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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
第2章 帝国編
29/88

模擬戦 (下)

「よくやったな。松原士爵。」


降下した竜二は早速、議場に運んで戦勝報告しに行った。事実確認してるかどうか気になったためである。議場到着して、すぐに総将から出た言葉が労いの言葉であった。自分は殆ど何もしてないのに皮肉かと思った。

「すごいのはラプトリアですけど・・・?」


「竜騎士も竜騎兵も褒めるときは、例え竜の功績でも人間を褒めるのが普通だ。下位の竜のように人語を理解していない竜もいるし、覚える側も二人分覚えなければならないだろう。ラプトリアは相棒のお前さんこそが褒めてやるべきなんだ。ちゃんと褒めてやったか?」


「う・・・まだです。」


戦闘中ラプトリアにタダひたすらしがみ付くので必死だった。まだ指が痛い。本当に何もしないまま決着はついていた。竜二はラプトリアを褒めるより先に、この勝敗結果が有耶無耶にされることを恐れた。到着してすぐ議場に駆けつけてきた次第である。


「馬鹿者が!結果がどうであれ、まずは相竜の労をねぎらうのがパートナーの務めだろう!自分のことしか考えていないのか!相竜だって生きているんだ。時には叱り、時には褒める事で伸びて、パートナーを信頼していくんだぞ!支殿で習ったはずだが?」


「・・・はい。」


返す言葉がなかった。その通りハワードから痛いほど教えられた。あえて周囲が竜に孤独感を与える。そしてパートナーだけが優しく労う事で信頼感が強くなり、絆が生まれ竜の成長が早くなると。

あの時は頭には入ったものの、まだ竜に会えるかどうか。そもそも竜使いにさえなれるかどうかさえ怪しかったので、記憶の奥にしまって今までに忘れてしまっていた。


今回の結果が例え揉み消されようとも、また挑戦すればいい。それよりも今回の模擬戦を振り返りラプトリアに感謝の意を示さなくてはいけなかったのである。


「・・・今からラプトリアのところへ行ってきます。」


「ああ、そうしろ。・・・・・・と言いたいところだが、それは次にお預けになりそうだな。」


「・・・・・・次とは?」


「模擬戦はまだ終わってないということだ。第二戦があるんだよ。」


さぞ驚かれるかと思っていたエバンスだったが、竜二は表情をわずかに曇らせただけである。やっぱりという感じだ。


「・・・了解。次戦は直ぐですか?」


「いや、今から三十分後に開始だ。ラプトリアを褒めるのはそれに勝利してからにしとけ。ところで随分平静としてるじゃないか。驚かんのか?」


「陛下が足を運んでいるのに、これで終わりだなんてあっけなさすぎると思ってました。ついでに言うと模擬戦やるとしか聞いてないです。その詳細は聞いてないですから、終了と言われるまで何かあるなとは思っていました。」


実を言うと、元の世界の会社員時代に業務上の臨機応変と事前予測に関しては徹底的にしごかれたことが、役に立っているのである。休みの日も上司からの電話に神経質になって携帯電話を片時も手離したことはなかった。休日出勤の指示がいつ来るか気が気でなかったものである。

模擬戦の命令でも、模擬戦さえやれば正当性があり、集合時間と場所しか命令が無かった。それ以外の概要、戦闘回数も所要時間も一切命令には無い。幾らでも作戦内容をひねることができる。会社でも日常茶飯事なのだから、きっとこの命令も一捻りあると予想していた。


そんなことを知る由もないエバンスは、新人がよく引っかかる手が竜二に通じないことを知り、素直に感心していた。


『なんだ、竜だけが優秀かと思いきや、竜使いの方も中々鋭いじゃないか。そういや部下の報告では模擬戦の命令が出たあと、不貞腐れるどころか可能な限りラプトリアと飛行して練習し続けたという。肉体的な方はからきしだと聞いていたから、裏切られる心配がないように竜使いのプライドを持ち上げるだけで良いと言われたが、それだけでは惜しいかもしれんな。』


