黒い嵐1 シスネロスの戦い 一
祐司が義勇軍に徴発されて三日後の昼。
市民総会の開催の前に市参事による、市民総会での議案審議が行われることになった。この議案審議は市民総会予備会議と呼ばれる。市民総会予備会議は長いので、一般には予備会議とも言われていた。
市参事会のメンバーから選ばれたメンバーが、市民総会予備会議、すなわち予備会議に出席するため、いつもは使われていない小会議室という部屋に入ってきた。
予備会議でのドノバ候の扱いが問題になった。市参事会ではオブザーバー的な形で出席をするドノバ候だが、予備会議でも同様の立場で出席してもらうのかという問題である。
結局、ドノバ候自身の利害関係、またはドノバ候への依頼項目が議題にある場合には出席を頼むことになった。
今回の焦眉の急は、もちろん、モンデラーネ公軍への対処である。この場合は、シスネロス市として、ドノバ候近衛隊が重要部隊となるためにドノバ候の臨席を要請することになった。
「ドノバ候はいかがされた」
ランブル市参事は一段高くしつらえた椅子が、空いているの見てハタレン市長に聞いた。
「体調が優れないそうです。具合がよくなれば駆けつけると連絡をいただいております」
「いたしかたない。現在は火急の時、我々だけで始めましょう」
ランブル市参事は、自ら会議の開催を宣言した。
ランブル市参事以外の市参事からすれば、市民総会の開催という手段で、ランブル市参事にシスネロスの主導権を握られたのは、クーデターに近い行いだった。
それを、逆転して自分達の思うような方向に、シスネロスを持って行くのが、予備会議での目的だった。
予備会議が始まる一刻ほど前、ドストレーム市参事はドノバ候の私邸を密かに訪れていた。
「ランブル市参事が、籠城を薦める全員の意見を押し切って野戦を選択したと噂を流しております」
ドストレーム市参事がドノバ候に小声で呟いた。
「念を押すことではないが、市参事会内での論議と同様に市民総会予備会は非公開だ。全ては決定に従うのみで論議の内容や正否に関する人物名は出さない」
ドノバ候は独り言のように言う。
「長き伝統故に皆、重々承知しております」
ドストレーム市参事は、慇懃に答えた。
「だとよいが」
ドノバ候はドストレーム市参事の方を見てから少し微笑んだ。そして、決心したかのように力強くドストレーム市参事に言った。
「さあ、市民総会予備会議とやらの時間だ。こうなったら早く結論を出してくれ。市民達もいつまでも熱っぽいとはかぎらん。
市民を冷やすのは我々が考えた道筋でなければ、また別の変なところに向かいかねんからな」
「ドノバ候はいかがいたしますか」
ドストレーム市参事がたずねると、ドノバ候は悪戯っ子のような口調で返した。
「わしは、体調が優れないと言うことで、まだ私邸で寝ていることになっている。後で、わしの体調がよくなったら会おう。
もし、形勢が悪くなるようだったらワシが出ることで流れを変える。調子がよければ、相手にペースを与えず一気呵成に行こう」
ドストレーム市参事は肯定の意を示すのに軽く会釈した。ドノバ候は小声で、しかし、恐ろしく真面目な口調でドストレーム市参事に言った。
「戦いに勝つには、敵に勝つ前に味方に勝って、主導権を取る必要がある。ブロムク司令は中々できた人物だ。わしも胸襟を開いて話をしたが今日の会議では我々の破城槌になってくれそうだ」
「それでは、わたし達、市参事は敵の弱い部分を攻めます」
ドストレーム市参事は自信ありげに言った。
「頼むぞ。今日の戦いに勝ってこそ、モンデラーネ公との戦いに勝機が見えるといってもいい。そのつもりで頼む」
かなり後になって、ドノバ候は長子バンジャ・レ・バガラン・エーリーにこの時は、内心あせりと不安に苛まれていたことを打ち明けた。
真の敵を欺くためと、会議の主導権をランブル市参事に取られても、後から出席した方が、柔軟に対応できるという決断が正しかったかどうかで迷い、不安だったのだ。
