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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
帝国小隊長昇任後
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陰の密談 2


竜二が褒賞を賜る少し前、

薄暗い質素な部屋で老齢な男がモーリスと話し込んでいた。外は大雨が降っている。


「そうか失敗したか。」


「誠に申し訳ありませぬ!まさか奴らが虎の子の松原竜二を後軍に配備しようとは思いませんでした。」


「松原竜二に関しては仕方ない。[あわよくば]という条件付きだったからな。だがもう一つの主任務は達成出来ただろうな?」


「それは抜かりありません。帝国軍は内乱によって見事に兵を消耗させました。処刑された諸侯もいるそうです。飛竜使い達も大きく消耗したといえましょう。」


「帝国の戦意は抑えることが出来たというのか?」


「は!間違いないかと。」


「分かった。下がれ。」


老齢な男はモーリスを下がらせ、彼が遠ざかったのを確認してから地下へ向かった。歩きながら先程のモーリスに対して憤慨していた。


『全く使えん男よ。帝国の兵数は多少減ったやも知れぬが、さらに手ごわい敵へと変貌した事を理解できていないようだな。モーリスも代え時かもしれぬな。』


そのような事を考えながら、いつも通り合言葉を言って鉄扉の中へ入る。

少し進むと、いつも通りカーテン越しのシルエットがあった。カーテン越しではあるものの、こちらの気配に気付いたのか向き直っている様子である。


「上様。現状の報告をさせていただきたいのですが。」


「聞かせてみよ。」


カーテン越しの者には何者であっても必ず話す許可がいる。許可がない限り、本題を話すことは許されないのだ。そして許可をもらったら前置きは許されない。ただちに本題に入らなければならない。


「モーリス・リガ団長より報告を受けました。松原竜二の確保は失敗したものの、内乱による同士討ちにより帝国の兵力は減り、飛竜使いの数も減らすことが出来たようです。」


「それは結構だ…。それでそなたの見解はどうなのだ?報告がすべて真実ではあるまい?」


「いかにも。むしろ帝国はさらに力をつけたと思われます。」


「なぜそう思うのだ?」


「帝国が今まで表立って戦争を仕掛けてこなかったのはポルタヴァ会戦で正規軍の力が弱まり、諸侯の意思を尊重せざる得なかったためです。ですが此度の内乱で諸侯の軍の力は大きく低下し、諸侯の領土の多くは皇家の領土、あるいは親皇帝派の領土となりました。今の帝国はガラルドの一声で内乱前の倍の兵力が揃うと考えられます。戦意はむしろ上がっているかと。」


「つまり『小を犠牲に大を得た』といったところか?」


「間違いないかと。」


「此度の内乱を煽ったことが逆に裏目に出るとはな…」


「上様、アルバードからも報告が上がっています。」


「聞かせてみよ。」


「松原竜二の功績を操作しようと画策するも後軍に配備されたことにより操作叶わず、松原竜二は功績を上げることとなり、此度の論功行賞において【雷鳴将軍】に拝命されたとのことです。」


「あの〝雷〟の冠名の将軍位を授けたというのか?ガラルドはそこまで松原竜二を。」


「はい。ガラルドは松原竜二を相当使いたい(●●●●)ようです。」


カーテン越しの者は一瞬取り乱すも直ぐ冷静になった。まだ報告が終わってない。全て聞いてから考えるべきと思い直したのだ。


「して、アルバードのその後の動きは?」


「皇帝による例の実験が完成に近づいたため、松原竜二の部下の一人を実験材料として差し出すよう命令を出したようです。隊員を減らして松原竜二率いる遊撃隊の力を弱めようという腹でしょう。今現在では帝国に編入させられるほど飛竜騎兵に余裕はありませんからな。」


「例の神殿契約と同じ効果が得られる研究とやらか?愚かな事よ。神殿契約は我らのみの秘術だ。誰にも真似できん…だが、それで松原竜二は本当に別隊に編入されたとでも言うのか?」


話しぶりから察するにカーテン越しの者は既に見抜いているようだ。松原竜二が別連隊に編入されるわけはない事を。


「違うようです。独立部隊の隊長を任されたようで。」


「当然だな。ならば力を付けた帝国は近いうちにタカツキを攻めるだろう。タカツキは我らにとっても大事な国だ。見過ごすわけにはいかん。タカツキとの交戦を機に松原竜二を確保できればよいのだがな。」


「タカツキの存続の方が重要事項ではありませんか?当面はタカツキを支えるべきかと。」


優先度を整理し、一つずつ課題を解決するべきではないかと老齢な男は思った。どちらも得ようとは流石に虫が良すぎる。そのようなことをすれば、必ずや片方どころか双方とも手に入れられないだろう。まして国家間の問題とならば、より慎重に動くべきだと思う。



「確かにそうだな…。何にせよ事が動き出すのは…年明けだ。」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




