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千年巫女の代理人  作者: 夕暮パセリ
第五章 ドノバの太陽、中央盆地の暮れない夏
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黒い嵐3  シスネロスの戦い 三

 時間が切迫しているために、あわただしい昼食後の予備市民会議、すなわちシスネロス防衛のための軍議は市民兵の視察も兼ねて、シスネロス市の東側に設けられた市民軍の宿営地に向かった。


 緊急動員令、すなわち総動員令が出ているために、市民兵は目と鼻の先にある自宅に帰ることは出来なかった。

 そして、年に数回程度の訓練をしているとはいえ、部隊の結束力を高めるために、寝食を同じくするという理由もあった。


 市門の上にある楼から、シスネロス市民軍の集団訓練を市民総会予備会議のメンバーは視察した。



 市民軍は、三列横隊で数百人ごとに分かれていた。全体ではその集団が前後二段になっていた。


 軍鼓が轟く。


 前列の隊形は、やや散開して槍を構えた。見る限りでは、その動作にはばらつきがあった。次に軍鼓で隊列は前進した。


 軍鼓が轟く。


 前列は前を見据えて、槍を構えたまま後退し出した。後列が槍を高く掲げて、前列の兵士を突かないように前進する。

 やがて、前列と後列が交差した。前に出た後列は槍を寝かして前に構える。今や、後列となった前列の兵士は槍を高く掲げた。


 戦列交代の教練である。


 この訓練を、市民兵の部隊は延々と繰り返した。



「このような訓練で勝てるのか?」


 ランブル市参事が不安そうに聞いた。


「時間がありません。あれも、これもよりは、これだけはです」


 市民軍のブロムク司令は、事も無げに返事をした。


「段々、間合いが揃ってきましたな。午後からは傭兵隊も混ぜた訓練をいたしましょう」


 そう言った傭兵隊のディンケ司令も、特に気にしている様子はなかった。



「すまない。ここ数日、体調がすぐれないのだ。少し気分がよくなってきたので、取りあえず姿を見せた次第だ。このような格好で失礼する」


 そう言って、市門の楼に姿を見せたのは、ドノバ候だった。まだ、具合が悪いのか従者が運んできた椅子に座っていた。


「本当によろしいのですか。ご無理をなされてはいけません」


 ハタレン市長が心配げに言う。


「大丈夫だ。軍議を始めよう」


 ドノバ候は言い出したら聞かない。しかたなしに、市門にある市門衛兵隊長の部屋を会議室にして、市民総会予備会議、すなわち実質上の軍議が再開された。


「もう外堀は埋まっています」


 部屋に入る前に、ドストレーム市参事は、ドノバ候の背後で囁いた。ドノバ候は軽く首を振った。


 衛兵隊長の机上はきれいにかたづけられ、一メートル四方ほどのドノバ州北西部の地図が広げられた。


 地図はシスネロス市庁舎の労作である。全ての集落が細かな字で書かれている。その集落名の横に書いてある数字は人口である。動員できる人数や、おおよその宿泊できる家屋の数が、他の資料を調べなくとも地図だけで推測できる。

 また、小径にいたるまで道が、丹念に描かれており、軍の移動が地図上ですぐに計画できるようになっていた。



挿絵(By みてみん) 




「現在の、モンデラーネ公軍の位置は?」


 ドノバ候が、早速に聞いた。本来の市参事会では、ドノバ候はオブザーバー的な存在であるからハタレン市長に聞かれなければ発言しないのが基本である。

 しかし、市民総会予備会議は軍議であり、シスネロス側の有力兵力として、ドノバ候近衛隊が参加する以上は、ドノバ候も積極的に発言する権利があった。


「まだ、ドノバ州境まで半日ばかりと思われます。モンデラーネ公軍は、かなり分散してリヴォン・ノセ州内を移動していたようですが一時行軍を停止して部隊の集結をはかっているようです」


 船での偵察情報がいち早くもたらされる水軍担当のダネル市参事が言う。リヴォン川を巫術の力を加えて下る船は、陸路で三日行程の距離を半日以内にシスネロスにもどって来る。


(補給状態が悪いのか)


 戦いに心得のある人物達は、心の中でそう感じた。モンデラーネ公は、大軍でシスネロスに威圧をかけようというのが、所期の目的であった筈である。一つにまとまって移動する方が補給路も一本ですむ。