長年、ドノバ候は、自分のドノバ州における理想とする政体の実現する色々な策を、頭で考えてはいた。
そして、いよいよ、それを実現する為に実際の行動を起こすことにした。しかし、予備会議で思うような結論にならなかった場合は、その理想はかなり遠くに行ってしまう恐れがあった。
この時だけは、いつも策を考える自分が、ジタバタせずに生まれて初めて武人としての心構えで臨んだと言った。
思慮深いエーリーは終生このことを他人に話すことはなかった。
市民総会が最高意思決定機関となったことで、大事を前にシスネロスの意思決定は少々複雑なプロセスを経ることになった。
シスネロスが誕生した三百年ほど前は人口が数百人程度で、年に一度は直接民主主義のような全員が参加する集会が行われていたようだ。
しかし、人口が増えて階級差や貧富の差が大きくなるに連れて、有力者と市民の代表による市参事会の合議制が、市政を行う体制に変化した。ただ、市の成立当初の理念が、市民総会という形で残された。
市民総会の取り決めも百年以上前にされてたが、市参事会の諮問を受けて、事前に市民総会代表者により、具体的な議案を作成してから市民総会が開催されること、市民総会では市民代表が賛否を決議するといったことだけが記されていた。
そのため、市参事会で、市民総会代表のランブル市参事から提出された議題についてのすりあわせを行い、それを市民総会前の予備会議で検討決定される。
ここで、決定されたことが市民総会で報告されて承認を得るという形が取られることになった。
市民総会では流石に、有資格市民全員の投票などを行うのは物理的に大変なために居住地ごとにいる地区代表を代表と見なして、市庁舎前の広場で公開投票を行うことになっていた。
市民総会の投票時には、市民総会の代表であるランブル市参事が直接賛否を市民代表に問うということになっている。
市民総会が市参事会が政治の中核になって以来、開催されるのが初めてなので、簡単な条文をようやく解釈してこの形になった。
この仕組みはランブル市参事が独裁的な権力を行使することに対する足かせになっていた。いまだに市参事会がそれなりの権力を握って迅速に自分の意思を遂行できずにランブル市参事は切歯扼腕した。
しかし、ランブル市参事は市民総会の威光を背景にして権力把握を行った以上、自分の権力行使を保障してくれる市民総会に関する法令を、無視することなどできなかった。
市民総会代表のランブル市参事以下、シスネロス市参事会メンバー代表のハタレン市長、市参事会代表に選出されたランブル派と見なされる馬具馬車組合の代表から市参事になったホーンヌ・ヤロミル市参事市参事、市参事会推薦で古参のドストレーム市参事と直轄領を代表してアズエイ市参事、死んだビルケンシュト市参事のもとで渉外交渉の手ほどきを受けていたため新しい渉外役に任命されたハシット市参事からなっていた。
以上、六名が市民総会予備会議のメンバーである。
この中で、新顔のヤロミル市参事は、織布組合が新しく推薦した市参事でランブル組の一員でもあった。
市民総会開催の決議の時に棄権票を投じた織布組合出身のブリーナン市参事をランブル市参事が織布組合に掛け合って罷免して、ヤロミル市参事に交代させていた。
そして、今回は防衛戦と言うことからオブザーバーとしてバガリ・ブロムク市民軍司令、と水軍を管轄するダネル市参事、更にドノバ候の意見で傭兵部隊司令のキャナン・ディンケが市民総会予備会議に参集した。
「さて、最新の情勢はどうなっておる」
市参事会の慣例のように、議長席に座ったハタレン市長の一言で市民総会予備会議、すなわち予備会議が始まった。
予備会議という名ではあるが事実上のシスネロス軍の最高決議会議である。
「今朝の物見からの知らせではドノバ州とリヴォン・ノセ州の境界付近でリヴォン川の渡河準備に入りました。一両日中には渡河するかと思います」
