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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
遊撃隊長昇任後
54/88

奸臣

「これが一覧です。」


翌日、竜二がハワードから渡された。

昨日すぐさま皇立尚書高科学院へ行ったのだが予約も無しに院内に入ることは許されないと言われた。次に立ち入り許可が下りるのは八日後とのことだったが、それでは時間がかかり過ぎてエバンスの条件クリアに厳しくなる。ハワードの機転により


「雷鳴将軍閣下自らが部下を探しに出向いているのに左様な期間待たせたら軍務に差支えが起こります。今もなお勤務先が決まらない若者達が五日遅くなったために閣下が別の人間を雇用すれば御校はまた一つ好機を失い、赴任確定率や再就職確定率が下がるかもしれませんよ。」


こういう公的機関は人一倍、世間体や評判などを気にするものだ。まして卒業者や在校生を〝雷〟の将軍の下に就かせることが出来るのは好機到来と言える。来年度の新規受験生に対する宣伝にもなる。受付から報告が行ったのか学長自らが二人の前に現れ、今日は試験のため、どうやっても入れることは出来ないが翌日には入れるよう手配すると約束してくれた。


ハワードはどうせ一日あるのだから、これを機に就労未確定者を抽出しておくと言ってくれた。そして渡されたのがこの一覧である。何でも在校生や卒業生の成績表や勤務経験などの記載されている評価表(つまり履歴書)は各大臣庁や領主達に出回るそうなので抽出作業は楽とのことだそうだ。この世界では「紙」は珍しいわけではないというのに竜二は戸惑いながら見定めていく。


記述されているのは皇立尚書高科の卒業者でまだ赴任先が決まってない者達である。


竜二が狙っているのは、言うところの既卒生及び第二新卒採用であった。大半の卒業者はもう赴任先はとうに決まっている。卒業予定者の中でも成績優秀者や期待できそうな学生も望み薄だった。いくら〝雷〟の将軍位があるとはいえ現状では名ばかり将軍も(はなは)だしい。徴兵令が出ていない以上、強引にスカウトすることもできない。いくら頭を下げても将来性さえ見当がつかない者の下へ仕官してくれる学生は少数派だろう。


「お?横にある評価は教官が付けてくれたんですか?」


成績や院外活動や生活態度などの詳細評価の横に総合評価として点数制に表記されてあった。


「いいえ。学院側で評価しているのです。私は抽出した卒業生の名簿を評価順に並べ替えただけです。」


『てことはこれを各官僚や諸侯達が見て争奪戦を繰り広げるわけか』


皇立尚書高科学院とは秀才を数多く輩出する名門校だとされ、生徒にも仕官先の選択権があるため、生徒に選ばれることもまた諸侯にとっては誇りだった。だが近年において帝国は軍事優先を貫いているため文官より武官の方を重宝する傾向が強く、帝国は知識よりも経験を重んじる風習もあってここ数年は任官先探しに苦労している生徒が多い。更に高科学院卒となると良くも悪くもエリートなので給金を奮発せねばならず人件費が嵩んでしまうのも理由の一つであった。


『ようするに就職浪人が多くなっているわけだ。もっと早くここに来れば良かったな』


これなら自分にもチャンスはあると竜二は踏んだ。早速、評価に基づき竜二は赴任先が決まってない卒業者を捜すことにした。数はかなり多く百人以上いた。こんなに浪人生がいたんだと感心しながら探索を続けた。

結果は予想通り発掘の山だった。


そう「参謀」としては。


だが「奸臣」としては適任者を見つけられなかった。本人に近づくほどアンゴラゴールは正確に適性や適職を教えてくれるが、素晴らしい事(●●●●●)に真面目な者が多く、「奸臣」とは診断されなかった。

何より(アンゴラボール)から頭に流れて来た若い女性の顔立ちと違う。アンゴラボールの診断結果は本人しか見えない為、ハワードに勘付かれることはなく、目標の女性が見つからないと口を濁して奸臣捜索を続行した。だがこのままでは埒があかないと感じていた竜二はハワードに打診する。


