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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第二十一章 極北紀行
1118/1161

極北水道往路33 中キクレック海峡へ -アッカナンの企て-

 ようやく食堂で祐司とパーヴォットが朝食を摂ると、ディネル号はほどなくナコキテ湾を通過して、中キクレック海峡にさしかかった。

 祐司とパーヴォットはよりディネル号の動揺が穏やかになったので再び甲板に出てみることにした。


 波浪があり船が動揺するような時は甲板に出ているだけで、飛沫で濡れ鼠になる恐れがあるので船室に潜んでる以外ないが、そうでなければ祐司とパーヴォットは開放感のある甲板に出たかった。


 北キクレック海峡から中北キクレック海峡までは九十リーグ(約160キロ)でほぼ丸一日で通過したことから、ディネル号は四ノット(約7キロ)というそれまでとは異なる低速で航行したことになる。


 これは時化のためにかなり帆を畳んで船の安定性を重視したことによるが、本来の帆船の航行速度はこのようなものである。


 中キクレック海峡は七十リーグ(約130キロ)ほどもある長い海峡で最狭部は十二リーグ(約22キロ)である。

 中キクレック海峡通過時に注意すべき事は、海況の他に海峡内にある三つの島の存在である。



挿絵(By みてみん)




 祐司の世界で北からハンス島、フランクリン島、クロジャー島と名付けられた島は、リファニア世界では単に中キクレック海峡北島、中キクレック海峡中島、中キクレック海峡南島と呼ばれる。

*話末注あり


 最大の中キクレック海峡中島でも20平方キロほどで、中キクレック海峡北島に至っては1.6平方キロしかない小島である。


 太陽が完全になくなる冬季にはこれらの島々は航行する船舶にとって注意を要する存在であるが、北極海への回廊となる”キクレックの瀬”は原則として十月半ばから翌年の二月初旬までは船舶は航行しない。


 この三つの島々は海峡の中央部では無く東岸に寄った海域にある。


 祐司とパーヴォットが往路に中キクレック海峡をセンバス号で通過した時は、海峡の中央部を北に流れる”海の川”に乗って通過した。

 この為にこの三つの島は十リーグ以上離れて通過したので、対岸の陸地に紛れ込むような低い陸地としか認識できなかった。


 ただ復路は南下する潮流が安定している中キクレック海峡の東岸に沿って南下する。中キクレック島と東岸の距離は三リーグ(約5.4キロ)を割り込むほどになる。


 東京湾の入り口である浦賀水道の最狭部が6.5キロであるので、それよりやや狭く、大阪湾の入り口である紀淡海峡のうち大型船が航行する由良瀬戸が4.7キロ(ただし水深20メートル以上メートルの可航海域幅2.8キロ)よりはやや広い。



挿絵(By みてみん)




 無論、毎日何百隻もの船舶が通過する浦賀水道や紀淡海峡と比べると、中キクレック海峡東岸の水域は船舶が通過する日の方が少ないので狭すぎる海域ではない。

 ただあまり島に接近しすぎると潮流が複雑に流れを変えるので場所が幾つもあって、思わぬ不覚を取ることがある。


 ディネル号は東岸から一リーグ半(約2.7ロ)ほど離れて潮流に乗りながら満帆状態で南下した。この間合いならばいずれの島も二リーグ(約3.6キロ)以上離れて通過することになる。



「風も丁度いい具合になりましたから、中キクレック海峡は 刻頃には通過します」


 祐司とパーヴォットが朝食を終えて甲板に出て東岸の風景を見ていると、水先案内人のペパギ・リオネルドが声をかけてきた。

 

