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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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ブルーノの憂鬱

お待たせしてすみません。中々ネタが調整つかなかったものでして。




「お待ちしておりました。ホアキム神官長」


「これはこれはレスタ殿。お出迎えいただきありがとうございます。」


「お気になさらないでください。立ち話もなんですから陣所に参りましょう。」


「ええ、そうですね。」


二人はどういう関係なのか連合軍関係者は分からないが、楽しそうに和んでいるところを見ると教団関係者であることは分かるだろう。二人の周囲を護衛役の教団兵が付いていってることからレスタと話しているのはある程度の身分の高い人物だと思われる。その後、二人は当たり障りない世間話をしながら光竜騎士団派遣部隊の陣所に向かい天幕の中に入っていった。


「絶対に部外者を近づけるなよ。」


「は。」


天幕の中に入ったレスタは見張りの兵に指示を出すとホアキムに向き直る。


「…遠路はるばるご苦労だった。」


「いや、吾輩にとっても今回の事は見逃せんのでな。ソンブルドラゴンもさることながら、松原竜二に関してはちょっとした因縁があるのだ。」


「ほう…相竜ではなく、騎士の方にか?意外だな。」


「…まあそれは個人的な事だ。例え私的な事情抜きにしたとしてもトバイアス枢機卿からの命令は無視できんよ。」


「うむ。こちらにもトバイアス枢機卿直筆の命令書が来ている。今回に限っては法皇様から委任されたらしくてな。我らも動かぬわけにはいかんのだ。全く…類は友を呼ぶと言ったところか?つくづくイシスは後世の我らを飽きさせん。」


本来ならレスタに命令を出すのは騎士団長である。

聖甲騎士団も光竜騎士団も有事の場合や法皇の命令が無い限り、領外へ軍事行動を行う事は殆どない。だが稀に法皇の目が届かないような事態が起こった場合は一部の軍事権を幹部へ一時的に委託することがある。今回はトバイアス枢機卿に委ねられたのだろう。軍事委託する文書と共にトバイアス枢機卿からの命令書がレスタにも送られてきたのだった。


「危機感が感じられんな。イシスの遺児が動き始めるとはゆゆしき事態だぞ?ましてイシスの〝長子〟であるソンブルドラゴンは特に警戒せねばならん。今回、吾輩は検分役として来たがもし間違いなくソンブルドラゴンであるならば……」


「分かっておる。そうなればステルスドラゴンなんぞに構ってはおれぬ。現地契約のうちに騎士もろとも抹殺するのみだ。」


「そのつもりなら結構だ。それと騎士がどういう者かも見ておきたい。ソンブルドラゴンは契約の難しさでは随一だ。どんな奴なのかお主は知っているのか?」


「直接は見ておらん。連合軍飛竜騎士の報告では女騎士とのことだが分かっているのはそれくらいだ。元々ステルスドラゴンと騎士は殺すなとの命令だったのだ。そこにソンブルドラゴンの報告でお前が来るまで手を出すなとの指示とくれば、容易に近づくこともできんだろう?」


「そうか…」


所詮は戦争屋だとホアキムは内心レスタを毒づいた。いくら非戦命令が出ていたとしても調べる方法はいくらでもあっただろうにそれをしてない。光竜騎士団なら“イシスの悪童達”の一種であるソンブルドラゴンの事ぐらい知っているはずだ。にも関わらず、いくら確証が無いとはいえ騎士の事もろくに調べてないとは。

この分ではステルスドラゴンの方ばかり目を向けていたに違いない。ホアキム個人としてはそっちの方がありがたかったが、今回はそうも言ってられなかった。


「分かった。報告のソンブルドラゴンが本物かどうか。そして騎士がどういう者かは私が調べよう。ところでステルスドラゴンと竜騎士については何か知っているか?」


「…そっちについては検分済みだ。直にラドルズとの戦いを見て来た。」


「どんな戦闘だったか教えてもらえるかね?」


「いいだろう………」


レスタは竜二とラプトリアについて知りうる限りの事を話した。特に隠すこともない。レスタとしても敵が大物だけに平静でいられないのだろう。後半になるにつれ、気が高ぶっているのが感じられた。尤もその奥底が純粋に戦闘意欲や名誉からではなく、これを機に出世につなげたいと思っている事もホアキムは見抜いている。


「ふむふむ……ほう………それで全部か?」


「うむ。大体はな。隠蔽能力も使っていない。体得しているかも怪しいものだ。」


「いやそうではなく、戦闘中スキルは使わなかったか?」


「〝見切り(シースルー)〟は使っていたが…それぐらいだな。」


ここまで聞いたところで、ホアキムは腑に落ちないところがあったが顔には出さずに頷いた。戦争屋のこの男がこれ以上調べているとは思えないという理由もある。


「ところで戦場では誰が戦うのだ?いくらお主が強くても、もし間違いなくソンブルドラゴンなら二体のイシスの遺児と戦うのだぞ?いくらお主でも…」


「心配は無用だ。もうすでに手は打ってある。」


「………宰相ウェルマイルか?」


「いかにも。今頃帝国軍の連中は本国からなかなか援軍が来ないことに不審と苛立ちを募らせているだろうよ。」


アルバードが隠れ信者であるのは新教団幹部では周知の事実であった。本来なら一介の信者や職員には秘匿されるが、軍事にかかわる者は作戦上支障をきたさないよう例外的に隊長クラスなら知らされていたのである。


