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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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出撃

「あれで良かったですか?副官殿。」


「ええ、ご協力感謝します。レスタ殿。」


ラドルズが竜舎に向かったあと、二人は小声で会話をしていた。アイザックの副官はしてやったりといった顔である。礼を言われた男の名はレスタという教団から派遣された飛竜騎士の隊長だった。光竜騎士団に所属しているそうである。多額の寄付金を納めただけあって精鋭の光竜騎士団員を派遣してくれた事に連合国首脳は喜んだものだ。


尤も聖教からすれば寄付金の見返りに光竜騎士団員を派遣したのではなく、世界情勢の均衡を考慮しての派遣であるが、それは連合国首脳は勿論、レスタ自身も知らない。


「しかし、このような演技に引っかかるとは………奴は性格どころか、判断力まで低下してしまったようですな。」


法皇の命令書は偽造であった。印も偽物であり、ちゃんと命令書の内容を確認すれば分かる事である。だが焦ったラドルフはそのような考えに至らず、まんまと騙されたのであった。

勝手に法皇の名を使う事は許されるものではないが、権力者の名を利用するのは政治面において良くある手口である。

外部の副官が命令書を読み上げたなら、ラドルズも怪しんだかもしれない。教団関係者が読み上げたことによって真実味が増したのだ。


「副官殿、お願いがあるのですが帝国軍のA級騎士との対戦の時は、遠目から検分させていただきたいのですが構いませんか?」


「構いません。アイザック代表には私から話しておきましょう。ですが何のために?」


「………ラドルズに負けるようならその程度の騎士という事です。ですが強いようならこの眼で見ておきたいのですよ。ラドルズは貴国の騎士ですから一番手は譲りますが、実は私も戦いたいのですよ。せっかくのAランクなのですから。本心ではみすみすラドルズにくれてやるのは惜しいとさえ思っています。」


武人の性という奴だろうか。事務畑出身の副官には分かりえない世界だった。


「……承りました。代表にはわたくしめから伝えておきます……」


「ありがとうございます。」


腐ってもAランクだけあってラドルズは連合国最強の竜騎士なのだ。そのラドルズをあからさまに雑魚呼ばわりしている「お前はどれほどの強さなのか」と問いただしたかったが、今回協力してくれた手前、強くは言えなかった。副官は退室し、アイザックの執務室へ向かう。


帝国のAランクの竜の強さは連合国に詳しくは届いておらず、ただ漠然と「とにかく速い飛竜」というくらいしか伝わっていない。

それも仕方ないと言える。連合国軍は只管(ひたすら)アパン率いる遠征軍と対峙していたため、情報収集はそっちに力を注ぐことになった。

しかも竜二は内乱時、殆ど帝都周辺で戦っていたため、諸外国の人で竜二を見た者といえば傭兵くらいしか見ていない。その傭兵達も今度は連合国との戦いのために帝国と再契約してしまい、帝国外に出る必要が無く、国外に竜二とラプトリアについての情報が流出していないのだった。

強化代行している際に交易していたことが噂になって一部の商人達から広まり、「とにかく速い」という事だけは連合国上層部にも伝わっていた。


『あとは身体的特徴くらいか……』


暗い銀色の飛竜で、竜にしては線は細い方で、大きさ的には目算ながらアースドラゴンと同じくらいという事だけは聞いている。


だが肝心の竜騎士の方はさらに情報が少ない。愛嬌ある商人見習いみたいな痩せ型の青年という事ぐらいだった。

名前も不明。二〇代くらいだと言われているが年齢も不詳。もっと情報が欲しかったが、何人の商人に聞いてもこれ以上は分からなかった。商人達の頭に残らないという事は言い換えれば際立った外見的特徴が無いともいえる。

