召喚場所
「私の言っていることを信じてくれるかね?」
「・・・ええ、まあ」
まだ100%は信じるには、時間がかかりそうだが、
嘘はついてないということはわかった。
無論、ドッキリでもない・・・
間違いなくドラゴンだ。それも絵本や小説でおなじみの竜だ。
それもヘビやワニに近い東洋風の龍ではなく、トカゲに近い西洋風の竜だ。
釣り糸は見えなかったし、CGには見えなかった。
この建物の上を低空飛行して、通り過ぎた時の突風と翼が羽ばたく羽音は今もなお、耳に残っている。しかも、その竜に人間が乗っていたとあらば、着ぐるみには見えない。
確かに象やキリンより巨大だ。
自分がこの世界の住人なら「一番でかい動物はドラゴンだよ」と即答するだろう。
この世界の住人かどうか確認できる最高の{魔法の質問}と言える。
「まあ、驚くのも無理はないがね。とりあえず、ようこそと言っておこうか。」
「ええ、まあ・・お世話になります。」
竜二は年相応に、いや年齢以上に広い柔軟性を持っている自覚があったが、
まだ時間がかかりそうではある。
「さて、今度は君から質問する番だ。とはいっても山ほどあるだろうが。この世界に関しての説明はドラゴンの件も含めてこれからじっくりと説明する。それ以外で聞きたいことはあるかね?」
「ええとじゃあ、俺がこの世界に来た顛末はご存知ですか?分かる範囲で良いのですが・・・」
今までの経験上、こういうときは疑問点を一つ一つ聞けば、落ち着きを取り戻せるものだ。
ドンドン質問しようと思った。
「君がこの世界に召喚された理由はわからない。だが君をこの世界に召喚したヤツなら知っているが。」
「へ?知っているんですか?」
余りに突拍子のないことに唖然とした。
こんなに早く犯人が分かるとは。
「会ってみるかね?」
「会えるのですか!?」
またもやびっくりした。
てことは真相のすべてを当人に聞けることになる。
「会います!会います!是非、会わせてください。」
「では、ついてきなさい。」
竜二はついて行った。
本人に向かって、断固強い姿勢で「帰してくれ!」って言えるだろうか?
さすがに理由次第では、丸めこまれるかな?
などと思いながら、ついて行く。
この建物の地下に行くようだ。
エドガーは松明を手に取り、さらに進む。
竜二もそれに続き、地下を進んでいくと
「!」
竜二の直感が働く。
竜二は後ろを振り返り、
「大丈夫?手伝うよ。」
「あら、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。」
竜二は後ろからついてきてるがスカートゆえに歩きずらそうなリリアをエスコートしようとしたが、やんわりと断られた。
「いやいや、ここは俺になけなしの男を見させてよ(笑)」
「いえ私はここに何回か来ているんですよ。竜二さんの方が父上と離れない方が・・・」
「いやあ実は俺、地下と暗闇が苦手なんだ。格好つけようとしたんだけど何回も来ているなら心強い。俺と手をつないでもらえない?」
実際、手や足が震えている。
「分かりました。じゃあ、私と一緒に行きましょう。」
「助かるよ。」
二人は手をつないで再び、エドガーの後をつけた。
「おや、竜二君はリリアに気があるのかね。ダメだぞ。リリアには既に恋人がいるからな。」
「へえ恋人がいるのですか?あ、でも今回だけですよ今回だけ。」
「ふふふ、父上に手をつないでとは言いづらいですもんね。」
「さすが、リリア様。私のような臆病者の気持ちをわかってらっしゃる!」
さっきの失望したような表情はどこへやら、
竜二は打って変って冗談まで言えるようになっていた。
エドガーもリリアもクスッと笑っている。
そうこうしてるうちに、最深部まで来た。
突き当たりに扉がある。
エドガーは、その扉を開け、
「これが君をこの世界に連れてきた張本人だ。」
「て、これは」
その部屋は何もない。殺風景な部屋だ。
あるのは、部屋の真ん中に、大きい直方体の石。
身長2メートルの人が寝ころんで足がはみ出るか、出ないか位の大きさだ。
