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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第五章 ドノバの太陽、中央盆地の暮れない夏
124/1175

ドノバ連合候国の曙1  凱旋

挿絵(By みてみん)




 シスネロス市民軍の凱旋行進が始まった


 まず、最初に帰還するのは戦死者である。しかし、死体はない。戦死者は戦いが行われた場所に葬るのが習いである。

 戦死者達の武具が、綺麗に磨かれて兵士達が曳いたり押したりする数十台の荷車に乗せられて帰ってくる。その武具が遺族に引き渡されるのだ。


 続いて、槍の穂先にロープでつり下げた敵将や高位の武官、巫術師などの首級を持った兵士達が入場してくる。巫術師の首に女性や、まだ子供のような顔の若者が混じるために、その凄惨さが増していた。


 戦死者のための復讐が果たされたことを市民に知らせるためである。


 遠隔地の戦いからの凱旋では塩漬けの首が入った樽や、敵の武具を持った兵士が行軍するが、シスネロス市の目前とも言うべきバナジューニの野からの帰還であるため、最も戦いの実相を示すような生首の行列となったのだ。


 長らく戦火にさらされることのなかったシスネロス市民は、その生首の行列に対して、どのような態度を取っていいのか戸惑っていた。結局、生首は無言で見守る市民達の中を進んで行った。

 

 続いて、ドノバ候近衛隊が戦車隊を戦闘に入場してくる。その先頭の戦車に乗るのは、フクロウの軍旗を掲げた、ドノバ候その人だった。


「ドノバ候万歳」「ドノバ候万歳」


 嵐のような歓声が響き渡る。


 ドノバ候は真っ直ぐ前を見据えているが、時々市民へ軽く会釈をする。それを合図に、歓声がまた沸き上がる。

 ドノバ候の後ろの馬車には、近衛隊指揮官のドノバ候次男ロムニスと戦車隊長を勤める庶子のバルガネンが続く。


「ゲネウニ(聡い)・ロムニス様」「ハヤル・マキ(貴族に認知された庶子の称号)・バルガネン様」尊称をつけて二人を讃える歓声が、ドノバ候への歓声に混じる。特に女性はドノバ候よりも、この若い武将たちに大きな歓声を送った。


 ドノバ候近衛隊に続くのは、戦場では、崩れそうになる市民軍のコルセット役としての役割を見事に果たしたシスネロス市傭兵隊である。


 傭兵隊に大きな信頼をおく市民は、傭兵隊にも感謝の歓声を惜しみなく贈った。


 傭兵隊は指揮官の号令一下、かしら右の状態で市民達の歓声に応えた。それを見て、さらに市民達は大きな歓声を出した。


 傭兵隊の後にはドノバ州の領主達とそのドノバ州領主軍の選抜兵がシスネロス市民の前に姿を現した。

 ドノバ領主軍は討ち取ったリヴォン・ノセ州の領主、つまり貴族の首を槍の穂先に吊し、捕獲したリヴォン・ノセ州の領主軍の旗印を掲げていた。


 また、その旗印の後は、モンデラーネ公軍旗を始め、リヴォン・ノセ州領主軍から奪った軍旗が林立して行進する。


 これは、リヴォン・ノセ州貴族からすれば許し難い屈辱である。もう、当面はドノバ州領主とリヴォン・ノセ州の領主が陰においても結ぶことはないというドノバ領主の意思表示でもある。


 市民達は、様々な歓声でこれらの部隊を迎えた。


 シスネロス市民が領主軍の誇らしげにはためく旗印を見て、頼もしいと感じたのはこの時が初めてだった。


 女性はリヴォン・ノセ州領主軍の首魁ゲルベルト伯爵を討ち取ったという若いアンドレリア子爵に、ひときわ大きな歓声を上げた。

 アンドレリア子爵は小勢でありながら、幾度も敵陣に吶喊とっかんを行い領主軍での戦功は大きかった。もとから、アンドレリア勢はガカリナ子爵の軍勢と並んでドノバ州では精強部隊として知られている。


