帝国内乱〜ラパント攻防戦 3
〜ルトナー公爵陣営〜
帝都東部ではいまだ激しい戦いが続いていた。ジンガ将軍とボリクス将軍は相変わらず一騎打ちで粘り強く戦っており、一歩も譲っていない。正規軍の名だたる将軍に互角とあらば、なまじ相手の方に名声がある分、両将軍周辺の兵士達の士気の方が高かった。
中央の本軍は領主であるルトナー公爵自らの指揮によって士気は高く、兵力が多いことも相まって一進一退の戦いが続いている。それでも少ない正規軍が互角まで持ちこたえているのは三将軍の能力の高さの表れだろう。
消耗戦になれば正規軍が不利である。ミハイルもついに剣を手にとり前線に出た。
「公爵様!ミハイル将軍が動きました。前線に出てきたとのことです。」
伝令兵からの報告を受けたフェリックスはニヤリと笑う。
「そうか。これで相手は駒を全部使い果たしたことになるな。よろしい。全兵に伝えよ。〝ミハイルが前線に出てきた。これで敵は策を使い果たした。数は我が軍が有利。相手が疲れてきたら反撃の好機だ〟とな。」
「承知しました。」
伝令兵が一礼して去っていった。
フェリックスは戦場を見渡した。今のところ上手くいっている。前線の三人の将軍には明らかに疲労の色が見て取れる。当然だ。気が緩んだら中央の兵士達は左翼か右翼の応援に行くことになる。そうなれば、ジンガ将軍やボリクス将軍は有利になる。
だが中央を崩そうにも全面防御の命令を出しているため、攻めあぐねているのが現状だった。もちろん後方からは弓矢の間接射撃も加わっているため、正規軍は思うように進軍できない。
三将軍達はよくやっており、ルトナー軍兵士達の守りを少しずつだが突破している。突破しているものの、突破されると速やかに他の兵士達が穴を的確に埋めていくため、結局は一進一退になっている。
ここでミハイル登場とは一抹の不安も感じるが、すぐに思い直した。
フェリックスは空を見上げる。
『まあ心配ないか。当面、飛竜騎兵は能力を発揮できまい。むしろ撃墜されていく姿が正規軍兵士の眼に焼き付けられ、正規軍は委縮しつつある。だからこそミハイルが前線に出てきたのだろうが・・・・』
とりあえず空の戦いは順調のようだ。フェリックスは視点を下ろし、ふたたび前線兵士に命令を出していった。
〜帝都東部上空〜
「なんだ!どうなっているんだ!」
バルツァーは大きく声を張り上げた。
無理もない。飛竜騎兵の大半を東部方面に裂いた。彼らが空から対地攻撃をすれば、ルトナー公爵軍はたちまち不利になり、正規軍が押し切って勝利だろうと思っていた。
ところが現状はどうだ。上空に残っている飛竜騎兵はわずかしかいない。東部方面には四百騎以上も配置したのに上空にいる残存兵力は百騎前後だ。
敵が何か策を講じてきたのかと思ったが違った。ルトナー公爵軍の本陣に聖甲騎士団の弓兵がいたのだ。聖甲騎士団の弓は射程が長く、対空武器としても十分機能する。数にして二百人と言ったところか。
加えて敵竜使いの攻撃も受けることになり、〝空〟から〝地上〟から次々と攻撃を受けドンドン撃墜されてしまったのだ。
『迂闊だった!後軍配置分の竜騎兵半分以上をつぎ込んだのだから、放っておいても大丈夫だろうと思い込んでしまった。Aランクの戦いぶり見たさに東部方面の戦況を軽んじるとは、このブルーノなんたる不覚!!』
とはいえ自分を責めている時間はない。敵は手を緩めてくれるわけはないのだ。
バルツァーは進みながら地上を見た。陸軍はまだ本陣に到達できていない。とても聖甲騎士団員を止めてくれそうになかった。敵の竜使いはまだ二百五十騎以上いる。つまり今の戦力で空と地上両方を相手にしなければならない。これに対してこっちは二百騎に満たない。
こういう場合、まず聖甲騎士団の弓が届かない雲の上まで高度を上げるのがセオリーだが、現地契約までしか到達していない飛竜騎兵では、これ以上高度を上げるのは厳しい。
かくなる上は・・・・
「松原士爵!」
「はい!」
