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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二十二章 シャクナゲ舞う南部紀行
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サヴォンリンナ神殿への道行き10 船内探索 六 移民区画②

「この船室だけで何人が過ごすのですか?」


 パーヴォットは祐司の目から見てテニスコートよりはやや狭いと思える空間を見ながらルドヴィグ航海士見習に訊いた。


「寝台の区画は四十八です。一区画三人の定員一杯で百四十四人です。それにハンモックを全て使用すればさらに四十人ほどは詰め込めます。


 ただそれは計算上のことで実際は百人から百二十人前後になります。


 その上で一人にした方がいい病人に備えて数カ所の寝台は空けておきます。それに聖職者が同乗しますので、その方の寝台は流石に一人で使っていただいてます」


 テニスコートがダブルスで260平方メートルほどの広さなので、百二十人を詰め込めば一人当たりの面積は二平方メートル強となる。

 この狭さを寝台を二段にすることで凌いでいるが、ピーク時のフェリーの雑魚する大部屋船室以上の圧迫感だろうと祐司は思った。


「必ず聖職者が同乗するのですか?」


 パーヴォットがさらに訊く。


「はい、キレナイトに赴任する方もいますし、移民船の移民の為だけに乗る方もいます。ただそういう方はキレナイトに住んだことがある方で移民にキレナイトのことなどを話されます。


 もちろん聖職者ですから毎日礼拝の儀式を司り、説話などを語り移民を慰撫して下さいます。特に長らく聖職者の教えに触れることが出来なかった流民は感激することが多いですね。


 そして聖職者の方々は等しく王領キレナイトは神々に祝福されたリファニアの一部であると説かれます。

 神々は神々を信仰する人々の地としてリファニアに祝福を与えて下さいました。聖職者の方々はリファニアとはリファニア王の下で神々を信仰する人々が住む地のことだと説かれます」


 祐司はルドヴィグ航海士見習の説明にむべなるかなと思った。


リファニアは国家統一の要素として”言葉”という全土で通用する強力なアイテムがある多民族国家という側面がある。


 そうした容姿まで異なる人々を結びつけているのが”宗教”である。


 リファニアの”宗教”の教義は本文で何度も記述したように垂迹説で、A地のX神はB地ではY神として顕現するという教義である。


 一神教の信者でもリファニアの地では人間の理解の範疇外にある神が多くの化身となって人々を見守っているという考えを受け入れれば、本来は多神教であるリファニアの”宗教”の信者になることは矛盾しない。

 

 リファニアの”宗教”の教義で認められないのは他人の信仰する神を否定したり、自分の信仰する神を唯一の神として他人に押しつけることである。


 この寛容とも何でもありという”宗教”の教義から信仰への間口は広く、異なった文化背景を持つ人々も同一の宗教の信者という意識を持つことが出来るので、リファニア社会を結びつける心棒の枠割りを”宗教”が果たしている。


 ただ信仰は個人の自由に委ねられている部分が多いとはいえ、リファニアの大多数の人間は聖職者の指導により信仰を深めている。


 農村には郷神殿と呼ばれる地域の共同体の核となるような神殿があり、地域の冠婚葬祭以外にも神官は渡世人と並んで地域の地域問題の相談役や仲介者で、また個人の悩みを聞いてくれるカウンセラーのような役割を担っている。


 すなわちリファニアの”宗教組織”と聖職者は社会社会の統合の象徴と導き手でありかつ潤滑油である。


 近代の革命を夢想するような人間からすれば、リファニアの”宗教組織”も自分達を抑圧する体制を支える打倒すべき存在と捉えるかもしれない。

 しかし現実主義的な動きをするリファニアの”宗教組織”ではあるが、体制べったりの組織ではなく、時に体制に物申す存在である。


 リファニアの農村は武装する自治農村が主体で、領主も苛斂なことは手控えなければならないが、それでも時に過大な税や無体な法令が出る。


 これにより時に一揆が起こるが、それは一揆側にも何かしらの傷を負わすことになる。そこでそうした事態の芽が出てくると地域の神殿は信者からの要望という形で政治の改善を領主に意見をする。


 大概の一揆はこの要望が無視されて起こるので、心ある領主は神殿が何かしらのことを申し入れてくるとそれを無視することはない。

 

