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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第五章 ドノバの太陽、中央盆地の暮れない夏
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ドノバ連合候国の曙6  余録の戦い 上

挿絵(By みてみん)




 歴史に名を留めるような激戦になった、オラヴィ王八年、馬の年六月十三日の「バナジューニの野の戦い」はシスネロス市民には、すでに終わった戦いである。

 しかし、勝者になったはずのシスネロス市の政治機構にも劇的な影響をもたらした「バナジューニの野の戦い」は完全には終結していなかった。


 ランブル市参事の突然の没落と、逃亡事件にシスネロス市が大きく揺れている最中にモンデラーネ公とドノバ州勢による戦いがあった。


 この「ババニン渡河点の戦い」、あるいは半ば嘲笑気味に「余録の戦い」とも呼ばれる戦闘が「バナジューニの野の戦い」の五日後に行われた。


 この「ババニン渡河点の戦い」で戦ったのはリヴォン川を渡河してリヴォン・ノセ州に帰還しようとしていたモンデラーネ公軍と、ドノバ州の異端児バンガ・バラストラ・ホラーツ・ガカリナ子爵の軍勢である。

(第三章 光の壁、風駈けるキリオキス山脈 輝くモサメデスの川面6 渡河船 および 第四章 リヴォン川の渦巻く流れに 自治都市シスネロスの街角1 シスネロスの夜  参照)


 無骨一辺倒のガカリナ子爵でも、モンデラーネ公の調略が及んでいるという噂は気にしていた。

 ガカリナ子爵は、現在のドノバ候家がドノバ候を名乗っていることには多少の不満があったが、今日明日に背くようなことは考えてはいなかった。また、自分がドノバ候にとってかわろうとも思っていなかった。


 ガカリナ子爵は基本的には、気位の高い子供がそのまま大人になったような人物である。他人が自分に対して、自分が考えるような尊敬の持った言動を自分にして欲しいのである。

 本来ならドノバ侯になってもよい家柄と、ドノバ州外での自分の武功に対して、ドノバ候以下のドノバ州貴族階級は、もう少し敬意を払って欲しいというのがガカリナ子爵の漠然とした不満の根源である。


 ただ、それを公言したり、行動に出すことはないほどには大人だった。


 今回の戦役に関してはガカリナ子爵はシスネロス市参事会から、いつものように北辺の守護に専念するようにという書簡を受け取っていた。これが常識的に上策であるとはわかっていたが、なにやら疑われているようで釈然とはしなかった。


 そんな折り、モンデラーネ公からの書簡が届いた。挨拶文のようなもので、領主は自領の守護を行って最低限の勤めを果たせるのであるから北辺の守護をしっかりなされよというような内容であった。


 その書簡は自身が携えて至急に、ドノバ候に持参した。書簡を受け取ったドノバ候は市参事のビルケンシュトを呼んで、この書簡を預けた。


「モンデラーネの計画を逆手に取りまして」とガカリナ子爵がドノバ候に言いかけると、ドノバ候は「これは、こちらで善処しましょう。大儀でありましたな。自領で北辺の守護をよろしく」とドノバ候は言い放って、取り付く島もなく部屋を追い出された。少なくともガカリナ子爵はそう感じた。


 ガカリナ子爵は武勇一辺倒ばかりではなく策略にも長けていることを驚嘆されたかった。そして、忠義の度合いもドノバ候に感心して欲しかったのだ。


 実はモンデラーネ公の書簡はほとんどのドノバ州領主に送られていた。また、その書簡が届いたことを多くの領主が報告していた。


 中には何の連絡のない領主もいたが、モンデラーネ公の書簡が届いていないかというドノバ候とシスネロス市参事会が問い合わせを行うと、あわてて言い訳とともにモンデラーネ公の書簡を送ってきた。