これから敵竜使い達を叩こうと思って残存兵力と合流しようとしていた竜二にバルツァーが急に大声で呼びかけた。
「突然で申し訳ないが・・・・・・・・君の力で・・・あの聖甲騎士団の連中を何とかしてくれ!!」
〜ルトナー公爵軍 本陣〜
「フン!ミハイルが加わり、ようやく息を吹き返してきたか。」
盾さえ斬るというミハイルの剣の腕は帝国では有名である。正規軍が少しずつ押してきた。中央の兵士達は怖気づき始める。だがルトナー公爵は慌ててなかった。中央の兵士達には気の毒だが、総大将が出てきたということは、敵本陣がガラ空きということだ。左翼か右翼のどちらかが本陣にまで到達すれば、正規軍は包囲されたも同然。
あとはジンガとボリクス次第か・・・
竜騎兵も聖甲騎士団の弓の餌食になっていることだし、持久戦に持ち込めば我が軍が勝利するだろう。
ルトナー公爵が本陣で深く椅子に座り、足を組みなおした後、【その報告】はもたらされた。
「大変でございます!!聖甲騎士団の方々が殺されています!!」
「何だと!!別働隊でもいたか!?」
「違います!!何か何やら分からず次々と斬殺されているのです。」
わけが分からず、ルトナーははっきりと申せと怒鳴ろうとしたが、自分で見たほうが早いと思い直し、伝令を突き飛ばして聖甲騎士団配置場所に向かった。
するとそこには俄かには信じられない光景があった。
聖甲騎士団員の過半が斬殺されていたのだ。首や胴体や手足が切断され鉈でも振り回しているのかと言いたいくらいに見事な斬り方だった。殺された多くの兵士は痛いと感じる前に死んだのではないだろうか?
歴戦の猛者であるフェリックスもさすがに驚愕を隠せない。
「これはどうしたというのだ!味方に反逆者でもいるのか!」
焦るフェリックスに部下が進言する。
「公爵様!あれを見てください!!」
逃げ惑う残りの聖甲騎士団員が殺されているときに僅かに物影が目に映った。一瞬だけの半透明な状態だが、あのシルエットは間違いなく・・・・・
ステルスドラゴン!
半透明状でよく分かりにくいが、あのエメラルドグリーンの瞳は間違えようがない。あの煌めく色の瞳を持った竜は現在の帝国では一匹しかいなかった。おそらく攻撃に夢中で一時的にアビリティの効果が弱まったのだろう。そうでなければ怪事件と思われたに違いない。
『どういうことだ!松原竜二はまだ成長途中ではなかったのか!ろくに力が出せないと聞いていたが、出鱈目も良いところではないか!』
全ての聖甲騎士団を倒した後、今度は我らを狙うのかと身構えるもAランクの竜は我関せず、再び完全に透明になった。そのあと一切、攻撃を加えて無いところを見ると上空に戻ったのだろう。
余りの鮮やかな殺戮ショーは恐怖を超えて感銘さえ受けたが、フェリックスはすぐに立ち直った。
「しまった!奴はこれから空中戦で竜使い達を始末する気だ!我が軍は空に対するアドバンテージを失ってしまう!」
あの攻撃力では味方竜使いも長くは持つまい。こうなれば・・・
「全面防御は解除だ!全力攻撃に変更する!各隊にそう伝えよ。ワシも前線に出る!」
少し早いとも感じたが、制空権を取られればどっちみち終わりである。攻撃の命令に切り替えるしかなかった。
〜正規軍陣営〜
「閣下!敵が攻撃に切り替えました。突撃してきます。」
「うむ。分かっている。」
ミハイルは戦いながら、敵本陣での様子をちょくちょく見ていたが、本陣の近くで聖甲騎士団が次々と倒されていく様は兵士達の悲鳴と共に嫌でも目に入った。
あれは間違いなくラプトリアの仕業に違いない。ということは南部方面の戦いはもう終わったということだろう。こうやってラプトリアが暴れているということは、どちらが勝ったかは火を見るより明らかだ。こちらがまだ戦局を打開することすら出来てないのに、もう二戦目に突入しているとは・・・・
「・・・・Aランク恐るべしだな。」
全くもって実感するが悠長にもしてられなかった。今度は我々が攻め込まれているのだから。
