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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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防衛線越え

「むう~。さすがにアルサーブの体力が持たんか。」


ハルドルはリサと共に睡眠薬から覚醒した敵竜騎士を迎撃していた。数は少なかったが連戦でアルサーブは体力が消耗している。リサも体調が悪いようで防戦に徹している。その中で例外がいた。


「ハッ!アタシが全て滅ぼせば済むじゃないか。」


ユーリーである。

鍛錬でも一度も疲れたとは言ったことがないタフな肉体をしており、今までの鍛錬では全てリサが先に限界を迎えて竜舎に戻っている。リサを気遣っているためだろう。ユーリーは文句こそ言わないが体力を持て余して十分に満足出来ずに不満を募らせている事をハルドルは気づいていた。

ユーリー単独で鍛錬させようにも現場契約で単身での向上は限界があった。結果としてリサの体力の乏しさがリサのみならず、引いてはユーリーのやる気や成長まで阻害している。このままではユーリーの不満が爆発するのは明らかだった。リサがその事を気づいているかは不明だが、それを彼女に諭すのも気が引けた。もしそのような事をすれば、責任感の強い彼女の事、何をするか分かったものではない。

そのためにもリサの肉体強化は最重要課題であるがゆえにハルドルの頭が痛いところであった。


「だがこれで多少は不満が発散できるかもしれんな。」


ユーリーはまだまだ疲れた様子は見せていない。今までの鬱憤を晴らそうとばかりに敵を悉くなぎ倒している。如何なる鍛錬でも実戦に勝る訓練は無い。少なくともハルドルはそう思っている。

ハルドルは攻撃をユーリーに任せ、自分も自衛に徹することにした。もちろん、危なくなれば直ぐにでも手を貸せるように決して目は離さない。


だが暫くするとアルサーブは首をユーリーとは反対方向へ向けていた。まるで何か近づいているのを警戒しているようだった。ハルドルも一旦、ユーリーから目線を外し、アルサーブと同じ方向を見つめる。

すると答えはもう出ていた。


「そうか……倒したか。ブルーノがここまで執着するのも分かる気がするな。」


ハルドルがつぶやいた時にはもう合流する寸前だった。加速がついた突進は誰にも止められない。ラプトリアの容赦ない爪が敵を襲う。

次々と敵が切断されていった。


「ずっるー!カッコイイとこ持っていかれちゃったか。こっちは暴れ足りないというのに。」


思わずユーリーが不満そうにぼやく。だが一方で感心もしていた。


『だが、あれがスクリューロールアタックか…。威力といい、速さといい、豪快さといい、やっぱりアネキは他の竜とは格が違うねえ』


その後、ユーリーは残存兵を次々始末していき、竜二・ラプトリアペアは旋回してハルドルに歩み寄る。


「待たせたぁーハルさん!大事ない?」


「コチラは問題ありませんよ。リサの体調が悪いという事ぐらいでしょうか…」


「あ、ああ………ソレね。ラドルズとの戦いのせいなんだ。俺が遠因でもあるんだけど…」


「???そうですか……」


ハルドルは首を傾げた。ハルドルは竜二にはまだリサの体力不足の事をしゃべっていない。ハルドルはてっきり体力切れでリサは体調が悪いと思っていたのだが、違うようだった。ハルドルもラドルズについて淡泊な報告書しか見ていないのだから仕方ないともいえる。


「だけどこれで敵竜騎士は全部かい?」


「はい。とりあえず今のところは。」


「それじゃ、対地戦へ移行だ。ユーリー頼めるかな?」


「ああ、任せな。まだまだ暴れ足りないんでねえ。」


「リサは大丈夫?」


竜二は心配そうに見つめる。


「案ずるな……これぐらいどうってことないぞ……」


リサはこう言うが、余裕がないのは事実だった。しかし今は戦場。救援も期待できないとあっては休めとも言えない。竜二に出来ることは早く戦争に決着をつける事だ。幸い、対地戦ならリサは殆ど何もする必要が無いだろう。