「この一覧って総合評価順なんですよね?」


「ええ、そうなる様にまとめましたから。」


「院内態度とか対人関係とか性格面を評価から除外して能力のみで上位順にまとめることってできます?出来れば玉の導きに従い、女性だけで一覧を作ってほしいんですが…」


奸臣なら性格が良いとは思えない。性格が評価に入っているから見つからないんだと竜二は思った。人選び条件に性格こそが最重要課題だろう。それを除外せねばならないとは皮肉なものだが、ハワードは玉の導きとあらばと承諾し、能力別に纏めて横に数字を書いていった。この一番目に宛がっているものが最有力候補といえる。

予想は的中し授業態度は最低、苛め経験もある上に無断欠席も多いにもかかわらず、卒業時の成績は次席という女性が一番に宛がわれた。


「この女性ですか・・・」


ハワードが懸念するのも無理はない。該当の女性は卒業して二年少々経っており、就労経験がある。言うところの第二新卒に相当する立場だった。名前は「ビボラ」というらしい。

次席というだけあって就労先はすぐ見つかったらしいが経歴が凄まじく、一回目は領地持ちの貴族に赴任したが着任して早々、夫人が愛想をつかして領主から離れて故郷に戻り、使用人や部下が次々と辞めてゆき、最後には身内からも裏切られ殺された。後継者不在により領地没収され家名も断絶。別の貴族へと拝領された。着任して僅か一ヵ月後の事である。

二回目の赴任先も領地持ちの富豪貴族だったが何故か途中から会計帳簿が合わなくなり、彼女が辞めた途端、領地運営のための年度予算と大きく離れて大赤字となってしまい、多額の借金を背負うことになった。当然彼女の横領が疑われたが明確な証拠はないため不問とされた。その貴族は今も辛うじて領地経営しているが破産するのは時間の問題だとされている。

三回目の赴任先は複数の販路を開拓している由緒正しい商家だった。ところがある時期から今まで真面目だった従業員が次々と横領したり、店の商品を盗み始めるようになり、商家内の秩序が大きく乱れた。従業員に叱咤した途端、従業員から暴行を受け、支配人は大怪我を負い、翌日には従業員が全員辞めてしまい、蔵の在庫も従業員達に全て奪われた。彼女が経理を担当していたことから着服が疑われたが、店の在庫は無くなったものの運営資金は残っていたため、彼女は潔白とされて不問となった。ところが無実の罪を着せられたとして彼女は商業組合に訴えた。商人にとって信用と信頼は最も重んじるもの。組合はその商家を許さず組合から最も重い処分である除名処分を下した。只でさえ家内での内輪揉めで世間の信用が失われつつあるのに組合からの庇護も受けられないとあってはどうにもならず、その商家は店を閉めたという。その上で彼女にはお詫びとして賠償金が支払われたという。


これらは彼女が卒業して二年以内で起こったことであった。

実質的な確証がないが、ここまで数多くの状況証拠があれば最早疑いの余地はない。これ以後、彼女を雇おうと考える者はおらず、何カ月も彼女は学院内の研究室で執筆活動や非常勤講師として過ごしている。しかし学院も卒業生だけあって渋々彼女の面倒を見ているものの、手を持て余しているのが現状であり、彼女の研究室は複合研究室で四人の講師が割り当てられるはずなのだが、誰もその研究室に入りたがらないという。


ここまでの情報を聞いて竜二は背中に悪寒が走った。金・名声・権力のいずれかを獲られるならいざ知らず主の生殺与奪にまで関わるほどの女性とは一体誰なのか・・・


『こわ〜。まさしく比類なき悪女!たった二年で此処まで悪名を轟かすとは・・・』


ハワードは反対したし竜二自身も難色を示したが主を導いた玉の的中率はまず外れない。これは「事実」である。ハワードから聞いた限りでは玉が主を導くのは本当に困っているときであり、早々無いそうだ。ハワードは試しに竜二に使わせただけであり、一回目で導きがあったことは意外だったという。

