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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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傭兵団とは?

「おそれながら申し上げます。陛下。」


「何だ?」


「……松原士爵の活躍が……武勲が大きすぎるのではないでしょうか?。」


「それがどうした?活躍することは良い事ではないか。」


アルバードはガラルドに直言した。ここは帝都ラパントの王室である。ガラルドが執務を行う横でアルバードが補佐するという普段の日常業務中にアルバードが語りかけた。

ガラルドの言う事はもっともだがアルバードは引き下がらなかった。


「それは否定しません。しかし彼の出世の速さは異常です。いくらAランクを繋いでおきたいとはいえ、これでは他の兵士達に嫉妬を招き、規律が乱れる可能性もあり得ます。」


確かに竜二の出世は速い。功績が大きい事もあるが、もう一つの理由として竜二の脱走対策も兼ねていた。帝国内における居心地を良くしておけばその可能性は大きく減ると同時に、恩も売ることが出来るという訳である。

ガラルドが竜二に準男爵という爵位を与えたのはその最たるものであった。金品などの様な消耗してしまうものは時間がその時の感動を少しずつ薄めていく。勲章や褒状(ほうじょう)など名誉に関するものも検討されたが、竜二が気に入るかどうかガラルドには分からなかった。なにより他国へ軍籍を移す時に有利になってしまう可能性がある。皇帝から賜った勲章や褒状は転職の履歴書としてはうってつけだからだ。

だから爵位という〝地位〟を竜二に与えた。これなら時間が経てば経つほど目に見えて褒美を受け取ったことを実感できるし、どんなに身分が高くなってもその〝地位〟は帝国内の事であって、他国に行った途端に一般大衆と同格になり、爵位は何の意味もなさない。


「その可能性も無いとは言えないだろうが現実問題、松原竜二に代わる人材がいるか?奴がいなければもっと手をこまねいていただろう?」


「私は代わる人材がいるのかどうかを言っているのではありません!理由がどうであれ帝国騎士になった以上、任務を全うするのは至極当然のことです。奴に褒賞をやり過ぎではないかという事を指摘しているのです。」


「お前らしくないな。一個人にそこまでいきり立つとは。」


「……申し訳ありません。」


もし眼前にいる人物が皇帝でなければ「茶化すな!」と怒鳴っていただろう。さすがのアルバードも皇帝に向かってそのような暴言を吐くことは出来なかった。


「まあよい。松原竜二に関しては正当な褒美だと思っている。今後も変えるつもりはない。」


「陛下!」


「もし兵士達が松原竜二に嫉妬するだけならその程度の奴らだったという事だ。むしろ触発されて対抗意識を燃やす奴が私は欲しいと思っている。そのためにも松原竜二の褒美は決してやり過ぎではないのだ。」


功績を残した者に褒美を奮発すれば、皇帝は結果を残した者にはきちんと褒美をやるという事をアピールすることが出来る。長年、A級騎士と疎遠になっていた帝国であれば尚更である。

竜二への褒美は他の帝国兵達への動機づけと士気向上、そしてガラルドの懐の広さを軍内に見せつけられる良い機会でもあったのである。


『確かに一理ある。だがこれ以上の松原竜二の台頭化は防がねばならん』


「奴は異世界人です。この帝国に愛国心など持たんでしょう。このまま奴が出世すれば、陛下の立場さえ奪うやもしれません。」


明らかに不躾がましい発言であり、皇帝に無礼極まりない直言だったが、ガラルドは笑っていた。


「はははははは!そうだな!確かにそうかもしれぬ。だがそれも良い。玉座に居座る私こそ帝国皇族の血が入っていないのだからな………もう一人の新たな〝私〟が出来るだけの事だ。」


何とも楽しそうに笑っているが、アルバードを見つめる目はどことなく冷たい。こう言われてはアルバードに言い返す術は無かった。直言すればする程どんどん罠にかかっていく気分だった。結局その後、気まずい雰囲気の中、二人は仕事を続けることになった。


ガラルドが執務を終えるとアルバードは私室に戻った。ドアを閉め、ドアにもたれながら大きく息を吐く。機嫌が悪いときはいつもこうやって落ち着かせていた。そこへ心配そうに近寄る者がいた。エリーナである。