「ガシップに伝えよ。敵が防御を解除したため、貴殿が先鋒になって血路を開けとな。」
「承知しました。」
『このままでは陸軍の名折れだ。なんとしても我らの手でルトナーだけでも捕らえなければ』
頼もしいと思う半面、負けたくないという競争心がミハイルを奮起させる。彼もまた一人の武人だったのだ。
ミハイルの獅子奮迅の活躍により徐々に中央はこれから押されていくことになる。
~帝都南部方面 上空~
竜二は残存部隊と共に応戦していた。ここでもラプトリアは大活躍し、長い尻尾を使った三六〇度回転のテールアタックで次々と竜使い達が空中に投げ出される。時には一回のテールアタックで四人も相竜から打ち落とす成果を上げていた。もちろんスクリューロールアタックも炸裂している。
当の竜二は酔いとの戦いだったが・・・・
ラプトリアも竜二も全身に返り血を浴び、もはや全身の半分が赤く染まっている状態だった。本人達は無傷だったが、その様がなんとも威圧的であり敵も積極的に攻めてこなくなってきた。
「竜二。大丈夫?」
ラプトリアが声を掛けてくる。心配してくれているのだろう。ここで彼女の足を引っ張るわけにはいかない。
「ああ、問題ない。そういうラプトリアは?」
ラプトリアも南部方面の戦いに比べると攻撃から次の攻撃までの時間の間隔が長くなってきた。呼吸も粗くなってきており、明らかに疲れが見える。
「大丈夫よ・・・・まだまだ堪えられるから。」
無理をするなと言いたいが、さすがに戦闘中に言うことは出来なかった。ここで休憩を取ろうものなら他の味方竜騎兵が危険にさらされる。せめてバルツァーあたりが気を利かせてくれればいいのだが、まだまだコチラの方が兵数は少ない。そんな余裕もないだろう。
竜二は初めて周囲を見渡した。部下達はどこか見たかったからだ。ハルドルを捜すとすぐに見つかり、彼は大きく善戦している。
アルサーブは敵のブレスをものともせず正面から前進し、敵の頭に噛みついてそのまま頭部を噛み砕いてしまった。頭がなくなった敵の竜からは大量に血が噴き出す。
そのあと大きく直進したかと思ったら敵の竜に目掛けて体当たりする。空中での頭突きだ。アルサーブは平然としており、相手の竜は意識を失ったのか地上に落下する。あれでは竜使いも助からないだろう。
次にブレスを吐こうものなら正確に狙いを定め、一体一体確実に撃ち落としている。地味だが確実な方法を行っている。
「なんというかブレスにおいては堅実。格闘では大胆。と言ったところかな・・・」
流石に加速しての頭突きは見ていてこっちが痛くなったものだが、アルサーブのワイルドさは此れだけに留まらない。敵陣に目掛けて飛んでいったかと思えば、両翼を広げて敵の竜使いにぶつける。左右の竜使いはたまらず後方へ吹き飛ばされ落下していった。
『うひょ〜!翼を竜使いの首にあてたぞ!両腕を使ってのラリアット・・・・いや翼を使ってのウイングラリアットか!あれで翼はへっちゃらなんてアルサーブは鉄人か?』
翼さえ武器に出来るとは凄まじいの一言だった。
しかし、よく見るとハルドルもアルサーブもその戦い方とは裏腹に冷静に対処しており、慌てている様子はない。自分の出来る範囲で事を為そうとしている気が見て取れる。ランクは低くてもハルドルもアルサーブも歴戦の大先輩だなとあのペアを、竜二はすっかり見直していた。ラプトリアも同じ気持ちだったようで、
「ハルさんからは、まだまだ教授してもらうところがたくさんありそうね。竜二。ハルさんと喧嘩しちゃだめよ?」
「しないしない!生き残ったら俺は講義を依頼するよ。」
「その時は私も混ぜてね。」
竜二は苦笑しながら頷くと、今度はリディアを捜した。だが杞憂とばかりにすぐ見つかった。アルサーブの近くにいたのである。どうやらハルドルの一連の戦闘はリディアをサポートするためだったようだ。可能な限りリディアに攻撃させて撃ち漏らしたら、ハルドルが倒すという図式だろうか?