水軍を管轄するダネル市参事が事務的に答えた。シスネロス市民軍も斥候を出しているが、リヴォンン川を船で下ってくる水軍の報告の方がかなり早かった。
リヴォン川に沿って、モンデラーネ公軍が南下してくる場合はかなり北で渡河してリヴォン川東岸のアンクーン男爵領を通過してシスネロスに至る道か、リヴォン・ノセ州から直接ドノバ州に入ってリヴォン川西岸のバンズ男爵領を通過する道を利用する方法がある。
「やはり、リヴォン川東岸を南下するか」
ブロムク司令が、当たり前と言わんばかりに言う。
リヴォン川西岸を南下した場合は、中央盆地では珍しいサナスネット峠という隘路を通過する必要がある。
ここには、領主のバンズ男爵軍と近在の中小領主の援軍が立て籠もる城塞がある。また、付近の森にはシスネロス直轄地から動員された農民兵が伏兵として展開している。
シスネロス攻略前に出血覚悟で、そこを突破すると、街道に沿って位置するバンズ男爵の居城がある。後方連絡線を確保するためには、その城も攻略する必要がある。
そして、攻城戦でバンズ男爵軍を破ったとしても、一旦、シスネロスから離れた上にシスネロス間近でリヴォン川を渡河する必要がある。水軍のないモンデラーネ公としては選択肢に入れることが難しいコースである。
「バンズ男爵に調略が及んでいる可能性は?」
ランブル市参事が、したり顔で聞いた。
「バンズ男爵は籠城に備えて、妻子をシスネロスに避難させております。元々、社交の季節ですので、大半の領主の家族はシスネロスにおります」
夏には過半の領主が、ドノバ候への挨拶も兼ねてシスネロスに集まる。強制ではないが忠誠を示すことと、戦闘を考えて、居住性に難がある田舎の城で過ごすよりもモサメデス川の南岸にある快適な屋敷で過ごす。
そして、流行の衣服を纏って互いの子息令嬢の結婚相手を探す。もしくは見合いの場として舞踊会や宴会に出ることが、すでに、領主層の夏の生活スタイルになっている。
「バンズ男爵の城に、直轄地から四五日分でよいから兵糧を送りましょう。何も援助しなかったのに比べれば士気に雲泥の差が出ます」
ブロムク司令が提案した。
「いいですかな」
ハタレン市長がランブル市参事の方を向いて言った。
「まあ、四五日分なら」
ランブル市参事は、言われるままに返事をしたが、何か軍議の主導権を取るための、話題に持ち込みたかった。
「ガカリナ子爵の妻子は?」
ランブル市参事はハタレン市長に聞き返した。
「領地の城におります。シスネロスの華美で軟弱な習慣を嫌っておるのがガカリナ子爵家の伝統ですからな。どう思っておるのか」
ガカリナ子爵の動向について、事前に市庁舎に問い合わせていたヤロミル市参事が、ちょっと、ランブル市参事の方を見てから言った。
「安易な思いを言うべきではありません。疑心暗鬼も避けなければならない。疑心暗鬼を敵に持たせるのは初歩的な策です。ヤロミル市参事はまさか疑心暗鬼に捕らわれていないでしょうな」
ブロムク司令が、きつい口調でヤロミル市参事に言う。ブロムク司令は、立場上は市参事会、現在では市民総会の指揮下にある。
そのブロムク司令が、ため口どころか、ヤロミル市参事をたしなめるように言ったのであるからヤロミル市参事は怒ってもいい状況だった。
しかし四十代になったばかりで、つい先日市参事に選出されたヤロミル市参事は五十代も後半の武人であるブロムク司令に一言言われただけで気押されてしまった。
「いいえ、そのようなことはありません。申し訳御座いません」
ヤロミル市参事は、怒られた子供のように謝った。
「それはそうと、アンクーン卿の軍勢はモンデラーネ公軍の渡河を、黙って見ているつもりか」
この様子を見て、是が非でも会議の主導権を取りたいランブル市参事が咆吼する。
アンクーン卿とはドノバ州北西部で、リヴォン・ノセ州に接している領地を持っているアンクーン男爵の事である。アンクーン男爵は向背が疑われているガカリナ子爵とは従兄弟の関係にある。
