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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第五章 ドノバの太陽、中央盆地の暮れない夏
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ドノバ連合候国の曙13 士爵位と巫術師夫婦

 祐司はクチャタが集めてくれたパーヴォット捜索隊が別の目的を持っていることを理解した。


「ガバリ一家はわかります。元近衛隊の方々も武勇を磨き、報償金を小遣いにという理由で参加されたと思います。

 でも、あなたの奥さんの実家が参加する理由は、本当に奥さんが捜索について行きたいからですか?」


 祐司は単純な疑問を解くことにした。


「いや、家内の実家はなりは大きいが手元不如意なのだ。シスネロスで暮らすとなると物入りだからな」


 クチャタは苦笑しながら答えると、急に恐ろしい程の真面目な顔になった。そして、一段と声を落として聞いた。


「ユウジ殿、あなたはいにしえの掟をご存知か?」


「古の掟は幾つもございます」


 祐司はクチャタの発する光の変化からも深刻そうな話であると知った。クチャタは祐司の目を真っ直ぐに見て言った。


「神官と同様に一願巡礼に、己の気持ちを打ち明けても一願巡礼は、そのことを人に漏らしてはいけない」


「心得ております」


 祐司も真剣な声で答えた。


「ユウジ殿、貴方が一願巡礼というより、その人柄を見込んでいる。是非、聞いて欲しい。そして、我が父ヌーイと、わたしを許して欲しい」


 クチャタの問に祐司は間違えないように一考してから答えた。


「わたしは聞いておるとも聞いていないともとしか答えられません」


「それでいい」


 少し、クチャタは微笑むと、おもむろに話を始めた。それは、ヌーイの最初の妻であるシネスと、その忘れ形見である異母兄のバドルのことだった。

(第四章 リヴォン川の渦巻く流れに 自治都市シスネロスの街角4 郷士ヌーイ 参照)


「我が父、ヌーイは無欲のように見えるが士爵への願望がある。その願望はわたしの祖父の代からのものだ。

 もちろん、貴族の最下級とはいえ士爵になるには巫術への耐性がないとダメだ。我が父ヌーイにはその力がないが、三代前には巫術への抵抗力がある兄弟がいた。


 それで我が父ヌーイは自分が士爵になれぬのは、わかっておるが血筋を頼りに子や孫に、その力を発現できる者を得たかった。

 最初の妻であるフラウ(女性に対する尊称)・シネスは、郷士の出だがブリナーレ子爵とは遠縁の血筋なのだ。だから、年上で、出戻りという条件でも我が父は結婚した。いや、我が祖父が結婚させたのだ。


