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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
帝国小隊長昇任後
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各々の挫折

翌日・・・・


面会許可が下りたので竜二はラプトリアの竜房に向かった。

かなり久しぶりな気がした。竜房に着くとラプトリアは目を閉じて休んでいた。


「ラプトリア・・・」


「竜二!?・・・・・ここへ来ても大丈夫なの?」


ラプトリアは竜二が話しかけるとすぐさま目を開けて竜二の方を見た。意外にも元気そうだった。


「ああ、今日から会ってもいいって言われたんだ。」


「そう・・・・・。会いたかった。」


「ちょ、ちょっと恋人みたいなこと言わないでくれよ!!」


竜二は慌てふためく。誰かに聞かれて誤解されないか咄嗟に辺りを見渡した。


「あら?竜二は違うの?」


「まさか。会いたかったに決まってるじゃないか。大怪我したって聞いて心配したんだから。」


「そう?竜二の方は?」


「俺は大丈夫さ。打撲と擦り傷程度で済んだんだ。ラプトリアの方が重傷だよ。」


ここまで竜二が言うとラプトリアは俯いてしまった。前足を力強く握っている。


「私・・・・悔しい。期待に応えられなかった・・・・・」


「何を言っているんだ!!君はよくやったって。俺が対地戦を遠慮していればこうはならなかったんだから!」


「いいえ!私が「出来ます」なんて言ってしまったからよ。ブレスを吐けなくてもステルスを使えば大丈夫だと過信してしまった・・・・・・私の驕りよ。」


何がAランクだ。何がステルスだ。ラプトリアは目を覚ました後、後方支援士団の人から戦争の経過を聞いてからずっと自分の情けなさを呪っていた。


彼女もまた責任感が強いのだと竜二は改めて思う。南部方面の戦いが上手くいったために、今回も出来ると思ったのだろう。

最初は彼女が好戦的な性格だからだと思った。それも間違いではないだろうが、彼女も彼女なりに「自分が期待されている」と感じていたのだろう。自分が頑張ることで少しでも友軍が楽になるならと一人、気を吐いて戦いまくったのだ。


彼女は大人びているため、経験豊富そうに見えるが生まれて間もないのだ。間違いは誰にだってあるんだと。これを乗り越えてこそ大人になれるんだと分からせなければならない。


ラプトリアには失敗を恐れないように、そして失敗はドンドンするべきだと教えとくようにすべきだと竜二は思った。彼女の真意がわかると竜二の気が急激に収まってきた。


『自分はなんて小さな事で悩んでたのだろう』

不意にそのように考えるようになってきた。隊員達も相竜も生きているのにクヨクヨしていてもだめだ。


竜二は早速、ラプトリアに失敗で恥じる事はないという事と挫折を教訓に乗り越えるように元気づけ始めたのだった。







その後、竜二はリディアの部屋に入った。


リディアの地位は一般兵なので相部屋にいるはずだが、怪我により個室の病室が与えられていた。リディアはベッドで上半身だけ起き上がった状態だった。非常にやつれている。覇気も元気も全くないようだった。


「リディア。体はどう?」


「隊長・・・・この状態で失礼します。」


「気にしなくていいって。」


リディアは先の戦いでろっ骨を数本折った。上半身には白い布が幾重にも巻かれているのが肌着から見える。パシャ将軍が受け止めてくれたおかげで、転落による負傷は少なかったものの体勢に無理があったのか首を捻挫してしまった。首にも痛々しい布が巻かれており、竜二が来ても首を回せず目で追っている状態だった。


「俺を助けに来てくれてありがとう。」


「・・・私は何もしてません。助けに行ったくせに何も出来ず、ただ怪我をしてメルドと一緒に後方支援士団の手間を増やしただけです・・・」


自分に対するやるせなさと無念さがリディアに対してのしかかる。結局何も出来なかった。あの空中戦もハルドルの補助が無ければとっくに殺されていただろう。後軍に担当したときは憤慨して隊長に厳しく当たったが、蓋を開けてみれば、やっぱり自分が足手まといだった。リディアの眼には涙が滲んでいた。


「そんなことないって。君が注意をそらしてくれたおかげで、俺は反撃する時間が稼げたんだからさ。」


「隊長は優しいですね・・・・」


これ以上、慰めの言葉を掛けても無駄だと竜二は思った。悲観している人に前向きの言葉を掛けても効果ある人と無い人がいる。今のリディアは後者なのだろう。竜二は話題を変えてみた。


「質問したいんだ。君が俺の遊撃小隊に入りたいと思ったのはなぜだい?」


新たな遊撃隊員として士爵館に訪れたリディアは竜二に希望してきたと言った。なぜなのか竜二には分からなかった。最初は知り合いがいない自分を慮って同情から入隊したのかと思った。だが付き合ううちに違うと感じ始めていた。そうなると入隊動機が分からない。


「・・・最初にお会いしたとき、私はAランクなんかって思ってました。ところが帝都に移動するとき、Aランクとの力の差をまざまざと見せつけられました。私もいつかラプトリアのような竜を相竜にしたい。相竜に出来なくてもメルドを鍛えて少しでもAランクに近づきたい。それには隊長の下で戦うのが良いと思いました。間近でラプトリアの戦いぶりを見れますから・・・・」


どうやら純粋な向上心からだったようだ。改めて竜二は彼女を見直した。


「ランクもあるかもしれないけど、俺は神殿契約しているからさ。君も神殿契約すれば・・・・」


「帝国では神殿契約できません!帝国を出て他の国の支殿に行って神殿契約する方法もありますが、私は帝国から離れたくありません。ならば現有のまま、努力を積み重ねていくしかないんです。」


彼女は彼女なりに少しでも一人前になりたいという一心だったのだろう。せっかく竜騎兵になれたのだ。頑張って武功を積み騎士になりたいと思う。だが、その願いは叶いそうもなかった。相竜がいなければ話にならないからである。


「数分前にメルドの事を聞きました。もう自由に竜房に行って良いそうです・・・・」


「それは回復に向かっているのではなくて・・・・」


「・・・・臨終を宣言されました。」


現在社会の集中治療室に運ばれている時と同様、治療中は誰も会えない。会えるのは治療が終わり、回復に向かっているときと、もう治療の施しようがなく死を待つのみという時だろう。


メルドも無理だったらしい。これによりリディアは竜使いではなくなる。怪我が治り次第、適性を再調査され、向かないようなら陸軍の一般兵になるだろう。


Aランクに追いつくのは大きく遠のいた。「また契約すればいい」と言う気にはなれなかった。そんなことを言えば、ついさっきまで相竜だったメルドの死を悼んでいるリディアにはつらいだろう。消耗品の如く割り切って「はい、次」という訳にはいかないのだ。

この発言はリディアがメルドを失った悲しみを乗り越えて、立ち直った時に言うべきではないかと思った。


「とりあえず、メルドのところにいかない?今まで君を支えてくれた竜なんだから君が行かなくちゃ筋が通らないだろ?」


「・・・・会いたくないです。会えば自分が自分でいられなくなるような気がして・・・」


「そういった悲しみや口惜しさが君を成長させるんだってば。ほら行こう。相棒にただ一つ、こう言えば良いんだ。「今までありがとう」ってね。」


「はい・・・分かりました。手伝ってもらえますか?」


ほのかにリディアに生気が戻ってきたようだ。これで少しは明るいリディアに近づいたと思う。

リディアがベッドから立ち上がり、竜二とメルドの竜房に行こうとしていた矢先、




「失礼。ちょっといいかしら?お話があるの。」


エリーナが突然入ってきたのだった。




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