ライデン帝国の歴史
ライデン帝国
国力は第二位の国家。アウザール大陸で最も領土拡張に積極的な国。
その歴史は二番目に古い。
元は、小部族が結合してできた国家で
一番大きかったライデン族が台頭化。
当時のライデン族の族長の息子が謀反を起こして父や他の族長を殺し、平定して国になった。
そのあとも西方に武力弾圧と移民政策を実施し、トウセイ山脈に阻まれるまで領土を拡張して大きくなった。
その拡張に伴い、農耕馬や轢き馬の数が追いつかない状態になっている。世界各国のインフラは今も馬が重要な要素を占めているのだ。特に農業が主な産業である帝国にとって農耕馬の徴収は自分たちの首を絞めることになるため、民衆から馬を徴収出来なかった。
そのため、軍備においては軍馬の供給が追いつかず、歩兵を強化せざるを得なかった。
それが
機動力を犠牲にした攻撃力と防御力に優れた重装歩兵の誕生である。
これは当初、苦肉の策であったが結果的にこれが功を奏し、迂回攻撃や追撃戦は苦手だったものの攻城戦や篭城戦、特に防衛戦には滅法強く、持久戦にも耐えるという精強な兵を生むこととなった。
職人の鍛冶能力の向上という副産物ももたらし、多くの傭兵達は帝国へ出向いて武器防具を揃えるようになり、帝国の大きな資金源となった。現在も帝国の、特に防具は最高水準の技術力を誇っている。
結果的に帝国はどんどん発展し、未開拓の土地を平定し大きくなった。
歴代の帝国は代々、表向きは聖教とは良好な関係を築いていたが、皇帝崩御の時に一変する。
かつて前皇帝には嫡子が無く、レッドゴッド連邦の前総統の次男が国家間親交の強化という名目で養子に出された。
元々レッドゴッド連邦の幹部は寄付金ばかり請求し、有事には何もしてこない聖教の事は快く思ってなかったが民衆の半数はトムフール聖教を信仰していたため、渋々ながら良好な関係を築いていた。
幹部たちの「その想い」は、しっかりと「次男」に過剰に受け継がれることとなる。
元々、トムフール聖教を勧めていなかったせいか、この頃になると帝国内において、民衆は地域特有の神を信仰する傾向が強いことを知った次男は前皇帝が死に、現皇帝に即位すると聖教と対立を明確化し決別を宣言。
これにより帝国は、高額な寄付金や精兵の派遣をしなくて良くなり、国力はさらに強まることとなる。
この養子に出された次男こそが現皇帝“ガラルド十二世”である。
憤慨した聖教は、騎士団を率いて懲罰を加えようとした。当初は仕置きを込めて、小競り合い程度に済ますつもりだったが、守りに優れた帝国相手に戦は長期化、聖教は逆に苦戦し疲労が蓄積したところで突撃を受け、大打撃を喰らった。その後は複数の傭兵団を雇って再出兵するも再び撃破される。
焦った法皇は、ついに帝国を公敵指定。
各国が帝国を攻める大義名分を得た。だが、ほとんどの国は帝国を攻めようとは思わなかった。
隣接するレッドゴッドは皇帝が前総統の子息ということもあり、中立を決め込むことにしたのだ。
唯一、手をあげたのが聖教寄りであるバレリー王国である。
帝国は、「バレリー王国・聖甲騎士団」連合軍は国境近くのポルタヴァ平原で激突。
『ポルタヴァ会戦』である。
ガラルドが皇帝に即位して二年後の事である。
ガラルドは、バレリー王国は聖教の要請に応えているだけで聖甲騎士団さえ潰せばこの戦争は終わると考えた。
帝国軍は聖甲騎士団一点に絞り、王国軍には囮部隊だけにし、攻撃を開始。
終始、数に劣る聖甲騎士団は劣勢であり、徐々に後退していた。王国軍も囮部隊を突破できないでいた。
帝国軍は好機とばかりに前進し、本陣にまで迫り、騎士団長を打ち取る寸前まで追い詰めるも、そこで王国軍が側面攻撃を強行。