「昨夜は大変だったのではないですか」


 パーヴォットが気遣うように言った。


「はい、それなりには。巫術師も前半と後半で交替しましたが、どの時間も途切れること無く助力して貰いました。

 今は全員が寝ているか休息中です。中キクレック海峡を通過してオエルトット湾に入ればまた活躍して貰う場面があるでしょう」


 そう言ったリオネルドは少し疲れた顔をしていた。


「前に見える島が中キクレック海峡北島ですか」


 船の前方を見ていたパーヴォットが訊いた。


「よく見えますね。そうです。北極海通いの船乗りは単に北島といいます」


 リオネルドはパーボットの見ているのと同じ方向に向くと目を眇めながら言った。


 祐司の目には水平線の上になんとかう点のようなモノが薄く見えるだけで、パーヴォットに指摘してもらわないと見過ごしただろうと祐司は思った。


 ただ四半刻もすると島影は鮮明になってきた。


 ただ中キクレック海峡北島は前述したように1.6平方キロしかない小島である。そして島が一つの岩塊からできているような外観をしていた。


 植生はほとんど見られずに、幾多の水鳥が島と島の周囲を飛び回っていた。


「あの島には水鳥を襲うような動物がいないので鳥には楽園です。またワウナキト神殿の一番南にある神域でもありますから人も上陸しません。

 この辺りに住んでいるイス人の祭場があるので、ワウナキト神殿の神域にして貰い余所者が立ち入らないようにしているのです」


「この辺りまでワウナキト神殿の教区なのですか」


 リオネルドの説明にパーヴォットが不思議そうに訊いた。


 中キクレック海峡北島はワウナキト神殿からは百五十リーグ(約270キロ)ほども離れている。


「”キクレックの瀬”沿岸は人口希薄な地域です。西岸のアリクシニア(現エルズミーア島)側は定住している者はおりません。

 ただ本土側には”キクレックの瀬”で漁労を行うイス人集落があります。


 ただ南北二百六十リーグ(約470キロ)程ある”キクレックの瀬”沿岸全体で四つの集落があって二百人ほどが住んでいるだけです。

 ですから遠方になりますがワウナキト神殿が旦那神殿になって、集落ごとに委託された地付認定神官補がいます」


 リオネルドが言った地付認定神官補とは辺地において神殿があまりに遠い地に住む人々の為に孤立した集落の者の代表が、その地を教区としている旦那神殿で一年ほど即席の聖職者教育を受けてその集落内の冠婚葬祭といった祭祀を行うという制度である。


 ただ歩いて数日程度の僻地でも、旦那神殿から定期的に聖職者が巡回してくるので余程の辺地でなければ見られない制度である。ただそうして辺地でも一年に一度は旦那神殿から聖職者が来訪する。


「天候も安定してきているようです。それではわたしは一旦休息に入りますので失礼します」


 リオネルドは軽く頭を下げると船内に戻って行った。


 リオネルドと入れ違うように、アッカナンとヘルヴィが甲板に出てきた。アッカナンは樹皮紙を何枚も挟み込んだ小さな画板を持っていた。このアッカナンの携行物に祐司は嫌な予感がした。