「キルレット・ルヴァルド様、御勇ましいです」「アンドレリア子爵様、あっ、こちらを見られたわ」「ルヴァルド様、お怪我はなかったですか」「わたくしめにも、お顔をお見せ下さい」


 シスネロスの女性は、お祭り騒ぎのようである。


 そのアンドリア勢を率いていたのは、当年、二十二という若い当主ガスバ・キルレット・ルヴァルド・ハル・ベルハルド・ルクヴィスト・ディ・ドノバである。

 男でも見惚れるような貴公子を絵に描いたような整った顔立ちのアンドレリア子爵は、シスネロス市の女性の間では、あこがれのアイドルのような有名人である。


 やがて、やや隊列が乱れた一団がやってきた。この部隊は指揮官も徒歩である。シスネロス義勇軍である。指揮官に続いている旗手は手作りの青アザミの軍旗を持っている。

 その後ろには、背の高いイス人と思える男に率いられた一団が続いた。その一団は、誰も乗っていない蓮台を担いでいた。


 そして、ブロムク司令より特別に許可を貰って、モンデラーネ公軍右前衛隊長デラトル男爵とモンデラーネ公筆頭巫術師マリッサの首を一段と高く掲げていた。


 二人の首は、ドノバ防衛隊にいた葬儀屋によって修復され、さらに化粧を施されていた。二人の首を扱ったのは腕のいい葬儀屋だった。

 数箇所の陥没骨折で傷つけられたデラトル男爵の顔は、無念の表情を持った悪役っぽい感じのする中年男性に仕上がっていた。マリッサの首は不敵な微笑をたたえていた。そして、今にも目を開けて悪態をつきそうな魔女風情の顔に仕上がっていた。


 祐司はやり過ぎだと思ったが、ドノバ防衛隊の面々は葬儀屋を大層評価していた。リファニアの人々の心情は、現代人の祐司には時々理解しがたい時があった。

 祐司は生首を見上げては、これからデラトル男爵とカタビ風のマリッサは、この首の印象で歴史に残っていくのかもしれないと思った。


 祐司は、市民達の様子がシスネロスを出陣した時とは、大きく変わっていることに気が付いた。


「よくやってくれた」「手柄を立てたんだってな」「いよ、巫術師殺し」「今まで悪く言って悪かったよ」「あの、背の高いのがユウジらしいぞ、マリッサが術をかけられないような勢いで突っ込んで一撃で仕留めたらしい」


 大きな歓声こそあがらないが、市民は口々に義勇軍に声をかける。


「ドノバ義勇軍、勝ちどき」


 先頭のガークが叫ぶ。


「バーオー、バーオー」


 義勇軍は雄叫びをあげる。非シスネロス市民の力を誇示する示威行動である。それに、つられるように市民達の間から、拍手が起こった。


 そして、最後が凱旋式の主人公であるシスネロス市民軍、シスネロス予備市民軍の行進である。少なくとも、この凱旋式を挙行する市民総会代表のランブル市参事はそのような演出であるつもりだった。


 総司令官ブロムク司令と、指揮権をブロムク司令に返還したディンケ司令以下の首脳が乗る戦車の後に、今までにない大軍が現れた。


 しかし、今までの軍と違い見た目にも疲れ切っており、頭に包帯を巻いていたり、腕をつっている者、戦友の曳く荷車に乗った負傷者もいる。


 シスネロス市民は拍手でこれを迎えた。閲兵式の時と同じように何人かの家族が兵士に駆け寄る。これを、合図に人波が行進している兵士を取り囲んだ。


 家族は、自分の夫、父、兄、息子である兵士を見つけて駆け寄って行く。


「あんた、無事でよかったよ」「父ちゃんお帰り。もう、戦に行かないで」「もう、お前はりっぱに勤めを果たしたよ。これからは家に居ておくれ」「職人が右手をなくしてしまって、どうすんだよ。でも、命があって取りあえずだ。あたしゃ嬉しいよ」