各国の首脳は騎士より飛竜の方を重視的に情報を集める傾向が強く、連合国首脳も騎士の情報収集は軽視した。


『仮にもAランク。竜ももちろんだが、もう少し騎士も調べた方が良いと思うが……』


だがなんにせよ教団竜騎士自らが出向いてくれるのは悪い条件ではない。もし形勢不利になった時、ラドルズを援護してくれるかもしれない。

例えラドルズが負けても何らかの情報が得られるだろう。勝ったら尚良し。ラドルズについては偽造命令書の下、「帝国軍を撃破せよ」と伝えてある。例え、帝国軍竜騎士を倒しても帝国軍撃退するまで強制的に出撃させられるだろう。


『さすがの帝国もAランクが撃墜されれば戦意が下がると思うが………果たして退いてくれるかどうか』


一番は外交交渉だ。Aランクが勝っても負けても避けて通れない。そのためにはあらゆる策を講じる必要があるだろう。


『いや、それもAランクを倒してからだな。帝国A級騎士と帝国陸軍が猛攻してきたら外交もへったくれもない。』


そこまで考えると副官は執務室へ足早に向かっていった。

心中では嫌な予感を抱きながら……





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「ユーリーの事、申し訳ありませんでした。代わってお詫びします……」


「……あーいや今後、気を付けてくれればいいさ。高い出費ではあったけど……」


リサは申し訳なさそうに頭垂れている。

リサが謝っているのはユーリーを馬鹿にした男性兵士達の事である。ユーリーは手当たり次第に三人を叩きつけたおかげで全員大怪我を負った。


挑発したのは彼らだという事もあって制裁金と賠償金は免除されたが治療費は全額負担という事になった。

だが多くの同僚からは意外そうな顔をされた。というのも元々帝国内では陸軍の発言力が強かったが、現在の竜騎士軍団は質も量も全盛期に程遠く、肩身が狭いのが正直なところである。結果として帝国軍では陸軍の発言力が益々増してしまい、絶対的権威となっている。

例え陸軍が悪くても陸軍が「善」と言えば、他の部署の軍人は言い返しづらい気風となっていたのだ。

制裁金が免除されたのは竜二がA級騎士であり、内乱時に功績があるうえ〝雷〟の将軍の反論だったからに他ならないとされた。

他の竜騎兵達は今まで余程我慢してきたのだろう。


「やりましたね!」

「凄いじゃないですか!」

「さすが雷鳴閣下です」


口々に竜騎兵から羨ましがられた。竜騎兵達はどれだけの屈辱を受けたのだろう。竜二は別に金をケチったわけではなく、身体に障害が残るようなら慰謝料も払うつもりだった。だが怪我が完治すればまた戦えるとのことだったので治療費だけに留めたのである。

賠償金などは請求していたらキリがない。本人達はともかく、軍にまで払いたくは無かった。「陸軍の方は私を破産させたいのですか?」と言い返したら、お前が言えとばかりに陸軍将官達は、お互い目配せをし始め、結局審議の結果、治療費の支払いだけになったのである。


『A級騎士を怒らせるのは得策ではないと思ったのかな?』


何にせよ竜二の出費は安くはなかったけども治療費だけで済んだのだった。


ちなみに雷鳴将軍になってからというもの、竜二の待遇は変化している。

士爵館の私室は一番広い部屋になった。会議室は回数制限があるところを無制限。毎日の食事が選択制。他にも兵士寮でリサに個室が与えられたり、防具の選択権が与えられた。

なによりも他の竜騎士団員が敬意と礼儀を尽くした態度をとってくれるようになった。当初はうきうきしながら軍人生活を楽しもうとしたが一週間の内、六日間が訓練と資金調達で消費するため、今まで好待遇を味わう機会が無かった。

今回の遠征は本当に雷鳴将軍になったんだなと再認識する機会でもあったのである。


目線を移動させるとラプトリアがユーリーを注意しているところだった。

リサを庇おうとしたユーリーをリサが注意してもユーリーは納得いかないだろう。尊敬しているラプトリアの言う事なら納得してくれると思い、ラプトリアに頼んだらあっさり快諾してくれた。