エバンスは少しだけ竜二を見直す気になった。


「なかなか鋭いな。危機感を持つことは良いことだ。それでは三十分以内に二戦目の用意をしておけ。」


「えっと、質問したいのですが。ルールは前回と一緒ですか?今回も複製兵?」


「ルールは一緒だ。だが敵は分からん。ミハイル閣下のみぞ知ると言ったところだ。俺も聞かされてない。ただ、二戦目をやるとミハイル閣下から聞かされただけだ。」


「つまり・・・敵は戦場で確認しろと?」


「そういうことだ。分かったら三十分後に開始地点に着け。」


「・・・了解です。」





~~~~~~~~~~~~~~~~~





「格が違う・・・」


別の観戦席で女性士官が感服していた。

胸元には連隊長の階級章をつけている。彼女も模擬戦を観戦していた一人である。皇帝の護衛役という名目で多くの士官がこの模擬戦を観戦していた。ポルタヴァ会戦以降に入隊・昇格した多くの帝国軍若手・中堅士官はAランクの竜を見た事がない。そこで今後のためにも、Aランクの竜がどれ程のものか、強さと恐ろしさを見せつけておこうというミハイルの思惑であった。彼女も見せつけられたAランクの竜の強さに衝撃を受けた一人である。


「隊長、模擬戦終わったのに戻らないんですか?」


副官からの質問である。彼女はチラッと見て直ぐ空に視線を移した。

「実はこれから第二戦目があるの。その二戦目を見るまで帰れないわ。」


「え?二戦目があるんですか?」


「一部の士官にしか教えられてないけど、陛下がガリューコフ閣下に極秘に用意させたそうよ。一戦だけだと直ぐ勝負がつく可能性が高いからだって。意地悪よね。」


「・・・私はもう慣れましたがね。その手の意地悪は。」


「私もそうよ。果たしてあの竜騎士はこの命令にどんな顔したのかしら?・・・何にせよAランクの竜の戦闘は早々見れないわ。可能な限りこの目で見ておかなくては・・・・・・」





~~~~~~~~~~~~~~~~~





「ふぅー。そろそろ時間だ。ラプトリア、本当に大丈夫?」


「問題ないわ。まあ見てなさい。期待は裏切らないから。」


三十分後に二戦目がある事を伝えた時、ラプトリアは


「・・・やっぱりね。」


とだけ言った。どうやらお見通しだったようである。体力の消費配分も万全だと言う。二戦目を見抜いていた事も驚いたが、あの戦闘で力をセーブしていた事の方も驚きだった。もはや上手くいくかどうかの緊張より、二戦目をどう切り抜けて、ラプトリアがどんなマジックを見せてくれるのか。

そっちの方にワクワクしている竜二であった。


開始一分前、もう開始地点に着いて飛行準備に入っていた。ラプトリアは大きく翼を広げる。

旗兵は既に旗を下ろしている。


・・・・・・五,四,三,二,一



「ブォォォォーーーーー!」


戦笛が鳴り響く!


ラプトリアは思いっきり翼を羽ばたかせて、大きく上昇する。



敵は!?敵はどこだ?ラプトリアも竜二も前方に目を凝らした。

すると・・・


「なっ!」


前方に黒影が見える。どうやら二戦目も複製兵のようだ。だが問題はその数である。四騎編成の複製兵士が三隊。十二人いる。


『一対十二でやれってのか!? ラプトリア!いくらなんでもこれは・・・・』


『大丈夫!任せて!』


竜二は思念でラプトリアに話しかけ、これは不利過ぎると抗議しようとした竜二の意見を退けて攻撃態勢に入る。どうやら相手をする気のようだ。どうやって勝利する気なんだ?などと思いながらしっかり振り落とされない様に竜具にしがみ付く。