 待望の子である我が兄バルドは、貴族の血筋が顕現するはずだった。ところが、微塵もその兆候はなかったのだ。

 これは、兄の責任ではない。祖父や父もそのことで、兄を責めるようなことはなかったと聞いておる。わたしも、家族がそのことについて触れた記憶もない。


 しかし、人の口に戸は立てられぬものだ。いつとはなしに、その事は、兄の耳に入っておったようだ。

 兄は、よく神々は不公平だと言っていた。例えば、遠縁にあたるブリナーレ子爵は、勝手気ままに暮らしておるのに、貴族と言うだけで尊敬をもたれるとな。


 兄バルドが武芸にのめり込んだのは、自分の存在を認めて貰いたかったからではないかと思っている。武芸なら鍛錬で上達できる。自分の努力が及ぶ範囲だからな。

 貴族の血筋で、祖父や父を喜ばすことができないなら、武芸でひとかどの働きをして、家名を上げようとしたのだと思う。


 その兄を、さらに打ちのめしたのが、我が母と私だ」


「キナーリ様とあなた?」


 祐司は訳がわからずに少し大きな声で言った。そして、周りに気取られていないことを確かめるとクチャタに言った。


「どうぞ、もうこのような無体はいたしません」


 クチャタは、独り言のように話を続けた。


「今言ったようにフラウ・シネスはブリナーレ子爵とは遠縁に当たる。そして、ブリナーレ子爵はドノバ候の縁者という関係だ」


 祐司は黙ってクチャタの話を聞き続けた。


「それだけに、貴族と言われる者がどのように暮らしているかは、庶民よりは良く知っている。

 ドノバ州の半数以上の貴族は領主ではない。借財に身がはまり込んでしまい、その借財を精算する代わりに、シスネロスに領地の経営を明け渡している。

 ところが、家臣の大半を放逐した結果、シスネロスから受け取る領地からの収入の一部でも贅沢な暮らしができるようになった。


 ブリナーレ子爵などは、その金で劇場を改築させたり評判の芝居一座を呼んで市民に無料で見せたりするのもだから、いたって評判がいい。


 ところが、兄のバルドは、それが納得いかなかった。ブリナーレ子爵がもてはやされるのはブリナーレ子爵の才覚でも努力でもない。

 ブリナーレ子爵が贅沢な暮らしをしている裏では、放逐されて日々の糧を得るにも困っている元の家臣が大勢いる。ブリナーレ子爵は、その家臣のために金を使うべきだと言っていた」


 ここで、祐司は口を挟んだ。


「ブリナーレ子爵は単に金の使い方を知っているだけだと思います」 


 クチャタは、頷いて肯定の意を示した。そして、より声を潜めて言った。


「そんなおりに、わたしに貴族の血が伝わっていることが判明したのだ。我が母であるキナーリはある貴族のお手つきだ。

 我が母キナーリは、名は言えぬが貴族の子だ。我が母が石屋の娘にも関わらず女官として奉公できたのはそのつてだ。


 わたしは兄のバルドに負い目がある。貴族の血筋以外では、頭でも武芸でも兄の方が数等わたしより上だった。


 わたしに貴族の血が流れていることを知った父ヌーイはもちろん大層喜んだ。その姿を見ていた兄も、喜んでくれた。しかし、その心の内はどうだったのだろか。兄は死ぬことを望んでいたのはないかと思える」


 祐司は辛抱強くクチャタが話し出すまで待っていた。


「兄が死んだのは、それから間もなくだ。体調が悪いのに冬季の演習に無理を押して出かけたのだ。後で、人に聞いた話では、足がよろめくような熱があり、引き上げろと言われたのを断ったらしい。それで、とうとう昏倒して、そのまま宿営地で亡くなったのだ。


 わたしは兄が絶望して死んだように思える。その原因はわたしにもあるのだ。我が父ヌーイは兄の為には、できるだけ希望に添うようなことをしていた。母キナーリも兄には気を遣っていた。


 誰もが兄をないがしろにしていたわけではない。ただ、それは、ないがしろにしてはいけないという気遣いであったことは確かだ。

 兄はそれを感じていたのだと思う。本当は、自分はないがしろにされてもいい存在であり、家族に気を遣わせていると」


 祐司は失業中の自分に、気を遣っていた家族のことを思い出した。失業したのは祐司の責任ではなく、会社が本業を疎かにした結果である。それで、家族は余計に気を遣っているのが口に出さなくともよくわかった。一言でいえば居心地が悪いのである。


 ひょっとしたクチャタの兄バルドはずっとそんな感じを持っていたのかもしれないと祐司は思った。祐司の場合は再就職が叶えば解消する話だが、バルドは永遠に、その状態に置かれていたのだ。


「兄が死んでほっとしている自分に気が付いた。そして、父ヌーイがわたしに望んだように我が息子ジャンマには爵位を賜って欲しいと思う自分がいる。そんな自分に、わたしは愕然とするのだ」


 クチャタは祐司が言っていることを深く理解していることがわかった。そして、人には言えなかったことを祐司に打ち明けた。


 祐司は思いつくまま、自分の気持ちに逆らわずにクチャタに言った。


「人として欲望があるのは当たり前です。むしろ、まったくの無欲では人として進んでいけないかと思います。その欲求を果たすために人の道を踏み越えねばよいかと思います。

 ヌーイ様やキナーリ様は亡くなったシネス様への愛情と憐憫をお持ちです。また、貴方も言うように、兄上であるバルド様にはできるだけの気遣いをなさったと聞いております。その気遣いがバルド様を苦しめたとおっしゃいましたが、ヌーイ様も貴方も人の道を外れているとは思えません」


 クチャタは祐司の目を見て答えた。


「実は神官にも、この話を告白したが、神官は神々は許すであろうとしか言わなかった。今、貴方が具体的に説明してくれたことで幾分気が晴れた。これからもまっとうに仕事をして、ドノバ候に仕える。