有難い限りである。


「あ、あの今回の事は必ず戦場で返しますから!その……解雇は…」


「分かっているさ。君を除隊させやしないって。今回の一件でユーリーの性格が分かったじゃないか。今後、彼女と接する時の参考にしてくれ。次にこういう事があったらきちんとユーリーを止めるんだぞ。」


「はい!ありがとうございます。」


リサはパッと明るい顔になった。

リサは解雇処分にされることを恐れているらしい。貯蓄という貯蓄が無いのだから当然だろう。だが竜二にとって戦場でのリサは心強いの一言であるため、余程の失態をしない限り除隊させる気は無い。


「さーて、それじゃラプトリアのお説教も終わったみたいだし、出陣命令あるまで鍛錬と行きますかー。」


「了解です!」


ハルドルと合流し、遊撃隊内での鍛錬を開始しようとしたがすぐさま伝令が来た。


「大変です!雷鳴閣下!フェルナンド・ヴェッツ隊長率いる第一飛竜連隊が壊滅しました!」


フェルナンドといえば祝賀会の時、竜二に真っ先に声をかけてくれた連隊長だった。祝賀会の時は初見という事もあって人格が分からなかったが、彼は公明正大な性格で人望が厚く、戦績も豊富で周囲からはブルーノの次は彼が飛竜騎士団長になるのではと囁かれていたほどであった。一時は彼の連隊に入れば良かったと何度も思い直したものである。


「え!!それで隊長は?」


「……戦死したそうです。」


「そ、そうか…」


確か第一飛竜連隊は内乱時、エバンスと共に前軍にいたため殆ど人的被害がなかった。そのせいか今回の遠征では飛竜騎士団の攻勢第一陣は第一飛竜連隊が行うことになっていた。竜二が連合国へ攻めずに陣内で待機していたのもそれが理由である。


「一体、敵は誰?」


「それについて会議が開かれるとのことなので陣所へ今すぐ集結せよとのことです!」


「分かった!」





竜二はリサに会議に行く旨を伝えると急いで陣所に向かった。暫くすると竜騎士団幹部ほぼ全員が集まり、会議が始まった。


「全員揃ったな?では会議を始める。もう知っていると思うが第一飛竜連隊が壊滅し、フェルナンド隊長が戦死した。」


ブルーノは周囲は見渡す。半数は意外そうな顔で、もう半数は既に知っているのか神妙な顔だった。今回の遠征軍にはエバンスは同行していないため、竜騎士達の指示はブルーノから伝わっていた。


「敵はフェルナンド隊長ほどの人を倒すとはひょっとしてラドルズが出てきたのですか?」


「そうだ。前線が突破されない限り出てこないと思ったのだがな…」


竜二は会話に入れなかった。ラドルズとは誰なのか?まずはそこから知りたかった。


「ですがフェルナンド殿を倒す程の奴となると我らで対抗できる者と言えば松原殿くらいしか……」


話についていけないまま周囲の視線が竜二に集まる。


『おいおい一斉に俺を見るなよー』


勝手に話を進めないで説明してくれよ。と言いたかったがブルーノから指示が来た。


「その通り。我々の目的は敵陣営の上空の制空権奪取だ。第一飛竜連隊が壊滅した今、残存兵力は二個連隊と遊撃隊だけだ。これ以上減らすわけにはいかない。松原隊長、命令だ。君の隊でラドルズを倒し、制空権を確保せよ。」