 ところが流民になるとこうした自分達の意見を代弁してくれる”宗教組織”とそれを担う聖職者から切り離されてしまう。

 当然ながら流民は物理的に困窮する以上に精神的な助けを求める存在で自分達の窮状を為政者に伝えてくれる人間や組織をより必要とする立場であるが、それを失うのである。


 また日々の生活の中でも”告解”という形で聖職者に相談していた精神的な支柱を失い精神的なやすらぎも得ることが出来なくなる。


 そのような流民が不安に満ちた状況で移民船に乗るため、聖職者が彼等に語りかける片言隻語へんげんせきごさえも流民の心に満ちていくのだ。



挿絵(By みてみん)




 さらにリファニア人が温暖な地で未開の耕作地が広がっているキレナイトへの移民を躊躇するのは、リファニアは神々に祝福された地である、リファニアから離れることは神々の守護を受けられなくなるのではないかという精神的な不安があるからだ。


 しかし聖職者がリファニアの範囲を神々に王としてリファニアを治めるように命じられたリファニア王が治める範囲が神々に祝福されたリファニアであると説けば、幾分かでも不安は解消する。


 さらに王領キレナイトもリファニアであると人々を説得する歴史的な背景を聖職者は説くことも出来る。


 元々、先住民のイス人だけがリファニアに住んできた時代にはリファニアという現在のリファニア本土を全体を表す地名はなかった。


 それがリファニア全土を示すリファニアという地名が出来たのは次のような理由だとリファニアでは信じられている。


 ヘロタイニア(ヨーロッパ)からの渡来者が先住民のイス人に、手振り身振りでイス人の民族名を問うた。


 するとイス人はリファと答えた。リファとはイス語で人という意味である。イス人という集団は全体での帰属意識が乏しくリファの中で言葉が通じる者を身内や仲間を意味するイスと呼んでいた。


 イス人にすれば言葉が通じないイス(身内・仲間)でない者から、お前はどういった名称で呼ばれるのだと聞かれたらしいのが「わたしはイス(貴方の仲間)」と答える事は出来ないので「わたしはリファ(人)」と答えざるを得なかったのだ。


 この為にインド=ヨーロッパ系言語のヘロタイニアからの渡来者はリファというのは民族名だと勘違いした。


 そしてリファ人という民族が住む土地なので、「~の土地」という意味の接尾語である「ニア」をつけて、「リファ人の土地」すなわちリファニアという地名がヘロタイニアからの渡来者によって誕生したとされる。


 これは北海道という地名が制定されるまでは、蝦夷が住む土地なので蝦夷地と北海道や千島列島ならびに樺太を呼んでいたことと同じ理屈である。


 実際に蝦夷地に住むアイヌ民族は自分達の住んでいる所をカムイモシリ(神々の地)と対をなすアイムモシリと呼んだが、これはアイヌ(人)が住むモシリ(地)という概念で、特定の地域を固定した地名というより示す範囲が融通無碍な概念である。


 これはイス人がリファニア(グリーンランド)に固有の地名を与えてはいなかったが、リファラチテ(人の地)と呼んでいたことと同じである。リファラチテも特定の地の地名ではなく"有人の大地"という概念である。


 意図したことではなかったがリファニアの直訳がリファラチテであるので、イス人はリファニアという地名を抵抗なく受け入れたようだ。



こうしたリファニアの名称の起源は伝説の域ではあるが、恐らく伝わっている話は真実とそれほどかけ離れたモノではないだろうと祐司も思っている。


 そして基本的な教養があるリファニアの聖職者なら誰でもが知っている話である。


 リファニア本土からキレナイトに不安を抱えて移民する人々に、聖職者が「神々の祝福する地とは、イス語のリファラチア、すなわち人の住む地のことをさします。キレネイトも人々の住む地であり、リファニアです」などと、いささか牽強附会けんきょうふかいじみたことを言っても神官様の言うことならと自分自身の不安を鎮めるために納得してくれる。 

 


