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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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遠征軍

遊撃隊の面々が戯れているその頃。


アパン率いる帝国遠征軍は、連合国首都に向けて少しずつ南下していた。

連合国軍は各所に防衛拠点を設けたり、幾つもの傭兵団を雇ったりして迎撃を試みて奮戦しているが、強大な帝国軍の前に徐々に戦線は帝国側が押している形となっている。

しかし、大軍を動かしにくい地形は相変わらずで、しかも戦闘民族出身だからか連合国軍兵士達は中々粘る。押しているとはいえ、このままではかなりの時間がかかるだろう。

お陰で帝国軍有利で進んではいるが、帝国軍もそれなりに少なくない犠牲者を出していた。

敵ながら手強いとアパンは感心する。だがアパンからすれば、竜二率いる遊撃隊にあれだけ活躍をされたあとに、際立った軍功がないとあらば遠征軍総指揮官として立つ瀬がない。

占領地をもっと増やすか、名だたる将を打ち取るなどしなければ、到底割りに合わなかった。


特A級の強さは瞬く間に遠征軍内に知れ渡っている。

当初、アパンは松原竜二と相竜の実力は未知数だったが、ポルタヴァ会戦で活躍した熟練のハルドルと一緒なら、ある程度戦果を残すだろうとは思っていた。だが彼らは出陣するやたった三騎で瞬く間に制空権を奪取してしまった。しかもその後、対地戦にも参加して多くの歩兵を削いでいる。


大したものだと思っているが、陸軍将校として飛竜騎士に軍功で負けるのはアパンの矜持が許さなかった。アパンは竜二達の戦いぶりを直接は見ていない。地上からでは空中戦の見える高さはたかが知れているし、あの時は補給や負傷者の運搬、残存兵の再編成、竜二達が勝った時と負けた時の作戦の策定などの執務や雑務におわれており、直接見れたのは対地戦だけであった。


それでも竜二達の活躍が戦局を動かす事になったのは事実であり、アパンは憤りを隠せない。かなりの強行軍で進撃していたのだった。幸い、補給は心配ない。兵士達には無理をさせる事になるが、彼らも落ち目の飛竜騎士に負けたくないと思っているはずだとアパンは思っている。

戦死者や負傷者は出たが、軍として崩壊するほどではない。帝国が雇用した複数の傭兵団も健在だ。まだまだやれる。少なくともアパンは疑っていなかった。


「この辺一帯の占領はほぼ完了か?」


「はっ、まもなく完了するでしょう。」


観念したのか、昨日まで粘っていた連合軍はようやく撤退した。恐らく次の防御拠点の砦まで退いて再編し、我が軍を迎え撃つ気だとアパンは推測する。


「天雷将軍閣下。そろそろ兵たちに休息を与えてはいかがですか?」


参謀格の将校が助言する。アパンに古くから補佐してきた付き合いの長い中年の男性将校だった。アパンの性格は知り尽くしているはずである。アパンは面子にこだわる男だし、竜騎士達に対抗意識が非常に強い。そんな男に助言したところで聞き入れてもらえるとは思えない。

だがそれでも言わねばならなかった。なにせ最後に休息を与えられたのは竜二率いる遊撃隊が出撃した日の更に前だ。それから数週間行軍し続け、そして連合軍と戦闘を行い続けている。夜に寝るとき以外は休みなし。行軍距離を稼ぐため、睡眠時間は縮小。時には夜通し行軍も行われており、兵の疲労は深刻だった。

もうすぐ春とはいえ、まだまだ寒い。連合国内は標高が高いせいか特に夜は冷え込む。寒さは確実に体力を奪う。兵の中には疲労で病気になる者も出始めた。

戦争とは本来、攻撃側より守備側の方が有利である。ここは連合軍の領地だ。いわば自分たちの庭も同然。今でこそ帝国有利だが、このまま無茶をし続ければいつ形勢逆転するか分かったものではない。いや、それならまだしももっと事態は深刻になりかねない。