 ガカリナ子爵が勢い込んで、ご注進とばかりに届けた書簡はドノバ候やシスネロス市参事会の面々からは、ごく当たり前に相手勢力に送る調略とも言えないものだった。


 そのような見え透いた書簡でも、ガカリナ子爵はわざわざ自分で届けてきたということでドノバ候やシスネロス市参事達からの評価はむしろ高かった。


 そんなことに思いが足らないガカリナ子爵は鬱々とした気分で帰路についた。


 そして、タイタニナでの渡船事故を引き起こした。    


 帰路にガカリナ子爵は堪らない嫌悪感に包まれていた。モンデラーネ公の書簡を慌てて、ドノバ候へ自ら差し出した自分への嫌悪感である。


 ドノバ候を頼って保身行為をしたような形になった自分が嫌でしかたなかった。


 ドノバ候や市参事会の連中は、ガカリナ子爵は小心なヤツよ、と今頃罵っている違いないとの妄想がガカリナ子爵を苦しめた。


 渡船と衝突しそうだという報告を受けた時にガカリナ子爵は「ガカリナ子爵の船は公船である。営利を行う私営船より優先度が高い。こちらから避けることはない」と苛立つように命じた。


 船長以下の船員が何度か諫言したが、ガカリナ子爵はだだっ子のように聞き入れることはなかった。

 あまつさえ、衝突で渡船が転覆してからも「公船は公務優先である。至急、領地に帰還して北方の守護を固めねばならん」と言い放って渡船から投げ出された乗客の救助さえ禁じた。


 ガカリナ子爵は領地に、帰還すると急いで防衛戦の手筈を整えることで、シスネロスから聞こえてくるおもしろくない噂を聞き流していた。


 そして、バナジューニの野の戦いの第一報が届いた時に、悶々としていたガカリナ子爵の中で何かが弾けた。


「出陣だ」


 報告を聞いたガカリナ子爵は、家臣達の前で大声で言った。


 ガカリナ子爵の関心は他の領主の働きにあった。バナジューニの野では、シスネロス市民軍はかろうじてモンデラーネ公軍を退け、ドノバ領主軍はリヴォン・ノセ州領主軍を撃破して未曾有の戦果を上げたと一報には記されていた。


 基本的にガカリナ子爵の意識の中には、シスネロス市民軍とかシスネロス義勇軍などは評価のしようのないものである。勝とうが負けようが気にはならない。

 しかし、領主軍は同じドノバ州の領主でもライバルである。特に自分より爵位の低い領主が活躍したとなると我慢ができないのだ。


 そして、領地持ちの貴族は爵位以上に領地の優劣を意識する。


 ガカリナ子爵領は、「北辺の守り」と言われるようにドノバ州の北西部にありリヴォン・ノセ州と接している。東はモサメデス川に面しており水運にも恵まれていた。

 領地は森林と丘陵、低山が入り交じったような地勢で、埼玉県より少し広いほど大きさがあった。


 散在した農地と農牧地が散らばっており、裕福な地域とは言えないが代々その地で営みを続けてきた自営農民が生産の担い手で、質素だが人に後ろ指を差されるような困窮した生活にならないように勤勉に働く土地柄だった。


 土地持ちの郷士のほとんども、自ら農作業を厭わない者が多く。その頂点にいるのが、ガカリナ子爵家だった。


 ドノバ州全体が関東地方より一回り大きいほどであり、そこに、ドノバ州の四分の一ほどのシスネロス直轄地と、その半分の大きさのドノバ候領があり、それ以外の地域に三十ほどの領主の領地がある。