「渡河点はリヴォン・ノセ州側です」
ブロムク市民軍司令は冷静な口調で情報を付け加えた。
「いっそのことアンクーン領で渡河すれば、敵味方がすっきりわかったものを」
ランブル市参事は机を両手で叩いて怒鳴る。
「ランブル殿、落ち着かれよ。アンクーン男爵領は、我がシスネロス直轄地に接しておる。伊達に、そのような重要地域に後背定まらぬ家柄の封土を、当てることはない。アンクーン家の忠誠は信じてよい」
ドストレーム市参事が子供を諭すような口調でランブル市参事を諫める。
「忠誠と言っても、形式はドノバ候への忠誠だ」
ランブル市参事は言ってから、しまったと思った。シスネロスとドノバ候の立場は、微妙なものである。元々、現在のドノバ候であるホノビマ家にドノバ候叙任を頼んだのは、シスネロス市参事会であり、形式的とはいえ、ドノバ候はシスネロスを含むドノバ州の太守である。
そのドノバ候に忠誠を示すのは、領主ばかりではなく、シスネロス市も同様だからだ。領主にシスネロスへの忠誠を求めるのはドノバ候を無視した発言である。
直轄領代表のアズエイ市参事が、横目でランブル市参事を睨みつける。ランブル市参事は、それに気がつかない振りをして、自らは配下のように思っているホーンヌ・ヤロミル市参事の方へ流し目を送る。
「わたしには、領主の忠誠を信じる方がどうかしている、かと思います」
あわててホーンヌ・ヤロミル市参事が発言した。
「ヤロミル市参事!証拠があるのですな」
ブロムク司令が再びヤロミル市参事を責めるように言う。
「いや、その、わたしの意見です」
ヤロミル市参事は、ブロムク司令の言葉に狼狽えるばかりだった。
「あなたの意見でこの軍議が動くのです。あなたのご意見に従って領主軍はあてにならないとしてシスネロスだけでモンデラーネ公軍にあたりましょうか。
領主軍、計二万をなしに戦いましょう。その、御覚悟がおありか。シスネロス市民だけで戦うと、市民に話せるのですな」
ブロムク司令は手を抜くことなくヤロミル市参事を攻め立てた。ブロムク司令は最初から、ヤロミル市参事が失言をすれば言葉尻を捉えてやろうと考えていた。そこに、飛んで火に入る夏の虫のようなヤロミル市参事が、飛び込んできたのだ。
「わたしが軽率で御座いました」
この一言で、ヤロミル市参事は、ランブル市参事から見ても戦力外になった。ヤロミル市参事はすっかり萎縮して問われなければ発言しそうもなかった。
ドストレーム市参事らが本格的に動く前に、ブロムク司令という破城槌は、敵の弱い部分を破壊した。
「市長のおかげで市壁の補修は明日までに完了する。のらりくらりと防衛戦を妨害をするような人間のいなくなったことだ。たとえ、ガカリナ子爵が先導をして押し寄せても我々を攻略するのは難しだろうな。
わたしはガカリナ子爵が、相手に寝返るなどとは思ってはいないが、自領を防衛するのと、このシスネロスを防衛するのでは気合いが多少は違ってくるとは思う」
虚勢を張っても、見透かされるだけだと察したランブル市参事は、間を置いて出来るだけ冷静に言った。
ランブル市参事の言った防衛戦を妨害する人間とは、非業の最期を遂げたビルケンシュト市参事のことを、言っていることは直ぐに全員が理解した。
「戦いの前にめったなことは言うものではございません。戦いの前に身内に敵をつくることもありますまい」
ハタレン市長は、ランブル市参事の言葉を聞き流すようにして言った。
「領主のことはさておき、ハタレン市長の努力と共に、非業の死を遂げたビルケンシュト市参事の功績も大きいと思います」
ハシット市参事が堪りかねたように言った。
「ビルケンシュトが何をした」
ランブル市参事が木で鼻をくくるように言った。
「ご存じなかったのか?リヴォン・ノセ州南部の穀物の買い付けだ。市参事のルヴァルド殿などは出費を覚悟で精一杯協力してくれた。
今頃、モンデラーネ公は食糧を集め回っておるだろうな。これで、何日か我々の準備期間が稼げる」