「何を言う!今まさに我らが押しているのだぞ?この機を逃して、次にいつ訪れるというのだ?」


冗談ではないという顔だ。将校の予想は外れてはくれなかった。確かに戦機を逃がすのは命取りだが、それも自軍の状況次第だ。


「しかし、このままでは兵の疲労は頂点に達します。このままでは脱走者が出始めますぞ。」


そう深刻な事態は外部の方ではない。むしろ内部の方が深刻だ。中から崩壊し始めるとそれを制御するのは至難である。


「……そうなれば処罰するまでだ。それ以前にそのような事を考えるのはお前くらいのような者だ。皆、飛竜騎士に手柄を先取りされて殺気立っているじゃないか。むしろ、手柄を欲しくてうずうずしている事だろうよ。」


予想はしていたが、やはりダメだと将校は思った。

確かに竜二率いる遊撃隊によって戦況が大きく帝国軍に傾いた時、陸軍兵士達は「我らも我らも」と殺気走って進軍を開始したものだ。だが今の兵士達に「何を望むか?」と聞いたら「休息」または「睡眠」と答えるだろう。宿営地を見ればすぐ分かる。夜の警備をしている兵は集中力が無いし、朝に鎧を装着する時の兵士達の億劫そうな顔といったらない。

おそらく兵士達の願望は名誉や功績より断然優先順位が高いだろう。だがアパンは敵の事ばかり見て、味方の事を見ていない。


『このまま上手く行き続けるとは思えない…………願わくば連合軍が更に退いてくれればいいのだが』


そうすれば帝国軍兵士達の疲労は溜まるものの、高い士気は維持できる。そのうちアパンが満足してくれれば、どこかで休息をさせてくれるかもしれなかった。


だが将校のその願いはかなえられることは無かった。






その日の夜、夕方までに帝国軍による一帯の占領が完了した。村人が避難したために無人となった村を中心に陣を布き、幕僚達が村の空家の中で次の行軍先の最終打ち合わせをしていた時に突然周囲が騒がしくなった。

どうしたのかと幕僚達が外に出ようとしていた矢先、伝令兵が入ってきた。


「閣下!大変です!敵からの奇襲です!」


「なんだと!して敵の規模は!?」


「分かりません!何しろ暗くて正確には確認できないのです!現在、我々は四方から襲われています!」


「…四方からだと?」


この村は四方が山に囲まれている山間部にある。つまり山だらけだ。だが敵部隊が潜伏していれば一帯を占領したときに気づくはずである。アパンはなぜ四方から襲われているのかが分からなかった。


「閣下。今はそれよりも敵の撃退を!」


「わ、分かっている!全兵士に鎧の装着を!この村の周囲を固めよ!」


アパンは外に出てあわてて指示を出していくが混乱した状態では全軍に命令は届かず、各所で乱戦が起こるだけで帝国軍兵士はどんどん戦死していった。その後、村に火矢が撃ち込まれ、次々と村の家屋が燃え盛っていく。本営を固めようと村に密集していた帝国兵は次々と火に焼かれていった。逃げ出そうにも重い鎧が邪魔で逃走を阻む。

アパンは村が焼かれて帝国兵が逃げ惑う様をただ茫然と見ていた。


「な、なんという事だ………一体なぜこうなった……」


確かに占領を続けていたことで油断があったかもしれない。でも警戒を怠ったわけではなかった。兵はしっかり配備したはずだし、村の状態も念入りに確認した。更に言えば連合軍に夜戦が得意な将軍はいないはずだった。だが、この奇襲は見事すぎる。まるで絵に描いたかのような鮮やかさだった。


