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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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プラント平原上空戦 3

「これぐらいならどうって事無いッスよ。ある程度休めば出撃できます。手当てはしときますんで。」


「本当かい!?良かった………」


竜二は煙玉で敵を撒いた後、オーロのところでラプトリアの容態を診てもらっていた。オーロはぬるま湯で絞った布を凍りついた翼の部分に当てている。攻撃を喰らった左前足と左頬も絶対安静するほどではないようだった。ラプトリアはオーロに手当てしてもらって気が抜けたのか、仮眠している。


「竜の再生力は高いッスからね。ましてやAランクッスから。でも…オレから見たら、どう見ても松原さんの方が重傷だと思うんスけど……よくそんな軽傷で済みましたね。」


ここに着いた時、竜二は全身に無数の矢が突き刺さっていた状態だった。顔や服も血だらけであり、最後の気力を振り絞って帰投したのかと、オーロは青ざめて本気で心配したものである。

だが竜二がクロスアーマーを脱いでみると、肩に軽い打撲、腕と脚に矢が浅く刺さっている程度で、どれも簡易手当てと応急処置で対応可能な傷だった。本人は腕と脚と肩に加えて、頭も痛がっていたが軽度であった。

本人曰く、軽くゲンコツを喰らったような痛みだという。その痛みがメイスによる直撃だと聞いた時は周囲の者全てが顔を見合わせたものである。

強化された竜二のクロスアーマーと皮手袋とブーツは見事に命中した矢を受け止め、近接武器にさえ耐えていた。ところどころ(すす)けていたが、それでも原型を保っている。竜二にも火傷はなく、服や顔にこびりついた血は全て敵の返り血であり、傷といえば矢尻の刺し傷だけで、切り傷も擦り傷もない。

オーロはその姿を見て、戦争が終わったら自分の作業服もこれを機に強化してもらおうと本気で考えていた。


「いたたた!肩痛ぁ~!こりゃ大きく振り回せないな。」


「贅沢言っちゃダメッスよ。本来なら重傷なんスから。」


「脚もまだ痛むんだよね。全速力で走るのは厳しいかな。」


「贅沢言っちゃダメッスよ。本来なら重傷なんスから。」


「腕も無理に力入れると痛みが来るんだ。防戦主体になっちゃうかもしれない。」


「贅沢言っちゃダメッスよ。本来なら重傷なんスから。」


「頭にもまだ鈍痛が残るんだ。だいぶ治まってきたけど。」


「贅沢言っちゃダメッスよ。本来なら重傷なんスから。」


「うわ!頭が焦げ臭いと思ったら髪が焼けてる!」


「贅沢言っちゃダメッスよ。本来なら重傷なんスから。」




「………………戦った直後で疲れたな~。休息取りたいな~……」


「贅沢言っちゃダメッスよ。本来なら重傷なんスから。」


竜二はジト目で言い放つ。


「あのさ……嫌味?それとも、笑いを取ろうとしてる?」


「だって本当にそう思うッスもん。」


確かに竜二の発言はどことなく余裕がある発言だった。少なくとも重傷者は絶対ぼやかないだろう。そうでなければ、出撃など出来はしない。オーロは大真面目にしゃべっていたのである。

しかし仮にも格上の相手、それも多勢に無勢で無事帰投したのだから、気遣いとか労いの言葉があってもいいのになと思う竜二であった。


「……嫌な戦況になっていますね。」


「………そうですね。これでも納まった方です。さっきまでは、帝国側の陣地だけ天変地異でも起こったのかというくらい帝国兵がやられていましたから。おかげで帝国兵の士気は低下してます。」


ハワードである。二人の会話は陸戦に移っていた。少しずつ帝国軍が盛り返し、いよいよ五分五分になって帝国軍有利なろうという時に、狂死帝傭兵団が正式参戦。ゾルトナーは高位の魔法を連発。その後、ゾルトナーと部下達は帝国兵に突撃をかけて次々と容赦なく殺しまわった。一切の降伏を認めずになぎ倒している。連合国軍も再び息を吹き返し、帝国軍が不利になっていった。

しかし、ある程度、帝国軍に打撃を与えると狂死帝傭兵団は後退し始めた。狂死帝傭兵団が足元を見てきて報酬を吹っかけてきたためにタカツキが多額の報奨金を渋ったのではと首脳陣は予想している。

今は帝国地竜騎士団が前に出てなんとか前線を維持している。あれだけ仲の悪かった陸軍と竜騎士団がこれを機に連携し出すとはなんとも皮肉なものである。


しかし、このままでは帝国兵の消耗は避けられない。陸戦を楽にするためにももう一度、竜二は空に戻って空戦で決着をつけなければならなかった。リサが戻って来たという事は契約が成功したのだろう。そのリサとハルドルと一緒なら光竜騎士団とも互角に戦えると竜二は思っている。もちろん当初からそんな過信していたわけではない。本当は飛竜騎士の余剰兵力全てを投入したかったが、もし彼らが全滅すると対地戦で有利に立てず、せっかく制空権を獲っても恩恵があまりない。只でさえ帝国飛竜騎士は少ないため、これ以上の消耗は減らしたかった。