「ここに百人以上ですか。矢張り狭いですね。満員の時の巡礼宿舎並みです。でも巡礼宿舎で混雑するのは寝る時だけですけど、移民はここに何日も詰め込まれるのですよね」


 パーヴォットは移民区画をゆっくり吟味しながら言った。ルドヴィグ航海士見習が思い出しながらという感じで話し出した。


「まあ、海が荒れなければ甲板で過ごすことも出来ますから、ずっとここにいるワケではありません。

 わたしも詳しく知っているワケではありませんが、昔と比べて新しい船が造られるたびに段々と改善されているようです。


 二年前にキレナイトで農場経営と染料の商売でそこそこ成功してリファニアに里帰りする老齢の夫婦と話したことがあります。キレナイトに移民を運んだ帰りに、その夫婦はこのソフィアネッテ号に乗ったのです。


 夫婦は二十代そこそこでキレナイトに移住して三十年振りにリファニアに戻るということでした。

 そしてリファニアに住んでいた時に行けなかった巡礼を兼ねてリファニアの故郷の親戚に会いに行くということでした。


 その夫婦は相応の対価がいる乗船者区画に乗っていましたが、昔、自分達がキレナイトに行った時に使った移民区画を見せて欲しいと要望されました。


 そこでわたしが案内すると、懐かしそうに当時の苦労を夫婦が話していましたが、この状態ならもう少し楽をしてキレナイトに行けただろうとも言っていました」


「キレナイトに移民してリファニアに里帰りする人は多いのですか」


 パーヴォットの質問にルドヴィグ航海士見習は少し考えてから口を開いた。


「どうでしょう。十人に一人もいないのではないでしょうか。行きの船賃は王家から出ますが、リファニアに帰るのは自費で乗船区画を利用しますから一人で金貨三枚ほどは必要です。


 普通に働いている程度で金をこつこつ貯めれば何とかなる金額かもしれませんが、余程望郷の念にかられなければ日々の生活の為に金を使った方がいいという感じなのでしょう。


 また先程話した夫婦はソフィアネッテ号が入港するキレナイト総督府があるヴァスラムの近くに住んでいましたが、ほとんどの移民はリファニアへ向かう船が出入りする港まで何旬もかかるような内陸に住んでいます。

*リファニアの一旬は五日


 そうなると港に行くまででも相当な金がいることになります。


 またリファニアに向かう船に乗るには王家直轄領では総督府かその代官所、領主領でも領主家の許可証が必要です。


 まず許可証が出るのはキレナイトで年貢や小作料の滞納や遅延がないことも含めて違法行為がないことが前提で、リファニア本土における商売の為や墓参や巡礼であって彼の者はキレナイトに帰郷することを保証するという村長などの村役人や町会の町会長の一筆が必要です。


 そして戻ってきた時に払い戻される金貨三枚ほどの補償金が必要な上に、身辺調査もされるので許可証が出るまでには長いと数年ほどかかります」



「じゃあ、移民は一度キレナイトに行けばそうそうリファニアに戻れないということですか」


 パーヴォットは少しばかり後退りしたような感じで言った。ルドヴィグ航海士見習はその様子に少々慌てたように口を開いた。


「ああ、説明不足でした。これは流民が移民となった場合で、自発的に移民した者には当てはまりません。


 流民は王家の建前で勝手に領地を離れた罪人で、その咎でキレナイトに送られるということになっています。

 ですから流民を出してしまった各地の領主の手前王家は流民は罪人として島流しにしたのだからおいそれとはリファニアに帰って来られないとしなければならないのでしょう。


 ただ流民の家族でキレナイトで生まれた者はその処置を受けませんから、直轄地や牢地を離れる届け出を出して多少手数料は必要ですが通行手形を得ればリファニア本土に行くことが出来ます」

 

 リファニアの農民の大多数は自営農民であり、武装した自治村に住み領主に或る程度の発言権がある。

 その為に毎年の年貢は話し合いで多少加減されて、年貢自体は自治村が集めて一括して納入される。


 その対価として領主は耕地の所有権や小作の耕作権を保護して、治安の保持に努めるということになる。

 ただ誰かに耕作地の所有者や耕作者が耕作地を譲るなどの手続きをせずに耕作地を離れることは認められていないどころか犯罪となる。


 リファニアでは現代日本によく見られる自己都合による耕作放棄地は存在してはならない。

 耕作地を放棄出来るのは自然災害で耕作不能になったり、あまりに条件が劣悪で耕作作業が収穫に見合わないような場合に領主に調査してもらい許可を得る場合だけである。


 当然、一村全体で逃散して流民になったような場合は誰かに耕作地を引き渡すといったような手続きは出来ないので、リファニアでは流民という名の犯罪者となる。



挿絵(By みてみん)