敵を倒しながら若手の育成にも助力している。全くハルドルには頭が上がりそうになかった。当のリディアはぎこちないながらも必死に避けて、ブレスを吐いて戦っている。ハルドルの指示なのか、接近戦はまだ怖いのか、攻撃はブレスに頼っている状態だった。それでも懸命に応戦していた。
「近くにもう一人、師匠候補がいるなんてなんで気付かなかったんだろう?」
「本当ね・・・」
技術を持っている人からは積極的に近づくべきだった。知識の習得ばかり固執せず、技能にも力を注がなくてはならない。自分の部下だからとハルドルの存在を軽んじてしまった。小隊長になった事と、ラプトリアの力を知ってしまった事で天狗になってしまったのもあるだろう。生還したら初心に戻って実践の演習を行う必要がある。軍人である以上、この先ハルドルが戦死しないとも限らないのだから。
再び戦闘に移ろうとしたときには、あらかた勝負はついていた。敵の竜使いが散開し、遁走し始めたのである。
「ふう〜、よし!空中の敵は片付いた。これより対地攻撃を行う。最後の踏ん張りどころだ。気力を振り絞れ!少しでも陸軍に楽をさせてやるのだ!」
「「おお〜!!」」
息も絶え絶えに残った飛竜騎士団員が一斉に歓声を上げる。
「松原士爵!お前はよくやった。もう休め。帝都南部の貴族軍陣地が休息場所になっている。あとは皇帝派の貴族軍が守ってくれるだろう。」
ブレスを吐けないラプトリアを慮っての事だろう。だが飛竜騎兵の残存兵力は六十騎を下回っている。流石に自分だけ悠々と帰還するのは気が引けた。
「あと少しならば、私達にもやらせてください!残存兵力も少ないですから、私が加わることで少しは陸軍の助けになると思います。」
「敵陣に接近戦で突っ込むのは危険だ。ましてや今回が初戦だろう?今回は休息し英気を養ったらどうだ?」
確かに対地攻撃してくれる要員は多いに越したことはないがバルツァーから見れば、ここでAランクの竜騎士を失うわけにはいかない。それほど接近戦での対地攻撃は危険だった。だがラプトリアなら何とか出来るのではないかという期待もある。
バルツァーが悩んでいると助け舟があった。
「隊長。さすがのラプトリアも今回は疲労が隠せません。隊長が良くても相竜の事を蔑ろにしてはなりません。ここは休まれては?」
後ろにいるハルドルから助言である。確かにその通りだ。独断専行は良くない。やめた方が良いかなと思っていたとき。
「構いません。あと一戦ぐらい出来ます。アビリティも使えますから行かせてください。」
ラプトリアからの返答だ。竜二の思いを察しているのか実に頼もしかった。
「・・・・・無理しないと誓えるな?」
「はい。」
「宜しい、許可する。ただし十五分だけだ。その時間を過ぎたら帰還するように。良いな?」
「了解しました。」
〜帝都 東部方面〜
「くっ!!飛竜騎兵が対地攻撃し始めたか。弓兵!応戦せよ。」
弓兵は一斉に上空へ向けて矢を放つ。聖甲騎士団製ではなくとも竜が嫌がる程度には威力がある。だが、対竜使いのための対空攻撃訓練をしていないルトナー軍では中々当たらず、時間稼ぎにしかならなかった。
「仕方ない!もう十分時間は稼いだはずだ。西部諸侯軍が帝都に入って占拠していよう。撤退せよ!」
将軍一人くらい首を獲って誉としたかったが仕方がない。竜使い達は飛竜騎士団を壊滅できないまでも、かなりの数を削いでくれたようだ。弓を射りながらならば十分後退できるだろう。
撤退を知らせるラッパ手からの合図で後衛から順次撤退を開始する。
『あの音!撤退か!』
どうやら正規軍攻略は失敗したらしい。ルトナー公爵軍も時間稼ぎの囮で本命は帝都攻略担当の西部諸侯軍なのだが、本音を言えばもう少し戦いたかった。だが個人的感情に流されて規律を乱してもいけない。
「バイバルス将軍!勝負はお預けだ!」
「ちっ!運が良い野郎だぜ!」
ボリクス将軍とバイバルス将軍はお互い見つめあいながら、挨拶は不要とばかりに両者とも陣営に戻っていった。
背中を向けあって自軍に向かいはじめた時、二人ともかすかに微笑んで何処か満足げだった。
「ここまでのようだな!ジンガ王。」
「くそ!ルトナーめ。もう少し持ちこたえられんのか!」
「いいのか?俺は続けても構わんぞ?」
「そこまで儂も愚かではないわ!さっさと軍に戻れ!」
ジンガもパシャも気分的には不完全燃焼だが戦況に変化が起こった以上、一騎打ちを中断しなければならなかった。
パシャが武器を下ろして徐々に後ろに下がり、ジンガが回れ右しやすくしてやる。その行為を甘んじて受け入れ、距離が十分保たれたあとジンガは回れ右をし、軍に合流しようとすると事件は起きた。
次々と歩兵たちが斬り殺されていくのである。
攻撃が非常に早いため、至近距離にいる者は何が起こったか分からないだろうが、こうやって遠目から見ると特定の場所だけで、兵士達が斬られている。魔法を放ったにしては散発的過ぎる。間違いなく斬撃だと思った。
(ひょっとして、あれが噂のAランクか?)