話が飛び過ぎではないかと竜二は思ったが、何よりもまず聞きたいことがあった。


「待ってください!!そもそもラドルズとは誰ですか?詳しく説明してください!」


「これは失礼した。ラドルズとは……」


ブルーノからの説明だとラドルズは連合軍最強の竜騎士で竜二同様Aランクだそうである。数年前までは勇ましい性格だったが、最近は鍛錬をサボって遊び呆けているらしい。

今まで帝国軍が攻撃を仕掛けても出陣してくる様子はなかったという。そんなラドルズが出撃してきたのだ。敵も本気になったという事だろう。


「詳細は残存した第一飛竜連隊の連中から聞いてくれ。ついさっきまで戦っていたのだからな。奴が他の敵竜騎士と共に出撃してきても、遊撃隊がラドルズ迎撃に集中できる様、支援役として別中隊をお前につけよう。三日以内に出撃するように…以上だ。」


それだけ言うと会議はお開きとなった。これなら別に会議なんか開かずに俺だけ呼べば良かったんじゃないの?と心の中で突っ込みながら駐竜場へ戻っていった。







「………という訳で三日以内に出撃することになった。出撃準備頼むよ。」


「承知しました。ですが実戦だというのに隊長は緊張の感じがしませんね。二戦目で慣れましたか?」


ハルドルは興味深そうに尋ねて来た。確かに竜二は見た感じ平然としていた。


「まさか。二戦目でAランクと戦闘なんて自分の運命を呪っているとこ…………なんだけど実はラプトリアには一足先に今回の出撃について話したんだ。そしたら余りの前向きぶりに俺が気後れしてしまう始末でさ。下手に弱気じゃいけないと思って……」


大丈夫かなーと緊張感丸出しで、渋々ラプトリアに打ち明けたら「楽しみね」「頑張りましょう」「きっと勝てるわ」と次々とポシティブな言葉で返され、馬鹿馬鹿しくなってきた。ただ跨っているだけの竜二が怯えていては本当の役立たずになってしまう。騎士である竜二こそが相竜であるラプトリアを励まさなければならないのに、全く逆になってしまった。せめて虚勢ぐらい張らないとと思ったのである。


「ま、ハルさんとの指導の成果を試してみたいというのもあるんだろうけどさ。」


二か月の鍛練の末、どれだけ強くなったかをラプトリアは試してみたいのだろう。出撃命令を密かに楽しみにしていた感がある。竜二も敵がAランクでなければ、もっと余裕で虚勢を張れたであろう。


「出撃はいつでしょうか?」


リサが遠慮がちに聞いてきた。


「こういうのは早い方が良いのだろうけど明後日にしたい。教官やビボラに可能な限りラドルズという竜騎士の情報を調べてもらっているんだ。本来は隊長の俺が聞き込みすべきなんだろうけどラプトリアと最終調整しようかと思ってさ。ハルさんはラドルズについて何か知らない?」


「残念ながらラドルズは私が休職中に連合国に赴任していますからな。彼の顔も知りません。」


「それじゃ二人の知らせを待つことにしよう。明後日に出撃ってことで。」


明日の昼にはハワードとビボラは調べ終わり、夜には最終打ち合わせに入った。その翌朝、松原竜二率いる第一特別遊撃隊は支援役の二個中隊と共に出撃したのである。






ブルーノは竜二達が飛び立つその様を本陣で見ていた。


フェルナンド亡き今、飛竜騎士団の戦闘力はさらに低下している。竜二に半ば強引に出撃命令を出したのも会議と託けて召集したのも各隊長達に現状を再認識してもらうためのパフォーマンスだった。

これで多くの隊長達は現在の竜騎士軍団の有様を理解してくれただろう。

エバンスも現状に頭が痛いだろうが、ブルーノにしてももはや竜二に頼るしかないというのが本音である。


『頼むぞ。ハルドル…』


今、竜二に死なれては帝国は本土の制空権でさえ、奪取される可能性がある。それだけは避けなくてはならない。

出来ればもう少し危険の少ない戦闘を経験させておきかったとブルーノは思う。

そんな竜二をブルーノは見守るのだった。



この連合国との遊撃隊の戦いが竜二達の名声はもとより悪名の方も高まっていく事を本人達はまだ知るべくもない。






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