 ただ他領から来た流民を領主が捕らえて、逃亡地の領主に引き渡すといったことは、その領主が親戚筋かまたは強固な同盟者である以外はまずない。


 ほとんどの領主は援助などはしないが通過する程度なら黙認という形である。


 また人口希薄な北部の領主の中には密かに流民が住み着くことを黙認して、ほとぼりがさめた頃に領民としてしまうような場合もある。



挿絵(By みてみん)




 リファニア王家はこのような流民を王領キレナイトに移民として送り込み、王領キレナイトの開拓を進めたいが建前は罪人なので自発的な移民とは差をつけて逃亡先の領主からの引き渡し要請を断っているというということがルドヴィグ航海士見習の説明の背景にある。



「移民はキレナイトにいけば各地の領主領に配分されると聞いておりますが、どのような仕組みなのでしょう」


 パーヴォットの興味関心は尽きない。


「キレナイト総督府を含めて各地の領主がヴァスラムに移民としてきた流民を取り分けます。それは個人や家族単位ではなく同郷者単位です。

 移民は一応希望は聞かれます。もちろん一番希望者が多いのはキレナイト総督府直轄領です。


 まあキレナイト総督府直轄領から遠くなるほど希望者は減ります。キレナイト総督府直轄領なら王領の民という感じがありますし、文化や暮らしはリファニア本土に一番近いですからね。


 ただキレナイト総督府直轄領は王領キレナイトではかなり北に寄っており、折角、季候の良いキレナイトに来たのに条件は悪い土地です。

 人気はありませんが南部ほど温暖で豊かな未開拓の土地が多く残っています。多少は軋轢のないように挨拶程度の現地の言葉を憶えたり土地にあった農耕を学ぶ必要がありますが、実は南部に行った方が成功する確率は高いのです」


 ルドヴィグ航海士見習は丁寧に答えてくれた。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




「移民を取り分けるとは具体的には?」


 パーヴォットはリファニアの”言葉”で物を配分する時に使う”取り分ける”という動詞に反応してルドヴィグ航海士見習に訊いた。


「流民は名目は罪人ですから、強制的に働かせるという名目でキレナイト総督府直轄領や各領主領の直轄農地に振り分けられてそこで農作業に従事します。

 ただ家や基本的な農機具、炊事道具、場合によってはその地に適した衣服が用意されています。


 そこで目安として五年は規定の収穫量を徴収するという条件で働きます。まあ収穫量の半分程度は徴収されるようです」


「半分ですか。それで生きていけますか」


 パーヴォットが驚いた様に言う。


 リファニアの年貢は稲作より単位面積当たりの収量が低い麦作が主体で、さらに気候の問題で土地生産性が低いので年貢は全収穫物の二割が限界と言われている。


「実は自営用の農地の割り当てがありほぼ任された直轄耕作地と同面積です。そこの収穫物は自分のものになります。


 ここで同郷の者を集めたという利点が生きてきます。


 まず直轄農地で義務的に農作業をする集団、自営用農地で自分達の食いぶちや生活に必要なモノを購入するための農作業をする集団、そして将来の自営用の農地を開墾する集団などに素早く分かれることが出来ます。


 そして五年程すると移民としてキレナイトに来た流民は自営農に返り咲くことが出来るのです」



挿絵(By みてみん)




「領主の農地で働きながら自分の農地を開墾するって大変ですね」


 ルドヴィグ航海士見習の説明にパーヴォットはまだ懐疑的な口調だった。


「いいえ、そうでもないそうです。直営地といのはそんなに広くなくて一軒当たり二十ドナム(約2ヘクタール)程度です。

*リファニアの自作農の平均耕作面積は1モルゲン(50ドナム=約5ヘクタール)


 領主としては移民のために出した旅費、用意した掘っ建て小屋や農具、家財道具、当面の食糧の元を取れればいいのです。


 総督府や領主が利を取るのは移民が自作農として生活しだしてからです。自作農は何十年も安定して年貢を出してくれますからね。


 キレナイトの未開拓地はまだまだありますから、そのような土地に農民が住み着いてくれれば領主は年貢が増えるとともに、人口が増加すれば商売も盛んになって冥加金も得ることが出来ます」