ラプトリアの能力はジンガも聞いていた。斬られている兵士を見る限り、ジンガは本能的にあれはラプトリアの仕業と察したのである。
これ以上の味方の損失を防ぐため、なにより価値ある首を獲るため、ジンガはダッシュで近寄り、斬られている味方兵士達のところへ走っていく。
遠目から見ていたため、太刀筋は大体見抜いていた。味方兵士の前に立ちはだかり、そろそろ自分を斬ろうとして、自分のところに来ると踏んだその時!
『今だ!!』
ジンガは本能的に気配を感じとって装備している長くて巨大な鉄金槌で思いっきりフルスイングした。
「あぐぅー!!」
ゴキッという音と共に何かが横に吹き飛ばされる。
確かな感触があった。肉と骨が一緒に当たったような感じで肋骨に当たったか。
アビリティが解除されたのか、ようやく姿を見せた。
間違いなくステルスドラゴンだった。
「あれは松原士爵!?」
パシャは驚愕した。パシャからは遠くて、よく見えなかったため、敵が斬殺されているのは、てっきり味方が魔法で追撃しているものと考えていたのだ。
『いかん!ジンガはトドメを刺す気だ!』
パシャはダッシュで助けに行く。時間的に無理だろうが構っていられなかった。
「松原隊長!!」
吹き飛ばされた竜二を援護しようとリディアがメルドを操ってラプトリアのところに駆けつけた。
「待ちなさいリディア!」
ハルドルの制止も聞かずにジンガに向かって攻撃をし、注意をこちらへ向けさせる。
「雑魚め!邪魔だ〜!」
ジンガは腰につけている投擲用の棍棒を振り向きざまに思いっきり投げつけて見事にリディアに当てる。
「はう!」
余りの威力にリディアはメルドから後ろに吹き飛ばされる。機転を利かしたパシャがさらに駆け込んでリディアをキャッチする。
メルドはというと、もう片方の腕で振り回された一撃で頭部を殴られ地面に叩きつけられ意識を失った。
「さて、Aランクを討ち取って我が誉とするか。」
ジンガは向き直って鉄金槌を両手で持ち、竜二に向かって振り下ろそうとする。
『タッチの差で今からでは間に合わないか!』
唐突にリディアが方向を変えて降下したため、一瞬呆気にとられた。リディアが隊長の援護に向かおうとしているのを気付くのに多少時間を要してしまったことと、アルサーブの飛行能力の低さもあいまってハルドルは焦っていた。
ブレスを吐こうにも竜二が巻き添えになってしまう可能性が高い。
ならば接近戦で止めようとハルドルは一気に急降下するが僅かに間に合いそうもない。
「むう〜隊長!」
ただハルドルは間に合ってくれと願いながら降下していた。
『どうすればいいんだ!どうすれば・・・』
ラプトリアは地面に頭を打ちつけて失神したのか動く様子がない。竜二は起き上がろうにも片足が地面とラプトリアの体に挟まってスグには抜けそうになかった。
いや相手はそれまで待ってくれないだろう。
竜二は敵を見上げた。まるでファンタジー小説に出てくるドワーフ族が長身になって現世に現れたような容貌だ。一九〇センチはありそうで髭も濃くて長い。ワイルドさ全開だ。
武器は大きくて如何にも重そうな鉄ハンマーだった。これで自分の頭を叩き割る気だろう。
竜二は当てもなく、ひたすら体中に手を当てて使えそうなものは無いか、半ば死を覚悟しながら必死に捜していた。
すると腰に当てているポシェットに手が行った。中の物にさわった途端、
「!」
竜二の直感が働く。
一か八か・・・・・《強化!》
「は!今更、魔法を使って何になる?もう手遅れだ。我が名誉の糧になるがいい!!」
ジンガは思いっきり振り被って金槌を竜二の頭に振り下ろそうとした。
だが次の瞬間!
パンッ!!!
甲高く乾いた音が鳴り響いた。
その直後、ジンガは金槌を手放し、竜二とラプトリアに覆い被さるが如くうつ伏せで突っ伏した。瞳孔は開いたままであり、即死であったことがうかがえる。
周りの者は目を見開き、口をポカンと開けながら呆気にとられた。何が起こったんだとでも言いたげだ。
竜二の手には
サバイバルゲーム仕様のエアガン《シグ・ザウエルP226》が握られていたのだった・・・・




