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ドラゴンライダー立身伝~銀翼の死神~  作者: 水無瀬 凜治
間章 竜騎士就任まで
21/88

ジキスムントと兵士長

「・・・・・・これは!!」


「驚いたでしょう?・・・私も最初見たときはたまげたものです。」


ここは練兵所の隣にある収納庫である。そこにジキスムントと兵士長はいた。強化の魔法を覚えた竜二が自主練習していた部屋である。ここには武器庫と違って刃物や矢玉などは置いていないため安全だとの配慮から、二人がラプトリアの指導中、竜二は此処で練習することになった。


「本当に魔法覚えたての新人竜使いか!・・・・・・」


ジキスムントが驚くのも無理はない。ここにある沢山の器具や道具、ガラクタが強化されていたのである。部屋の約半分の収納物は強化されているだろう。


兵士長から「強化されて困るものは置いてないから自由に練習台に使ってくれて構わない」と言われてたからなのだろうが、訓練用の木剣や木盾、剣術指導用の木人形、使わなくなった椅子、破れた靴、汚れた食器、予備のランプ、夜間巡回用の松明、欠けている花瓶、座学用の戦術教本などの備品がことごとく強化されて鉛色に変色したり、鉄のように硬くなっていたり、性能が向上したりしていた。勿論、そういう魔法なのだから当然なのだが、二人が驚いているのは、その数である。

魔導師も竜使いも基本的に魔法体得直後は力の加減が分からず、コツを掴むまで無理しない程度に練習する。そう、ここまでは間違ってはいない。だが目の前にある強化された収納物の数といったら異常である。とても会得したばかりの新人ホヤホヤの竜使いが放てる発動回数ではない。確かに派手でも豪快でもない魔法だが、中級者レベルの魔法だ。難易度は決して低くはない。


魔法の力加減も曖昧のはずだ。にもかかわらず、これ程の回数をこなせるとは・・・あの細い体の何処にこんな体力が・・・?

ジキスムントは自分の主を思い浮かべていた。竜二とは何日も行動を共にしているが、お世辞にも体力が豊富とは言い難かった。となると考えられるのは一つである。


“一回の魔法の消費体力量が少ない”


これ以外に考えられなかった。

まだ魔法の加減も分かってないのだ。使いこなせれば、どれだけ連発出来るようなるだろう。

「生きている者に効果がない」とマスターはヘコんでいた。実際ジキスムントも『やはりマスターは魔法の素質は無いのだろうか』と呆れていたが、とんでもない誤解だ。

消費体力減少は訓練だけで備わるものではなく、生まれついた素質が重要になる。もちろん訓練次第で多少は身につくが、微々たるものだ。

使い方と加減によっては、半無限的に詠唱できるかもしれない。


マスターが、この世界に降臨したのは「この素質」も関係しているのだろうか?


「君がマスターに対して態度が変わり、低姿勢になった理由はこれか?」


「まさか!あの段階では彼がここまでやるとは思いませんでした。きっかけは・・・・・・後ろからパートナーの殺気を感じたからです・・・」


「・・・・・・あれは危なかったな。寿命が縮みそうだったが・・・」


それはジキスムントも感じてはいた。

竜二は気づいてないようだが、パートナーだけあってラプトリアは竜二を心配とも不安とも取れる視線を送っていた。また同時に兵士長に対する嫌悪とも怒気とも取れる視線も送っていた。それが竜二の鍛錬のためと割り切っていたのか顔には出さなかったが、先日の兵士長の竜二を卑下した時のラプトリアからは明確な殺気を感じられた。

まだ成長段階とはいえAランクの竜である。いかに兵士長が熟練の兵士だったとしても上位竜相手ではタダでは済まない。

左腕で防御した後も反撃しようと思えば出来たが、その時ラプトリアの殺気が増し、体に悪寒が走った。とっさに大げさに痛がって転げ回ったが、もし反撃していれば兵士長は殺されていたかもしれない。あれは兵士長の即興の演技であったのだ。

ジキスムントもその殺気を察知しており、竜二を介抱し兵士長を手当てするまでラプトリアの方を見ることが出来なかった。もし見たら、恐怖で背筋が凍りついていたかもしれない。それほど傍にいると強力に感じられたのである。


ただ数日間の付き合いではあるがラプトリアは独占欲が強いとか嫉妬心が強いとか恋愛感情を抱いているとか、そういう感じではなく、純粋にパートナーである竜二の身を常に案じているということをジキスムントは肌で感じていた。

竜二に危害を加えない限り、不機嫌になることはあっても殺意までは抱かないとジキスムントは踏んでいる。兵士長が演技をしなければジキスムントは兵士長も庇わなければならなかっただろう。兵士長の演技はまさに好判断だったと言える。

翌日にジキスムントが兵士長とラプトリアの鍛錬を行ったときは、表面上は昨日の事はなんぞやとばかりに二人と鍛錬に勤しんでいた。それどころか「昨日の怪我は大丈夫?」と優しく気にかけてくる始末である。