どうせ何度か死にかけた命だと苦心した末、研究室へ行くことにした。客観的に見ると三回も転職していれば第二新卒も既卒もないのだが今の竜二にそんな事を考える余裕はなく、彼女の研究室に向かうだけで足に震えが来たが、何とか彼女の研究室前に到着した。彼女が留守だったらどんなに良かっただろうと思ったが、こういう時に限って在室だという。しかもハワードはハルドルが予定を調整し、参謀探しの手伝いのために学院に来たという知らせを職員から受けたので迎えに行ってしまった。


竜二は勇気を振り絞ってノックした。だが返事が無かった。もう一回ノックしたが返事が無いので恐る恐る入室する。四人部屋を単独で使っているのだから散らかし放題かと思いきや、部屋はきれいに清掃されており備品も整頓されている。

部屋を見渡すと体に毛布を掛けて眠っている女性がいた。この人こそ頭に流れて来た女性の顔で間違いなった。確認の意味を込めてこれ幸いとばかりに早速アンゴラボールを近づけて使ってみた。


『間違いない。俺が今必要としている人だ!』


使用結果はまさに適性だった。この人が捜している人で間違いないのだろう。竜二はアンゴラボールを仕舞って接触を試みたいと思ったが初見の人を起こすのも失礼だ。言伝(ことづて)を頼もうにも研究室に単独とあれば、それも出来ない。仕方ないので伝言メモを残すことにした。だがメモを書きながら疑問に思った。


『ん?そういえば日本語で書いて大丈夫なんだっけ?』


自分はこのアウザール大陸の字を読めるが、アウザールの人々が日本語を読めるとは限らない。とはいえ、これしか伝達方法はないので日本語で置手紙を机の前に置いて竜二は退室した。


退室した直後に彼女(・・)が起きだして寝たふりしていたとも知らずに。





竜二は正門に行った。ハルドルはもう来ていた。ハワードに合流しアンゴラボールの導きに的中した女性が見つかったことを知らせると一時間後にもう一度行くことにした。手土産が無いのはどうかと思ったが、二人が初めての人に持っていく必要はないと言ったので時間経過と共に再入室を試みた。

人事課時代のポリシーから二人は廊下で待機させ、最初は一人で会う事にした。竜二は再びノックする。


「・・・どうぞ。」


ドア越しから女性の声が聞こえて入室する。女性は机に向かって何かを書いていた。竜二は部屋の奥にいる女性の所に向かって頭を下げた。


「置き手紙は見てもらえましたでしょうか?私、松原竜二と申します。」


「・・・読ませていただきました。わたくしビボラと申します。」


どうやら日本語でも読めたようだった。女性は顔を上げるどころか立ち上がり竜二に挨拶する。女性の全身を見て竜二は目を見開いた。


『何というカラダだ!!神掛かっているぞ!』


アンゴラボールから流れて来た女性は顔立ちだけだったため、首から下は一切分からなかった。しかし眼前の女性はどうだ。

服装はヒールの高いパンプスに黒いストッキングに赤いタイトスカートに赤いジャケットというキャリアウーマンそのものみたいな服装だった。彼女の服装だけ見れば二十一世紀に還る事が出来たと錯覚しそうな服装だった。

髪は銀色で前髪以外はひっつめ髪してまとめており、肌の色は白く、顔は小顔で綺麗な顔立ちだが、きつそうなイメージだ。全ての者を見下しているような印象を受ける。まさしくクールな女狐といった顔立ちだが相当な美人だ。

だが突出すべきは肉体(ボディ)であり、服からも分かるほど(バスト)が大きく爆乳で形も整っている。かと言ってポッチャリ体型かと思いきや(ウエスト)はくびれが見事であった。体全体は引き締まっていて胸と(ヒップ)以外の部分は無駄が無い。

身長はスラリと高く、一七二〜一七五センチくらいだろうか?