敷布団を敷けば、ベッドになりそうな高さである。
石には何か刻まれているが竜二には読めない。
「この四角い石が、俺を連れてきたというのですか?」
竜二は思いっきり顔を歪めて尋ねた。
「ああ、そうだ。まあ待て。君の言いたいことは分かる。順番に説明しよう。」
「お願いします。そのためにきたんスからね。」
さすがに呆れたのか、怒ったのか、少しぞんざいな口を聞いた。
「この石は、我々は聖母より与えられし聖域と呼んでいる。普段、我々は台座と呼んでいるがね。台座と呼んでいるのはずーっと昔、誰が発祥かは知らないが、唯一聖母が体を休められる場所だと伝えられているためだ。台座と言えば神聖な彫刻を置くイメージがあるからでは?と一部の学者は語っているが、真実のほどは定かではない。この台座の上に立ったり、腰かけたり、横になることが出来るのは聖母だけだとされる。」
「君が今いるこの大地はアウザール大陸と呼ばれており、このアウザール大陸中の各国のいずれかの地下にあるとされる。他国にはどこにあるか私には分からん。だが我が国には2つある。その1つがこの台座だ。この大陸の黎明期のときは、ここから多くの恵みをもたらしたという。例えば私が聞いた限りでは、ここから種や農具が現れて今の農業の礎を築くことに貢献したと言われているな。」
竜二はまじまじと台座を見た。
台座に刻まれている紋様みたいなものが、リアル感を出している。
紋様が無かったら、納得するのにさらに時間が掛ったに違いない。
それくらい、質素な石でできている台座だった。
さっきから不可解な疑問が湧いている。
「ずいぶん粗末に扱われているんですね。それで、この台座は今もなお恵みをもたらしているのですか?」
不可解な疑問。それは、この台座には神聖な物だという雰囲気は感じられなかったことだ。
これが恵みの象徴なら、もっと丁寧に扱われていいはずである。
しかし、この台座はどうだ。部屋は清掃はしているようだが部屋は大切にされているように見えない。
壁に燭台はあるが、台座は裸むき出し。定期的に磨いている様子はなく保存に力を入れているように見えない。
そこらの芸術品の方が、よほど大切にされていそうだ。
ここまでの地下の道中は蜘蛛の巣まで張っていた。
扱いが罰当たりなほど粗末すぎる。
「他国の台座は知らないが、ここ百年以上は、この台座は沈黙していた。台座の召喚歴は書物に記述されているから、ほぼ間違いないだろう。
この台座は歴代の領主にのみ伝えられてきた。だから一般市民の眼に触れない。しかも今となっては恵みをもたらすようなものはほとんど召喚されてない。我らしか台座を見ないのだから、保存に金は使ってないという訳だ。日常的な掃除くらいだな。」
一呼吸おいて
「実際、先代からも台座の保存より民衆のことを優先しろと言われたのでね。聖母もその方がお喜びになると。この台座が召喚したところを見たのは君を含めて2回目だ。人間が召喚されたのは君が初だな。」
「2回目?」
「そうだ、前回は1年前だろうか。長細い銀色の箱が現れていたな。結局、どうやっても空けることが出来ず、捨てるのも忍びなくて倉庫に眠っているが。」
そういうことか。
エドガーは自分も驚いていると言っていたが、現状では長い間、恵みになるもの有益なものを領主にもたらしてないのだ。
ましてや、ずっと沈黙していたのに初めて人間が召喚されたとあらば、頭に「!」と「?」マークが付くもんだろうなあ。
え?そういえば・・・
「今、領主って言いましたけど、エドガーさんは領主なんですか!?」
「ああ、名前しか名乗って無かったな。すまなかった。私はここテディ市とこの一帯の領主だ。この辺の地理は何でも聞いてくれ。」
異世界に転移した途端、こんなお上にあいまみえるとは。
さすがにもう驚きはしないが。
「よろしく・・・」
茫然とまだ頭の整理ができないまま、竜二はエドガーに促され地上に戻っていった。
その後ろ姿を見守りながらリリアがにやりと笑ったのには、当然気付く訳もない・・・