「御気分が優れないのですか?」


「まあな……陛下にも困ったものだ。」


「…松原士爵の件ですね?」


「そうだ。奴も相竜も危険であるという事を陛下は分かっておらぬ。」


「申し訳ありません…私がしくじったばかりに…」


「何をもう過ぎたことを言っておるのだ!謝る暇がなるなら何か手を考えろ!」


アルバードは失態は失態として重く見るタイプの男だが、名誉挽回の機会を与える男でもあった。エリーナはそれを良く知っている。戦時中の失態は戦争時でなければ返せないが、期待に応える事は今でも出来る。


「……それなら彼にこそ危険な目にあってもらうというのはいかがでしょうか?」


「危険だと?」


「はい。実はつい先ほど伝令が入ったのですが、アパン将軍率いる遠征軍が敗退したそうです。」


「何だと!つまり松原竜二も出兵していたのか?」


「いえ、彼はレンデンガルドで待機していたそうです。」


アルバードは顔を曇らせた。竜二が出兵していれば敗戦の責を竜二に押し付けることも出来る。特Aも大したことは無いと周りに吹聴だって出来る。だが戦列に加わっていなかったとなるとそうはいかない。むしろますます英雄視される可能性が高い。

後方の町に待機していたなら危険どころか安全極まりない。どこが危険なのか、アルバードはエリーナの考えが分からなかった。


「彼に一時的に遠征軍を率いらせて連合軍を撃退させるのです。」


「松原竜二に軍事上の権限をくれてやるつもりか!」


遠征軍と言えば当然、陸軍兵士も含まれる。つまりエリーナは竜二に竜騎士と陸軍兵士双方の指揮権を与えろと言っている。竜二の権力は大きく増すだろう。そうなれば更にガラルドの信頼を掴み、アルバードでは手に負えなくなる可能性だってあった。いくら負けたとはいえ、大局をみれば連合軍の方がまだまだ不利に決まっている。やりようによっては戦況を覆せるかもしれない。敗戦しただけに遠征軍は軍としての機能は低下しているだろうが、遠征軍の総指揮官は戦場の華だ。松原竜二も喜んで引き受けるに違いない。竜二が負けるかは賭けだが、アルバードにとって手堅いと言える程の賭けとは思えない。エリーナの提案はとても認められるものではなかった。


「………これも先程入ったばかりの情報ですが…アパン将軍を討ち取ったのがゾルトナーだとしたらどうですか?」


「……ゾルトナーだと!そいつはあの…………!!」







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「………狂死帝傭兵団?」


「はい。それが天雷将軍を討ち取ったゾルトナーが率いる傭兵団の名前です。」


普段は愛嬌をふりまくハルドルだが、今回はそのような余裕はないらしい。いつになく真剣で重い表情をしている。

いつも通り、休日を利用して竜二は隊員達と一緒に喫茶店に入ってくつろいでいた。今回は労う意味を込めてハワードやオーロら遊撃隊関係者全員を呼んでいる。


というのもここ最近の忙しさと言ったらない。

アパン率いる遠征軍が敗れたという報せは翌日にはレンデンガルドに届いた。それからというもの飛竜騎士団は捜索や救助に大忙しだった。夜に襲われただけに多くの兵士は方向感覚無いまま、四方八方へ散り散りになった。おかげで探索範囲を広げる羽目になり、それだけならまだしも敵部隊が潜伏しているかも知れないので、細心の注意を払いながら少しずつ少しずつ捜索範囲を広げるという地道な作業を行わなければならない。

だがそれだと時間がかかり過ぎ、落ち武者狩りで更に犠牲者が増えるかも知れなかった。そこで竜二率いる遊撃隊の出番という訳である。


ラプトリアの能力で敵領内深くまで飛行し、隅々まで探しまくった。ラプトリアに触れていれば隠蔽の効果が得られるのでハルドルも竜二と共に昼間の捜索に回り、リサはユーリーの能力の特性上、夜間の捜索に回った。