ここから先は対地戦へシフトする。ちなみにラプトリアは不参加であった。

空対空では無敵なラプトリアも地対空では弱い。それはジンガ戦で思い知らされた。幾らステルスを使っても接近戦、それも間合いを極端に詰めた密着状態でなければ戦闘力を発揮できないラプトリアでは軌道を読まれたらアウトである。もうあんなドジはしないと竜二は心に決めていた。

対地戦に参加できない事を知らされたラプトリアは最初こそ不服そうだったものの、「自分のミスで自分が死ぬなら良い。だが他の味方にまで迷惑が及んだら洒落にならないだろ?」と竜二から諭され、空中で遊撃に回ることに同意した。


二騎が敵前線基地に向かうと竜二は陣営に戻り、アパンとブルーノにラドルズを倒し、敵飛竜騎士の過半を倒したことを伝えた。

すると待ってましたとばかりに帝国軍が一斉に動き出し、前線基地攻略戦を再開。今度はラドルズとアゼリという強敵がいないとあって兵力を小出しする必要がなくなり、総力戦が展開された。その間、敵飛竜騎士が散発的に向かってくるが既に過半がやられた連合軍飛竜騎士はロクな陣形が取れず、ラプトリアや帝国飛竜騎士達に次々と堕とされていった。

更にはラドルズを失ったことで連合国の空は丸裸同然となり、帝国飛竜騎士の良いように蹂躙されていった。


こうして制空権をとられたタカツキ連合国軍最前線基地は空・陸双方から猛攻撃を受け、二日後、帝国軍によって陥落し、周辺の町や村は帝国の影響下に入ることになった。こうして何年にもわたって連合国の堅守に手を焼き続けた防衛線はついに帝国軍に越えられることになったのである。





~ 五日後 ~


竜二はハワードと共に酒場でくつろいでいた。一対一で会話するのは久しぶりである。竜二はハワードとは気兼ねなく話せた。ラプトリア以外では自分の弱いところを曝け出せる数少ない人物でもある。

いや、若いために世間の事をまだよく知らないラプトリアにも、竜二は「大人」という皮を被ることがある。

そういう意味では()(さら)せるのはハワードとハルドルくらいだろうか。目立たないがハワードは竜二にとって心の支柱だった。

竜二は店内を見渡す。レトロなインテリアになっており、どことなく和めた。客も少なすぎず多すぎずといった客数で程よい賑やかさである。


「証書にはなんて書かれていたのですか?」


「正式に爵位が貰えるって。準男爵だけど…」


「良かったじゃないですか!正式に貴族として認められたという事ですよ?もし松原さんに子供が出来ても貴族を名乗れるのですから。」


「………嬉しさより嫌悪の方が強いですね。所詮名ばかり爵位じゃないですか。領地持ってるわけじゃないんだし。それでいて正装して貴族同士の立食パーティーとか行くんでしょ?」


「おや?松原さんにとって人脈形成が今後の課題では?」


ハワードは痛いところを突いてきた。この世界出身ではない竜二にとって、社会に順応し生き延びるためには人脈形成はれっきとしたサバイバル戦術である。戦闘力を持たない竜二なら尚更だ。横の繋がりが竜二を、更には相竜のラプトリアや部下のハルドル達を間接的に守ることになる。


「でも貴族の人達って爵位にうるさいんじゃあ…」


貴族のパーティーに出ても爵位が下なら不快な思いをするのではと竜二は懸念していた。


「それなら心配いりませんよ。松原さんは将軍位が高いですし、軍功も豊富です。上級貴族に決して引けを取りません。準男爵という爵位は言わば、そういう社交場に出るための参加資格、または参加証を貰ったと割り切って、将軍位をアピールして自分を売り込むのです。何なら勲章を使うのも一興でしょう。やり方は工夫次第ですよ。」


「かなわないなー教官には。」


やっぱりハワードは世渡り上手だ。この人なら治世でも乱世でも細く長く生きられる気がする。

竜二とハワードが話しているのは、今回の遠征における褒美に関する証書の内容だった。まだ連合国との戦は終わったわけではない為、伝令の竜使いを飛ばして簡易的な証書一つ送られてきただけだった。アパンやブルーノにも何らかの褒美が貰えたらしい。それでも戦時中に一隊長クラスに授けるのは異例であり、上層部が竜二とラプトリアに期待しているのが分かる。