 兵士、いや市民にもどった男達は隊列などにお構いなしに、自分の妻、子、親を抱きしめる。


「あんなひどいとは思わなかった」「市民兵の練兵なんぞお遊びだったってことがわかったよ」「生きて帰れたのはドノバ候のおかげだ」


 指揮官が何を言おうが隊列は進まなくなった。いや、すでに隊列など消滅していた。それを制止すべき下級指揮官も含めて男達は家族と自分の家に帰って行った。


 練兵場へ向かい式典をおこなう筈だった市民軍は自然解散のような状態になった。




「なんなんだ。これではドノバ候の凱旋式ではないか。至急市民軍を最初の予定通りに練兵場に集合させろ。そこで、わたしが戦勝を讃える演説を行う」


 練兵場の二階屋ほどの演台の上で、ランブル市参事が取り巻きや、他の市参事を相手に怒鳴り散らしていた。


「今日は、無理かと」


 市民軍の自然解散という事態を報告に来た傭兵がしかめっ面で言う。 


「市民軍が揃うまでは誰もここを動いてはいかん」


ランブル市参事は、意地になって言った。


「すでに市民軍は凱旋行進の途中で解散して、各自の家に帰っております。今から再度の招集は難しいかと。強制的に招集をかけても評判を悪くするだけです」


 ランブル市参事が配下とも思っているヤロミル市参事までが諫めだした。


「いつまで、ドノバ候を待たせるのか」


 険しい表情のハタレン市長が、椅子に座っていても具合の悪そうなドノバ候を見て言う。


「わたしがシスネロス市市民軍の最高司令官だ。すぐ市民と市民兵をここへ集めろ。それまで、誰もここを立ち去ってはいかん」


 そう怒鳴るランブル市参事は完全に自分を見失っていた。ランブル市参事は戦勝の熱気を利用して市民総会の決議を行い、市参事会にかわる市民総会予備会議を恒久的な執政機関にしようと目論んでいた。


 凱旋から日が経って市民の熱気が冷めてはまずいと判断していたのだ。当初の目論見は頭から崩れて市民が練兵場に来ないことで焦りに焦っていた。市民さえ集まれば自分の弁舌で、再び市民を奮い立たせることができると信じていた。


(今までオレの弁舌に奮い立つことのなかった群衆はいない)

 

 このランブル市参事の思いは、数日前であったらかなったかもしれない。しかし、ランブル市参事の弁舌に市民集団が以前の熱狂を取り戻す可能性は無くなっていた。

 ランブル市参事は祐司によって人を魅了させる巫術のエネルギーを枯渇させられていることと、その力は相手の深層意識に作用しているのだということをランブル市参事自身も知らなかった。


 この二つの条件のうち一つは祐司によって奪い去られ、もう一つは義勇軍の奮戦と大戦果という結果で、シスネロス市民の非シスネロス市民に対する負の感情が、正反対になっていた。

 ランブル市参事が元の力を持ってたとしても非シスネロス市民に対する敵愾心で市民を扇動することは難しくなっていた。

 

皮肉なことに、いまだにランブル市参自身が巫術のエネルギーの作用という自覚はなく、自分には天才的な弁舌の才能があるという誤解をしていた。



 一刻ほどしてから多くの市民が練兵場へ集まってきた。


(頑張って、言い分を通した甲斐があった。勝ったぞ)


 ランブル市参事はそう考えると、顔の表情がようやく緩んできた。


「ドノバ候近衛隊のメンバーが街中を触れて市民を集めております」


 ランブル組の一人がランブルに耳打ちした。


「ドノバ近衛隊が?何故だ」


 ドノバ近衛隊は、あからさまな敵対行為はしないが、ランブル市参事にいい感情を持っていないことはランブル市参事も承知している。


「ドノバ候が具合が悪いのにランブル市参事が、自分の戦勝演説と市民総会を開催するまでは帰さないといってる。ドノバ候の命に関わるので、練兵場へ来てくれと触れ回っております」