 リファニアの街道の多くは、日本で人が比較的多く通る山道程度で二列ないし三列で行軍するのが精一杯である。


 ただ、リヴォン川西岸は、主要街道が通っており、五列以上の隊形で行軍できる。また、場所によっては、砂利がまかれたり、石畳で補強してあるため、雨のぬかるみに苦しむこともない。馬車を使用する輜重隊も楽に行軍できる。


 相手が逃げないシスネロスという都市であれば、全軍で楽な道を自分のペースで進む方がよい。


 ただし、近隣の食糧を徴発しながら進む場合は、広く分散して進む方が合理的である。ただ、徴発は余程自制心を持って行わないと農村部の怨嗟を生む。


 自領であれば後の手当を約束したり、あるいは事前の手当で徴発も容易だが、モンデラーネ公軍が行軍中のリヴォン・ノセ州は、去年、モンデラーネ公に降ったばかりである。


「他に情報は?リヴォン・ノセ州について」


 ハタレン市長が、ダネル市参事に聞いた。


「昼食時に届いた報告では、各領主は兵力の動員に加えて、食糧などの集積を命じられており、かなり苦労しているようです」


 ダネル市参事の報告に続いて、ハシット市参事が言う。


「それは、リヴォン・ノセ州からの間諜の報告にもありました。自軍の兵糧に加えて、モンデラーネ公軍の兵糧も負担しているようです。

 モンデラーネ公はリヴォン・ノセ州内を通過するおりは、自軍の輜重隊を空荷にして移動の負担を軽減しているようです。自軍の輜重隊を満載にさせるのは、ドノバ州に入ってからと思われます。その積荷はリヴォン・ノセ州領主が用意するのでしょう」


「リヴォン・ノセ州の領主からすれば迷惑しごくだな。戦いは避けたい。戦いになっても早く終わって欲しいだろうな」


 ドノバ候が他人事のように言った。


「さて、我々が長談義している暇はなさそうです。我々は打ってでるか、籠城か。モンデラーネ公軍の進撃速度は、当初の予想より三日行程ほど早いのですから」


 ハタレン市長が本題を切り出した。


「どう迎撃する」


 ドノバ候は、打って出るということが決まっているかのように聞いた。


「我が軍の損害をある程度は容認していただくのであれば、手はいくつか考えられます。ただ、敵に戦車を使わせなければという条件が必要です」


 ブロムク司令が最初に発言した。


「野戦となるとバナジューニの野しかあるまいと思います」


「バナジューニの野とは意味深長な場所だな」 *話末参照


 ドノバ候は、微笑みながら言った。


「おい、バナジューニの野はシスネロス北部直轄地の内側だ。その手前で迎撃するべきだ。それに、その西のリヴォン川沿の道から、シスネロスへ向かったらどうする」


 ランブル市参事が、怒ったように言った。それをブロムク司令は横にかわすよな感じで反論した。


「こちらに、誘い込むほど我々は敵の動きを見て有利に動けます。リヴォン川沿いの道の途中にはシネス砦があります」


 シネス砦とは、砦と呼ばれているが、もともと、旧ドノバ候がシスネロスを牽制するために築いた本格的な城郭である。旧ドノバ候滅亡により、シスネロスが管理してリヴォン川を上り下りする船の監視を行っている。


「シネス砦に、二千ほど立て籠もらせれば、最低でも二三日足止めできます。市民軍主力はその救援に向かってもいいし、大回りして、背後からモンデラーネ公軍を撃破することもできます。

 反対にこの簡単な理由から、シネス砦がある程度の防備を固める限りはモンデラーネ公はリヴォン川沿いの道を進撃路にはしないということです。今は市民軍が五百ほどです。増派をお願いします」