味方を見つけては連れて戻ってまた捜索、見つけては連れて戻ってまた捜索、の繰り返しを連日続けていた。かといって人命がかかっているから時間との勝負であり、手を抜くわけにはいかない。最低限の睡眠だけをとって数日間、捜索と救助と偵察に時間を費やし、昨日ようやく打ち切ることになった。

という訳で今日は久々の休日である。


遠征軍を負かした経緯については竜二の元に来た事は来たのだが、敵領内を偵察したかぎりでは敵の姿は一兵も確認できず、砦や前線の町に帰還したという予測が濃厚であった事から偵察は偵察竜騎兵に任せ、竜二達は救助を最優先するよう命じられたため、後回しになったのである。

幸いあの夜以来、今日までに一切の戦闘行為は確認されていなかった。

明日改めて夜襲の顛末を聞こうとしていたのだがハルドルは既に報告を受けていたのか、お茶を飲みながら教えてくれた。


アパンを打ち破ったのは狂死帝傭兵団という傭兵集団だった。その傭兵隊長がゾルトナーである。討伐や戦争加担、拠点制圧などの戦闘や殺生に関する依頼を主に扱い、驚異的な戦闘力を有し、夜戦が得意なことで知られる。アウザール大陸では数多の傭兵団が存在するが、その中にあって強さと残酷さは大陸中に知れ渡るほどであり、商人が結成している商業組合の中では傭兵団格付けで堂々の一位に君臨している。


アウザールには「傭兵ギルド」というものは無い。

傭兵達は仕事を探す場合、酒場や宿屋、集会所や兵士の訓練所などで依頼書が掲示されているため、これを見て依頼者に連絡を取る。だが信用が第一の傭兵稼業では、依頼者にとってその傭兵が信用できるかは分からない。そこで同じく信用第一な商人達が結成している商業組合が一時的な保証人や仲買人になることで傭兵達は仕事を請け負うことが出来る。

そうなると少しずつ商業組合の間で傭兵達のランキングが出来始める。個人の傭兵とは別に、傭兵団の分類で狂死帝傭兵団はここ数年、一位に居座り続けていた。

本来、傭兵は一匹狼の集まりであり、その傭兵達が他人の傭兵の権利と仕事を守るためにギルドを結成するという事はあり得ない事だった。そのため集団主義者の傭兵は他の複数の傭兵と手を組み、傭兵団を結成することが多い。集団で行動すれば分け前は減るが仕事は見つかりやすい。選べる依頼も多くなる。依頼料も反故されにくいという利点があった。

だが中にはたった一人の圧倒的な戦闘力をもつ傭兵のカリスマ性に惹かれて人が集まり、傭兵団を結成するに至る場合(ケース)がある。それが狂死帝傭兵団だった。それだけでもゾルトナーの強さを物語っていると言えよう。


「ゾルトナーは昔、元々魔道士でした。一流の魔道士だったのですが、剣才にも秀でていて剣術も学ぶようになりました。そこから徐々に頭角を現したのです。今となっては魔道戦士の草分け的存在ですな。」


魔道士は一度その職に就くと大抵魔道士として生涯を終える。魔導士は学術に精を出し、自らを鍛えて一流の魔道士になっていく。しかし魔法も使わなければ衰えていく。そのため魔導士は自分が会得した魔法を引退するまで鍛え続ける。魔道士に一度なってしまうと余程魔法の腕が落ちない限り、大抵安定した生活を送れる。どこの国でも魔道士は歓迎されるためだ。

これこそが多くの魔道士が専業として人生を終える理由ともなっている。

その常識を覆したのがゾルトナーだった。彼の出現により魔法も武勇も優れた魔道戦士という呼名が世間に広まることになり、専業で職に就き続ける常識が覆されたのだった。


「魔法も剣もただ単に扱えるだけならともかく、どちらも一流なのですから最強の呼び声を頂くのに時間はそうかからなかったようですな。私は見たことはありませんが、戦場で見た者が言うにはあの強さは遠目から見ても足がすくみ上がる程と言っていましたな…」


