあわてて逃げ出した。
「おい、相手は一人だ」
戦士長は、そう言おうしたがかすれたような声が少し出ただけだった。戦士長は、剣を構え直すと短槍の男に走り寄ろうとした。
しかし、足はよろめくように動くだけだった。
「何故、力が入らないんだ」戦士長はもどかしげに言った。
戦士長は、数歩歩くと跪いてしまった。戦士長は生暖かい物が腹から腰の辺りにかけて流れているのを感じた。すると、右脇腹の上から激痛が襲ってきた。左手でその部分を押さえると、血が流れ出ているのがわかった。
「逃げないと」
戦士長は、剣を杖代わりにして立ち上がった。しかし、戦士長は数歩ほども歩かないうちに数人の男に取り押さえられた。
「ユウジ殿、あまり無茶はしないで下さい。これだけの人数がいるのです。少しばかり遅くても充分に対応できました」
クチャタは祐司に苦言のように言った。祐司が一人だけで突然駈けだしたために、後の人間は状況を確かめる間も無く追いかけざるを得なかったことを暗に咎めたのだ。
「申し訳ありません」
祐司は素直に謝った。
「しかし、カタビ風のマリッサを討ち取っただけはありますね。一撃で仕留めている。見てましたが相手が逃げる方向がわかるんですね」
ドノバ候近衛隊の元隊員は、祐司が槍で負傷させた戦士長を縛りあげようとした。しかし、戦士長は瀕死の状態だったために、その傷を確認しながら言った。
「たまたまです。相手が逃げるのとは反対の方向に槍を突き出した可能性もあります」
祐司は、たまたまということを強調した。何人かがあの煙の中をよく見通せたと感心しているのを聞いて、煙が巫術に関連した物であることがわかったからだ。
確かに祐司にも煙は見えていたが、そう濃いものではではなく、煙の向こう側でも人影が確認できる程のものだった。
祐司が知覚できずに、リファニアの人間が知覚できるものは、巫術のエネルギーか、それに発したものだからである。
マネルとその連れ、腕を負傷した兵士はあっけなく捕縛された。四十人近い武装した人間に包囲され、その中に般若のごとき顔をした二人の年増が弓で自分達を狙い、巫術師が術を発動させようとしているのを見れば武器を捨てて座り込むしかなかった。
祐司が小屋の方を見るとガバリの手下が、老婆と、小柄な剣士をともなってこちらにやってくるのが見えた。祐司は動きからその剣士の正体がすぐにわかった。
「パーヴォット」
祐司は小柄なために被っているヘルメットが似合っていない剣士に声をかけた。
「ユウジ様」
剣士は、ヘルメットを脱ぎ捨て、顔を隠していた布袋を剥ぎ取ると全速力で祐司の方に駆け寄ってきた。祐司もたまらずに駈けだした。
二人は出会う寸前に、それぞれの短槍と剣を地面に投げ捨てた。そして、小柄なパーヴォットが大きな祐司の懐に飛び込んで来た。
祐司はパーヴォットの身体を両腕で深く包み込んだ。パーヴォットもその腕を祐司の背中に回してしがみついた。
「無事でよかった。遅れてごめんな」
祐司はパーヴォットを上から抱きしめるようにして言った。
「また、ユウジ様に助けていただきました。ありがとうございます」
パーヴォットは半分泣きながら言った。祐司は何も言えずに自然に涙が出てくるのを感じた。「パーヴォットが好きだ」祐司は心の中で言った。
「ユウジ様、すみません」
突然、パーヴォットが真面目な声で言った。
「何故、謝る?」
「ユウジ様のヘルメットを使った挙げ句に、さっき、地面に投げ捨ててしまいました。ユウジ様、怒らないでください」
そう言うと、パーヴォットは地面に転がっている祐司のヘルメットを急いで取りに行った。
祐司は苦笑しながら思い出した。パーヴォットはまだ十四歳の女の子なのだと。そして、まだ子供であることを。