ラプトリアは竜二がしっかりと体を固定し、振り落ちそうに無い事を確認すると敵に集中する。


近づきながら十二騎全員が火球を吐く。横一線に火球が飛ぶが、ラプトリアは上に急上昇して回避する。しかし、それを予期してたのか。複製兵達は二発目を上に向かって連発する。射角が微妙に違う十二発の火球が飛んでくる。もう避けようがないと思いきや、ラプトリアは大きく翼を羽ばたかせ、頭を敵に向けたまま右へ緊急回避する。まるでワープしたような回避だった。


その直後、ラプトリアは複製兵士達に向かって突進する。だが敵は三隊に素早く分散した。ラプトリアの突進は空を切る。


今回の連携といい、さっきの連発の時の発射間隔といい竜二は確信した。


『ラプトリア!間違いない。この複製兵達はさっきの複製兵より強い。』


『ええ、竜二!私も感じた。でも勝てない相手じゃない。敵の強さは大体把握した。これからが反撃開始ね。』


返ってきた言葉は緊迫した言葉ではなく、余裕がある感じの言葉だった。どうやら攻撃に転じる気らしい。


ラプトリアは一旦、低空まで急降下した。複製兵の一小隊が直下降に追いかける。

複製兵が追いかけている事を確認したラプトリアは一気に急上昇し始めた。降下する時は速度を調整したのだろう。急上昇する時の方が速い。あっという間に距離が詰まる。複製兵が躱そうと、もたついている内に敵小隊の真ん中を猛スピードで通り過ぎる。

通り過ぎた際の爆風が起こり、四騎中、三騎の複製兵が複製竜から吹き飛ばされた。竜使いが落ちたら負けである。一瞬で三騎が脱落した。残り一騎も大きくバランスを崩している。


上昇するラプトリアに左右に分かれた二小隊が一斉に口から火球を飛ばす。


その直後、ラプトリアはあさっての方向に急降下して回避したかと思ったら、大きく弧を描いて右の小隊の前を高速で横切った。すさまじい突風が襲いかかる。四騎ともバランスを崩し、二騎が振り落とされた。


左にいた一小隊が遠距離攻撃だけでは厳しいと悟ったのか、突撃しながら火球を吐く。近づいて命中率を上げる算段の様だ。ラプトリアは反転し逃走しながら避ける。

オイオイどうしたんだ?と焦った竜二だったが、別の事で焦ることになった。ラプトリアはたった今、吹き飛ばした小隊残りの二騎に向かっていた。しかも敵に近付くにつれ減速し始める。瞬く間に挟み撃ちにされ逃げ道をふさがれる。

え?え?マジ?・・・竜二の焦りがピークに達した時、間近まで迫った六騎の竜は一斉に火球を吐いた。その瞬間、待ってましたとばかりにラプトリアは広げて大きく羽ばたいて高度を上げて緊急回避する。

火球はすれ違い、見事に味方同士に当たる。四騎が脱落した。まるで敵がどこに向かって吐くか計算してたかのように当たった。

当たらなかった複製兵二騎も回避した直後に旋回したラプトリアにバックをとられる。敵に向かって大きく羽ばたいて旋風を巻き起こし、また兵士一人脱落した。

もう一方の複製兵は噛みつこうとするもラプトリアは空中でバックステップを行って一瞬後方に下がって躱した。その直後、一気に加速して敵の左肩脇を高速で通り過ぎ、複製兵は堪らず吹き飛ばされ落下する。残りは最初に落し損ねた一騎のみ。


向きを整えたラプトリアは敵に向かって、ゆっくりと近づく。複製竜は火球を口に溜め始めた。少しずつ大きくなる。火球の溜め攻撃である。威力も弾速も向上するが発射まで時間が掛るのがネックである。