「例え、アルバードの奴が動かずとも二対一はならんだろう。なぜなら連合軍は狂死帝傭兵団と契約したからな。帝国陸軍はゾルトナー相手に散々に打ち負かされた。今の陸軍に狂死帝傭兵団と対峙しようと考える将などおらんだろうさ。」


ここまで聞いてなかなかこの男も考えているなとホアキムは思った。帝国軍もさすがにゾルトナーを野放しにはできない。“イシスの悪童達”のどちらかは狂死帝傭兵団と相手しなければならないのだ。レスタは必然的に一対一で戦えるのである。

尤も戦争屋ではないホアキムは、聖教の威信を(おびや)かす帝国軍の強さは警戒していたが、竜騎士の方はあまり心配していなかった。それは帝国には致命的な弱点があったからである。


『帝国軍の決して拭えない不安要素。それは………神殿契約。この制約が我らの絶対的有利を覆さぬ。脅威の陸軍は狂死帝傭兵団が押さえつけてくれるわけだしな。如何にイシスの子供達といえど神殿契約した部隊長のレスタには手を焼くだろう。そうなれば無防備になった騎士を……捕えるのみだ!』





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「……やはり神殿契約の差はいかんともし難いな。」


「僕が配属されてからの何度目のぼやきですか?ブルーノ隊長。」


現場契約止まりのハンデを一番痛感しているのは他ならぬ帝国軍である。特に幹部には頭の痛いところであった。


「そう言うな。ライマン。こればかりはぼやかせてくれ。」


ブルーノの傍に控えているのは、かつてのオットマール公爵の若手参謀ライマン・レニッツである。先の内乱で貴族軍が投降した後、武力解体における人材整理のとき、オットマール軍が一番善戦したきっかけを作ったのが彼だと聞いてブルーノが興味を持ち、やんちゃな性格の彼を登用したのだった。


有利な戦況から一転、貴族軍を不利な戦況に追い込んだのは他ならぬ竜二とラプトリアであり、その竜騎士達の長であるブルーノの部下に収まるのは不服なのではないかと思われたが、意外にも異動命令にライマンはあっさりと従ったのであった。

ちなみにオットマール公爵家はガラルドに刃向ったものの、中央政権に血族が何人もいたおかげでお家存続の政略の限りを尽くし、盟主であったにも関わらず領地は減り、爵位も大幅に降格したが家名の存続を認められている。

その要因の一つがライマンの鞍替えにあったかと言われれば、勿論そんなことはない。学生時代はサボリの常習だったとされるこの青年は決して勤勉という訳ではなかった。オットマール公爵の下では、言うならば雑用係のようなものであり、それはブルーノが上司になった今も変わっていない。

それでも重宝されているのは彼の記憶力の高さゆえだろう。どこの本棚にどの書類があるか覚えていたり、ブルーノの予定を一か月先まで記憶していたり、ブルーノの部下や同僚の顔と名前を殆ど覚えるのは早々出来ることではない。

主君が公爵家当主⇒飛竜騎士団団長とは平民出身者からすれば周囲が羨む出世だが本人はそれを鼻にかけるわけでもなく、かといって真剣に仕事をするわけでもなく、程々に手を抜きながら自分のペースで仕事をしていた。


「簡単に片付く問題じゃないなら、簡単に片付く仕事からすればいいんですよ。行き止まりに当たるのはいつでも出来るでしょ?」


とこんな感じである。

この発言を聞いて思わずブルーノは微笑んだ。ブルーノが彼を手元に置いておく最大の理由は精神を落ち着かせるためであった。精神的に思い詰められても、口笛吹ながら笑顔を振りまいて仕事をしている彼の勤務態度を見ていると不思議と心が休まるのである。しかもそれは相竜も同じようでブルーノの相竜も何故かライマンとは早期に打ち解けている。


「一人で思い悩むとどんどん周りが見えなくなりますよ。あ、そうだ!せっかく雷鳴将軍閣下が司令官代行になったんですから相談してみたらいかがですか?」


後半になるにつれて口調が明るくなっているような気がした。松原竜二とどういう関係なのかは不明だが確かにライマンの発言にも一理あった。


「…うむ、そうだな。松原士爵にも相談してみるか。どうせ今後の戦略の打ち合わせをする予定だったからな。」


「決まりですね!早速、連絡入れておきます!」


ライマンは足早に立ち去っていった。


今の竜二が精神のリラックス状態とは対極な状態にあることは二人共、当然知る由もない。



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