「何をでたらめを」


 思わずランブル市参事は大声を上げた。


「その話のどこがでたらめですか」


 話を聞いていたハタレン市長は吐き捨てるように言うと鼻で笑った。それを近くで何人かの市民が聞いていた。ハタレン市長は噂はあっという間に広がるだろうとほくそ笑んだ。



 その間にも練兵場に集まってくる市民達は演台上のドノバ候に口々に声をかけていた。そして、ランブル市参事を罵る声もあった。


「ドノバ候、早く帰って御養生下さい」「お帰り下さい」「お体を大切に」「ランブル、いい気になるな」


 ドノバ候は側近に肩を担がれるように演台から去った。ドノバ候の乗った馬車が練兵場を去る時は、目の前を通り過ぎる馬車に人々は深く頭を垂れた。


「ドノバ候万歳」「ドノバ候万歳」


 その馬車を見送るように市民が歓声を上げた。


 ドノバ候の馬車が見えなくなると、市民達は三々五々、練兵場から立ち去り出した。あわてて、ランブル組の者達が武器で市民達を威嚇して足止めをする。



「市民諸君、しばし待たれよ」


 ランブル市参事は演台から、巫術師の能力一杯の大音量で告げた。


「シスネロス市民総会開催中はシスネロスの最高行政官は総会代表の、わたし、ランブル市参事である。ただいまから、戦勝を讃える、わたしランブル市参事の演説とドノバ候の名代として…」


 集まった市民達がざわめきだした。


「おい、市民総会を解散しろ。もう、モンデラーネはいないんだ」

「そうだ、市民なら誰でも解散請求を出来ると聞いたぞ」


 あちらこちらで、周囲の者を扇動するような人物も現れた。どこかの一角から「解散」「解散」と言う連呼が始まった。

 それは、たちまちのうちに、練兵場にいる市民に広がる。やがて、その声は一つになり、演台のランブル市参事に向けられた。


「解散」「解散」「解散」


 市民の迫力にランブル市参事は立ちすくんでしまった。今まで、ランブル市参事が一旦演説を始めたら聴衆が、ランブル市参事の思い通りにならなかったことはなかった。それだけに、ランブル市参事は酷く狼狽した。


 実は、この数日、ランブル市参事は自分の演説や、話を聞く人々の態度が、よそよそしいことに気が付いていた。

 そのこともあって、内心大勢の前での演説が恐くなっていたのだ。ただ、自分では少し調子が悪いだけだと自分を信じ込ませていた。


 自分で押し殺していた不安が現実のものになったために、ランブル市参事の心は折れかけていた。


「ここは、わしに任せてくれるか」


 いつの間にか、傍目にも狼狽しているランブル市参事の後ろに来ていたハタレン市長が声をかける。


「任せるとは」


 おずおずと、ランブル市参事は首を後ろにそらして聞く。


「この声を静める」


 ハタレン市長は自身満々な口調で言った。


「頼む」


 ようやく、ランブル市参事は演台の後方へ下がった。


「静粛に、静粛に」


 何度目かの、市長の声で練兵場は静かになった。


「わたしは、ハタレン市長だ。諸君は市民総会の解散を望んでいるか」


 たちまち、歓声が沸き起こる。


「市民総会の解散は、市民総会でしか決定できない。ただいまより、市民総会の開催宣言を代表であるランブル市参事におこなってもらう。議長はわたしだ」


 そう言うと、ハタレン市長は続けて市民達に問うた。


「賛同の者は手を挙げよ」


「何に対しての賛同だい?」


 前列から声がかかった。


「議長がわたしだということに対してだ」


 ハタレン市長は苦笑しながら言った。一斉に手が上がった。


「では、ランブル市参事」


 ハタレン市長は、ランブル市参事を発言を促した。


「市民総会の開催を宣言する。市民総会権限により、市参事会を廃止してより広範な市民による市民総会予備会議を…」

 