 ブロムク司令は、ランブル市参事を見て言った。形式的とはいえ、ランブル市参事は、今では、市民軍総司令なのだ。


「よし、市民予備軍から千五百の増派を出そう。籠って戦うのなら市民予備軍でもなんとかなるだろう。ブロムク司令いいですか」


 ランブル市参事は、具体的な兵力配備について自分の意見を言うことで、会議から取り残されまいとした。


「承知しました。敵に囲まれても動揺しないような部隊を選びます。ただし、二百ほどでいいので、防衛の根幹になる傭兵隊の派遣をお願いする」


 ブロムク司令は傭兵隊のディンケ司令に言った。


「傭兵隊は一兵でもおしいところですが、致し方ないでしょう」


 ブロムク司令が上位指揮官ではあるが、傭兵隊のことはディンケ司令の同意がなければ動かしがたい。ディンケ司令も大局から見て、ブロムク司令の判断は妥当だと思った。


「いっそのこと、シネス砦に向かってくれた方が都合がいいかもしれません。その付近は大軍が展開するには、いささか狭小です。かなり細長い陣形になるでしょう。全力で戦えない上に戦車の使用も難しい」


 ディンケ司令が、地図を見ながら言った。


「シネス砦の守備兵力が五百だということは、モンデラーネ公は知っているかな?」


 ハタレン市長が外交担当のハシット市参事に聞いた。リファニアでは外交と諜報は、まだ分離していなかったからだ。


「多分、それなりの諜報はしているでしょう。一般の市民でも知っている情報です」


「五百だとなんとかなると思うかもしんが、二千以上の兵力がいるとなると来てはくれんな。傭兵隊を含んで千七百の兵力がシネス砦に入ることを隠すこともできんしな」


 ドノバ候が、ちょっとため息まじりに言った。


「船で運びましょう。補給物資にかこつけてなんとかできると思います。手空きの船で千七百は一度には無理ですが、船を往復させて、二日あればなんとか」


 水軍担当のダネル市参事が、文字通り助け船を出した。


「一日半でお願いする」


 ブロムク司令が言う。実質的な軍の最高指揮官の言葉で兵力の船での移動が決まった。


「戦上手のモンデラーネ公が引っかかる可能性は低いが、どうせ増援するなら、打っておくぐらいの価値はある手だな」


 ドノバ候が感想めいた感じで言った。そして、ブロムク司令に対して少し姿勢を正して聞いた。



挿絵(By みてみん)





「さて、ここまで手を打った上で、バナジューニの野という戦場の選定はあなたに従おう。ただ、そこへモンデラーネが来てくれるか」


「こちらが出てきたところに来ます」


 ブロムク司令は確信を持って答えた。


「籠城で手間取ると思える敵がそこにいるのです。無視をして敵に後ろを向けてシスネロス包囲をするのですか。折角出て来た敵に殴りかからないで、別の場所を包囲するようなことをするのはアホです。

 まあ、出て来た敵が補給を受けられずに自滅することはあり得るでしょうが、ここはドノバ州、それもシスネロス直轄地です。シスネロスとの補給路を断たれても、付近の農村からの食糧で数週間は持ち堪えます。

 反対にモンデラーネ公は激しい抵抗を受けて、兵力を損傷しないかぎり食糧の徴発もままなりません。かならず、短期決戦を狙ってモンデラーネ公は食いついてきます」


「モンデラーネがアホでないことを願おう」


 ドノバ候は、また微笑んで言った。


「他に疑念は?」


 ドノバ候は次の瞬間に乾いた声で聞いた。 


「正直に聞きます。精鋭で実戦豊富なモンデラーネ公軍に市民軍は対抗できますか」


 ハタレン市長が、全員が心の中で疑問に思い、恐れている事を聞いた。


「最初の打撃で市民軍が崩れないことです。戦闘経験のない市民軍がまともに敵の攻撃を受けると一気に崩れる恐れがあります」


 ブロムク司令は、薬剤師が薬の効能を説明するような感じで言った。


「崩れないようにするにはどうすればいい」


 ドノバ候が聞く。ブロムク司令は、傭兵隊のディンケ司令の方を見た。ディンケ司令が説明を始めた。


「敵の攻撃が軟弱なもの、言い換えれば五月雨式に少しずつ攻撃を仕掛けさせて、経験のない市民軍が跳ね返せばいいのです。最初の攻撃さえしのげば、二度三度の攻撃を跳ね返せるように指揮する自信はあります」