論功行賞の日の夜。


正規軍司令室にて四皇将が終結していた。今後の兵出兵の動向についての軍事会議である。だがもう一人、四皇将以外の人物がいた。リン・パシャ将軍である。


「お前に口止めを依頼してきていないのか?」


「はい。一度も来ておりません。リディアの件でお礼は言いに来ましたが。」


「そうか分かった。下がれ。」


パシャ将軍は一礼し、司令室から出て行った。ミハイルは四皇将へ向き直るとパウルが意見を述べて来た。


「どういうつもりでしょうか?いっその事、取り上げてみてはいかがでしょう?」


「よせ。我らに口止めしなかった以上、おそらく我らには扱えないと思っているのだろう。」


現在の論点は「竜二がジンガを殺すときに持っていた特殊な道具(●●●●●)」についてであった。パシャ将軍は竜二がジンガを討取った時の状況を詳しく報告していたのである。今回の議題の一つであった。


「ですが、検分という名目で一時的に取り上げてもいいのでは無いですかな?」


「いや。やめておいた方が良いでしょう。」


横からクルードが意見を述べた。パウルが顔を顰める。


「それは何故か?」


「謀反の疑いがあるというのならともかく、先の戦いで彼には功績があります。もし武器ならば騎士の不敬に当たります。他の騎士達も不満を抱きかねません。」


騎士は各々の愛用の武器を持っているのが普通である。言うならば騎士にとって武器は自分の誇りそのものであった。帝国では皇族の御前以外では武器を外さなくてよいとされている。それを正当な理由なく没収するのは礼節を欠いた行為とされた。


「尤もだ。松原士爵の武器に関してはこれで終わりとする。」


パウルは一瞬苦虫を噛み潰したような顔をしたがすぐ表情を戻した。

一方でエバンスは内心ほっとしていた。ただでさえ内乱によって飛竜騎士団の弱体化は著しい。部下である彼に軍部に対して不満を持たれては堪ったものではなかった。


軍部にも派閥はある。竜騎士軍団の威厳のためにもエバンスは竜二を擁護する立場で、陸軍を活躍させたいパウルが竜二を批判する立場。ミハイルは公正な中立の立場で、クルードは戦略上、利用できる限りは擁護するという立場といったところだろうか。



「エバンス。松原士爵の待遇はどうした?」


「は!仰せのとおり極力自由裁量のある職種に命じました。」


条件付きで命じたことは黙っていた。言えば「余計なことを」と怒られそうだったからだ。だが松原竜二はやり遂げるだろうと思っていた。

あのハルドル(●●●●)が一緒なのだ。全く収穫無しという事はあるまい。

エバンスが竜二に条件を付けた一番の理由は今後の事を考えると竜二にも新規竜騎兵の開拓を出来るようになってもらいたいという想いからであった。


「いくらなんでも松原竜二に厚遇過ぎませんか?本人がつけあがるかもしれませんぞ?」


ここでもパウルは突っかかってきた。もちろんパウルだけの嫉妬ではない。いくら功績が素晴らしいとはいえ客観的に見ても一回の戦争経験で隊長職は異例と言える。古参の将軍の中には快く思わない者もいるだろう。


「〝雷〟の冠名の将軍位を受けた者を一隊員には出来まい。そのようなことをすれば連隊長がやり難かろう。だが一番の理由は…」


「…近い内に陛下がタカツキを攻めようと考えているという事ですか?」


ミハイルが僅かに言葉を濁し始めたところをクルードが繋ぐ。ガラルドの意向は誰にも伝えていないはずだが、どうやらクルードにはお見通しらしい。


「その通りだ。だが我が国は竜使いは少ない。此度の内乱で数多く消耗した飛竜使いは特にな。それで松原竜二に出世させたのだろう。松原竜二の使いどころが鍵だぞ。エバンス。」


ようするにガラルドはタカツキ戦で松原竜二を徹底的に扱き使うつもりなのだ。それには戦術的に制約を受ける一隊員だと都合が悪いのである。だからこそ将軍位を与え、出世させざる得ないようにしたのだろう。


「いささか性急すぎませんか?まだ内乱終了後の領土整理も終わってないのに。」


「パウルよ。分からんか?今回の内乱で一番の唾棄すべきだった敵はだれだ?」


「!!それは…聖甲騎士団です。」


ここでパウルもエバンスも察した。聖甲騎士団は内乱の際、後背から重装槍兵団の猛攻撃を受けて兵力が弱まっている。今なら教団の邪魔されずにタカツキを撃てるわけだ。


「…時機はいつごろになるのでしょうか?」


「年が明けて冬の終わり頃といったところだろう。」


エバンスとパウルが息をのんだ。急いで調練と編成を行う必要があるからだ。だが一人涼しげな顔をしている人がいた。それを見過ごすミハイルではない。


「何か言いたそうだな。クルード。」


「はい。タカツキは国民達は結束し国を守ろうと一丸となってますが、首脳部は違います。お互い意見が対立しているようです。そこで私に策があるのですが…」


「待てクルード。なぜ今になって言うのだ?二か月前まで我ら陸軍がタカツキを攻めているときに策とやらを提言してもよかったのではないか?」


「あの時は、私は参謀総長ではなく作戦内容に提言しにくい立場でした。何より諸侯達が邪魔だったのです。でも後顧の憂いを断った今、この策は実現できましょう。」


「その策とは何だ?」


「こういうことです…。」


クルードの策を聞いた三人は難しい顔をしながらも最終的に承諾した。翌日から帝国正規軍は練兵に勤しみ戦争準備に入ることとなる。



帝国におけるタカツキ攻略戦は確実に近づいていた。



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