「そんなに……」


魔法の便利さと脅威さは帝国魔導士を見ていたからよく分かる。これに武術も加わば鬼に金棒だと思ったものだ。その想像を体現した者がいた事に竜二は驚きを隠せない。


「強いのはゾルトナーだけではありません。部下の幹部も一騎当千ぞろいです。一位でいられる所以でしょう。」


「ビボラも知っているのか?」


「私でなくても軍に籍を置いていれば情報は入ってきます。ゾルドナー以上に残酷な部下がいるとも聞きます。」


ビボラも情報を知っているようだった。そんな連中と味方が数日前に無念に殺されたと思うとさすがに同情を禁じ得なかった。もっともビボラはハルドルのように表情は変わらず、感情は読めない。



「ところで重い空気の中すまないが……………………いい加減離れてくれないか?」


「だってぇ〜閣下から芳ばしい香りがするんですもーん。」


竜二の脇には物欲しそうに微笑みながら腕をがっちりつかんで離さないリサがいる。身体に密着するまで密着して鼻を近づける。昨夜遅くまで捜索していて隊員の中で一番疲れている筈なのに、会って早々、ニコニコ顔で竜二にべったりであった。


「分かった。分かったから……ほら。」


竜二は仕舞っていた袋をリサに渡した。


「わ!ありがとうございますぅ〜!嬉し〜!」


リサは竜二から離れてハワードの隣に座る。その後は「美味しい美味しい♪」と念仏のように呟きながら微笑みつつハワードと会話をする。時にはハワードにあーんと食べさせたりしていた。さすがのハワードも気難しそうに竜二の顔を見合わせながらぎこちない笑みで食べ始める。

あれからというものリサはいつもこんな感じである。竜二がちょっとでも玉子ボーロを持っていると、リサはその匂いを決して逃さない。竜二の体に密着して隅々まで鼻を近づけてクンクンと嗅ぎ、ピンポイントで収納している場所を当ててしまう。竜二の汗や体臭も玉子ボーロの為なら気にならないらしい。場所を嗅ぎ分けると竜二の気を引くために甘えたり、笑ったり、楽しませようとしたり、時にプライドが無いのかと突っこみたくなるくらいの芸を披露したりとまさに犬に逆進化したのではないかと思う程であった。


玉子ボーロを持っていない時はハワードと一緒にいる時が多い。両者はデキてるのかと思ってハワードに問うても「そこまでの関係じゃない」と語っており、どうやらリサがハワードを想っているといった関係らしい。

自分が作ってくれたお菓子を此処まで気に入ってくれるのは竜二にとっては嬉しいが、自分より玉子ボーロの方が優先されるとなると、どことなく複雑な心境になるハワードであった。


『こりゃ袋を何重にも包むとか匂いを完全遮断する工夫が必要になるな〜』


などと考えていると帝国の伝令兵が喫茶店に入ってきた。


「休暇中、失礼します。雷鳴将軍閣下。伝令があってお伝えに来ました。」


いつもの竜二に伝言を伝えに来る若い伝令兵である。意外にも竜二が帝国軍に加入したときから伝令役を担っている青年であり、竜二との付き合い期間は帝国軍ではかなり長い方である。馬の扱いに非常に長けていて素人の竜二でも見事と思う程であった。


「君も毎度毎度大変だねえ。」


「いえ、これが仕事ですから…でも気遣いありがとうございます。」


あどけない表情で笑いながら竜二に礼を言った。


「ところで伝言とは?」


「その事なんですが、これからブルーノ将軍が作戦室に来てほしいとのことです。」


「これから?」


「ええ、申し訳ありませんがご足労願えますでしょうか?もう馬車の用意はしてますので。」


店の入り口を見ると確かにもう馬車が待機していた。護衛役の騎兵も傍に控えている。これだけ見ると豪華に見えるが休日を潰された竜二はとても喜ぶ気にはなれなかった。


「折角の休日なのに……分かったよ。」


竜二は立ち上がり、隊員達に一言掛けて馬車に乗り込んでいった。遠征軍本部に向かって消えていく馬車を見ながらハルドルは独り言ちる。


「またなんか苦難を与えられそうだな。我が隊長殿は…」


この一言に喫茶店にいる隊員全員が頷いた。




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