 何人かは、何故、傭兵隊のディンケ司令が市民軍の指揮について説明する事に違和感を感じた。


 ドノバ候は、そのことに気が付かないかのように質問を続けた。 


「どうすれば五月雨のような攻撃を仕掛けさせられる?」


「地面の状態が軟弱で、多少障害物を作れば一斉攻撃を掛けてきてもかなり兵力を分散させられます。バナジューニの野はまさにそのような場所です」


 やはり、ディンケ司令が答えた。


「ディンケ司令、冷静な判断だ。ブロムク殿、義勇軍全軍をディンケ司令に預けることを提案する。ディンケ司令は義勇軍の使い方は分かっておるでな」


 ドノバ候の言葉に、義勇軍を集めさせたランブル市参事が慌てて付け加えた。


「いいでしょう。是非、使ってくれ。露払いくらいにはなると思って、わたしが、手間をかけて集めた連中だからな」


「全員、戦場の選定はそれでよいかな」


 ドノバ候は自分の問いかけに他の者を答えさせるということで、会議を完全に掌握して進めていった。


「異存はありません」


 ランブル市参事以外の人間が賛同の声を出した。 


「バナジューニの野で迎えることに異議はありません。しかし、間に合いますか」


 ランブル市参事が、抵抗のつもりで質問した。


「間に合わせるんだ。できるだけ早く迎撃に出よう。いつ出られる」


 ドノバ候がブロムク司令に聞いた。


「訓練との兼ね合いから考えて、三日後の午前中に出れば間に合うかと。ただし、本格的な野戦築城はできません。精々、陣の前に戦車よけの溝を掘るくらいです」


 ブロムク司令は、そう言いながらディンケ司令の方を見た。


「それで十分です。戦車さえ使わせなければ我が軍の決定的な敗北はない」


 ディンケ司令は、それに答えて頷きながら答えた。そして、ドノバ候に質問した。


「市民総会の決議前に工兵部隊を先に出発させておいていいでしょうか」


 ブロムク司令がランブル市参事にたずねた。突然、質問されたランブル市参事は急に返事ができなかった。


「よしなに、とわしは思う」


 ドノバ候はそう言うと自身の提案を行った。


「近隣の農民も動員したらどうだ。それから、子供達を連れていけばどうだ。作業が終わればシスネロスへ戻せばいい」


 子供達とは、十代半ばの少年兵のことである。これらの少年兵は総動員令が出たために総予備として招集されていた。

 他の市民兵とは異なり、軍事教練を受けるのも初めてなために、別グループで訓練を受けていた。誰の目にも二戦級どころか、部隊に編入すると、他の足をひっぱりそうだった。ただ、士気だけは高くモンデラーネ公軍を、少年らしい冒険心と、無知から最も、戦いを恐れてはいないグループであった。


「それはいいですね。シスネロスの為にと言って作業させれば満足するでしょう」


 ブロムク司令がそう言ったことで、少年兵が工兵隊補助となることは既定の事実になった。


 自分を差し置いて話が進んでいくことに、ランブル市参事が不快な顔をしているのに気がついたハタレン市長が声をかけた。


「ランブル市民代表、これで異議はありませんか」


「特に」


 軍事には素人のランブル市参事は、そう言うしかなかった。


「ではここに署名を」


 ハタレン市長はランブル市参事の目の前に一枚の羊皮紙とペンを置いた。


「何故だ」


 ランブル市参事は、理由がよくわからずハタレン市長の顔を見た。


「あなたが最高責任者です。市民総会へ出す正式の書類です。あなたが提案した野戦という方針を市民総会へ賛否を問うという書類です」


 ランブル市参事は、今日の朝まで自分の思い通りに事が進んでいると思っていたが、それが自分以外の誰かの意思であることに漠然と気がついた。


それでも、ランブル市参事は気を取り直して、羊皮紙に著名をしようとペンを取った。

 

