診断結果
「どうです?これ!」
三日後、竜二はラパントに戻ってきた。
アンゴラボールの買い物は見事に成功し、ハルドルとハワードを驚嘆させた。
姿を消して新教団領に入ったは良かったが、問題は購入場所である。辺境とはいえ帝国に近い町では警戒されそうだったので、連邦に近い辺境の町で購入した。庶民の服装だと収入源を怪しまれそうだったので傭兵の服装で買おうとしたが、優男である竜二ではイマイチ稼いでる傭兵に見えないとハルドルに突っ込まれた。そこで敢えてみすぼらしい服を着て傭兵隊長の小間使いを演じて扱き使われている風を装った。
これがベストマッチ!
怪しまれるどころか同情的な目で見られる始末だった。回復直後の長距離移動はラプトリアにはきつかったかもしれないが、ラプトリアはいつにも増してやる気十分だった。竜二が中継地点としてアルパタ砦で一泊しようと言い出さなければ「日帰り強行軍」で行く気だったかもしれない。
いくらオーロからは「戦闘さえしなければ大丈夫」とお墨付きをもらったとはいえ無茶は禁物である。竜二は先の内乱での口惜しさがラプトリアをここまでさせていると思った。エバンスの条件をクリアしたら、かなりの鍛錬に付き合わされそうだと頼もしさ半分、怖さ半分の竜二であった。
「まさしく本物ですね。ちゃんと指紋を刻みましたか?」
「購入の時、商人から説明を受けて即やりましたとも!」
アンゴラボールは便利だが、誰でも使えるわけではない。未使用の時に魔力を要している者の指紋を玉に刻むことで使うことが出来る。そして刻んだものしか使えない。言うならば「指紋登録」をして「指紋認証」しないと使えないのだ。そのため指紋を刻んだ本人しか使えない。
「本来なら今日は休んで明日からと言いたいところだが期日もありますからな。今から探しにいってはいかがでしょう?」
特に戦闘するわけでもないのだ。体力さえあれば問題ない。ハルドルの提案に竜二は賛同し、早速街へ繰り出そうとしたがハワードに止められた。
「その前に練習として今これを使ってみてはいかがでしょうか?アンゴラボールは別名〝迷いを救う玉〟と言われてます。使用者が自分に使うとこれからの事を導いてくれることがあるそうです。新規の竜使いを教えてくれるかもしれません。」
「へえ。そんなことまで出来るんすかー。便利だなあ。」
決して安くない買い物だったが、もし出来るのなら代償の価値は十分だと思った。早速、竜二は座り込んで使ってみる。玉を額にくっつけるだけで良いそうなので、額にくっつけて魔力を込める。すると頭の中に何かが流れて来た。
「あ!!」
たちどころに竜二は我に返り、玉から手を放してしまった。割れなかったのは士爵館の私室が絨毯になっていたからだろう。
「どうしました!?何か見えましたか?」
心配そうにハワードが見つめる。
「い、いや、一瞬意識が朦朧としただけです。自分に使うには何かコツがいるかもしないです…」
失敗により体力を消耗したという竜二の言から竜二の健康を案じたハワードが、今日は竜使い探しを辞めて明日から探索という事になった。その夜、寝床に入った竜二は中々寝付けなかった。確かにアンゴラボールから魔力が頭に注がれてきた感じはあった。
『確かに導いたと言えば導いてくれたが、今捜しているのは竜使い候補のはずだ。なぜアレが映し出されるんだ?』
アレの捜索を最優先にした方が良いという事なのだろうか?だが、竜使い候補探しに乗り気になっている二人のやる気に水を差すわけにもいかない。気にはなるが明日、予定通り竜使い候補探しの方を行うことを決めた。
翌朝、竜二はハワードと一緒に捜索に出た。ハルドルはアルサーブとの鍛錬に戻った。「時間の許す限りラプトリアの鍛錬も行うから心配せずに捜索をどうぞ」と言ってくれた。どうせアンゴラボールは竜二しか使えないのだ。大所帯で行動しても効率が悪いだけである。
二人は早速、街に繰り出した。アンゴラボールの使い方は簡単で捜している職業を思い浮かべて魔力を込めるだけ。こうすると玉からドーム状の光が立ち込めて竜騎士に適職を持っている者が近くにいれば玉は輝いて教えてくれる。その光は一般の人には見えず、使った本人しか見えない。並の魔導士なら半径二十メートル位までの人間しか感知しないが、竜二が使うと光が四十メートルくらいまで届いた。
それだけ使用頻度が少なくて済むのである。
事前に帝都の地理を調べていたハワードを案内人にして二人は帝都中を探し回った。士官学校の在学生は入学した時点で軍人とみなされる。よって除外されることとなった。また竜使いになれるのは十六歳以降であるとされるので小学校に相当する養護学校も除外された。
竜二は三日間捜索し続けた。富裕街、貧困街、商店街、職人街、商人組合所、診療所、傭兵ギルドなど手当たり次第に当たったものの見つからなかった。
否、何十人も見つける事は出来た。条件面が合わなかったのである。既に結婚し子供がいたり、六十過ぎの高齢者だったり、十歳にも満たない子供だったり、今の職場から離れたくないと拒まれたり、竜騎士には向いているけども一番の適職で無かったりした。