 その結果として士爵位が得られたのなら名誉と思う。また、士爵を与えられなければ人から見てそのような働きしかできなかったと納得できそうだ。そう心が定まった」


 クチャタは気持ちが晴れたのか少し微笑んでから言った。


「わたしは、確かに今度の戦いでドノバ候直々の感状をいただいた。ただ、感状を貰ったものは何人もいる。士爵へ叙任されるまでの活躍ではない。何しろ、カタビ風のマリッサを討ち取った御仁がおる。士爵の道は遙かに遠いと実感した。それで、あせる気持ちが無くなった」


「申し訳ありません」


 祐司はそう言うと、了解した印に頭を軽く下げた。


「我が父ヌーイは、もう一働きをわたしに期待しているのはよくわかっていた。だから、今回の人数を集めたのだ」


 クチャタから発する光の細かい変化を見ればウソは言ってはいない。先程と同じようにただ、全てのことを語っていないような感じがした。



「クチャタさん、呼んでいた方々が見えました」


 ガバリがクチャタと祐司に声をかけた。そのガバリの後ろには祐司が見知った男女が立っていた。


「さて、ユウジ殿の知り合いを紹介しよう」


 クチャタが少し横に移動して、その男女を祐司の方へ押しやった。


「スェデンさん。ナニーニャさん」


 祐司は一月半ほど前に別れた二人の様子が見違えるほど立派になっていることに戸惑った。そして、キリオキス山脈西側斜面の避難小屋で、二人を味方にして野盗とやりあったことが随分と昔のように感じた。

(キリオキスを越えて10 ヌーズル・ハカンの”情けは人の為ならず”一ないしキリオキスを越えて10 ヌーズル・ハカンの”情けは人の為ならず”六 参照)


 スェデンとナニーニャは子供の頃から、モンデラーネ公の巫術師になるために厳しい訓練を課されて、ついにモンデラーネ公のもとから脱走した巫術師である。


 最初、祐司が会った二人は女衒げぜんと売られる女だと言っており、顔がけて怯えた様な目をしていた。それが、僅かの日数で二人とも温和な顔つきになりきれいに髪の毛を整えていた。


そして、着古した質素な服で年の割には野暮ったい感じがした二人は新しく仕立てたような垢抜けた旅装束をまとっていた。事情を知らなければ巡礼の旅に出てている裕福な商家の若夫婦だと思われるだろう。


「あなたのおかげで首尾よくヘルトナの守備隊に雇われました。今はヌーズル・ハカンさんもいっしょに守備隊で勤務しております」

(キリオキスを越えて5  ヌーヅル・ハカンの”情けは人の為ならず”六 参照)


 スェデンが右手を祐司に差し出してきた。祐司は困った。下手に巫術師と接触すると相手の巫術のエネルギーを吸い取ってしまう恐れがあるからだ。


「ちょっと待ってください。先程、焼きリンゴを食べて手がねとねとしています。少し布で手を拭きます」


 祐司はそう言うと、タオル代わりにしている布をリュックから取りだして手を拭いた。そして、その時に巫術のエネルギーが詰まった水晶から自分の肘に埋め込んだ小さな水晶へエネルギーを送り込んだ。

 祐司が巫術のエネルギーを溜め込んだ状態であれば、相手の巫術師からエネルギーを奪わないからである。


 ただ、祐司には巫術のエネルギーを排斥する力が働いているために、身体に埋め込んだ水晶の巫術のエネルギーは枯渇していく。そのために、時を見て肘の水晶に巫術のエネルギーを補充する必要があった。


「どうしてここに?」


 祐司は巫術のエネルギーを溜め込んだ水晶から肘の水晶へ巫術のエネルギーを手を拭く振りをして補充した。そして、あらためて、スェデンと握手した。


「ユウジ様から貰いました紹介状を持ってヘルトナのジャベンジャ守備隊長のもとを訪れました。

 すると、試用扱いで守備隊の巫術師に雇ってくれました。その時に、ヌーズル・ハカンさんもヘルトナの守備隊に、見習い戦士長で仕官することができました。本当に、ユウジ様のおかげです」