 そのことを考慮すれば、他の地域と比べて高低のある地形で人口密度も低いながら、ガカリナ子爵領はドノバ州の十分の一ほどの面積を持ったドノバ州最有力の領地である。


 そして、ガカリナ子爵は、そのことに誇りを持っていた。その子爵領を背景にした自軍が、何の働きもせずに戦が終わることに、理不尽さがこみ上げてきたのだ。



 ガカリナ子爵の突然の出陣命令に、いつもはガカリナ子爵といっしょになって自家の格式と武勇を誇る家臣達も流石に出陣を翻意するように懇願した。


「北辺の守護はガカリナ子爵家の義務であり誇りであります。その誇りを捨てて何所に出陣するのでしょうか」


 乳母兄弟でもある近衛隊隊長のバラートがガカリナ子爵の目を見て言った。


 ガカリナ子爵は、すっとため息を吐いてから言い放った。


「北辺の守護というが、北のリヴォン・ノセ州領主軍はほぼ壊滅した。しばらくは攻め込まれる恐れはない」


「リヴォン・ノセ州へ侵攻されるおつもりでございますな」


 家臣団を代表して家老のゲブレルはガカリナ子爵の言葉に少し安堵したように言った。北の国境ではなく、西の国境には小規模なリヴォン・ノセ州領主が多い。

 今なら力尽くで屈服させてドノバ州側へ寝返りさせられかもしれない。上手くやればドノバ候やシスネロス市の憶えもめでたいだろうと算段した。


 ところが、ガカリナ子爵が続けた言葉に家老のゲブレルは言葉を失った。


「いいや、モンデラーネ公と一戦する。モンデラーネ公にドノバ州を出る前に、ガカリナ子爵が戦に参戦していればどのようなことになったか教えてやるのだ」


 そして、ガカリナ子爵は、腰の剣を抜いて叫んだ。


「エト神よ。御照覧あれ。敵を討つまではこの剣は鞘に戻りません」


 家老のゲブレルは、このガカリナ子爵の行為で観念した。ガカリナ子爵家では、当主が剣を抜いて神に誓った以上は、何事も後戻りできないのだ。


 神に誓って抜かれた剣は仮鞘に収められて常に当主が携行する。


「殿、今、仮鞘をご用意いたします」


 家老のケブレルは、まだ、抜きはなった剣をかざしているガカリナ子爵に、そう言うしかなかった。



 その夜、早朝の出陣に備えて、ガカリナ子爵は早めの晩餐を奥方と三人の子供達とともに摂った。


 そして、臥所で奥方を激しく愛した。


「何か言わないのか」


 ガカリナ子爵は、俯せに寝たまま、横を向いている奥方に声をかけた。


「御武運をお祈りするばかりでございます」


 奥方はガカリナ子爵の方を見ずに答えた。身体が少し震えているのは泣くのを堪えているのかもしれないとガカリナ子爵は思った。


「敵はモンデラーネ公軍だ」


 ガカリナ子爵は、空元気な声で言った。


「存じております。無類の敵で御座います」


 ようやく、奥方がガカリナ子爵の方を向いて上半身を起き上がらせた。目の周りは赤かった。


「止めぬのか」


 ガカリナ子爵は、自分で言った言葉に驚いた。


「もう決めて、おられるので御座いましょう」


 奥方は悲しそうに言った。


「わたしは、お前の前だけは自分をさらけ出すことにしている」


 ふーっとため息を出してから、ガカリナ子爵は言った。


「つろう御座います。本当は恐いのでございますね」


 奥方は、顔を伏せて言った。


「ガカリナの兵は、ドノバ州で一番実戦を経験しておる。それなりの精鋭だと自負している。

 しかし、実戦を知っているということは、相手の強さも予想できるということだ。モンデラーネ公の兵は手強いだろう。

 死ぬ気でかからぬ限りは、いいようにあしらわれるだろう。ましてや、今のモンデラーネ公軍は手負いの獅子だ。いかなる油断もしてはいないだろう」


 ガカリナ子爵は右手で、奥方の顎を軽く持ち上げて奥方に言った。奥方は、また悲しげに聞いた。


「何故、そこまでわかっておられますのに」


「わたしとて、領主が何もかも仕切っていた時代ではないことはわかっておる。でも、わたしは領主として、貴族として何事かをするべきだと思っている。

 貴族としての矜持の為には命を的としなければならぬこともある。それでなければ、貴族ではおられぬ。民とは違う責務を負っていることから逃げるわけにはいかないと信じている。貴族だ、領主だと言って贅をつくした屋敷で、その権勢を競うのは、わたしの性分に合わぬのだ」


