意味
竜二は食事をとっていた。
とりあえず、食事でもと誘われたからだ。
少なくとも地下での話や応対を見る限り、自分に毒や眠り薬を盛られる可能性は低いと思った。
テーブルの上には、パンやスープなど洋食がらみで和食に関連するものは見当たらない。
例えあったとしても、今更[ここはやっぱり日本なんだな]と現実逃避するつもりはないが。
ここは、気を落ち着かせて、現実を受け入れよう。
異世界にいることを前提に会話した方が良さそうだ。
あの台座の話は今もなお完全には信じられないが、嘘をついているようにも見えなかった。
なにより台座の話を信じられなくても、外でドラゴンをライブで見たことの方がリアルに、ここが異世界である実感を湧かせる。
テーブルの向かいにエドガーが座り、お茶を飲んでいる。
リリアもお茶のおかわりを持ってくるとエドガーの横に座り、小休止した。
「質問の続きと行きたいが食事をしながらでも良いかね?」
「ええ、良いですよ。」
エドガーが領主と分かれば、このあとも仕事があるだろう。
質疑応答は早く済ませるのが親切だ。
自分も犠牲者だが、彼らも竜二という人に時間と食事を提供させられている時点で「台座」の犠牲者だ。
「最初に言っておくが、君が1番知りたいであろう元の世界に戻る方法は、我々には分からん。どうしようもない。」
ダメもとで聞くつもりだったが先手をとられた。
残念がる表情は見せないように別の質問に切り替えることにする。
「私が召喚された場所は分かりましたが、結局俺がこの世界に召喚された意味はお二人とも知らないということですね。」
二人は苦笑しながら顔を見合わせる。
「確かに真実のほどは台座のみぞ知ることで分からないな。だが予想はついているぞ。しかも極めて信憑性の高い意味がな。」
なんだ、裏付けが既にあったのか。
もったいぶらずとも、ドラゴン見せた直後に教えてくれても良いのに。
「これを見たまえ。」
リリアが水晶玉のようなものを持ってきた。
占い師が持ちそうな形と大きさだ。
「これは、迷いを救う玉という。主に自分が何の職業に向いているか才能があるか。など自分の将来について迷いがあったときに使われる。的中率は高くてな。この玉が教えてくれた仕事に就くと、大体うまくいくことが多い。」
へえ、そんなものがあるのか。自分の世界にもそんなのがあれば、目標持つ人が増えて学生時代ぐうたら生活続ける人は減りそうだが。
「だが誰もが使うとは限らないし、例え使っても誰もが適職結果通りにするとは限らない。自分で未来を切り開こうという人もいるし、この玉は個人の感情は一切無視で適性を診断するため自分のやりたい事とは別の職業を教えることもある。それに値も張るので貧困層の人には手に入りづらい。」
つまり、使う使わない信じる信じない診断結果通りにするしないは全く個人の自由ということか。
自分が召喚された意味がこの玉と関係があるのだろうか?
竜二は次の説明を待った。
「申し訳ないが君が召喚された直後、まだ君が気を失っていたとき既に、この玉を使って適性診断をしたんだ。君が何者かどうかさえ分からなかったのでね。」
「ええ、そんなものがあるなら自分でもそうしますね。それで私が何の適性があると?」
「さっき屋根上で見ただろう?空高くに飛ぶ竜を。」
「ええ。今もなお目に焼き付いてます。」
「・・・竜に跨り、竜を操り、竜で駆ける者を竜使いと呼ぶ。そして各国は竜使いを雇い、治安維持や自衛などのために軍人として雇う。国に採用された竜使いは竜騎士と呼ぶ。多くの少年が将来就きたい職業で1番にあげる職業だ。」
こっちで言うところのプロ野球選手やサッカー選手見たいなもんか。
え?・・・まさか・・・
「君は・・・竜騎士の適性が最高値に至るほど高い。わかるか?君は竜騎士になるために召喚されたといっても過言ではないのだ。」
竜二は目をぱちくりさせた。
そういうオチですか・・・・・・
絵本の中に飛び込んでないよなとまたもや錯覚した。
「・・・間違いないのですか?」
「ああ、間違いない。しかも適性があるどころではない。ハッキリ言って最高の適性だ。その職に就くと天才レベルに到達する領域だな。間違いなくAランクのドラゴンを操れる適性だ。」
「Aランク?」
「ドラゴンは強さと希少さ、知能や危険度など総合的に判断しランク分けされる。私はドラゴンに関しては専門家ではないので詳しくはしゃべれない。だが君は総合力でAランクの竜を操れるほどの適性を持っている。これほどの適性を持つものは、このアウザールにそうはいない!」
エドガーも子どもの頃、竜騎士に憧れた一人である。
つい熱くしゃべってしまった。
だが竜二はどん引きするどころか好意的な表情である。
竜二にとっては、別世界とはいえ庶民の憧れの仕事につくことは光栄だし、なにより自分が必要とされている可能性があることが嬉しかった。
異世界に来させられて、意味が全くなく平凡に生活しなければならないことになっては、やるせない気持ちになる。ましてや無職のままエドガー達にお世話になることになっては目も当てられない。
なにより右も左も知らず、知り合いもいない竜二にとって「相棒」が出来るかもしれないのだ。心の支えになってくれるかもしれない。
エドガー達に恒久的にお世話になるわけにもいかない。
竜二は竜使いになることには好意的だった。
「俺は竜騎士になることには肯定的です。どうすればなれるのですか?」
「おおそうか。それにはこの世界観を教えねばなるまいが。」
窓をみると夕暮れ時だ。
「すまないが、今日は執務に戻る。この世界のことに関してはリリアに聞いてくれ。リリア良いか?」
「私は構いません。竜二さん、長くなりますが構いませんか?」
「ええ、お願いします。」
「ではまず、この世界の通貨ですが・・・・」
その説明は、夜まで続いた。
一から教えなければならないため、ただでさえ時間が掛る。
彼女に2回言わせるのも気がひけた。
紙を貰って、必死にメモをとった。
リリアは夜遅くまで付き合ってくれた。
大体聞き終わったところで、両者は部屋に戻り、眠りについた。
翌朝、
彼はリュックの中身を確認し、エドガーから貰った古着を着替える。さすがに迷彩模様の服は市街地では目立つ。自分の服を折りたたんでエドガーの屋敷を出た。
おそらく中身はチェックされただろうが、特に抜き取られた物は無い。
外出する際に、支度金を渡された。
1週間くらいなら宿をとれる金額だ。
だが、これも最初で最後かな。
さすがに、馬の骨とも分からない青二才に何度も金はよこさないだろう。
竜二にとっても受け取りづらい。
彼が商店街に向かっていた。改めて街並みを見る。どうやら時代背景は中世かな?