「パーヴォットさん、どうです。久しぶりにセル・ヘルヴィに勉強を見て貰えば?セル・ヘルヴィも今は手持ち無沙汰ですよ」


 アッカナンがパーヴォットに声をかけた。


「アッカナンさんが言ってくれてよかったです。今更、御手を煩わしてはと言い出せなかったのです。ヘルヴィ先生、是非に文芸の勉強を見て貰えますか」


 パーヴォットが喜色溢れた顔でヘルヴィに言った。


「パーヴォットさんは神学校で教えを授けれらたのでしょう。わたしが今更教えることなどありません」


 ヘルヴィが困惑したように言う。


「いいえ、神学校にいたのは半年だけです。それに神学校の講座も大変良かったですがヘルヴィ先生の詩歌の見識は一流だと感じました」


 パーヴォットは神学校で”文学”の講座を履修していたが、パーヴォットに聞いた話や教材からするに詩歌も学習内容にはあったが主に文学史といったような内容だったようだ。


「わたしはユウジ殿とここにいますから、わたし達の部屋を使えばいいですよ」


 アッカナンのこの言葉で祐司は、アッカナンの謀だと気が付いた。


「パーヴォットは神学校に通っている時にヘルヴィ先生に聞けば良かったと思ったことが幾つもあると言っていました」


 祐司はアッカナンの謀につき合うつもりでヘルヴィに言った。


「ユウジ殿もそう仰るなら」


 ヘルヴィは観念したような顔で言った。そしてパーヴォットに「船室に行きましょう」と言ってパーヴォットと二人で船内に入って行った。



「アッカナンさん。わたしに何か聞きたいことでも?」


 祐司は二人が完全に船内に入ったことを見届けてからアッカナンに言った。


「前に二人でディネル号に乗った時に、自分の国と家族は自分が守るという意識を持ち、全ての者が政治に参加して自分達が決めたことに従うと考える住民で構成される布告旧横柄の源たる国民国家の創出、国民国家なら可能な膨大な兵力の動員と戦いの基本である敵よりより多くという物量作戦、そして補給戦の概念を話してくれましたね」


アッカナンは去年の春にマルトニアの主邑サスカチャからバーリフェルト男爵家の所領ポンテテ郡に渡海した時に、祐司とアッカナンが船上で交わした会話の内容を辿るように言った。

(第十一章 冬神スカジナの黄昏 春の女神セルピナ13 マルトニア見聞記四 -サスカチャ湾の談義- 付録:動員兵力1 参照)

(第十一章 冬神スカジナの黄昏 春の女神セルピナ14 マルトニア見聞記五 -ネイニロネの策略- 参照)


「はい。調子に乗って尊大な事を言ったと後悔しています」


 祐司は心底から自分の気持ちを言葉にした。


「とんでもありません。リファニアが真の国民国家に育つにはユウジ殿が言ったように少なくともほとんどの人間が文字を読め、また最低限の教育を無償で受けられる時代が来なければ実現しません。

 

 誰もが無償の教育を受けられようになるには、技術が進歩して一人当たりでもっと多くの農作物、水産物、そして加工品を得るようにならねばなりません。


 それには世紀単位の時間が必要でしょうが、今でも手がつけられることもあります。そしてそれは既に実行されています」 


 アッカナンも真摯な口調だった。


「何でしょうか」


「公ではありませんが、王立軍と王立水軍には物質の調達から管理、軍勢への補給を管理実行する荷駄幕僚処が出来ました。


 昨年の”北西戦役”で初めてこの荷駄幕僚処が設立されました。そして王都から北西軍に加勢した傭兵団、ムラデムリ、そして王都貴族軍、その他の支援要員、凡そ一万人を計画的に船でフィシュ州のネシェル、バセナス州のムリリトに船で送り込みました。


 荷駄幕僚処が一元的に調整せず、各グループが独自に北西軍に加わるために動いていたら倍ほどの時間がかかり、”北西戦役”はモンデラーネ公軍優勢という結果になったかもしれません。


 また人を送り出しただけでなく、ホルメニアから追送の荷を送り、現地では必要物資の買い付け、補給品と補給路の管理を行いました。

 バーリフェルト男爵家軍はじめ王都貴族軍も武器とその他の備品は、荷駄幕僚処が過不足無く割り当てた船問屋を介して行われました。


 荷駄幕僚処は勘定奉行配下、王立軍、王立水軍、近衛隊、補助近衛隊ムラデムリから人員を集めてつくられました。

 本来なら烏合の衆かもしれませんが、王弟ビリトロ様が長になってまとめ上げました。矢張り王族が長になりますと派閥争いなどしていると思われたくありませんからね。


 ユウジ様が王家の役目はリファニア王国を統治することではなく纏めることだといっていましたが、ああ、そういったことなのだとわたしは感心しました」


 アッカナンの言った荷駄幕僚処とは、王家が”北西戦役”に介入するさいに臨時に編成された。


 荷駄幕僚処とは近代軍でいえば全軍を対象にした主計及び兵站担当のことである。


 荷駄幕僚処は後に平時から各地の駐屯部隊に物資を手配する兵站奉行が指揮する兵站奉行所となり、オラヴィ王自らが失脚させたランバリル士爵が初代の奉行に任じられるがこれはまだ祐司とアッカナンの知るところではない。


