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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
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相竜探し

竜二が竜使い候補を探している頃、ビボラは窓口付近のベンチで休んでいた。そこに髭面の老人が近づいてきてビボラと目が合う。


「また君がここへ来るとはな。何をしに来た。」


「私の新しい雇い主が竜使い候補を探しているそうなので、留年生に会えるように取り計らっただけです。魔法の素質があるものなら何人か竜騎士に向いている輩がいると思いましてね。」


そう言うとビボラは立ち上がって一歩前に進み姿勢を正してお辞儀をする。


「お久しぶりです。校長先生。」


校長と言われた男は杖を突いて立ち尽くしている。目の前に現れたのは他でもない魔道学校校長であった。


「久しぶりだな。もうかれこれ七、八年ぶりか?今となっては懐かしいものだが…処置が甘かったな。またここへ来るとは当校接近禁止命令を出しておくのだった…」


「お厳しいですね。」


くすっと笑いながら校長を見つめた。そのまま校長はビボラに着席を促す。


「校長先生が立たせたままで私が座るのは…」


「構わん。むしろ座りなさい。君は油断がならん。また何かしでかすか知れん。座っていた方が良いのだ。」


座れば容易に近づきにくくなるからだろう。校長は警戒心を隠そうともせずにビボラと距離を保っていた。ビボラは納得し「それでは失礼します」と再びベンチに腰掛ける。


「新たな雇い主とは誰だね?」


「…軍人です。校長も耳にしていませんか?空位だった雷鳴将軍の将軍位が埋まったことを。」


「報告は聞いている。飛竜騎士だそうだな。なんでもAランクの竜騎士とか?」


「はい。その将軍閣下から私に声をかけていただきまして承諾しました。」


校長はまだ報告を聞いただけで竜二の顔は見たことが無かった。彼女を誘うとはどんな男なのだろう。校長は竜二に興味を持つと同時に観察眼も疑った。ビボラを臣下にしたいという事は彼女の色香に惑わされたのか、(あるい)は彼女の能力を正当に評価したのかが気になったからだ。


「先の内戦で彼の活躍が陛下の勝利に大きく貢献したことは聞いている。帝国は軍事に重点を置いた施政を行っているのは知っているだろう。ただでさえ数少ない竜騎士。そして陛下自ら任命した男だ。くれぐれも彼を貶めたりせんようにな。今までの雇い主とは違うぞ。」


「貶めるとは心外な。まるで私が全て犯人みたいではないですか?学生時代と一緒にしないでください。確証なき持論を展開したがらない論理的な校長先生らしくもない。私がやったという証拠があるとでも言うのですか?」


聞き捨てならないとばかりに黙って聞いていたビボラは校長を睨み付けた。氷のように冷たい眼を向けている。校長は降参とばかりに頭を振った。


「ふっ…そうだな、悪かった。だが今回は今までの主とは違う。しっかりと補佐するように。なにせ陛下が頭を下げて臣下に加えた男だ。そんな男に見出されたのだ。これだけでも責任重大だぞ?彼が敗北しようものなら頭を下げた陛下にも迷惑がかかるのだ。しっかり支えるのだぞ。」


もし竜二が戦場で派手に敗北したり、恥を晒すようなことをすればガラルド皇帝に【人を見る目が無い】というレッテルが張られてしまう。ランクが高ければ誰でも良いと思われてしまうだろう。現在、帝国は強大な軍事力によって内外において結束を高めている。軍事に関するガラルドの失態は露見されない方が良いのだ。


帝国が強国であるという風評は軍事力もそうだが、なによりも皇帝の権威が大きなウェイトを占めている。帝国を一つにまとめる為にもガラルドは唯一絶対君主でなければならないのだ。さもなくばまた帝国内で内乱が起こりえない。帝国は皇帝という絶対権力者の下で一つにまとまっているのである。


「…心得ています。承諾した以上はそのつもりです。」


「そうか…ならいい。本校に在籍していた頃より君が大きく成長している事を期待しているよ。」


そう言うと校長は去っていった。

せっかくの休息が台無しにされた気分だった。ここにいてもろくな事がない。馬車の中で待機していようとビボラは移動しようして立ち上がったところを華奢な上司に呼び止められた。


「おーいビボラ!見つかったよ。彼女が新しい隊員のリサだ。」


リサと呼ばれた女性は礼儀正しくぺこりと礼をして頭を下げた。弱気な印象を受けるし、あどけなさが残るが、それよりも非常に背が低い。「松原竜二の趣味なのだろうか?」ともビボラは疑ったが勿論顔に出したりはしない。


「私は後方支援士団員のビボラ。よろしくお願いします。」


ビボラという名前を聞いても表情を変えないところを見るとどうやらリサはビボラの事を知らないようだった。リサが入学している頃はビボラは在籍していなかったのだから、それも仕方ないかもしれない。