「今後の出陣はどうなりそうですか?」


「今のところ、来そうにないですね。ラドルズという目の上のタンコブが無くなった今、極力陸軍でカタをつけたいんじゃないですか?」


実際のところ、竜二の予想は当たっていた。これ以上、竜二を活躍させると陸軍の沽券にかかわる。それは地竜騎士団も同じであった。よって最近は帝国陸軍と地竜騎士団主体で連合国攻略が進められている。飛竜騎士団はまだまだ健在ではあるが、フェルナンドの死と第一飛竜連隊の壊滅により兵力は低下していた。竜二達の活躍により士気こそ下がってはいないが、ブルーノからすればこれ以上の損耗は避けたいというのが正直なところである。よって飛竜騎士団は偵察任務以外は待機状態であった。

いつ出撃命令が来るか分からないので体力浪費を防ぐためにも余り過度な鍛錬をするわけにもいかず、時間に余裕がある。


「ラプトリアはもう完治したのですね?」


「完全に元通りです。もういい加減、アイツの能力の高さには最近慣れてきましたけどね。」


アゼリのブレスを完全には防ぎきれず、防火種の効果が届きにくい尾と翼の先端部だけはラプトリアは軽い火傷を負っていた。だが戦闘中は集中しているせいか本人も気にならなかったという。ラプトリアの再生能力の高さのおかげで今はすっかり完治していた。


「それなら、ただ休むのも時間の浪費です。連合国の町を散策してはいかがですか?異文化を学ぶのも何かの発見につながると思いますよ。」


「それもそうですね。リサの体調も良くなったことだし、気兼ねなく散策できるか…」


リサは無理をしていたのか前線基地攻略後、数日間寝込んでしまった。体力不足が彼女自身にもユーリーにも悪影響及ぼすかもしれないとハルドルから聞かされたときは内心焦った。早急ではないが、早めに手を打つ必要がありそうである。


町を歩けば体力強化の薬とか売っているかもしれない。早速、翌日竜二は町を散策することにした。



明日の予定が決まって早々と竜二は宿営地に戻るとその後、ハワードはただ一人酒場に残った。酒をチビチビと煽りながら一人悩む。


『私は松原さんの従士。だから正直に言ったほうが良いのだろうか?しかし彼とラプトリアの絆は十分深い。おそらく承諾しないだろう。首脳の思惑もあるし………。いや当面はユーリーとリサさんが優先か……何とか神殿契約させることが出来ないものか………』


「お悩みのようですね。ハワード先輩。」


「!!」


いつのまにか目の前の席に微笑むビボラが座っていたのだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「ラドルズの行方はどうなっているのだ!!」


「捜索範囲を広げて全力で捜索中ですが…今のところ報告はありません。」


「落下地点は特定できているのだろう?なぜ見つからないのだ?」


あの戦いの後、ラドルズとアゼリは行方不明だった。

ラドルズとアゼリの落下地点はおおよそ特定できても良さそうなものだったが、ラドルズが気圧を変化しまくったせいでトウセイ山脈上空は霧に包まれたり、厚い雲に覆われたり、強風が吹いたりなど天候にも影響が出てしまい、捜索は翌日から開始となった。一晩経てば手がかりは大幅に減るだろうが、二次被害を防ぐためには仕方ない。例えラドルズが移動したとしても付近を調べれば、多少の手がかり位はあるはずだ。


「ですが空から落下付近を捜索した限りでは、痕跡が見つかりませんでした。高度を下げて捜索も試みましたが、まだ有力な手掛かりは得られてません。」


撃墜され本当に落下したのなら雪に跡が残っていたり、血が付着したりなど痕跡があってもいいはずだ。只でさえ飛竜は視力に優れている。だがその飛竜の視力をもってしても痕跡が見つからなかった。