「ああ、確か移民一人当たりの船賃が銀貨で十四枚だって言ってましたね。それを王家と奉公先が決まった領主が分割して出してくれるって。

 キレナイトの領主も気前がいいなと思ってましたが、長期的には移民がくれば自分の利益になるからなんですね。


 でも王家は太っ腹ですね。特に王家に利がないのに船賃を出すのですものね」


「いいえ、一番利があるのは王家ですよ。キレナイト総督府を通じてキレナイトの小麦の一割は年貢として王都に運ばれるのですよ。

 移民によって農民が増えれば王都に運ばれる小麦も増えますから、長い目見れば王家は肩代わりした船賃以上の利をずっと得続けるということです」

*話末注あり


 ルドヴィグ航海士見習は少しばかり苦笑しながら言った。



注:キレナイトからの年貢運搬

 ルドヴィグ航海士見習が言った「キレナイトの小麦の一割が年貢として王都に運ばれる」は慣用句に近い一句です。


 広大なキレナイトで毎年小麦の一割を調査して集めるなど非効率このうえありません。実際はキレナイト全体の生産量の変化を見ながら特定の量をキレナイト総督府が集めています。


 現在はその量は約二十万エリ(約6万トン)です。百年で三倍ほどに増加していますが人口増加による生産量増加の結果です。

 リファニア王家やキレナイト総督府では王領キレナイトの平均的な年生産料は二百四十エリ(約80万トン)と見込んでいますので実際の年貢率は7.5パーセントです。


 これはリファニア本土まで運んで年貢納入となるので運送費を最初から差し引いてあるからです。


 この年貢用小麦はキレナイト総督府直轄領地はキレナイト総督府、各領主地は領主家が集めて指定の港湾まで運びます。

 ただ内陸の運送に手間がかかる領主領では、沿岸の領主に余計に小麦を負担して貰い、貨幣の他、鉱産資源などを対価として手渡しています。


 リファニア王家からすればこれは国税に当たります。


 キレナイトの領主や住民からするとこの国税を納めることで、リファニア王立軍や王立水軍が駐屯して南隣の敵対勢力である好戦的なマルコギン同盟からの安全を図っていることになります。


 リファニアは貨幣経済が発達してきたので小麦という物納ではなく金納が効率的です。


 実際にキレナイトの小麦を船でリファニア本土に運ぼうとすると、ソフィアネッテ号のような大型船での積載量が400トンほどなので延べ150隻が必要です。


 リファニア商船の大きさはソフィアネッテ号より一回り小型ですからおそらく延べ200隻ほどの船が必要になり積み込みの手間と船員の手配と金納した時よりも余分な出費がかさみます。



挿絵(By みてみん)




 何故わざわざ小麦という現物を税にしているのは、金納の効率よりもさらに上位の経済的な視点があるからです。


 リファニアは金銀本位制です。


 ただ金銀といった金属は希少性があるので貨幣としての信用がありますが、他の金属と比べると産出は圧倒的に少量でおいそれと社会が要求する貨幣を増大させることが出来ません。


 そしてリファニア本土と王領キレナイトの経済的な関係は、金属製品や衣服などの加工品を多くリファニア本土から得ている王領キレナイトの赤字です。


 これに税まで金納させると王領キレナイトの貨幣が枯渇してしまいます。貨幣は経済の血液のようなものですから、出来るだけ王領キレナイトの貨幣を流出させないことが王領キレナイトの発展に繋がるとリファニア王家の経済に精通した官僚は考えています。


 さてキレナイトから運ばれた小麦は年貢ですから王家が受け取るということになります。

元々、王家が直接統治するリファニアの畿内であるホルメニアは気候と地味に恵まれた上に灌漑施設が整い、魚粉などの肥料を用いる農業先進地域で他地域に食糧を販売できるほどの生産力があります。


 そのホルメニアに小麦を供出しても小麦の値を下げて王家が大切にしなければならないホルメニアの農民を苦しめることになりますので、軍糧と救荒用に保管される以外の小麦は王家が契約した王都商人を通じて不作の為に小麦が不足したような地域に販売されます。


 勿論、この小麦は高値で取引されて王家は単にホルメニアで納入された小麦の年貢と比べて割増しの利を得ています。

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