また有用な作戦が思いつかなかったという後ろ向きな理由もあるが、これは竜二はもちろん誰にもしゃべっていない。

それよりも竜二が単騎で出撃した一番の理由はラプトリアの戦闘力が十分に発揮できないと思ったからだった。


帝国での内乱の時は圧倒的な戦闘力と飛行力を見せつけたラプトリアだったが、味方や組織での連携上、どうしても行動に制約が生じ、ラプトリアは自由に暴れることが出来なかった。その証拠として、のちに彼女はもっと大きく立ち回りたかったと竜二につぶやいている。

それならばと竜二は指揮権が手に入るや、自分のみ単騎で出撃すると指示をだした。これならば、味方を気にする必要がないのでラプトリアは思う存分暴れることが出来る。どうせ空中戦が鍵を握っているのだ。ラプトリアの最もストレスフリーで戦えるようにしたかったのである。

実際にラプトリアは光竜騎士団数十騎相手にも臆することなく有利に戦った。


敵の隊長格と戦うまでは………


「あれが光竜騎士団の隊長の実力か……」


強い相竜に乗っていることで過信があったかもしれない。しかしそれでも、敵の隊長は強かった。

竜二からしてみれば、レスタが部隊長クラスなのか、分隊長クラスなのか、将軍クラスなのかは分からないが、リーダー格であることは認識できた。

歳は自分より、やや年上と言ったところだろうか。髪と肌が黒くて、濃い顔立ちだった。どちらかと言えば中東系の顔立ちだった。ラプトリアの前に焦るような表情をしたときもあったが、常に沈着冷静な表情だった。どことなく余裕さえ感じられる。


敵のリーダーをはじめ、光竜騎士団相手にある程度苦戦するとは予想していたが、まさか自分が直接戦うことになるとは思わなかった。いや、あそこまでの連続近接戦闘を予想していなかったというのが正しいだろう。しかも敵の騎士達は手加減する感じはなく、本気で自分に斬りかかってきた。強化した装備がなければ、間違いなくやられていた。

竜上での戦いは無我夢中だった。一部の敵はどうやって倒したか覚えていない。帰投した時は、身体の痛みより精神的脱力感の方が強く、刺し傷の痛みが気になり始めたのも、駐竜場に戻ってからである。


「休養してもらいたいところですが、そうも言ってられません。ラプトリアの治療が終わったら早急に戻って制空権を取った方がいいです。明らかに帝国軍が不利です。」


「…分かってますよ。替えのクロスアーマーにも着替えたし、狂死帝傭兵団も後方に下がったし、ラプトリアさえ回復すれば……」



ここまでしゃべって竜二にはどこかに引っかかるものがあった。狂死帝傭兵団がなぜ引き上げたのかである。夜襲の時の惨状を見る限り、虐殺途中であっさり引き下がるような傭兵団には見えなかった。

むしろ、ここぞとばかりにトドメを刺そうとするような傭兵団に思えた。直接、傭兵団団長と会ったことがないので、何とも言えないが注意が必要ではないかと思う。


「…教官、狂死帝傭兵団はきっとあれだけでは引き下がらないと思います。何かしてくるかもしれないです。」


「別に企んでいると?タカツキ側が報酬をケチった可能性はないですか?」


彼らも傭兵稼業なので報酬をケチれば、確かに必要以上の戦闘行為はしないだろう。しかし、帝国軍は現状不利である。沢山の兵を討ち取るチャンスなのだ。連合国軍の勝利に貢献すれば上乗せだって期待できるかもしれない。

ここまで竜二が言うとハワードは否定した。

「傭兵団の契約内容は事前に両者承諾してから出撃するのが一般的です。そんな貰えるかどうか分からない。追加報奨金のために更に戦闘行為をするとは考えにくいです。あちらも自分達の命がかかっているのですから、そこは譲れないでしょう。」


「それじゃあ、狂死帝傭兵団は更なる戦闘行為をする可能性は低いということですか?俺の取り越し苦労なのかな………」


「いえ、そうとも言えないです。依頼しているのが国とはいえ、金を払うのは人です。必要以上に戦果を出せば好意で上乗せする可能性は十分あります。たとえば依頼内容以上の戦績を残した場合ですね。あるいは事前に別の追加の任務を依頼し、完遂したら金額も上乗せするという契約もあります。」


つまりはオプション契約だろう。任意だがリスクを負えば、メリットも増えるというものである。現代でもよく見られる営業方法と言えた。


「じゃあ、例えばオプション………じゃなかった追加の依頼内容があるとすれば、どんな内容になりますか?」


「そうですね。戦闘依頼の際に、よく聞く依頼は将軍級の幹部を討ち取るとか…………」


ここまで言って竜二とハワードは目を見合せる。


「それって、もしかして……俺の首級!?」


その場合、一番の候補はスタームか竜二が有力である。しかも今、竜二達がいるところは………


「があああ!」

「ぎゃああああ!」


遠くから突然、大きな悲鳴が聞こえた。複数の兵士の悲鳴である。次々と炎に巻かれて倒されていく。その後ろには狂死帝傭兵団の軍旗が翻っていた。


そう竜二が今いるのは前線から離れている駐竜場である。増援を呼ぶことはできない場所だった。

狂死帝傭兵団は後退した後、山道を迂回して高値の付くAランクの首級を狙ってきたのである。




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