 しゃべり下手のガカリナ子爵は、珍しく饒舌に奥方に言った。


 ガカリナ子爵もリファニアの他の領主のように、シスネロスの対岸に屋敷を持っていた。ただ、その屋敷は無骨一辺であり、シスネロスの職人を動員して、日々改装を行って互いに装飾を競う他の屋敷と比べれば、瀟洒なお屋敷町の中にある砦のような物だった。


「子爵の奥方でありながら相応な贅沢もさせてやれなかった。すまぬ。何度も後ろ指をさされることもあったと思う」


 ガカリナ子爵の目から見ても、奥方の服装は、他の貴族の奥方の服装より、地味で質素な物だった。その地味で質素な服を、何年も着回していた。

 シスネロスで、断れない宴会や舞踊会がある時は、奥方は侍女に手伝わせて、自分で精一杯の晴れ着を作っていた。


「御座船につぎ込んだ金の百分の一でも、お前に使えばよかったと後悔している」


「他の奥方はきらびやかな衣装をお持ちかも知れませんが、あのような、りっぱな御座船でシスネロスへ行けるのは、わたしだけでございます。

 他の貴族や、その奥方の乗ったどの船よりの速い御座船に乗って、次々と他の船を追い抜いていくのは痛快でございます」 


 奥方は泣き笑いのような顔で言った。そして、貴族の妻としての矜持を守るために感情を押し殺して言った。


「覚悟をお決めになられたのでございますね」


「死ぬとは限らぬが、そのつもりでの出陣だ」


 ガカリナ子爵は、もう何も隠し事をせずに奥方に言った。


「恐いが、それ以上にわたしはモンデラーネ公と戦ってみたいのだ。モンデラーネ公は、今度の戦で敗れたとはいえ、リファニア第一の武将だ。その武将と一戦を交えぬことに、わたしは耐えられないのだ」


 この言葉は、奥方以外に誰にも言っていないガカリナ子爵の本心だった。


「ユスティーナ」


 ガカリナ子爵は、奥方の名を言った。奥方はびっくりした。本当は内気なガカリナ子爵は、何年も奥方の名を呼んだことがなかったからだ。


「なんでございましょう」


 奥方は、胸にこみ上げてくるものがあったが、それを押し殺して聞いた。


「子供達のことを頼む。わたしより、器用な生き方をして欲しい。ただ、貴族としての矜持だけは身につけてやってくれ」


 ガカリナ子爵の死を決意した言葉に、奥方は黙って頷いた。


「今は寝る間がおしい」


 ガカリナ子爵は笑いながら言った。奥方は、その言葉が悲しかった。


「一つだけお願いが御座います」


 奥方の切羽詰まったような言葉に、ガカリナ子爵は一呼吸置いて聞いた。


「なんだ」


「ガカリナ子爵の名を貶さぬお働きをお願いいたしたく思います。そして、それが叶った時は、ここに帰ってきてほしゅう御座います。

 そして、御座船にいっしょに乗って、シスネロスへ行き、ドノバ候様へ健勝を伝えとう御座います。わたくしの我が儘で御座います。どうか、あのガカリナ子爵の妻だと人に言われとう御座います」


 奥方は、はっきりとした声で言った。ガカリナ子爵も、奥方と並んで船首に立ってシスネロスへ向かう自分の姿が頭に浮かんできた。


(死んでも、お前といっしょにシスネロスに向かう船に乗ろう)