恋愛感情があれば兵士長の顔を見て嫌悪感を露わにするはずだし、独占欲が強ければ竜二の元から離れようとしないであろう。

厳しくても竜二を熟練者に委ね、自分も鍛錬を積んで強くなる事が引いては竜二のためになると判断したのだ。

この『冷静で臨機応変な大人の対応ぶり』は称賛に値する。そう思うとマスターである竜二には羨ましいと感じるジキスムントであった。


「この素質のことを伝える必要があるのではありませんか?」


「そうだな。今日マスターは挨拶回りするつもりだと言っていた。そろそろ君の執務室に向かう頃合いだろう。」


「それでは私の部屋へ向かいま・・・・・・」


「大変でございます!!」


突然、神殿兵士が走ってきた。


「なんだ!どうした!!」


「ハア、ハア、ハア・・・・・・書記官長殿が何者かに殺されました!」


「「なんだと!」」


「ハア、ハア・・・書記官長室で首が切断されてました!第一発見者が竜二殿だったのですが・・・」


「竜二君がか?」


時間的には合う。おそらく書記官長に挨拶しようとして、遺体を発見したのだろう。


「はい。そして神官長が竜二殿を容疑者の一人と断定し、別室に監禁してしまいました・・・・・・」


!!


兵士長とジキスムントは互いに顔を見合わせた。兵士長は頷く。

二人は直ちに収納庫から出て駆け出した。


「あ、兵士長!」


兵士の掛け声にも応じず、二人は書記官長室へ向かう。

丁度、部屋から遺体が運ばれている最中だった。


「状況はどうなっている!?」


「兵士長!お疲れ様です!現状報告ですが書記官長が何者かに殺されました。首が切断されてます。犯人は断定していませんが、第一発見者である竜二殿を容疑者の一人として別棟の一階の個室に監禁してます。書記官長は我々が来た時にはすでに亡くなってました。部屋を見渡す限り、特に争った形跡がないので竜二殿を容疑がかけられたのだと思いますが」


「なんだと!・・・・・・遺体を確認したいのだが良いか?」


「は!・・・おい止まれ!兵士長が確認したいのだそうだ。」


遺体搬送役の兵士は立ち止まり、兵士長は早速、ジキスムントと共に遺体確認に入った。

遺体を蔽っている布をはがすと遺体が現れる。


そこには眠っているかのような書記官長の遺体がある。頭と体は繋げてはいるが、しっかり切れ目がある。間違いなく本人だ。そのあとも兵士長は外傷がないか確認する。どうやら首以外に怪我はない様だ。


「すまん。手間をとらせた。行っていいぞ。」


兵士長が許可すると書記官長は遺体安置室へ運び込まれていった。次に二人は書記官長室を軽く検分すると兵士長は証人・証拠の捜索命令と書記官長とその周辺の立ち入り禁止の通達を出す。その後、兵士長室に行き施錠して総括する。


「どう思いましたか?」


「あからさまに神官長が怪しいな。マスターを犯人に仕立てるには無茶なところが多すぎる。」


「同感です。ですが神官長は罪を着せることが出来ます。よそ者ならば荒波が立ちませんから。」


ジキスムントは大きく頷いた。

近いうちに、この支殿からは立ち去る竜二が書記官長を殺す理由は全くない。

知人や親族などコネクションが無い竜二にとって書記官長は数少ない知人であり、悪事を起こしても庇ってくれる人は皆無だ。まして書記官長とは数日前に初めて会ったばかりのはずだ。恨みなどは有りようもない。

そして一番ありえないのは殺害方法だ。竜二の力量から見て大人の首を切断する剣術技能を持っている筈が無い。ほとんど剣を構えるのが精々だ。出来たとしても突き殺すくらいだろう。首を真っ二つにする程の剣術の技能を持っているとは思えなかった。これは兵士長もジキスムントも確実に断定できる。

どんなに鋭く砥いだ刃物でも首を断ち切る程となると、それなりの経験と鍛錬が必要だ。もし出来たとしても書記官長が何らかの抵抗は出来た筈だ。だが書記官長室には乱れた様子が無い。魔法を発動させたとしても強化魔法しか体得してない竜二が魔法で切断した可能性もありえない。


はっきり言って物理的に無理があると言えるが、それは竜二を間近で見ていた二人だからこそ言えることであり、竜二の強さを知らない神官長は聞く耳持たずに決めつけてしまう事が出来る。支殿内では神官長の発言力は大きい。ただでさえAランクの竜使いなのだ。どんなに兵士長が不可能だと主張しても「Aランクなら不可能ではない!」と言ってしまえば、周囲は口ごもるだろう。ここ十年以上、Aランクの竜使いはこの支殿から出ていないのだ。半ば神格化されていても可笑しくはなかった。


「神官長が聞き入れてくれるかは分かりませんが、とりあえず掛け合ってきます。まだ犯人と決めつけていないようですから。まだ付け入る隙があるでしょう。」


「すまない。恩に着る。出来る事ならマスターと話がしたいところだが・・・・」


「それに関しては、暫くお待ちください。理由がどうであれ、さすがに監禁中の竜二君に支殿関係者ではないジキスムント殿が近づけば、ますます竜二君が怪しまれます。ここは私にお任せを。」


「・・・・・・宜しく頼む」


「もし裏金が動いているなら、竜二君の処刑は無いでしょう。極力生かしておきたいはずです。とりあえずジキスムント殿はラプトリアの元に行って・・・」


「わかった。ラプトリアには伝えておこう。」


「それでは行ってまいります。」


兵士長は退室して廊下を歩いていると、物思いにふけった。


Aランクの竜使いを敵に回して神官長は何を考えているのだろう?







なによりも神官長は気づいているのだろうか?彼の奴隷が“ジキスムント”であることに。





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