 スェデンは、力強く祐司の手を握りながら言った。


「そうですか。ヌーズル・ハカン殿もヘルトナに落ち着いたんですか。それは、何よりです。あの人は日々戦乱の中で暮らすより、人の安寧秩序を守っていく仕事の方が似合っています」

 

 祐司はスェデンの巫術のエネルギーを奪ってしまわなかったらしいことに安堵しながら言った。


「半人前とはいえ北クルト伯爵の家来になりましたので、モンデラーネ公からの追っ手も手が出しにくくなったと思います。来年まで無事にお役目を務めれば伯爵様にお目通りをして正式に一代家臣にしていただけるそうです」


 スェデンの横でニコニコしていたナニーニャが言った。リファニアの慣習では、例え個人的にその家臣に対する私怨であっても、無断で他人の家臣に手を出せば、その主家に対する敵対行為と見なされる。


 ナニーニャの言う一代家臣とは、代々召し抱えている家臣とは別に巫術師や兵士といった職能者を本人に限って家臣にするものである。この制度のおかげで、リファニアは身分社会ながら貴族階級以外は少し身分に流動性がある。


 ナニーニャは、シスネロスにいる理由を説明した。


「わたしたちがヘルトナ守備隊に出仕しだしてからしばらくして、ドノバ候の家臣というヌーイという方からの使いがまいりまして、三ヶ月ほどわたし達をドノバ候へ派遣して欲しいとのヘルトナ守備隊宛の要望書を持ってきました。

 派遣されている間のヘルトナでの給金は、ヘルトナの守備隊とわたし達の両方に払ってくださる上に、わたし達には、一人当たり月に銀貨二十五枚の派遣料を給金とは別に出して貰えるという条件でした。旅費として金貨一枚も出してくれました」


 ヌーイにスェデンとナニーニャのことをしゃべったのは祐司である。とんだところに巻き込んでしまったという小さな罪悪感が祐司を捉えた。

 そして、祐司は巫術師を雇う相場がわからなかったが、下級巫術師であるナニーニャが喜んでいる感じから、彼らの実力から見て相応の対価を得ているのだろう思った。


「やはり、モンデラーネ公の関係ですか」


 祐司は少し声を落としてたずねた。


「はい、あまり言えない約束になっています」


 スェデンも声を落として言った。


 祐司はドノバ候の諜報を司っているらしいヌーイがモンデラーネ公の巫術師であった二人を招請したのなら、巫術師として呼んだのではなく二人から得られる情報を期待した諜報に関することに違いないと感じた。


「それでは、そのことに関しては聞きませんが、ドノバ候に雇用されているのにここにいていいのですか」


 祐司は二人のシスネロスでも立場を心配して聞いた。


「ユウジ殿は事情を知っていますので言いますが、この二人には色々とモンデラーネ公に関する有益な情報を貰いました。

 そして、バナジューニの野の戦いの後は、死んだり、捕らえた巫術師の面通しをして貰いました。カタビ風のマリッサを筆頭にモンデラーネ公の主立った巫術師は全滅といったところです。これ以上はちょっと」


 クチャタが横から口を出してきた。祐司はスェデンとナニーニャに言ってもいい情報はこのレベルまでだと諭していることに気が付いた。


「まあ、お役目は大半が終わったということです。ヌーイ様から小遣い稼ぎはどうだと言われましたが、最初は、得体のしれない仕事ということで渋っておりました。そうしたら、ユウジ様の手助けだと聞きまして飛んできました」