世界のトップモデルやポルノ女優も彼女の前には霞んでしまうかもしれない。何よりブラウスのボタンが閉まらないのか胸元は大きく開いており谷間が丸見えである。

さすがに乳首はジャケットに隠れて露出していなかったが・・・

竜二は今までの主が(ことごと)く不運な運命にあったのが少しわかった気がした。この容貌なら過半の男性は惑わされてしまうだろう。

さすがにマジマジと胸元を見てしまった竜二だが、当の本人は気分を害したのか不機嫌そうな顔をしている。それどころか竜二に近づいてくる。


『しまった!胸をじろじろ見たのを怒ったのかな?』


構わずビボラは近づいてきた。それこそ手を伸ばせば届くくらいまでである。そこまで近づいてきたかと思ったら上半身を倒して竜二の胸元を見た。


「まさかとは思いましたが本当に将軍閣下だったのですね。それも〝雷〟の将軍とは…」


彼女は胸にある軍章を見ていたようだ。竜二が本当に将軍かどうか確認するために胸元を覗き込んだのだろう。竜二はまだ将章を決めていない為、将軍位を示す軍章が軍服の左胸についている。どうやら彼女は目が悪いらしい。さっき顔が不機嫌そうだったのは目を凝らしていたからだったのだ。事情が分かって胸を撫で下ろす。


「目が悪いのですか?」


「ええ・・・近眼でして。あちらの椅子にどうぞ。お茶を出します。」


お茶くらいなら社交辞令の一環だろうと甘んじて受け入れ、促されるまま椅子に腰かけた。お茶を出されて一口飲んだ後、早々と本題に入った。


「机の手紙を読んだときは驚きましたよ。何でも私を雇いたいとか?」


「そうなのです。実は・・・」


竜二はエバンスの課題と竜使い候補を探すのに力を借りたいという事を説明した。アンゴラボールの事は黙っていた。彼女から「純粋に自分の能力を評価してくれなかったのか」と言われると気まずい。彼女の過去は調べていることにすればいいか、調べていないことにすればいいか悩んだが、ここは素直に話した。その上で能力を評価したことにすれば度量の広さを示せると思ったからである。


「私の事を評価させていただきありがとうございます。つまりは竜使い候補探しに私の力を借りたいという事でよろしいですか?」


「はいそうです。もし出来ればその後も力を貸していただければありがたいのですが。」


「…私の経歴はご存知でしょう?それでも私のような人物を部下にしたいと?」


「はっきり言わせていただいてもよろしいですか?」


「…おっしゃってください。」


会社員時代、たとえば新卒採用の面接の時、選考の段階では意地悪な質問を何回か出すが、一度内々定を出したら学生達の背中を押し続ける。他人の自虐をとことん否定しポシティブに発想転換させる。人時生産性向上のための基礎だ。

この場合もプラス思考に発想転換での説得を試みた。まして有名学府の次席卒業者。話術で勝てるわけがない。竜二に出来ることは精一杯の誠意を示すことだけだった。


「過去、貴方の能力を生かした場は皆、平穏の中にあったものばかりです。これでは能力を十分に発揮できないでしょう?労働時間も持て余すはずです。私は軍人です。その卓越した能力を戦場という場で活用なさってはいかがですか?」


これは正直な感想だった。おそらく数々の不祥事は彼女の仕業かもしれない。それを口にすることはしないが、その一方でそうしやすい職場環境にあったとしたらどうか?

人間、本当に生真面目な者はそう多くないものだ。

会社の掛け金や勤怠の不正や備品の私物化などが発覚して解雇通達を何回社員に渡したことか。

つまりそれだけ組織運営において社員をまとめる事が出来ない原因が何かあるのだ。だが戦場という心理的にも肉体的にも余裕が無い職場ならどうだろうか?彼女だって自分の命を大切にしたいはずだ。真面目に働かざるえない戦場に追い込んでしまえばいいのだと竜二は思った。

彼女のような成績優秀者が見抜けないとは思えない望み薄な賭けではあったが…。


「戦場に出れればでしょう?非戦闘状態においても軍人達は鍛錬ばかりではないですか。私の能力は役に立たないのでは?」


初っ端から試す気満々なようだ。

自分の能力を使える機会を用意してくれるのか?

そもそも自分の事をどう評価しているのか?

