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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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謎の声

そこは相変わらずな部屋だった。

常にカーテンによって阻まれている。単なる布一枚の筈なのにまるで分厚い鉄板に阻まれているような重圧感があった。誰だろうとカーテンの中を覗くことは許されない。ちょっとした好奇心が命取りになる。

老齢な男は恐縮な態度をとってはいるが、緊張するそぶりを見せず、気圧される訳でもなくカーテン越しの者に報告を欠かさない。


「松原竜二の成長は著しいようだな。」


「レスタの報告ではそのようです。騎士がというより相竜の成長が著しいようですが。如何しますか?」


「知れた事よ。松原竜二の成長を促すことだ。」


老齢な男は前回と同じ指示に内心溜め息をついた。確かに弱い男だが、相竜は脅威だ。今までの報告から同門の連中と幾度も話し合ったが


松原竜二の恐ろしさは彼個人の強さではなく【相竜を育てる能力】


でほぼ一致している。

つまり、カーテン越しの者は成長を促せと言ってはいるが、実戦を重ねれば重ねる程、絆が深まれば深まる程、相竜が強くなっていく。

その成長ぶりは成竜化した竜と遜色ない。

特A級の竜に強運な騎士、これに部下に恵まれたらますます厄介なことになりかねなかった。しかも“イシスの悪童達”の一種。敵対する可能性は大いにある。だが現状では何が相竜をここまで強くさせているのかが未解明だった。だからこそ用心するに越したことは無い。遺伝子の問題などである日突然強くなったり、暴走したりする可能性だってありえるのだから。

せめて殺せとは言わないまでも、捕らえろくらい言ってほしいと老齢の男は思っている。せっかくレスタ率いる小隊と連合軍の力があるのだ。不意をつけばできないことはないだろう。


仕方ないので老齢の男は側面から責めてみた。むしろこちらの方が重要である。


「もう一つ、捨て置けない報告があるのですが。」


「聞かせてみよ。」


「はっ、実は松原竜二にソンブルドラゴンを使役している部下がいるという情報がありまして。」


「………ソンブル!まことか!?」


大方の予想通りカーテン越しの者は食いついて来た。声を聞く限りでは明らかに動揺の感情が入っている。さすがに放って置けないことだと思ったのだろう。


「一小隊長の報告ですから違う可能性もありえます。只今、レンデンガルドに最も近い支殿の神官長にレスタのもとへ派遣するよう伝令を出しているところです。」


「急がせよ……。もしそうなれば由々しき事態だ。確認を急げ!さすがにありえぬとは思うが、神殿契約しているかどうかも確認せよ。」


「御意。………もし、間違いなくソンブルドラゴンであったならいかがいたしましょう?」


老齢な男は内心、来い来いと念じながら平伏する。



「その時は……………殺せ。竜使い諸共な。」


「分かりましてございます。」


老齢の男は内心にやりと笑った。


『これでいい…帝国軍や松原竜二の方は事後承諾でどうとでもなる』


「……手段は選ばずともよい。確実に葬れ。トバイアス枢機卿。」


名前を呼ばれた老齢な男、もといトバイアス枢機卿は御意とだけ答え、早々と立ち去っていった。

これにより、しばらく命令遂行に忙しいとの理由で報告が怠りがちになっていく事となる。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ラプトリアは夢を見ていた。暗い中で一筋の優しい光がラプトリアを照らしている。この優しい光がラプトリアに語り始めた。



「あなたは強いのねえ~」


「あなたは誰なの?」


「もっと強くなる方法を教えてあげようか~」


今のラプトリアの質問には答えず、謎の声は語りかけてくる。猫なで声みたいなしゃべり方だったが、どこか安心できる母性に富んだ声だった。


「もっと強くなれるの?」


「なれるわよ~。でも一人じゃ厳しいかも~」


「どういうこと?」


「やっぱり皆と一緒なら怖くない~。そして強~い。そうでしょう~?」


「そうね…」


否定する気は起きなかった。ハルドルやハワード、そして竜二がいなかったらどうなっていたか分からない。

多くの人は自分を強い、速いと褒める。それは素直に嬉しいが、それゆえに実際に戦場で敵を倒していると自分は強いと過信することがあった。しかしなぜ他の竜と能力に差があるのかラプトリアには分からなかった。生まれ持った才能だろうか?上位のランクだからだろうか?相手が弱いのだろうか?と疑問に思ったことはある。


だが強いと言われる一方で失態も犯した。ジンガのときは調子に乗っていたと言われても反論できないし、ユーリーと初めて戦ったときは竜二の機転が無かったら勝てなかった。

いつもここ一番というときに精彩を欠いてしまう。最初から最後まで独力で勝つということができなかった。しまいにはブレスがいまもって吐けず、対地戦では傍観を決め込むという有様である。


パートナーの竜二はよく支えてくれている。失態を犯しても自分を責めないし、むしろ失態を次に生かそうと奮い立たせてくれる。優しいだけかと思いきや、対地戦に参加したいと言ったときは、味方に迷惑がかかったらどうするんだと責めて諭した。


まだまだ自分は肉体面も精神面も未熟だと思っている。そういう意味では「一人じゃ厳しい」と言われたことに反論できなかった。


「だからぁ~もっと仲間をつくりましょ~兄弟を見つけるのぉ~。お互い支え合えばもっともっと強くなるよ~そうすれば向うところ敵なしになっちゃうから~」


「きょうだい!?私に兄弟なんているの?」


「いるわよ~どんなに信用できない奴でも兄弟だけはあなたを決して裏切らないわぁ~」


「私の兄弟はどこにいるの?」


「世界中のどこかに必ずいるわ~貴方が兄弟達を探してあげて~それが何もしてあげられなかったお母さんからのお願い~」


「お母さん?貴方が私の……」




「だめ!!惑わされないで!!目を覚まして!」


響き渡るような甲高い声が頭に響き渡る。明るく澄んだ響き渡る声だった。




「……はっ!今のは!」


ラプトリアが目覚める。すっかり日が上がり、朝になっていた。ラプトリアはキョロキョロと周りを見渡す。


「またあの夢ね…」


もう何回か似たような夢を見た。毎回同じ甘い声で、夢を見るたびに囁いてくる。最初は記憶が無かったが最近は少しずつ夢の記憶が残るようになった。


「私をどこかへ導こうとしているのか、誘おうとしているのか…」


夢を見るたびにラプトリアは常に弱い自分を曝け出してしまう。さすがに夢の中では自我や意志も保ち辛かった。しかも決まって最後はあの切羽詰まったかのような声が中に入ってきてラプトリアを覚醒させる。この声にもラプトリアは身に覚えが無かった。


「相談できる相手はいないかしら…」


最有力候補はハワードだが、夢となると専門外な気がする。オーロも同じだろう。竜二には迷惑をかけたくない。


「たまに見る程度だから今は黙っておくのが賢明か……」



「何が賢明なんだ?」


「え?」


後ろを振り向くと浮かない顔でこちらを見つめる竜二が窓の縁に背中を預けていた。




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