 ランブル市参事は、そこまで言うとハタレン市長に肩をつかまれて後方へ移動さされた。


「何をするんだ」


 ランブル市参事は、ハタレン市長に食ってかかった。


「貴方は市民代表で、市民総会ではご自身から提案を行うことはできません。市民総会規則の第十二項に明記してあります」


 ハタレン市長の冷静な口調にランブル市参事は沈黙するしかなかった。市民総会はランブル市参事の切り札だけに、その規則は熟知していた。

 当然ながら、市民総会開催では、あらかじめ側近に提案をさせるのであるが、突然の市民総会開催に、そのような打ち合わせも行えなかったのだ。


「では、市民総会において討議したい議題のある者はここへ」


 一人の職人風の服を着た三十前後の男が演台に、よじ登ってきた。護衛の傭兵が、その男を捕まえようとするのをハタレン市長は手で制止した。


「オレが言ってもいいのか?」


 演台に上がった男は、不躾にハタレン市長に言った。


「申し訳ないが、貴方はシスネロス市民である証明を持っていますか?」


「ああ、信者証明を持っている」


 男は信者証明を懐から取り出した。アハヌ神殿から派遣された神官が近寄ってきてので男は神官に信者証明を渡した。神官は一目しただけで信者証明を男に返して、ハタレン市長に頷いて見せた。


「では、貴方の提案は?」


 ハタレン市長は男に問うた。


「市民総会の解散だ」


 男は淀みなく言った。


「では、市民諸君に問う。ただいま市民…」


 言葉に詰まったハタレン市長に、男は声をかけた。


「オレはナクバ区の織布職人のジャムダ・キーニンだ」


「では、市民ジャムダ・キーニンより、請求のあった市民総会解散の提案に…」


 ハタレン市長に、ランブル市参事が、慌てて駆け寄って叫ぶように言った。


「だめだ。市民総会は解散せん。シスネロスの自治と独立を脅かす者を排除するまでは解散せん」


「自治と独立を脅かす者ってのは誰のことだい」


 群衆の中から、誰かが大声で言った。たちまち群衆は喧噪に包まれた。


「静粛に!」


 ハタレン市長の声で次第に声がおさまる。


「市民諸君騙されるな。我が同胞であるシスネロス市民…」


 ランブル市参事は、静かになったことを幸いに演説を始めようとした。再び、群衆は喧噪に包まれる。


「お前の演説のおかげで、おれ達は戦いの前日に無茶な行軍を強いられたぞ。シスネロス市民軍の敵はお前じゃないのか」

「ドノバ候やオレたちが戦場で命を的に戦っている時に、お前はどこにいたんだ」

「義勇軍や領主軍の方が、お前より信用できるぞ。あいつらは少なくとも戦友だ」

    

 容赦ない声のつぶてが、ランブル市参事を打ちのめした。ランブル市参事は演説する切っ掛けを失って目が泳いでいた。


「頼む、静粛にしてくれ」


 再び、ハタレン市長が群衆を制した。時間はかかったが、群衆は静かになった。


「あらためて聞く。市民総会解散に賛成の者は手を挙げろ」


 ハタレン市長の声で、ほとんどの者が手を挙げた。


「賛成多数と認めて、市長権限で市民総会を解散する」


 ハタレン市長は、ひときわ大きな声で叫んだ。その声を合図に拍手が起こった。


「おい、認めないぞ。これは違法だ」


 ランブル市参事は、手を大きく振りかざして群衆に訴えた。


「諸君、市民総会が解散なら態度で示していただきたい。解散だ」


 ハタレン市長は、ゆっくり大きな声で言う。その声に市民達の大半は家路につきだした。ランブル組と思える者達が、去っていく人々を遮ろうとするが、大河の前の小石のように無力だった。


「それでは、わたし達も失礼する。明日は第四刻より市参事会を行うので遅れないように」


 壇上で唖然としているランブル市参事に、ハタレン市長は背後から声をかけると、そのまま群衆と同様に練兵場を出って行った。


 ランブル市参事は、しばらく群衆が去って行くのを見ていた。


「事務所に戻って善後策を考える。お前達は、しばらく家で待機していろ」


 ランブル市参事は、練兵場に残ったランブル組の男達に多少虚勢がかった調子で言うとランブル組が根城にしている事務所に一人で向かった。


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