タカツキ連合国の歴史
タカツキ連合国
主要国の中では歴史は新しく、誕生してから二十年少々しか経ってない。
当時、この辺一帯はタカミヤ侯国とツキヨミ自治政府とが存在しており、お互い領土争いをしていた。鉱脈を巡っての戦争であり、これを「鉱石戦争」と呼ぶ。
というのも両国は地盤が荒く農業には適さなかったものの、数々の良質な鉱物が採れて燃料用鉱物、武器防具用鉱物、細工や茶器などの芸術品向きの鉱物などが多く採れた為であった。
国土面積と人口の割に、この両国の合計した国家黒字額は帝国の年間予算の半分近くあったというのだから、鉱物の恩恵恐るべしである。両国間の国境沿いにある炭鉱地を自国領だと主張しあい戦争が続いていたのも国益を考えると自然の流れと言えた。
良質な鉱物が採れると職人の意欲も増し、腕も上がってくる。各国から多くの職人希望の有望な若者が弟子入りし始めて鉄工業が発達していった。タカツキ連合国の人々は歴史を辿ると戦闘民族であり、防具は軽装にして身軽にし、自分の得意としている武器にこそカネを掛けるべきという考えが根強く、それが鉄加工の進歩、ひいては武器生産技術発展につながったとも言われる。
防具の制作技術は帝国が一番だが武器…特に白兵武器の技術力はタカツキ製が最高と言っても過言ではないだろう。
そんな潤沢な国土を二大大国が放っておくはずもなく、連邦と帝国で牽制しあっていた。
北部のタカミヤ側は帝国の援助を受け、南部のツキヨミ側は連邦の援助を受けて戦争を繰り広げていたのである。どちらかが勝てば支援した方と国交を樹立して鉱物の輸出を公認するというものであった。
大国の援助を貰った両国間の戦争はますます激化していったが、帝国も連邦も他国間の戦争で自軍の兵士を死なせるわけにはいかないとして兵士は派遣せず、支援とはいっても軍資金や兵糧や武具などの物資支援と難民の保護にとどまった。
そうなると国力が疲弊するのはタカミヤ・ツキヨミ両国だけであり、連邦と帝国は漁夫の利を得ることになる。この大国の拮抗差が崩れることを危惧した聖教は休戦協定を促した。
両国は最初こそ耳を貸さなかったが次第に利権を巡って自国内の領主同士で内紛まで起こる様になり収拾がつかなくなると、ようやく休戦協定に応じるようになった。
しかし、それで納得できる連邦と帝国ではない。何年も予算を割いて多額の軍事援助してきたうえ、難民まで受け入れていたのにも関わらず鉱物の利権が獲れないという、正に「水泡に帰すことになる」とは我慢ならない事であった。
遂には大国同士が軍を動かす事態にまで発展した。こうなると長い戦争で軍の力が弱まっているタカミヤ・ツキヨミ両国はなす術がない。
首脳同士が話し合った結果、今まで通り自治を認めながら議会を設立し法を統一して連合国にしようという構想が浮上した。これなら国を守るだけなら大国にも対抗できる。聖教の力を借りられることが条件だったが聖教は快諾して両大国を牽制し、宗教面に関する圧力をかけた。
たとえば言う事を聞かない国は信者でも新教団領への入国不可、光竜騎士団に入隊資格が得られない、支殿を巡る巡礼の禁止などである。信者にとって法皇の意向は絶対。信者である民衆を敵に回すことになるとして両大国とも渋々軍を引いた。
これにより六年続いた鉱石戦争は終結。連邦・帝国の軍事行動にまで巻き込んだ期間も含めると実に七年にも及んだ。タカミヤ・ツキヨミ両国は正式に連合し、お互いの最初の二文字をとってタカツキ連合国と名付けて現在に至っている。
軍を後退させたとはいえ現在でも連邦も帝国も国境線近くに陣営を敷いて軍を置いており、隙あらば攻める姿勢を見せて両者とも睨み合っていたが、それ以上の軍事行動をすることはなく、連合国内は十数年間平和が続いていた。
そうライデン帝国がバレリー王国に負けるまでは……
ライデン帝国は「バレリー王国・聖甲騎士団」連合軍にポルタヴァ会戦で敗退すると資源大国であるタカツキ連合国に照準を定めた。まずは軍事力が低く、数多くの鉱脈をもつタカツキを攻略して地固めしようと思ったのである。
いざ戦いを始めてみるとタカツキ自慢の高性能な武器も頑強な帝国兵の防具の装甲の前では大きな優位性にはならず、世間の誰もがタカツキ程の軍事力では帝国相手に長くは持たないだろうと思っていたが、帝国は予想以上に苦戦を強いた。
一つ目の理由はタカツキ連合国の場所にある。要害堅固な長い渓谷を通過せねばならず、高地にあるため大軍を向かわせるには不向きであった。だからこそ鉱石戦争では連邦も帝国も直接兵を派遣せずに軍事援助するに留まったともいえる。
それでも圧倒的な軍力差であることには変わりない。帝国兵の守備力の高さも加わって力攻めでも時間は掛れど、やがて戦線は帝国有利になると思われた。だが連合軍にとって狭い谷道は守りやすく、小回りの利かない帝国兵をとことん苦しめたのである。