 ガカリナ子爵は、この思いは言葉に出来なかった。 


「わかった。ユスティーナ。愛しておる」


 奥方は、ガカリナ子爵から愛しているという言葉を聞いたのは初夜の夜以来、初めてだった。


「愛しています。ホラーツ」


 奥方も何年かぶりで、ガカリナ子爵の名を口にした。そして、ガカリナ子爵と奥方は再びお互いの愛を確かめあった。



 この夜、ガカリナ子爵の城に、出陣の用意を終えて集まってきた家臣、兵士の家でも同様の会話が、夫婦や親子の間で数限りなく交わされていた。




「使者は出立したか?」


 ガカリナ子爵と、奥方が愛し合っている頃、家老のケブレルは城壁の上で、傍らにいる近衛隊長のバラートにたずねた。

 家老のケブレルは、最も信頼できる郷士を選んで、使者にたってくれるように近衛隊長のバラートに頼んでいた。


「はい、半刻ほど前に」


 近衛隊隊長のバラートは、しっかりした声で言った。


 家老のケブレルは、シスネロスへ出陣を報告する使者を送った。使者を送ることは、ガカリナ子爵に伝えたが、ガカリナ子爵が何も言わなかったので了解したと判断した。


 例え、ドノバ州内でもシスネロス市市参事会と、形式的だがドノバ候に黙って、軍を動かすことは禁じられていた。

 ガカリナ子爵の決意をかえることができない以上、事後でもシスネロス市市参事会へ報告して、後難を防ぐ必要があった。


「領主が意地で軍を動かしたのは、もう何十年も前のことだ。ここは、その時代から少しも変わっていないな」


 家老のケブレルは、城壁の下に広がる、ガカリナ子爵領を見ながら言った。


「困ったことです」


 近衛隊長のバラートの言葉に、家老のケブレルは違和感を感じた。家老のケブレルは、ガカリナ子爵が、昔から変わっていないと言ったのは肯定的に言ったつもりだったからだ。

 近衛隊長のバラートは、ガカリナ子爵の乳母兄弟だが、ガカリナ子爵とともに、年に何回もシスネロスへ行く。


 家老のケブレルは何年も、領地にいる自分とは違って、知らず知らずのうちに、近衛隊長のバラートもシスネロス流の価値観を身につけているのだなと思った。


「そう、困ったことだが、そんな殿の生き方こそ本来の貴族、領主の生き方のようにも思えるわたしもいる」


 家老のケブレルは、近衛隊長のバラートに遠回しに、ガカリナ子爵を援護するように言った。

近衛隊長のバラートは、少し困ったような顔をしていた。


「”貴種の道”ですか」


 バラートは小さな声で言った。”貴種の道”とは貴族の心得をあらわした言葉である。日本の武士道や西欧の騎士道に通じる名誉の為には死を厭わない思想である。


「もう殿は、出陣の言葉を発せられた。家臣としてこれを止めることはできない。ただ、周辺の細々したことだけは、きっちり、手は打っておかんとな」


 家老のケブレルは、バラートの肩を右手で叩いて言った。


「わたしはガカリナ子爵の近衛隊長です。戦いが始まれば全身全霊でガカリナ子爵様のために戦います」


 このバラートの一言で、ケブレルは何か安堵した。そして、少し笑ってバラートに言った。


「わたしも出陣する。出来る限り、殿の気持ちを晴らした上で、ご無事にご帰還できるように手を尽くす」


 ケブレルは、まるで物見遊山にでも行くように出来るだけ明るく言った。


「ああ、それから、殿から渡河船の犠牲者に、弔慰金と弔いの使者を出すようにいいつかった」


「それは、よかった。ずっと、気になっておりました」


 バラートも微笑んでケブレルに答えた。


「遅きに失するとはいえ、このまま頬被りをするよりはずっといい。だがな…」


 ケブレルは最後の言葉を飲み込もうとした。しかし、バラートは即座にケブレルの言葉に反応した。


「何でございますか」


「殿は身辺を整理しておられるような感じがする」


 ケブレルの言葉にバラートは答えず、難しい顔をして黙り込んだ。


「キリオキスの峰が全て雲に隠れている。この空気の匂いからして雨が近い」


 ケブレルは周囲を眺めてから独り言のように言った。そして、自分に問いかけるかのように呟いた。


「雨は天佑となるだろうか」



挿絵(By みてみん)


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