 兵站部門を専門にする荷駄幕僚処の設立は祐司が関わっている。


 これは祐司の口から独立した兵站部門の必要性をバーリフェルト男爵家の家臣アッカナンが聞き、バーリフェルト男爵家次女サネルマを妻とした知将レフトサリドリ子爵ダブト・エルデヴェルドが聞き及んでビリロトに設置を進言した。それをビリトロがオラヴィ王の裁可を得て、”北西戦役”が開始される直前の昨年五月に新たに設置させたのだ。

(第十一章 冬神スカジナの黄昏 春の女神セルピナ14 マルトニア見聞記五 -ネイニロネの策略- 参照)



「その荷駄幕僚処のことは、わたしは知りませんでした。機密なのではないのですか」


 祐司は警戒しながら訊いた。


「ユウジ殿から有益なお話を聞くには隠し事はない方がいいです」


 アッカナンが笑いながら言った。そして画板に樹皮紙をのせてから筆記用具を取り出した。


「すみませんが、速記していいですか」


「速記ですか?」


 祐司は速記というリファニアの単語を知らなかったが、”速い”と”筆記”という名詞を合わせた語から速記と理解した。


「はい、祐筆の技術の一つです。手紙を口述筆記する時に取りあえず速記で書いておいて、それを文語体に書き直します」


 アッカナンは事もないと言うような口調だった。 



注:ハンス島とウィスキー戦争

 リファニア世界における”キクレックの瀬”は現実世界ではネアズ海峡といいます。ネアズ海峡は細分すると南からスミス海峡、ケイン湾、ケネディ海峡、ホール湾、ロブスン海峡から成り立っています。


 このうちケネディ海峡がリファニア世界の”中キクレック海峡”に相当しています。


 そして中キクレック海峡北島に相当するのがハンス島(約1.3平方キロ)、中キクレック海峡中島に相当するのがフランクリン島(約34平方キロ)、中キクレック海峡南島に相当するのがクロージャー島(約8平方キロ)です。


 フランクリン島とクロージャー島はデンマーク領ですが、ハンス島については他の二島が明らかにグリーンランド側の沿岸に位置するのに対して海峡の中央部に位置します。


 その結果、1973年から2022年の間はハンス島はカナダとデンマークの係争地域でした。


 このハンス島を巡る領有権紛争の原因は1880年にハドソン湾会社が所有していたカナダ北西部の地域をイギリスがカナダ自治政府に移管したことと、1911年にデンマークからヴァージン諸島を2500万ドルで購入する引き換えに、アメリカ合衆国がグリーンランド北西部周辺の領有権を放棄したことに由来します。


 しかしこの領土紛争は最も平和的な領土紛争でウィスキー戦争と呼ばれます。


 これは1984年にカナダ軍の兵士がハンス等にカナダ国旗とカナディアンウィスキーのボトルを置くと、デンマーク側はデンマーク国旗とシュナップス(火酒)のボトルを置いたことにちなみます。


 2005年から両国は本格的な交渉に入り、2022年にハンス島にある岩の割れ目にそってほぼ等分でハンス島の領有することになりました。

この時も両国の外相はカナディアンウィスキーとシュナップスのボトルを交換しています。



挿絵(By みてみん)




 また現在のアメリカ合衆のトランプ大統領はグリーンランドの所有を主張していますが北西部だけでも買い戻すとすれば、アメリカ領ヴァージン諸島(1910平方キロ)をデンマークに返還した上で貨幣価値からして少なくとも25億ドル(約3700億円、2025年4月)、あるいはその間の利子が適正価格だとすると3兆円ほどかかります。


ちなみにグリーンランド全部を買うには最低でも300兆円ほどかかりますが、これはデンマークとしては最低価格ですからまっとうな値はアメリカ合衆国の幾つかの領土と倍以上の金額になるでしょう。



注:速記

 現代においてはスマートフォンなどでも音声を瞬時に文字に変換することが可能ですが、長い間、音声は速記によって記録されてきました。

 速記の歴史は古く紀元前四世紀の古代ギリシャでは速記が使用されていました。特に古代ローマでは紀元前一世紀にマルクス・トゥッリウス・ティロが創案した速記が使われました。