無職の人が集まる職業安定所に変わるような施設があれば、適性次第で当人に一声かければ引き受けてくれそうなものだが、そのような施設は無いらしい。
「どうでしたか?」
「全然、収穫無しです…」
四日目の朝、ハワードに私室で報告する。ハワードは初日は手伝ってくれたものの二日目以降は兼任の仕事が入ったため、竜二が一人で捜していた。
「帝都には適任者を見つけるのは困難かもしれませんね。めぼしい人は徴兵されているでしょうから。」
帝国は広い。ここは帝都に関わらず地方にも出ようと提案した。だがここで遂に竜二は気にかけている事を言った。このままでは地方に行ってもかなりの時間がかかる気がしたからだ。
「黙っててすみません。…先日、アンゴラボールを自分に使ったじゃないですか?実はその時、玉は教えてくれたんです。」
「え?見えていたのですか?今まで黙ってたという事は何か言いにくかった内容とか?」
「んー何というか…。あの時、玉に念じたのは今一番自分に必要な者を導いてくれと問いかけたんですよ。そうすれば〝竜使い〟と出て、それに相応しい人を教えてくれると思ったので。そしたら一瞬だけ頭に文字と顔が浮かび上がったんです…」
期日付きであるため竜二は竜使い候補が喉から手が出るほど欲しい。これは全くの真実である。「部下になってくれそうな竜使い候補を教えてくれ」と限定しなくても「今一番自分に必要な者を教えてくれ」と念じれば、必然的に有望な〝竜使い〟を教えてくれると思った。
「ところが浮かび上がったのは竜使いではないと?」
「はい…浮かび上がったのは〝参謀〟という字と若い女性の顔です…」
今まで言わなかった理由。それはハワードを思ってのことだ。ハワードは補佐官であり竜二の参謀みたいなものだ。しかしアンゴラボールは今必要な者を〝参謀〟と教えた。これが竜二を躊躇する原因を作った。下手に教えたらハワードのプライドを傷つけ、用無しのレッテルを張るにならないかと思ったからである。
しかしハワードの返答は極めて肯定的だった。
「そうでしたか。玉は教えてくれたのですね。出し惜しみせずに教えてくれれば良いのに。」
「教官という補佐官がいるのに、その上また参謀なんて…なんか言い出しにくくて。」
「意気なことを。では言わせてもらいますが<補佐官=参謀>という図式は成り立ちませんよ。それぞれに得手不得手というものがあります。得手なもので補佐するのが従士本来の仕事です。私は事務畑出身ですから今後、他方面に精通した補佐官が必要になると思います。ここはアンゴラボールを信じましょう。」
それは竜二も感じていた。ハワードは元々書記官だったせいか事務作業や経理作業は明るいが、戦術や謀には鋭敏とは言えなかった。彼なりに竜二を支えようという気迫は感じられるし、竜二自身、特に私兵を抱えているわけでもなければ、領地を持っているわけでもないので補佐官はハワードだけで問題ないといえば問題ないのだが。
「そんなにあの玉の事を信じ抜いていいのですか?そうこうしている内にも竜使い候補捜している方が効率的な気もしますが…」
「富裕層にしか出回らないし、しかも魔法を体得していることが前提ですが、あの玉のおかげで多くの人が救われているのは事実です。信用できると思います。私は書記官ですよ?過去の文献は読んでいます。アンゴラボールの記事とて例外ではありません。」
「期日の問題はどうなります?間に合いますかね?」
「参謀の捜索が竜使い候補発見の糸口になるということでしょう。まだ期日はあります。ここは捜索を切り換えましょう。」
こう言われては切り換えざるを得なかった。補佐官が補佐官探しを勧めるのに違和感を感じるのは竜二だけだろうか?偏にハワードの人格かもしれない。
「参謀が必要とあらば、うってつけの場所があります。皇立尚書高科学院という官僚向けの最高学府が帝都の端にあります。そこへ行きましょう。あそこはまだ行っていないでしょう?」
確かにそこはまだ行っていなかった。将来が約束されている言わば未来のエリート候補達が集まっている学び舎に行って部下になるよう頼んでも、にべもなく断られると思ったからだ。
でもハワードがそこまで言うのなら、アンゴラボールの事を信じてみるかと思い直し、二人は学院へ向かうことにする。
実はここで竜二は僅かに嘘をついた。今まで言わなかった理由はもう一つあったのだ。確かにあの時、頭に浮かび上がったのは若い女性の姿であった。これは間違いない。問題は文字の方で〝参謀〟といえば参謀だが、正確には違った。
浮かび上がったのは〝奸臣〟という文字だったのである。
ヤバい!!ストーリーの進行が遅すぎる!このままでは200話以上は確実になるかもしれない・・・
簡略出来るところは簡略したいのに細かく描いてしまうのは私の性格か。
ですが個性あるキャラがこれから登場予定とあらば省くわけにもいかないし。
「シーカー」や「理想のヒモ生活」の作者さんは非常に効率よく描いている方だと思います。あの文字数で読者に分かる様にキャラの個性を出せて、ストーリーを順調に進めることが出来るのですから。