中世後期ではない。後期ならもっと銃火器が発展しているはずだ。
てっことは中世の前期か中期かな。
竜二はそんなことを考えながら、商店街を歩く。
エドガーから簡易的な地図を貰ったためスムーズに行ける。
さすが領主だ。自分の土地を知り尽くしているのか、分かりやすい。
「確かこの辺りに・・・あった!」
竜二が探していたもの。それは骨董屋である。
自分の持参した荷物も異世界に転移されていた。
これを金に換えようという訳である。
まず先立つものは資金という結論に至った。
店に入りカウンターへ向かう。
「いらっしゃいませ。」
「えーっと、鑑定してもらいたいものがあるのですが・・・」
-------
------
-----
----
---
--
結果は、大金に変わった。
正確に言うと、リュックの中身は余り高値がつかなかった。
高値がついたのは、胸ポケットに付いているボールペンである。
この世界では、まだインクにペンをつけて手紙を書くのが一般的のようだ。
ただでさえ珍しいのに銀メッキが施されたボールペンである。
この世界では、銀は価値が高いそうだ。
ボールペンの表面がメッキによって鏡のようになっていると言うべきか。
使うたびに指紋を拭く必要があるため、普段は使わなかった。
サバゲーでは、竜二は薄手の手袋をしていたため、これならと持ってきたのだ。
元は取引先の企業から貰ったものである。従業員分貰ったのだが、ボールペンは間に合っていると先輩社員から押し付けられたものもあり、2本所持していた。
もっともカンペンケースごとリュックに入っているので書くものは他にもあるのだが。
何が起こるか分からないな。
考えた末、1本だけ売ることにした。
勿論、足元を見られないように他の骨董屋や質屋を行脚して売却価格を比べるのも忘れない。
あくまで骨董商には1本しかないと嘘をつき、希少性をアピール。もう1本はカンペンケースの中だ。
結果的にこれが功を奏し、140万クローツで売れた。
この町民の平均月収が10万~12万クローツなので上等といえよう。
ちなみに、この世界の通貨はクローツだそうである。
ようし、街を探索がてら必要なもの全部買いそろえよう。
竜二は商店街の人ごみの中に消えていった。
竜二がショッピングしていたころ、エドガーの屋敷でエドガーとリリアが話し込んでいた。
「本当に彼にはAランクのドラゴンを扱えるのだろうか?見たところ〝頼りない〟という言葉しか出てこないな。」
「確かに肉体的には、一般人と変わりませんね。」
「台座からベッドに運ぶ時に体を触ったが、全く鍛えてない体だ。まだ、この町の男の方が明らかに筋肉があるぞ。台座がまた意味のないものを召喚したのではないだろうな。」
「肉体的には、そうかもしれませんが頭の方は分かりませんよ。」
「気になる点でもあったか?」
「ええ。台座を見に地下へ降りたとき、臆病な振りをして私の手をつないだときです。」
「あれは演技だったと?」
「おそらくそうでしょう。私の手を握る直前は大げさなくらいブルブル震えていたのに、手を握った途端それは収まりました。本当に地下と暗闇が怖いなら、もっと早くに打ち明けるはず。けど手を握るように頼んだのは、道中ある程度進んでからです。私と手を握って気分が落ち着いた可能性もありますが、帰りは私の手を握りませんでした。帰りは真実を見せて話した私たちのことを信用したのでしょうね。実際、隙だらけでしたし、地下を怖がっているそぶりはありませんでした。行きは私たちの事を信用できなかった。父上が下手な真似したら、私を道連れにするか人質にするつもりだったんでしょう。行きは私の手を握り続け、台座の部屋に入った時は1番力を入れてました。暗闇でも閉所でもないのにです。閉じ込められる危険性を無視できなかったからでは?」
「ふむ・・・もしそうなら、なかなかの策士だ。彼とは好意的な態度をとっておいた方が正解か。」
「それがいいかと。」
「まあいい。彼の態度を見るに遠からず竜神殿に行くだろう。数日間、世話するだけで良いはずだ。どうせAランクのドラゴンに会うことすらままなるまい。その前に、あの脆弱な肉体では下位のドラゴンに殺されるのが目に見えている。全くあの台座から現れるものは、意味不明なものばかりだ。」
「・・・・・・・・・」
・・・フフフフッ
リリアは心の中で笑った。
実はエドガーの屋敷地下の台座からの1回目の召喚も2回目の召喚も意味があったのだが
これが露呈されるのは
まだまだ先の話である。
通貨は、
スウェーデンの通貨「クローナ」
をモデルにしました。