一番の可能性は大雪が降って全て雪によって跡形もなく埋もれてしまった事だろう。山の天気は変わりやすい。まして今は冬だ。一晩で覆い隠すくらい雪が積もる可能性は十分ありえる。そうなればラドルズは落下の衝撃での転落死か、寒さによる凍死で確定だ。

だがそれを副官はアイザックに言う気にはなれなかった。言えば更にアイザックは取り乱しそうだったからだ。ここ数年、帝国軍の侵攻に母国を守ることに全力を注ぎ、アイザックが肉体的にも精神的にも疲れていることを副官は良く知っている。もっともいつかは言わなければならないだろうが…


「これで…これで我が領土の……少なくとも北部の制空権は帝国のモノになった。戦況は限りなく不利だな……」


アイザックは俯いてそうつぶやいた。制空権はアウザールにおける戦術に大きく左右される。タカツキのように山々に囲まれて海からの軍事行動が出来ない内陸国では尚更の事だ。


「いえ、まだです。ラドルズの素行から察するに敗北する可能性は当初からありました。ですが我らには精強な光竜騎士団の方々がいます。そうでしょうレスタ殿?」


副官は横に控えるレスタに目を向ける。レスタは会話に介入せずに離れて二人を見守っていた。外部の者が国の公事に口をはさむべきではないと心得ているためだ。彼は帝国に対抗するため、教団が遣わせた騎士だった。身分は小隊長の地位に過ぎないが、光竜騎士団は言うならば竜騎士達のエリート集団。一隊員でも各国の小隊に互角に戦えるほどだと言われる。


国の要請に小隊一つしかよこさないとは、要請した国を愚弄したともいえる規模だが光竜騎士団はエリートゆえに兵数が多くない。基本的に聖教も光竜騎士団の派兵に関しては出し惜しむ傾向が強く、友好国であっても小隊でさえ出し渋る。それゆえ今回の派兵は小隊規模ではあったが、喜ぶ者は多かった。


「お褒めに預かり光栄です。副官殿。必ずやご期待に応えてごらんにいれましょう。」


「勝算はあるのですかな?」


「一対一では難しいかもしれません。そこは部隊運用で打破します。」


こう言われてアイザックは複雑な表情を浮かべた。嬉しさと不安と猜疑心が入った表情といったところだろうか。こんな顔されてレスタも内心不満を抱くが、既に敗戦してA級騎士を失い、士気が下がりつつある戦況では同情できる。レスタは不満を顔におくびにも出さずに続けた。


「あの帝国軍の竜騎士の駆る竜は、私が見たところ恐らくステルスドラゴンという種だと思われます。特殊系のAランクに属する竜です。」


「特Aですか!?」


副官は驚嘆した。というのも彼はこの人生において特殊系の竜を見たことは殆どない。その中でAランクとあれば稀有な存在だ。普段、戦場に出ている者なら特殊系も何回か見たことがある者もいるだろうが副官のような事務畑出身者には「特殊系のAランクなんて本当にいたんだ」とぼやきたくなるくらい遠い存在だった。

アイザックも同等なくらい驚いたが、副官に比べれば幾らか落ち着いていた。彼は竜騎士でこそ無かったものの戦場で過ごしていた経験がある。


「……………特殊系といえば確かに〝災いをもたらす竜〟だの〝邪竜〟だのと悪い評価しか聞きませんが、それはレスタ殿のような光竜騎士団の方なら竜の特徴や弱点くらい知っているのではありませんかな?」


アイザックの疑問は尤もといえた。聖教といえば竜と魔法を統括しているとさえいえる絶対的な存在だ。レスタはその直轄の光竜騎士団の小隊長なのだ。いくら特殊系とはいえ、教団関係者なら生態の一つや二つ知っていてもおかしくないはずだ。


「実はこれはまだ公に出来ないのですが……………………あのステルスドラゴンは…………〝イシスの悪童達〟の一種なのです。」


「「イシス!!」」


アイザックと副官が大声を上げる。この世界でこの名前を知らない者はいないだろう。


「…という事は、このままあの竜を放っておけば……」




「ええ…帝国に属していることからも………間違いなくアウザールは混沌な世界へとなっていくでしょう。」



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