野戦において最高の女性指揮官とされる王国軍最高司令官エレン・バーキンスは、ガラルドの思惑を見抜き、聖甲騎士団そのものを囮にする大胆な戦術を考えていた。
これは聖甲騎士団は勿論、側近の部下以外には誰にも教えていない密案であった。
エレンはわざと苦戦しているように見せかけ、敵の陣形が伸びきったところを側面突破し、前後に分断。
前衛に出ていたガラルドは後衛と切り離されてしまう。聖甲騎士団と王国軍に挟まれた帝国前衛軍は、どんどん追い詰められた。
ガラルドは窮地に追い込まれるも、後衛にいた重装槍兵団の団長にして四皇将の一人であるミハイル・ガリューコフ将軍が王国軍に突撃して血路を開き、ガラルドは命からがら本陣に退却。
しかし、聖甲騎士団の損耗が激しいこの時を逃せば、再び聖教は力を盛り返すと踏んだガラルドは、遂に今まで温存していた竜騎士部隊に出撃命令を出す。
できることなら、竜騎士部隊無しで勝利したかったが、それは叶わなかった。
各国が聖教と縁を切れない背景には神殿契約を結んだ竜使いを紹介してもらえなくなるという理由がある。
聖教と決別した帝国には、もう今までのように竜使いは紹介してもらえない事を覚悟していたため、今回の戦で何としても勝利して聖教の権威を弱め、帝国に帰順させなければならなかった。
帝国軍の地竜・飛竜騎士部隊総員で連合軍に襲いかかるが、連合軍側も精鋭中の精鋭「光竜騎士団」とバレリー王国直轄の竜騎士団で迎撃する。
野戦を通じて総力戦になるが半日が経った頃に、ついに帝国が先に限界に達し敗退する。
敗因は上位の竜が数多くいる光竜騎士団に分があったことと、当時は帝国側に魔導師が少なかったことである。
帝国の歩兵の損害だけ見れば、まだ戦闘続行できそうな兵力差だが、竜騎士が多数戦死し、ポルタヴァ一帯の制空権を敵の竜騎士達に奪われたとあっては、歩兵が壊滅するのは時間の問題である。
四皇将の内の二人の将軍を失ったことも士気低下の要因であった。
これ以上の犠牲を大きくしないためにも帝国軍は撤退するしかなかったのである。
連合軍は追撃こそしたものの、連合軍側の損耗も激しく大した戦果はあげられず、連合軍側の辛勝であった。
帝国軍も竜騎士こそ多数戦死したが、歩兵の方は防御力が高い事も幸いし、負傷者は非常に多かったものの戦死者の数は、連合軍と大きく差は開かなかった。
とはいえ、この敗戦で帝国は竜使いや聖教に対する権益を大きく失うことになり、多額の戦費が重くのしかかり、結果として重税を課し、民衆を苦しめることになる。
この会戦はガラルド十二世初の敗戦でもある。
そのあと三年間、聖教とバレリー王国ともにらみ合いを続けるが戦況は変わらなかった。
そこで、帝国は南に隣接するタカツキ連合国に的を絞ることにした。
タカツキ連合国は良質な鉱物が取れ、支配すれば帝国軍人の装備が大きく向上するのは間違いない。しかも、これらの鉱物は高値が付くため、大きく帝国の資金力を上げることになり、重税も緩和できる。軍事面においても戦力差は歴然であり、領土制圧も容易とされた。
タカツキ連合国は早くから帝国からの危険を察知しており、名のある傭兵やフリーの竜使いを雇用し、聖教にも働きかけて聖教認定の魔導師を派遣してもらって万全の状態で防備に励んでいた。
帝国軍は、会戦時に帝都で留守を預かっていた無傷の装甲部隊で早速タカツキ連合国に攻撃を開始する。
だが敵の防衛線は帝国が押してはいるが抜本的な打開になってはおらず、長期化が続き連合国の堅守に手を焼いていた。
数年後、ようやく戦後の出費が緩和された帝国は、現地契約の竜使いを登用して軍備増強を図る。
また自国の帝国魔導師の育成に着手。
鎧の軽量化にも成功し、女性兵士の募兵も行って着実に力を蓄えた。それに伴い一般兵の訓練課程も一新し、今までの厳しい練兵を大きく変えて若者が兵士に志願しやすくした。