「ランブル総司令官、指揮系統に関してお願いがあります」


 ブロムク司令が、突然、ランブル市参事に声をかけた。


「なんだ?」


 ランブル市参事はペンを持ったままブロムク司令の方を見た。


「この野戦の指揮は、是非、ディンケ司令に取っていただきたい」


 最初、ランブル市参事は、ブロムク司令の言っている内容がよく理解できなかった。 


「シスネロスの主役は市民軍だ。そして、ブロムク殿は、その総指揮官だ」


 ランブル市参事は断固とした口調で言った。


「わかっております。わたしもバナジューニの野には同行して総指揮官として任務を果たします。補給や築陣につきましてはわたしが責任を持ちます。


 ただ、戦いが始まれば、その指揮は、是非ともディンケ司令にお願いしたい。わたしは自分の能力を知っております。

 部隊の編成や訓練は引き受けますが、戦術的な判断はディンケ司令に及びません。この戦いに勝つためです。重ねてディンケ司令に戦いの指揮を取ってもらいたい思います」


 ランブル市参事は、しばらく考えてから市民代表として自分なりに威厳をもった調子でブロムク司令に言った。


「総指揮官はブロムク司令だ。その司令がどのような命令を出すかにまで干渉はしない。ただ、総指揮官はブロムク司令だ。

 主力はブロムク司令が率いよ。そこで、どういった指揮系統を取るかは貴殿の判断だ。ただし、出陣と凱旋のおりはブロムク司令が指揮官として行動せよ」


 ブロムク司令は軽く頭を下げて謝意を表した。


「さあ、市民総会の時間です。今日も大勢の市民が市庁舎前に早くから集まっております。あまり待せるのはいかかがかと」


 ランブル市参事が著名を終えると、ハタレン市長がランブル市参事にせかすような口調で言った。




 半刻後、市庁舎前に溢れんばかりに集まったシスネロス市民を前にしたランブル市参事は、短いが扇動的な演説を行った後に、野戦でモンデラーネ公軍を迎え撃つことを市民に問うた。


「諸君、我らの神聖なる自治を奪おうとするモンデラーネに我がシスネロスの城壁を見させることすらわたしは拒否する」


 こうランブル市参事が締めくくると一瞬、広場は無人のごとく静まりかえった。


「諸君、わたしはシスネロスに一指も触れさすことなくモンデラーネを撃退することを提案する。諸君、賛同するか!」


 天地に轟くような賛同の声で広場は満たされた。


 シスネロス市民軍主力は三日後に出陣と決まった。



挿絵(By みてみん)




-このの付録-


ドノバ州西部の昔話「バナジューニの野」


 バナジューニの野に木が育たないのは次のようなことがあったからです。


 その昔、バナジューニの野はバナジュニ人と呼ばれる人々が住んでいました。バナジュニ人は石の家を築いて雨や雪を避けていました。

 そのころは、どこもかしこも石ころだらけで、木が生えておらず、バナジュニ人は器用に石で家を造るのでどこでも重宝がられていたのです。


 バナジュニ人たちは、石の家を造ることで日々の糧を得ては、陽気に歌ったり、踊って暮らしていました。


 でも石の家は冬の寒さが厳しく人々は今よりずっと冬の間は苦労しておりました。そんな、人間の苦労を哀れに思ったアハヌ神はこの世に木を生やすことにしました。


 時が経つにつれて、リファニアのあちこちでは木が大地から芽吹いて森ができました。そして、人々は木の家を造る術を編み出して木の家に住むようになりました。木の家は暖かいので誰もバナジュニ人に石の家を造ることを頼まなくなりました。

 

 困ったバナジュニ人は神々に、木のない石ころだらけの土地を戻してくれるように頼みました。


 そんな時、アハヌ神が巡礼に化けて、バナジュニ人の村を訪れました。


「お前さんたちは、どうして木の家に住まわないんだ」


「あんな変な匂いがする家に住めるものか」「火がついたら一巻の終わりだ」


 バナジュニ人達は口々に、アハヌ神が人々に与えた木の家を罵りました。


「では、どうしても木の家に住みたくなくて、石の家がよければお前さんたちの方を石の家がいいような姿にしてやろう」


 その一言が言い終わらないうちに、バナジュニ人達は冬の間は石の下で住む、カエルや蛇、トカゲに姿が変わりました。


 それを見届けたアハヌ神はバナジュニ人の住んでいた野をバナジューニの野と名付けて木が生えない土地にしました。


 今でも人間であった頃のことを思い出したバナジュニ人の末裔は、暖かな木の家に忍び込んで人に受け入れられようとします。

 冬の間、家でそんな生き物を見つけたらそっと石の下においてやりましょう。それが、神々の贈り物を拒んだバナジュニ人への神々の思し召しだからです。



挿絵(By みてみん)



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