 スェデンができるだけ明るい声で言った。


「巫術師の貴方方が来てくれれば、ちょっとした軍勢ですね」


 祐司がそう言うと、ナニーニャが真顔で否定した。


「ご冗談を、わたしたちの腕前はご存知でしょうに」


「ところで、お二人はひょっとして?」


 祐司は何気なく二人の仲を聞いた。


「はい、ヘルトナについてすぐに神殿で式をあげました。わたしたちは夫婦です」


 ナニーニャが言ったことは祐司の想像を上回っていた。


「どちらも親に捨てられた者同士ですから、今更、親の許可も要りませんでした」


 スェデンは本当に嬉しそうに祐司に言った。


「巫術師の夫婦ですか」


 祐司はそう言いながら、スヴェアとイェルケルのことを思い出した。



「皆の者、そろそろ出立だ。ここに集まってくれ」


 クチャタが出発の準備が整った一同を自分の周囲に呼び寄せた。


「我が父は、自ら公私混同は禁じている。だから、ここに集まった者は、恩賞を期待しているのは事実だが、何より我が父ヌーイとユウジ殿のために集まってくれた者達だ。

 ただ、烏合の衆というのも事実だ。そこで、ガバリ親分をはじめ主立った者達と指揮系統を確認した。不満もあるかもしれないが納得して従ってくれ」


 集まった者達は、祐司以外は同床異夢どころか同床同夢の関係なのか、誰もが頷いてクチャタの言葉に反応していた。


「まず、この隊のオーナーはユウジ殿だ。オーナーの意向は絶対だ。そして、隊を直接指揮するのはわたしだ。

 ただし、近衛隊、ガバリ一家のリーダーはそれぞれを率いる。わたしが、命令するのはそれぞれの長だ。我が母キナーリと妻ルティーナと、その実家勢は弓矢を装備しているので遊撃隊として、わたしの直轄とする」


 クチャタは、すぐ横にいたキナーリとルティーナの方を向いた。


「母上、ルティーナ、パーヴォット殿を伴ってここに帰ってくるまでわたしの部下として扱いますがよろしいか」


「クチャタ隊長、了解しました」


 キリーナとルティーナは示し合わせたかのように声を揃えて答えた。ヌーイの家には嫁姑の問題はなさそうだった。


 ただ、祐司は「トホホ」という言葉が頭に浮かんだ。


 クチャタは、祐司の気持ちを知ってか知らずか満足そうに頷くと全員に再び話しかけた。


「不意の戦闘、乱戦になった場合は直接わたしの命令に従うこと。以上だ。異議のある者はここで言え」


 全員、得心がいったのか誰も何も言わなかった。


「納得した者は雄叫びだ」


 クチャタが右手を空に突き出して叫んだ。


「ヴァォーーーーー」


 キリーナやルティーナも含めて全員が右手を突き上げて大声を出した。祐治は、これは落ち武者狩りのための決起集会だと感じた。それでも、祐司は気を取り直してクチャタのいた場所に進み出て全員に声をかけた。


「みなさん、ありがとうございます。もし、上手く落ち武者を討ち取れなくても、わたしが金貨二枚をみなさんに出します。どうか、パーヴォット捜索にお力をお貸し下さい」


「それは断る。このたびの不祥事はシスネロスの不祥事だ。それを、我々シスネロスの人間が他人の金で補ってもらうわけにはいかない」


 祐司の言葉にいち早く反応したのは、元ドノバ候近衛隊のリーダーだった。近衛隊はシスネロスに居住しており、それなりにシスネロスへの愛着もある。


 それに呼応するように、ガバリが声を上げた。


「わたしも、こういった裏の商売をしていますがシスネロスっ子だ。裏の商売をしている人間ほど、こういったことにはこだわるんです。ユウジ殿から小銅貨一枚たりとも受け取るわけにはいけません」


「あらためてユウジ殿に約束する。この遠征はパーヴォット殿の救援が第一の目的だ。これだけは優先する」


 クチャタが仲介するように、捜索隊の前に立って祐司に言った。


「では、出発いたそうか」


 クチャタの言葉に一同は、もう一度、「ヴァォーーー」と雄叫びを上げると市門の方へ移動を開始した。


 市門ではクチャタが市庁舎で手に入れた特別許可証なるもの衛兵に提示した。その特別許可証には武装したまま市外に出ることとパーヴォット捜索のために、明日から五日間北部直轄地に入ることを許可すると記載されていた。


 しかし、今まで見たことのない許可証に市門の衛兵達が鳩首会談を始めた。特別許可証にはガッツァーリ局長以下三人の局長クラスの印と著名があったが、北部直轄地への禁足令は市参事会から出ていたからだ。


 しかし、たまたま市庁舎から来ていた職員がパーヴォット捜索という文言を見て、衛兵達を説得した。

 こうして、夏至前後の白夜のために太陽は出ているが時刻では夕刻という時間に、パーヴォット捜索隊はシスネロスの市門をくぐった。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)


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