弱点は、やはり神殿契約した竜騎士の数である。
これだけはどうにもならない。
ポルタヴァ会戦で生き残った神殿契約した竜騎士は確実に高齢化が進んでいる。
特に緊迫した戦線を打開したい帝国からしては、空から攻撃してくれる飛竜の竜騎士が喉から手が出るほど欲しかったのである。
そこで帝国は宰相の提案により、非公式に神殿契約した竜使いを紹介してくれるように各支殿の神官長にお願いすることにした。
紹介してくれた暁には多額の紹介料と、神官長をクビになっても帝国内での住居と生活料を終身提供するという破格の待遇である。
三年待てば、相応の数が揃うだろうと予測されたが、中々集まらなかった。
紹介されるのは年に二,三人、それも最下位級の竜と契約した竜使い達ばかりだった。
その間に退役したり、任務の過程で戦死したりした竜騎士などもいるため、神殿契約した竜騎士の数は横ばいの状態が続いている。
そんな折りに、Aランクと契約した竜使いの仲介の知らせである。
喜ばないわけがなかった。
「何?紹介があっただと?」
「は、それもA級の竜使いだそうです。」
「Aランク!? して、出どころは?」
「レッドゴッド東部のテディ市近郊の支殿です。」
「フフッ・・・そうか!ようやく誘惑に負けた老いぼれが現れ始めたか・・・」
ここは皇帝の執務室である。皇族以外で立ち入れるのは、世話をする女官や側近などと限られていた。
ガラルドと会話しているのは側近中の側近、宰相アルバード・ウェルマイルである。
執務室に一対一で皇帝と会話できる数少ない人物であった。
「陛下、いかがいたしますか?」
「聞くまでもない。その者を配下へ加えよう。早速かかった大物だ。逃す手はあるまい?」
「心中お察ししますが、今まで上位竜と契約した竜使いなど一度も紹介しなかったのに、いきなりAランクとは気にかかります。何か問題のある者ではありませんか?」
「スパイか?その可能性は低いだろう。これでは怪しんでくださいと言わんばかりだ。私ならもっと目立たない者を送り込むと思うが?」
「それは確かに。ですが罪科がある者か、規律を乱す問題児を連れてくるかもしれませんぞ。」
「竜の種族はなんだ?」
「それが紹介状には書いていません。Aランクの竜としか・・・」
「そこが一番怪しいな。Aランクとか言って下位の竜使いを斡旋してきたかもしれん。確認が取れるまで諜報員を派遣して、その神官長と関係者を監視させろ。問題なければ極秘に紹介料を払え。少し色をつけてな。今後もその神官長には釣った大物を譲ってほしいからな。」
「かしこまりました。」
一礼した後、アルバードは退室した。
ガラルドはうっすらと笑った。
人間というのは、一回でも魔がさしてしまうと終わりだ。その行為が全くばれなければ尚の事。
これに巨額の応酬が転がってくれば、必ずや『今回だけ今回だけ』と不正を繰り返すようになるだろう。
なんだったら器量の優れた女も数名派遣するか。
ガラルドはあれこれ思案するも、頭を切り替える。まずはAランクの竜使いに会ってからだ。
竜の種族の確認も必要だ。
もし本当にAランクの竜ならば、今までのように地道に下位の竜使いをかき集める必要はなくなる。
Aランクの竜ならば、新人でもアースドラゴンのベテラン竜騎士に勝つ可能性が高い。的確な訓練と数回の戦闘経験を積めば瞬く間に[一対多人数]で戦えるようになるだろう。
あとは、当の竜と竜使いの人格だ。
多少の性格の悪さは目をつぶるが、果たしてどんなコンビなのか・・・
ガラルドは早くも幾通りの未来構図を描いていた。
結局、<竜二・ラプトリア>コンビの帝国軍・竜騎士就任が、帝国軍の出兵を早め、大陸全土に動乱が起こるキッカケになるのは、後世の歴史家のみが知ることである。