ハタレン市長が静かに言う。
「姑息な手を手柄のように言うな」
ランブル市参事はそのような重大事を知らされていなかったことに苛立ちを隠しきれずに言った。そして、ささやかな反撃のつもりで捨て台詞を吐いた。
「アンクーン男爵の居城を攻めて食糧を得たらどうするんだ」
「アンクーン領の食糧は籠城分を除いてはシスネロスへ移送中です。アンクーン男爵の居城を攻めても四五日日ほどの食糧しか手に入りません。四五日でアンクーン城を攻略できればですが」
キャナン・ディンケ傭兵隊司令が初めて発言した。
「こちらは野戦の準備もしております。野戦、籠城はここで決まる故、やぶにらみでことを進めております」
バガリ・ブロムク市民軍司令が間髪を入れずに言った。この発言で会議が今回の戦争をどう処置するかという具体的な事柄に流れ出した。
「何を馬鹿なことを、シスネロスに籠城すれば負けることはない」
軍事に疎いランブル市参事でも、シスネロスに籠城すれば負けないことは理解しており、権力を把握した後は籠城でしのぐ腹づもりだった。
「討議の前に熱くなっていかがいたします」
ハタレン市長がランブル市参事を諫めた。そして、ランブル市参事に何か言いかけたブロムク司令を手で制した。
「では、交渉を排除いたしました結果として、野戦か籠城かという基本方針を決定いたしましょう」
ハタネン市長の言葉を受けてドストレーム市参事が、ランブル市参事を見て言った。
「籠城の場合は近郊の直轄領がモンデラーネ公に蹂躙されるのを指をくわえて見ているということになる。
その状況を堪え忍び、最後の勝利のために市民の士気を維持せねばならん。これはランブル市参事の手腕に期待したい」
ランブル市参事が何も言わないので、ドストレーム市参事は言葉を続けた。
「近郊直轄領は我々の食糧倉庫です。しかし、去年は三年続きの不作でありました。現在、穀物の備蓄は各商家の倉庫から徴発しても半年ほどかと。なんとか今年の収穫に間に合う程度です」
「ランブル殿、あなたは今やシスネロスの最高責任者だ。近郊の直轄領防衛にも責任があるのですぞ。籠城をするためにはあえてその責任を放棄することになる。
しかし、シスネロス市民権をもった近隣住民の保護を、シスネロス市もシスネロス市の市民総会は放棄することはできない。近隣地域住民もシスネロス市民総会のメンバーであることをお忘れ無く。彼らが市民総会に参加すれば自分達の意見を断固主張しますぞ」
シスネロス市近隣地域をも代表するアズエイ市参事が険しい顔で言った。
「どうしろと」
ランブル市参事の言い方は虚を突かれたような感じだった。
ランブル市参事は今までシスネロス市ないしシスネロス市民のことは、良きにつけ悪きにつけ頭にあった。ただ、自分の支持者ではない直轄地のシスネロス市民については、等閑視する傾向があった。
「全員とは言わない。近隣の砦に立て籠もる者を除いて、籠城戦の場合に物資略奪、強制労働などの被害が予想される周辺の数リーグ内の住民は、シスネロス市内へ避難させて欲しい。
そして、シスネロスに身寄り、知人のない避難者の宿舎の世話や食糧の供給はシスネロス市で行ってもらいたい」
アズエイ市参事は、淡々と要求を言った。
「ここに立て籠もって無人地帯となった郊外の農地を荒らされたら今度の冬は厳しいことになりますな。多少は餓死者を覚悟せねばなりますまい。
周囲のことに目をつぶって籠城してもシスネロス市内も同様の惨状になる恐れがあります。まあ、あなたならなんとか市民を纏めていただけるでしょう」
ドストレーム市参事が多少皮肉ぽっい口調でランブル市参事に言った。ランブル市参事は沈黙していた。
ドストレーム市参事は、予備会議において自分達の思い描くシスネロス市民総会での決議内容に持って行くための道半ばまできたと確信した。
そして、ドノバ候には形勢逆転の役割ではなく総仕上げに来てもらうことになるだろうと思った。