 ティロは政治家、哲学者として有名なキケロ(紀元前106~ 紀元前43年)の奴隷で後に解放奴隷となります。ティロは主人の演説を記録するために速記を生み出したとされます。



挿絵(By みてみん)




ティロの速記は四千の記号から成り立っており、後世には次第に種類が増えて一万種類を超えます。

 このティロの速記は十一世紀頃までヨーロッパでは使用されいましたが、その後忘れ去られます。


 十六世紀にティロの速記が再発見されてヨーロッパ各国では近代的な速記が考案されていきます。


 英語圏の速記では1888年にアイルランド系アメリカ人のジョン・ロバート・グレッグによるグレッグ速記が完成系になります。


 グレッグ速記は日本語を含む各言語の速記にも影響を与えています。またグレッグ速記は種々のバージョンがありますが、最も速く書けるバージョンでは一分間に240語を記入できこれはかなり高速度の早口言葉に相当します。


 日本を含めた漢字を使用する中国圏では十九世紀に欧米の速記が紹介されるまで、専門の速記は存在しませんでした。


 これは多くの音節で成り立つ表意文字である漢字を簡略に相当の速度で記入できる草書体が存在したからです。


 例えば”千年巫女の代理人(千年巫女的代理人)”は八文字です。これを草書体で書けば話すのと同じ速度の三秒前後で書けます。


 ただ”せんねんみこのだいりにん”と表音文字になると十二文字になるため文字数は1.5倍になり、音素文字のアルファベットなら”SENNENMIKO NO DAIIRININ”と三倍の二十文字になってしまいますから、通常の記入法とは異なった速記が必要になります。


 リファニア文字は日本語の平仮名や片仮名と同じ表音文字ですので、一文字を崩したり二文字、三文字を記号で記入する工夫で速記が成立しました。


 リファニアの速記術は千年ほど前から存在しており、例えば二度に渡って紹介した王妃カリニカが王都に迫り来る叛乱軍に対して市民軍への参加を呼びかけたアジ演説も速記で残されています。

(第十九章 マルタンの東雲 薄明かりの地平線17 挿入話:王妃カリニカ 三 参照)


 ただリファニアで速記が生まれたのは、弁論術の向上が目的でした。


 リファニアではリファニア王を含めた指導的階級は君命の下達や、民衆を訓諭する場合、或いは論議の場では原稿を読むと言うことはしません。

 草稿があっても自分の言葉で語れるのが統治者としての力量で、また義務だと考えられているからです。


 この為にそのような場面で発せられた公的な言葉を記録しておく必要がありるのですが、こうした弁論術の訓練の為に速記が使用されます。

 どのような単語や言い回しをしたかを記録しておいて、弁論の技術向上の為に使用します。


 そのような用途で速記を使用するので、リファニアの速記には”大きな声言った”、”ささやくように言った”などという記号も存在します。


 リファニアの速記は何十種もありますが、大体三つの系統に属しており一般には”神殿速記”という種類が用いられます。

 ただ速記者はそれを自分なりにアレンジした速記方法も用いますが、そうすることで時間をかけなけらば速記した者にしかわからない表現をします。


 これは速記に或る程度の暗号要素を持たせるためです。


 アッカナンはバーリフェルト男爵の祐筆として、バーリフェルト男爵の私的な書簡を作成しますが、アッカナンは速記から間違った言い回しや不適切な表現を訂正した上で草稿を作ります。



挿絵(By みてみん)




 些細な訂正なら草稿はそのまま清書になり、バーリフェルト男爵の著名を貰いアッカナンが手紙を届ける手配をします。

 大きな訂正やあきらかに不適切な表現、事実誤認と思えるような箇所があった場合は、草稿に訂正例を付記してバーリフェルト男爵の承認の貰ってから清書します。


 そして清書が完成すると速記と草稿は焼却していまいます。


 この草稿がそのまま清書になるか、書き直しを前提で草稿を作るかはバーリフェルト男爵と祐筆アッカナンとの”あうん”の呼吸によります。


 主人の意志を汲みながら、主人の人品を落とさず利益になるような書状を主人の機嫌を損ねずに書くことが優秀な祐筆です。

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