「リサはビボラの事知っている?かつての在校生らしいのだけど?」


「いや詳しくは…」


リサは曖昧に返事をしながらビボラにニコッと微笑んで見せた。竜二もハワードも気づかなかったが、どうやら発言とは裏腹にビボラの事を知っているらしい。お互いの上司である竜二を困惑させないようにするための配慮だろう。


『頼りないようだけど機転は利く性分かしら?私の事をどれだけ知っているというのだろう』


ビボラは竜二やハワードの人を見る能力はいかほどか知らない。留年生だからと侮らないほうがいいかもしれなかった。


「それはともかく、君がこうして修業棟に入れるように段取りしてくれたおかげで、こうしてリサを見つけることが出来たんだ。俺からのちょっとした褒美をやるよ。」


そういって竜二は手荷物から、あるものを取り出してビボラに渡した。


「えーと、これは何でしょうか?」


手には黒い縁でできていてガラスのようなものがくっついている物がある。これが何なのかビボラは見当がつかなかった。


「これはだな。こうすると…どう?」


竜二はビボラの耳に縁を掛けてあげた。


「…すごい!よく…見えます。」


竜二が渡した褒美とは最近まで装着していた眼鏡である。神殿契約の恩恵で不要になったが眼鏡ケースの中には長距離運転用に眼鏡の上から掛けられるサングラスが入っていたため、仕舞う事ができず眼鏡の収納場所に困っていた。

褒美はまだ早いとは思ったが邪魔だったし、ビボラは目が悪いようなのでレンズが傷つく前に「褒美」と(かこつ)けて竜二はビボラに贈呈したのである。

どうやら眼鏡の度はビボラの視力に合っているようだった。

と同時に「スパルタな女教師」が完成したような感じがするのは竜二だけではないだろう。


「気に入ってくれた?」


「はい!本当に頂いてよろしいのですか?」


少しはしゃぎ気味で竜二に聞き返してきた。掛けた途端世界が開けて見えたに違いない。竜二も初めて眼鏡を装着したときは驚いたものである。


「ああ、これで目の負担が和らぐだろう。今後とも俺の補佐をよろしく頼むな。」


「お任せを!」


ビボラは深く礼をした。これで近視から開放されるとあって上機嫌である。

相談した結果、四人はとりあえず帝都に戻ることになった。準備中、ビボラがなぜかここから早く出立したがっていた。

三人はきっと少しでも時間を節約しようとしてビボラは()いているのだと良い意味で勘違い(●●●)していることに当のビボラが気づくのは、四人が帝都に到着してからの事である。









翌日、竜二達は竜舎に集まった。

ビボラとリサにラプトリアを紹介するためとハルドルからラプトリアの鍛錬の近況を聞くためである。ラプトリアを見て二人は声を失った。


「これが噂に聞く特A級…閣下の相棒ですか?」


「そうさ。ステルスドラゴンで名前はラプトリアっていうんだ。」


「ラプトリアよ。二人とも竜二に力を貸してあげてね。」


さらっと軽い紹介をしているが、ラプトリアを見るやビボラは素直に感嘆していた。

派手な体色ではないが体から神秘性が感じられ、他者に屈しない荘厳(そうごん)さと高貴(こうき)さが感じられる。

一目見ただけで「竜使い百人斬り」が真実であったことを本能的に察した。


リサも同じである。いくら雷鳴将軍の上官とはいえ弱々しい風貌を見る限り、今後の不安は拭いきれなかったが眼前の竜を見た途端、それは綺麗に吹っ飛んだ。

それほどラプトリアの威圧感はまさに〝雷〟の将軍の相竜に相応しい貫禄があったのである。

これほどの竜を乗りこなす松原竜二とは、きっと相当な竜騎士なのだと錯覚していた。むしろ竜二の能力の心配より足手纏いにならないか自分の心配の方が強くなってしまい余計に不安になるリサであった。


「任せきりでごめん。ハルさん。鍛錬は順調?」


「気にすることはありませんよ。優先度が高い順から処理するのは当然のことですからな。」


こないだのビボラに対する険しい顔つきはどこへやら、打って変わって子供に好かれそうな優しい顔つきのハルドルに戻っていた。ビボラへ交渉中という事もあって表情は変えないようにしていたものの、あの乱暴な口調な時のハルドルを見た時は驚いた。あれが本来のハルドルなのかもしれない。軍隊なのだから上官を立てて敬語を使うのは正しいが態度の極端ぶりに未だ戸惑っていた。


「とはいえ竜使い候補を見つけた以上、あとは牧場で契約するだけです。そう時間はかからないはずです。どうですか隊長。ここいらでラプトリアに騎乗して鍛錬に参加しませんか?」