二つ目の理由はタカツキ連合国の国土の割に潤沢な資金力である。これを最大限に使って世界各国から一流の職人を引き抜き、最新の武器を次々と作らせて武力を向上させたり、各地に散らばる能力の高い傭兵やフリーの竜使いを雇ったりした。他にも聖教の力を借りて寄付金を奮発する代わりに多くの教団兵も派遣してもらうなど資金力を盾に外部から力を得た。
いわゆる軍の一部をビジネスでいうところの「アウトソーシング」を行ったのである。
三つ目の理由は言わずと知れた帝国の竜騎士不足である。一部のランクの高い地竜騎士はいとも簡単に渓谷を進んだが、それはごく一部であり、大半の地竜騎士及び地竜騎兵は教団兵によって直に竜の特徴や弱点を指南された連合国兵士の敵では無く、死傷者が増えるだけだった。ランクの高い地竜騎士といえども少数で〝知恵と武器〟を身に着けた連合国軍の堅守を突破するにはリスクが非常に高かったのである。
では飛竜騎士で対地攻撃出来ないのかと言うと今の帝国にとっては無理な話だった。なぜなら先のポルタヴァ会戦で地竜騎士以上に戦死者を出した上に、【厄介な強敵】が連合国の空に君臨していたからである。
連合国司令部会議室にて
「帝国軍がまた攻勢する構えを見せております。」
「またか………暫くは内乱の後始末で大人しくしてくれると思ったのだがな…」
「反乱側の貴族領を取り込むことで帝国の兵力は減るどころか増えております。大人しくするどころか戦争したくてうずうずしているでしょう。」
「帝国は我々が負けない限りいつまでも戦争を仕掛けて来るのだろうか……」
「何度攻めて来ようが同じだ」と侮る気はなかった。それだけ帝国軍は素人でさえ油断する気も失せるほど強大であった。今まで何度も攻められていたが、その度に肝が冷えたものである。タカツキ連合国の領土は守るには最適の場所だが、裏を返せば攻めにくい地形ともいえた。
今まで攻められては追い返してきたが、帝国軍はそのたびに息を吹き返して攻め立ててくる。その理由は攻勢に転じて追撃をしにくい地形のせいであった。防衛線を守ることは容易でも、帝国軍の軍力を弱らせるほどの痛手を負わせることは出来ず、少し打ち倒せば帝国軍は退却。また少し打ち倒せばまた退却という継続的な小競り合いの連続であった。
戦果こそ連戦連勝で連合国軍の士気は高くなっているが、このまま消耗戦になれば数に勝る帝国軍がいずれ勝利するのは必至。
聖教から内乱を煽ることに成功したと聞いたとき、連合軍首脳は諸手を上げて喜んだものだが結局期待外れに終わってしまった。挙句の果ては聖甲騎士団が早々と撤退してしまうという報告まで来る始末である。
連邦は連邦でタカツキを狙っているため、牽制をお願いすることもできない。タカツキにとっては防衛においてアウトソーシング(外部委託)せざるを得ないのであった。
「だが帝国は今回も同じ攻勢手法だろう?さすがに兵士達も慣れてきているはずだ。防備に務めるようにせよ。」
「アイザック代表……それがそうとも言えないのです。」
相手の懸念を聞いた男の名前はダリル・アイザック。タカツキ連合国議会の最高責任者であると同時に国家元首でもある。タカツキは二か国が連合しているため、元首は〝代表〟という呼び名であった。
「何かあるのかね?」
「最近、支殿の手違いで帝国軍にAランクの騎士が赴任したようでして、今まで以上にさらに手強くなったと見るべきでしょう。」
「何だと!!して飛竜騎士か?地竜騎士か?」
「それが…飛竜騎士だそうで……」
「何という事だ……となるとこれからは空の戦いにも気を配らねばならないのか……」
ダリルは肩を落とした。陸戦では帝国軍に手を焼きつつも勝利を続けている。それは地形に助けられているに過ぎなかった。だが空には地形など関係ない。連合国が帝国相手に何とか渡り合っているのは制空権を奪われていないからに他ならなかった。
「代表。気にすることは無いのではありませんか?こっちにもA級飛竜騎士がいるのです。彼がいる限り連合国の空は安泰でしょう?」
「奴か…あまり頼りたくはないが………今回ばかりは仕方ない。奴にはいつでも迎撃できるよう準備しておけと伝えろ。」
「……承知しました。」
弱い国ほどランクの高い竜騎士が必要という聖教の方針は勿論タカツキ連合国にも当てはまる。タカツキ連合国にもAランクの飛竜騎士が確かに存在した。
これから帝国と連合国との主な戦いは陸戦から空戦へと移行することとなった。しかもCとB両ランクを跳んでいきなりA級飛竜騎士という【厄介な強敵】との戦いになる事を竜二が知るのはもう少し先である。