彼女の本心は分からない。疑っているだけかもしれないが彼女の願望や趣味などは分からない為、ここは功名心を煽ってみた。


「・・・個人的な見解ですが、これからの帝国は軍事面において貴方のような知恵者が不可欠になると思います。ですが帝国の軍部が文官を軽視がちです。その必要性をビボラさんが身をもって実証すればいいのです。そうすれば非戦闘状態でも休む暇がないほどに忙しくなるでしょう。ビボラさんの忙しさが増えれば増えるほど参謀の重要性を軍部が気付いたという事です。最初は暇でしょうがビボラさんが戦場における参謀の先駆者になれるならどうです?きっと今までの経歴が世間から霞んでしまうはずです。」


ビボラは考えた。手紙の内容から軍人と聞いて脳筋かと思ったが、なかなか弁の立つ男ではないか。実際にはそのような事は夢物語の域を出ないが、話を聞く限り誠意を見せるために大きくしゃべっているだけで嘘はついてないだろう。策は講じられる男みたいだが自分を騙す気はないようだ。まだ帝国にこれほど肝が据わった男がいたとは思ってもいなかった。あとはどれだけ自分に利益ある男かどうかだ。


「失礼ですが、閣下の幕下は?」


「俺以外では隊員一人と従士一人です。」


ビボラは愕然とする。

それでは名目だけの将軍ではないか。てっきり中隊規模の隊員はいるだろうと思っていた。何が先駆者だ。この男はその人数でどうやって能力を生かせというのだろうか?やはり地位を貰ってうぬ惚れているに違いない。所詮は他の権力者と一緒なのだ。どうせ権力者の親族か何かだろう。こんな過信に満ちた男では利用する前にこっちの命が危ない。他の職業なら上司を飾りとしてビボラは専横を振るう事も出来るだろうが軍人となれば話は別だった。さすがに戦場では運命を共にしかねない。そのような事態は彼女にはまっぴら御免だった。


「…申し訳ありませんが私が閣下のお役に立てるとは思えません。他の方にお頼みください。」


「そんな!!隊員は少ないですがビボラさんのお力があれば・・・」


「話は終わりです。お引き取りを…」


竜二は肩を落とした。不安が的中した。やはり名ばかり将軍には無理かと思い、立ち上がって退室しようとしたが彼女の前に立ちふさがる者がいた。ハルドルである。竜二も気づかぬうちにいつの間にか入室していたのだ。


「ビボラよ。お前の懸念は尤もだ。だが隊長は名倒れ将軍じゃねえ。素質も才能も十分だ。何せ数十年ぶりのAランクの飛竜騎士だからなあ。補佐する価値はあると思うが?」


「Aランク・・・」


ビボラは竜二を見た。帝国では何十年ぶりだろうか?もしAランクなら十分すぎる仕官理由だ。公爵とか侯爵などの上級貴族よりもさらに希少性が高い。確かに働き次第で先駆者も嘘ではない。その素質を利用するだけ利用してしまえばいいのだ。だがその前に


「貴方、いきなり人の部屋に入ってきたけど一体誰?」


ハルドルはビボラにかなり近づいているのだが、ハルドルの顔がぼやけているのか目を凝らしている。


「わりーな。名乗ってなかったぜ。俺の名はハルドル・・・ハルドル・アクオスだ。雷鳴将軍の麾下で隊員をやっている。」


「アクオス隊長!?貴方が!!」


ビボラは驚きを隠せない。ハルドルと言えばポルタヴァ会戦で敵中央に僅かな手勢で突っ込んでいったことで知られる「特攻隊長」だ。ただ一人の隊員がハルドルとは・・・


あの時、また院長あたりから叱責されると思い込み、警戒心から寝たふりをしてしまった。こんなことなら起きて礼儀正しく応対すればよかったとビボラは思った。そうすれば心証もさぞ良くなっただろう。



心の中で舌打ちしつつ素早く将来の計算をしたビボラは今までの非礼を詫びて態度を改め、正式に補佐官の任を承諾したのである。





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