「……これは一体、誰の指揮なんだぁー!今の今まで連合軍相手に戦い続けて来たこの私が…私がぁー!!」


もはやアパンは錯乱状態だった。総指揮官がこれではもう軍として機能しないだろう。


「閣下!もう無理です!護衛兵と共にお逃げください!」


参謀格の中年の将校が傷を負いながらも近づいてきて助言する。今となっては自分の傍にいてくれる数少ない部下だろう。


「その前に頼む!確認してくれ!この奇襲の指揮官は一体誰なんだ!こんな奇襲が出来る奴は一体…」


「…余だ。」


アパンが言い終わらぬ内に将校の首が吹っ飛ぶ。血飛沫を上げて崩れ落ちる将校の後ろから張本人が現れる。

長身の巨体がそこにはあった。ここに来るまでに多くの帝国兵を斬殺してきたのだろう。全身返り血で全身鎧が真っ赤に染まっている。顔は仮面付きの兜に隠れて見えなかった。今でこそ真っ赤だが本来は漆黒の全身鎧に違いない。右手には長剣を持ち左手に大きい盾を装備している。まるで頭骸骨を象ったかのような薄気味悪い大盾である。全身鎧も悍ましい鎧でまるで地獄から這い出て来たような印象である。


アパンは恐怖で足が震えていた。だが確かに相手の持つ特徴的な盾の存在を知っていた。


「そ、その盾!貴様は……貴様はまさか………ゾ、ゾルトナー!?」


「正解だ…」


返答し終わると同時にアパンの体は胸部のあたりを真一文字に斬られた。斬られると同時にアパンの体は大炎に撒かれて瞬く間に骨灰と化す。悲鳴を上げることも叶わなかった。


「下らん…これが帝国兵だというのか。」


ゾルトナーは周囲に飛び散った骨灰を見つめながらつぶやく。いや、見下しているといった方がいいかもしれない。既にアパンの護衛兵達は始末されていた。周囲には大量の死体で溢れている。


「お見事です!ゾルトナー様!」


ゾルトナーの背後では駆けつけた帝国兵が拍手喝采でほめたたえていた。どんどん合流し始めており、最終的に十人程度の帝国兵が集まった。全体的に皆、歳は若い。殆どが独身で血気盛んな若者だ。装備している武器には血が付着して真っ赤に染まっている。一人二人斬ったくらいでは此処まで大量の血で染まらないだろう。


「お前達の方はもう終わったのか?」


「はい。帝国軍は退散していきました。」


「そうか…しかしお前達はそれで良かったのか?」


「同胞への未練はありません。アパンに付いところで使い減りされるのがオチです。我らは人間であり兵士です。道具でも奴隷でもない。」


帝国兵に限らず、第三者から見ればどんなに勝ってもアパンは進軍を止めなかっただろう。むしろ益々一人、意気込んで余計に兵を酷使したに違いない。

ここにいる若者達はそれを不服とし脱走するどころか、連合軍側に情報をリークしたのだった。もちろん帝国軍内における待遇に辟易していたというのもある。


「そうか…では今後は余に忠誠を誓えるか?」


「はっ!ここにいる全員が同じ所存です。」


十人が一斉に片膝をつき頭を垂れ、そして両手で自分の武器を持ち、ゾルトナーに向かって差し出した。これがアウザールの恭順の礼である。


「有難い事だ。余はお前達の気持ちを嬉しく思う。」


「…それでは!」


若者達が目を輝かせた。自分達を認めてもらえたんだと思った。そのために死ぬ物狂いで多くの同胞達を殺したのだから。


「うむ。ではさっそくお前達に命を下すとしよう…」


「はっ。何なりと!」








「……死ね。」



「は?」


どういう意味かと顔を上げようとする事すら叶わなかった。十人の若者達が一瞬で斬殺され、返り血が霧のように飛び散った。

包丁で輪切りで何度も切断したかのような斬り方だった。痛いと感じる暇も無かっただろう。


「…余は見苦しいのが嫌いだ。」


もはや聞くことはおろか原型さえ留めていない死体に向かってぼやきながら、ゾルトナーは夜陰に消えていった。



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