とはいえ、ラプトリアの飛行能力見てたなら一撃に頼る事はしないであろう。敵は自棄になっているようだ。

遂に限界まで溜めるが、それでも敵は放たない。ギリギリまで引きつけるつもりだ。それを知ってか知らずかラプトリアはゆっくりと近づく。

そして、もう回避は無理といえるくらいの近距離まで近づくと複製竜は威力が溜まった火球を思いっきりラプトリアに向かって吐きだした。

だがラプトリアに当たる事は無かった。当たる前にラプトリアは大きく息を吐きだし火球を跳ね返して複製兵に命中させた。当たった複製兵は後方へ大きく吹き飛び落下したのである。


ラプトリアはまだ炎や吹雪といったドラゴンブレスは吐けないが、息の風を使って正確に跳ね返したのだ。ゆっくりと飛んで近づいたのはタイミングを見計らっていたのもあるが、ここまでの過激な運動での呼吸を整えたかったからだろう。そして大きく息を吸い込んで、思いっきり吐き出したのだ。

ただ気になるのは・・・


「狙ったの?」


「・・・いいえ。本当は息で吹き消そうと思ったのだけど、跳ね返せるとは思わなかったわ。意外な発見ね。」


「は?正確に狙って跳ね返したんじゃないんスか?」


咄嗟にオーロのような口調で質問してしまった。


「まさか。一人しか残ってないから今度は相手の出方を見てから迎撃するつもりだったの。今までは先に先手を取っていたから。」


どうやら竜二の推測違いらしい。てことはラプトリアは火球を相殺したあと、反撃に出るつもりだったのか。ラプトリアが火球を跳ね返したことにも驚いたが、呼吸を整えるどころか余力が残っていたことも驚いた。相変わらず怪物ぶりを発揮しているなと思う。


とはいえ、これにて全騎撃墜し見事勝利。

これ以上の敵の追加はないだろう。ようやく終わったと竜二は大きく息をついた。


本人は何もやってないけども・・・・・・




~~~~~~~~~~~~~~~~~




「こりゃ、近いうち一波乱あるかな。」


エバンスは観戦しながら、そんなことをぼやいた。エバンスは地竜騎士だったが、それでも同じ竜騎士だけあって今の戦闘の凄まじさは今も目に焼き付いている。

契約早々、あそこまで強さを発揮する竜をエバンスは過去一度でも見たことがあっただろうか。

しかも戦闘中は竜使いの竜二が振り落されないように気を配っていた場面が随所に見受けられた。同じ竜騎士であるエバンスだからこそ見抜けたことだろうが彼はAランクの竜を余り見た経験はない。

騎士の様子に気を配りながら全力で戦える器用さがあるのもこのランクならではなのか?

そう思うと上官として期待の部下が得られた興奮が禁じえないエバンスであった。


しかし松原士爵の処遇は今後どうなるのだろう?これから政治の道具に使われるかもしれないな。なんとか自分の手が届く範囲で守れればいいのだが・・・・








~~~~~~~~~~~~~~~~~




「これ以上は無理です。今後を考えると魔道士達に負荷はかけられません。」


「・・・十分だ。」


ガラルドは言葉少なげだった。二人とも緊迫したような表情である。それほど驚嘆してたのだ。

造りだした複製兵の強さは基本的に魔道士の能力による。十二騎の複製兵士は個々の戦闘力は普通だが、編隊連携はとれていた。しかし一撃も当てられなかった。ラプトリアの強さにも驚いたが、一番驚いたのは【全く敵に触れることなく勝ったということ。】

ブレスがまだ吐けないということは聞いていたが、ブレスも近接攻撃も一切なしで勝利する光景を二人は見たことが無い。


すべて旋風や息や翼などの風を利用しての勝利である。わざとそうしたのだろうか?別の理由があったからなのだろうか?騎士の指示だろうか?


内容はどうであれ、勝利には変わりない。こんな形でダイヤの原石が手に入るとは思わなかった。軍事力向上にようやく光が差し込みそうだ。


ガラルドは着陸しようとしているラプトリアを見ながら口の片端を軽く吊り上げていた。



『楽しみになってきたようだ。私に勝利の美酒を味わらせてくれよ。

ドラゴンライダー・松原竜二』



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