騎士が騎乗している鍛錬と騎乗していない鍛錬では成長力が違う。騎乗していなければ竜のペースで鍛えられるため無理なく身体能力を強化できるが、逆にいうとそれしか鍛えられない。

騎士が乗っているとより実践的な鍛錬が可能になる。

このままラプトリアの単独鍛錬を続けていてもどこかで竜二と連携調整しなければ無駄に終わる可能性もあった。ラプトリアの成長した能力に竜二がついていけなければ意味が無いという訳だ。そうなればラプトリアにとってもストレスになる。

それを回避するためにもハルドルがラプトリアに騎乗しての鍛錬を提案したのは当然と言えたが、ここでビボラが口を挟んできた。


「閣下、その前に私から提案があるのですが宜しいですか?」


「なんだい?」


「リサさんの相竜探しですが…トウセイ山脈南部にあるドラゴンキャッスルで見つけるというのはどうでしょう?」


!!!


竜二を除く全員が目を見開いた。


「一体何を言い出すのです!あそこの事をご存じなのですか?」


ハワードが思い詰めたような顔して尋ねた。


各地に点在する竜の根城(ドラゴンキャッスル)。その中でトウセイ山脈に二箇所ある内の山脈南部にあるドラゴンキャッスルは竜の生息数がトップクラスで知られる。

上位の竜の生息種族の豊富さもダントツであり、「下位の竜は全て上位の竜の餌になるために生まれる」とまで言われるほどである。教団の学者でも詳しく解明されてない竜も数多い。


聖教が二回目以降の契約を希望する経験者に入城を奨励していることから初心者には向かないとされる。

それ以前に帝国軍人が入れること自体不可能であり、侵入しようものなら周辺を警備している教団兵に見つかってしまうだろう。


「ラプトリアを見て私は確信しました。閣下のラプトリアがいれば、いくら上位の竜とはいえ野生の竜に遅れは取らないでしょう?閣下の兵力は現状二騎しかいません。例えリサさんを含めたとしても僅かに三騎。Fランクなんかで安心できる兵数でもないでしょう?」


それは図星だった。内乱の影響で只でさえ少ない帝国飛竜騎兵。すぐ大量補充という訳にもいかないし、神殿契約できないから「量より質」という訳にもいかない。これを打開するには上位の竜と契約した竜使いを増やすことだった。


「帝国兵がドラゴンキャッスルに入るには……ラプトリアのステルスアビリティの活用か…」


「鋭いですね。その通りです。」


ビボラはにっこりほほ笑む。既に竜二がラプトリアのステルスを使って教団領に入国したことをビボラは知らない。

ドラゴンキャッスルの外周は巨大な結界が張られている。誰かが不法侵入すると直ちに感知され警備兵に捕捉されるが、姿を消したラプトリアならほぼ見つからないだろう。

例え侵入者として結界に感知されても姿が見えない以上、捕縛するのは難しい。竜二は早くも乗り気だった。教団領への潜入経験が自信につながっているのかもしれない。


「リスクはありますが…試してみる価値はあると思います。」


ハワードに異論はないようだ。ハルドルも頷いている。リサは不安そうだがラプトリアと一緒なら問題ないと竜二は思った。


「それじゃあ、ラプトリアと連携調整後にリサと一緒にトウセイ山脈に行く事にするよ。」


「私を連れて行ってもらえませんか?きっと役に立てるはずです。」


ハルドルが随伴を願い出た。


「それはいいけどハルさんは見つかってしまうんじゃ…」


アルサーブは当然ながらステルスアビリティは無い。キャッスルに近づこうものなら即見つかるだろう。


「ステルス中のラプトリアにアルサーブがつかまっていればステルスの効果が得られるはずです。あそこは上位の竜が(ひし)めいていますからハルさんを連れていくことは私も賛成です。」


ハワードが助言する。ハルドルと一緒なら竜二としても心強い。ラプトリアの鍛錬結果を確認したいという思惑もあった。


結局話し合った結果、竜二達は明日キャッスルに向かうことで決まった。リサにはまだ正式に帝国軍に加入するための手続きが終わってないので今夜は宿を手配することにした。




翌朝、現地契約のための刻印を入手し、いざ出発という時に限って帝国中の商人達が刻印の在庫を切らしていることが発覚し、更にはリサが不安からか風邪で発熱したこともあいまって竜二達は納品まで足止めを喰らうことになった。だが待てども中々入荷せず、遂にしびれを切らして帝都から一番近い支殿周辺の町へ直接刻印を買いに行くはめになった。


結果として日数を大きく無駄にしてしまい、エバンスの期限に大きなタイムロスが発生してしまい、その他数々の諸事情が発生したことで、のちの竜二達一行の苦渋の決断につながることになる。




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